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2016.08.15

「アートサイエンス」という、思考の箱船に乗って

TEXT BY ARINA TSUKADA

大阪芸術大学の過去の卒業制作の画像データをもとに、機械学習技術によってその類似性を抽出し、再構築したトップビジュアル。既存の枠組みを取払い、より多角的な視点を見出す芸術教育のあり方を表している。

「アートサイエンス」とは、何だろうか?

初っぱなから疑問符で始めるのも気が引けるが、おそらくこのメディア「Bound Baw」を展開するにあたって、ずっとこの問いと付き合うことになるのだろう、と感じている。

Webメディア「Bound Baw」は、2017年度に新設される大阪芸術大学アートサイエンス学科から独立した外部メディアとしてこの夏から始動する。コンセプトは「世界中のアートサイエンスの動向を伝え、宇宙の起源からテクノロジーの未来までを見通す」ことだ。

大仰すぎて何のことやら、と我ながらつっこみたくなるが、まず、分野という境界線によってバラバラになっていたものをつなぎ合わせることは、この時代において必須の社会要請だ。わかりやすい例を取れば、このアートサイエンス学科が目指すように、これまでの芸術教育にデジタルテクノロジーを取り入れていくことでもあるし、新しい産業、社会システムを生み出し、また時代に柔軟に適応していくために、ある専門的な能力だけでは突破できない壁を乗り越える方法論でもある。

まちづくりは建築家やディベロッパーだけの仕事ではなく、IT専門家やデザイナーの仕事にもなっていくだろうし、ロボット開発はエンジニアだけの仕事ではなく、そのふるまいや人間とのコミュニケーションを構築する上で、演出家や哲学者の仕事にもなっていくだろう。

しかし、それはあくまでツールの話であって、アートとサイエンスの話ではないかもしれない。

わたしたちは加速度的に進化するテクノロジーを前に、便利になったと喜んだり、驚愕したり、ときに怯えたりしている。巨大な建造物が光と映像で彩られる光景にも感嘆するし(実際にその光景が美しいものもある)、どこかのメディアが「人工知能が人間の能力を超える」と騒げば不安になるし、そうして誰かの言説に踊らされるうちに、いつの間にかわたしたちはテクノロジーの虜になっていく。そして、数年前に起きたことは、すぐ簡単に忘れてしまう。ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね、と。

だが、アートとサイエンスから見渡す歴史的時間軸は、人間の記憶装置を飛び越えて、もっと広いところにある。例えば個々の活動が、どれだけ専門的な研究や個人的な作品に見えたとしても、その多くの種は、人とは何か、生命とは何か、この世界はどうできていて、どうなっていくのか、そうした人類普遍の果てなき問いや好奇心から発生している。それゆえに、アートとサイエンスはわたしたちを魅了する。

アーティストはテクノロジーや時代をハックし、問いと実験を繰り返していく。そこでテクノロジーを使っていようが、科学的な知見を交えていようが、それはサイエンスではない。さらに意地悪く言えば、アーティストのマニフェストに「理系っぽさ」が透けて見えるだけのこともある(それを誤解するのは、大抵作家本人よりも見ている方の問題だったりする)。そもそも、個々の目指す目的はまったく別物だ。

「超ひも理論知覚化プロジェクト」から発生した、7次元空間に浮かぶ「6次元トーラス」の切断面。物理学者、映像作家、建築家、音楽家とのコラボレーションにより、「高次元を知覚する方法」を目指した対話と実験を重ねている。© MIMIR PROJECT/ Graphics by Takashi Yamaguchi, Koji Hashimoto

だがときに、アーティストとサイエンティストらとの間に何らかの共創関係が生まれるとき、アートの側にも、サイエンスの側にも新たな発見をもたらすような視座を見出すことができるかもしれない。そんな幸福な関係はそうそうないが、しかし、世界中で、その魅惑のコネクションに吸い寄せられた人々が実践を始めている。そこで、現代の実践者たちに「What is Art Science (FOR YOU)?」と問いかけるコーナーを立ち上げた。ここには、いま記してきたわたしの言葉足らずな長ったらしい文章よりも、アートとサイエンスにまつわる、もっと明確で、機智に富んだ言葉が集まってくることだろう。

大変長い前置きを書いてしまったが、「Bound Baw」では、まだ定義のない「アートサイエンス」の種を世界中から拾い集めていく。そこでは、テクノロジーのいまをクリティカルに見つめ、それらを遊んでしまうくらいの実験精神や遊び心を見つけたいし、見たこともない(または人間の根源的な記憶にアクセスするような)美しさや驚きにも出会いたい。その一つひとつはまだアートにもサイエンスにもなっていないものもあるだろう。しかし、それらを「アートサイエンス」という広い思考の箱船に積み込む種だと考えれば、これからどんな芽が生まれるかを想像するのも一興だ。

どんどん自分のハードルを上げていることは承知の上で、このメディアが、21世紀のクリエイターが未知の航海に乗り出すための、新たなスコープとなることを願って。

2016年6月
Bound Baw編集長
塚田有那

 

CREDIT

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TEXT BY ARINA TSUKADA
「Bound Baw」編集長、キュレーター。一般社団法人Whole Universe代表理事。2010年、サイエンスと異分野をつなぐプロジェクト「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。12年より、東京エレクトロン「solaé art gallery project」のアートキュレーターを務める。16年より、JST/RISTEX「人と情報のエコシステム」のメディア戦略を担当。近著に『ART SCIENCE is. アートサイエンスが導く世界の変容』(ビー・エヌ・エヌ新社)、共著に『情報環世界 - 身体とAIの間であそぶガイドブック』(NTT出版)がある。大阪芸術大学アートサイエンス学科非常勤講師。 http://arinatsukada.tumblr.com/

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ABOUT

「Bound Baw」は大阪芸術大学アートサイエンス学科がサポートするWebマガジンです。
世界中のアートサイエンスの情報をアーカイブしながら、アーティストや研究者の語るビジョンを伝え、未来の想像力を拡張していくことをテーマに2016年7月から運営を開始しました。ここから、未来を拡張していくための様々な問いや可能性を発掘していきます。
Bound Baw 編集部

VISION

「アートサイエンス」という学びの場。
それは、環境・社会ともに変動する時代において「未来」をかたちづくる、新たな思考の箱船です。アートとサイエンスで思考すること、テクノロジーのもたらす希望と課題、まだ名前のない新たなクリエーションの可能性をひも解くこと、次世代のクリエイターに向けて冒険的でクリエイティブな学びの旅へと誘います。

TOPICS

世界各国のアートサイエンスにまわる情報をを伝える「WORLD TOPICS」は、国内外の展覧会やフェスティバルのレポート、研究機関や都市プロジェクトなどを紹介します。「INTERVIEW」では、アーティストや科学者をはじめ、さまざまなジャンルのクリエイターへのインタビューや異分野の交わる対談を掲載。「LAB」では、大阪芸術大学アートサイエンス学科の取り組みを紹介しています。

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