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2020.03.25

想像力で21世紀を開拓する。KANDO代表・田崎佑樹が語るリアルテック×ビジョンの力

TEXT BY HARUKA MUTA,PHOTO BY YOSHIKAZU INOUE

想像力で21世紀を開拓する。KANDO代表・田崎佑樹が語るリアルテック×ビジョンの力

“未来を生き抜く知恵”をテーマとした、Bound Bawがプロデュースするアートサイエンス学科の特別講義「未来の箱舟教室」。今回は、アートサイエンスを用いたエンビジョン・デザインをミッションとするKANDO代表・田崎 佑樹氏をゲストに迎えた。クリエイティビティとリアルテックから生まれる「ビジョン」が、人類をどのような社会へと牽引していくのか。田崎氏がこれまで手がけてきたプロジェクトを取り上げながら、これからの時代における想像力の重要性について語る。

WOWの原点、CGは世界構築のツールになる

今日は僕の会社KANDOの取り組みについてお話します。まずは、その母体でもある「WOW」というクリエイティブ・カンパニーの紹介から始めたいと思います。WOWは1996年に宮城県仙台市で創業して以来、CGに特化した強みを持って制作しきました。CGって、コンピューターでシミュレーションできるものなら基本的になんでも表現できるんです。突き詰めて言えば、いまは映画もすべてCGでつくれる時代。宇宙戦艦の銃撃戦から隕石の衝突まで、思うままの表現が可能です。

僕たちはCGによる表現をつくるのが得意ですが、クライアントワークのための「CG屋さん」ではありません。CGを単なる「VFXのエフェクトをつけるもの」としてではなく、僕たちは「世界構築のツール」と考えて仕事をしています。それを象徴するのが、WOWの掲げる「ビジュアルデザイン」というフィロソフィーです。平面や立体といった分別を行わず、視認できるもの、ビジュアルを持つものすべてをデザインの対象にしていこうと。

僕たちが存在している空間には、すべてのものにビジュアルがありますよね? そして、CGはこの世界のすべてをビジュアル化して表現することができる。ビジュアルデザインとは、世界まるごとをデザインの対象にし、新たな世界を構築するための手段としてCGを使おうとする手段なんです。こうしたアプローチを徹底させてきた結果、僕たちのクライアントワークには一般的なグラフィックデザインからプロダクト、建築に至るまでのバリエーションがあります。

さて、WOWではクライアントワークだけでなく、自分たちの表現を追求するオリジナルワークの制作も積極的に行っています。なぜかというと、オーダーや何の制限なく解き放たれたものを世に出したら、それを見た人から「こういう感じでやりたい」と、僕たちの作家性を尊重していただけるオーダーが来るんですね。通常のクライアントワークは「こういういうことをやってほしい」と、あらかじめクライアントがゴールを規定する権限を持つオーダーがほとんどだと思うんですけど、WOWでは僕たちがゴールを探索することに期待してくれているのが特徴です。

しっかり主張しながら仕事をしていれば、ちゃんと僕たちのフィロソフィーを理解し、尊重してくれる人が現れる。そうすると、お互いに対してリスペクトがある状態がベースになり、プロジェクトに取り組めるので、スムーズに進んでいきます。とても良いサイクルだと感じます。

『aikuchi』は、刀匠をはじめとする東北の職人たちと、世界的なデザイナーであるマーク・ニューソンが協力して日本刀をつくったプロジェクト。高度な技術でつくられた日本刀の、グローバルマーケットへの進出を目指す。

 

オリジナルワークでは、「Anima(アニマ)」というコンセプトを設定しています。Animaというのはラテン語で「命を吹き込む」という意味で、「アニメーション」の語源になった言葉です。WOWにとって最も大切なのは、アニメーションの技術。CGを使えば、石ころにも動きがつけられるんですね。動きがついた瞬間に人間が生命感を感じてしまうというところが非常におもしろい。

そこでアートワークにおいては、生命をテーマにした新しい表現を模索したり、CGやデジタル表現を使った新しい生命性の探求をしたりしています。

アートサイエンスとの出会い

続いて、僕の会社であるKANDOで目指すミッションは、「アートサイエンスで世界を変える」こと。後で詳しく説明しますが、僕がアートサイエンスに出会うきっかけとなったのは、多摩美術大学と東京大学の共同プロジェクト「ARTSAT」でした。

このプロジェクトでは10cm四方の人工衛星をつくり、JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)のH-IIAロケットで実際に打ち上げて、その衛星が収集したデータを受信し、作品化しました。終了して何年か経ちますが、ここに参加させてもらえたことは重要なターニングポイントになりました。

世界初、アートのために打ち上げられた人工衛星のプロジェクト。宇宙が遠い世界のものではなく、日常に触れられる身近なことと感じられることをミッションに、「パーソナルメディア」として宇宙機の可能性を拡げる試み。

 

