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市川 衛Mamoru Ichikawa

03視覚と聴覚を統合するインタラクティブアートの探求

私がインタラクティブアートという言葉を使用した最初の実験的な試みは1986年の『インタラクティブアートの世界 〜テクノロジーと芸術の織りなす環境美〜』という展覧会であったが、その後にインタラクティブアートの本格的な探求を理論と作品制作の実践の両面において進めていった。

1989年にHyperKeyboard(ハイパーキーボード)という処女作というべきインタラクティブ・インスタレーションを発表し、それを発展させた作品シリーズを制作してゆく中でインタラクティブアートという新たなコンセプトが芸術という文脈でいかに成立しうるかを探求していった。

インタラクティブ作品として私が最初に構想したHyperKeyboardシリーズにはふたつの基本形があった。音楽の知識が全く無い鑑賞者でも鍵盤を直感的に触るだけでピアノの即興演奏が可能となる夢物語のような音楽エンジンと、その音楽に響くように反応する視覚体験ができる仕組みの創造であった。

音楽やサウンドの聴覚体験にはリバーブやエコーのような時間的・空間的な広がりのある残響効果というものがあるが、一般に視覚体験にはそのような体験はあまりない。しかし、視覚にもサウンドの残響効果と同じような体験が可能だと考え、私はそれをビジュアル・リバーブと命名した。直感的にピアノの即興演奏を可能とする音楽エンジンと、それに響くように反応するビジュアル・リバーブを伴う視覚体験ができるインタクティブアート作品をHyperKeyboardシリーズと位置付けて作品化し進化させていった。

HyperKeyboardシリーズの最初の作品は、5インチフロッピーディスクで起動される2台のDOSパソコンを使用し、MIDIキーボードの打鍵に応じてピアノフレーズが逐次的に発音されるとともに、その音に反応してクラゲなどの海洋生物のレーザーディスク映像が静止と早送りを繰り返すことで生命ある動きを与えられるというものであった。

HyperKeyboardシリーズはACT1(1989)から始まる連番によってACT12(2001)まで実施され、5バージョンにわたるシステムの改良・進化が行われていった。音楽エンジンは自由な鍵盤操作に柔軟に対応するフレーズが生成出来るものへと進化し、後に「旋律合成装置および旋律合成方法」に関する日米の特許を取得した。(日本国特許・特許第3286683号、United States Patent 5859379)

ビジュアル・リバーブは、レーザーディスクの制御のバリエーションのほかに、音声を映像に変換するWaveReverb装置や多数のランプを制御する装置などを開発して試行錯誤を重ねていった。

HyperKeyboardシリーズはACT7でウォール状の8個×24列のランプをコントロールする最終形にたどり着き、1994年のモントリオールでのIMAGES DU FUTURE(ACT8)や1996年の茨城県つくば美術館でのサイエンス・アート展(ACT11)などで作品展示を行った。

インタラクティブアートの定義を本やネットで調べると、センサーやコンピュータ技術などの高度な技術を用いたメディアアートの側面を強調している解説がほとんどである。しかし、インタラクティブをテクノロジーの側面から説明することに私は大いなる違和感を感じできた。

私は当初からインタラクティブの本質とはそのようなテクノロジーの側面ではなく、人間の創造性に根元的に関わる対話の内容にこそあると強く感じていた。そしてインタラクティブアートの主目的は、形ある物体やシステムとしての作品を制作することではなく、他者の中に主体的な創造や行動を生み出す行為やパフォーマンスとしての人間活動に近いものであるという考えに至ったのである。

こうしたコンセプトは茶の湯の芸術的理解から考えると理解しやすいだろう。茶の湯の本質は「もてなし」だとされるが、それは茶室や茶器・茶花など様々な茶の湯に関わる形あるモノの総体ではない。鑑賞者に相当する客人への対話的行為がもてなしであり、その都度客人に生起される一期一会のコト的な体験こそが茶の湯の真髄であろう。

 

インタラクティブアートは鑑賞者にコト的な体験を生起させる芸術だという認識をベースに私は作品制作をしてきた。HyperKeyboardシリーズの作品名のACT+ナンバーという命名は、舞台芸術における幕場を意味するACTという言葉を参考にしているが、それはインタラクティブアートの本質は物理的形式によって規定されるのではなく、たとえ同じシステムの作品であったとしても設置する場所や環境、鑑賞者の違いなどよって毎回新たな幕が開かれ、その度に新たな体験が生まれるライブパフォ−マンスをイメージしたからである。

このような鑑賞者を主体とする体験を重視した芸術を発想できた背景としては、AppleがMacintoshをインタラクティブ・マルチメディアというコンセプトとともに世に問うた時に、単に計算処理が高い機械としてではなく、通常の道具の本質を超える創造的なメディアとして捉えていたことにヒントがあった。

1980年代後半において、ほとんどのコンピュータメーカーがコンピュータを利用すれば何ができるのかを明確に説明しないままにコンピュータの処理能力のスペックを喧伝していたのを尻目に、Appleは人間の創造性を拡張するメディアとしてのMacintoshをアピールしていた。

例えばマルチメディアをインタラクティブに扱うことができるHyperCardを小学校の初等教育に利用することで、生徒の創造性が自主的に育つような従来には無かった豊かな教育への可能性が大いなる夢を持って実践的に語られていたのである。

私はApple Japanに依頼された仕事や教育の事例に少なからず関わっていたことで、インタラクティブな対話の大いなる可能性を実感出来る幸運な機会に恵まれていた。そうしたインタラクティブ・マルチメディアの実践の成功例を通して、コンピュータが機械や道具としての役割を超えて、物理的な存在を忘れられてしまうほど透明になり人間の創造性を拡張するメディアとなりえることを知りえたのである。

デザインの世界ではユーザーを考慮したコンセプトしてユーザーインターフェース(UI)という概念が従来から語られてきたが、近年ではユーザーエクスペリエンス(UX)という概念がより注目されるようになった。UIはハードウェア寄りのコンセプトであったが、UXはユーザーの体験の質を問うデザインであり、UXは私が構想したインタラクティブアートのコンセプトに近い考えであるといえる。

体験を重視するUXの概念が明確になったのは2010年で、私の最初の構想からは四半世紀近くも後のことだった。UXが注目される時代となったことで、鑑賞者の体験を創造するするインタラクティブアートの本質がより正確に理解されることが期待される。

 

 

【関連URL】

HyperKeyboardシリーズ: http://commseed.com/interactive/?page_id=117

音楽エンジンの特許:http://commseed.com/text/?page_id=17

 

市川 衛/いちかわ まもる

WRITER

市川 衛/いちかわ まもる
1955年静岡県生まれ。インタラクティブアーティスト。京都大学卒業。インタラクティブアートを中心に、映像表現、メディアパフォーマンス、アプリケーション開発、デジタルコンテンツ制作、即興演奏を主とする音楽表現、造形インタラクティブ、童話創作など活動は多岐にわたる。自由な発想と創造力でデジタルとアナログの垣根を超えた多領域の表現活動を行う。

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