宇宙生物学者の藤島皓介さんと、今回ここに呼んでくれた塚田(有那、Bound Baw編集長)さんと一緒に企画したプロジェクト『ENCELADUS』は、当時NASAエイムズリサーチセンターに在籍していた藤島さんらが進める「地球外生命探査」のミッションを可視化した映像作品です。現在、土星の衛星エンセラダスには、生命のもととなる有機物が存在するのではないかと予測されています。そこでエンセラダスまで探査機を飛ばすミッションがあるのですが、まだ実現には至っていない。そこで、藤島さんたちの研究チームの掲げるビジョンをCG作品で可視化する試みへと発展しました。

氷に覆われたエンセラダスの地表には、内部の熱水によって発生したプリューム(間欠泉)が宇宙空間へと噴き出しているが、ここには地球にあるアルカリ性の海水と近い要素を持っていると推測されている。この海水サンプルを回収して分析し、生命の源をつくるタンパク質の存在を明らかにすることがプロジェクトのミッション。

 

また、『UNITY of MOTION』という作品は、センサーに手をかざすと心拍を検知して、その心拍から新しい生命が生まれるというもの。この新しい生命の動きは、群体運動で構成されています。鳥や魚の群れを見たことがあると思いますが、実はああした群れを解析すると、「ボイド」というアルゴリズムが導き出されます。この作品では、心拍のデータをもとにボイドを使い、人工的に群体運動を生み出すことで、生命性を再現することを試みています。

『UNITY of MOTION』(2016年)は、韓国の自動車メーカー・HYUNDAI社から招聘されて制作した作品。ソウル市の体験型複合施設で公開された。

 

21世紀は想像力が牽引する

KANDOではこれまでにお話したようなクリエイティブワークもありますが、「ビジョン」をデザインの対象とすることを試みています。僕は大学時代に考古学を学び、その後は建築とアートサイエンスの領域で活動してきましたが、現在もっとも関心があるのは「想像力」と「創造力」の行方です。この2つの人間特有の力をどのように追い求めていくかということにフォーカスしています。

みなさんは想像力というものをどのように捉えていますか?

そもそも20世紀というのは、大量生産して大量消費するというマテリアリズムの世界でした。ものをつくるために、いろんなテクノロジーが生み出されたわけです。

でも、21世紀はぜんぜん違って、僕はインターネットによって概念化された世界だと考えています。

人間社会は、人々が概念を共有・交換することで成り立っています。たとえばお金は、見方によっては紙切れともいえるし、ビットコインなどのデジタル通貨などはもはやお金という概念すらも揺るがすものになっていますが、いまのところ「価値がある」と人々が共有している概念です。つまり、僕とみなさんが「価値がある」と同じように思えるから、共有したり交換したりできる。クレジットカードも銀行もすべてそうした概念的なものです。21世紀はそれら人間社会を支えてきた概念が急速にデジタル化され、インターネット上で爆発的に概念のクリエイションが加速した時代だと言えます。

では、その「概念」はどのようにして生まれたのか? それは、すべて人間の想像から生まれていると言えるでしょう。人間社会をどのように運営するかを想像する営みによって、現代の僕たちの社会を下支えしているものの多くが生み出されてきた。現代において新しいものを生み出すためには、インターネットをベースに、新たな概念を生み出そうとする想像力が非常に大事になってくるというわけです。

そして人間の想像力をコントロールし、その行先を指し示すものが、ビジョンなのです。ビジョンは強力なパワーです。現代は「テックドリブン」、つまりテクノロジーが牽引する社会だと言われていますが、僕は「ビジョンドリブン」だと考えています。想像力を爆発させ、先鋭的なビジョンを構築することで、社会を変革する概念を生み出せるからです。

20世紀には、想像力は資本主義をドライブさせるための道具として使われていました。しかし想像力って人間社会そのものを構成し、人を感動させることができるほど強力なパワーですよね? ものを売るためだけにしか使わないというのはよくわからないし、もったいない話だと思いませんか?

「リアルテック×クリエイティビティ」で次のビジョンをつくる

さっき話したように、人間の想像力をコントロールし、その行先を指し示すものがビジョンです。では、すぐれたビジョンとは何か? わかりやすい例はSF映画でしょう。

代表的なものが、『2001年宇宙の旅』(1968年)。今でも、この作品に憧れてサイエンティストや宇宙飛行士を目指すひとがたくさんいます。スタンリー・キューブリック監督は、この映画を撮るまでに5年間もサイエンティストと対話を続けたそうです。フィクションでも、設定に化学や建築といったいろんな方面の科学的知見を取り入れて創作されたものは、非常に魅力的です。『攻殻機動隊』や『AKIRA』もそうですね。

ビジョンも同じで、リアルテックの知見など、実際の科学の知見を用いて構築されたものは、ふわっとした想像だけでつくられたキャッチコピーなどとは異なる魅力とパワーを持ちます。ビジョンが未来を牽引していくというのは、人類がずっとやってきたことだと思っています。

そのうえでKANDOでは、「エンビジョン・デザイン」つまりビジョンを具現化するための特殊なメソッドを持っています。

エンビジョン・デザインというのは先鋭的なサイエンス・テクノロジーの社会実装と新文化育成という2つのミッションを同時に実現する、ビジョンを構築するためのデザインです。そのために、クリエイティビティと哲学も含めたリベラルアーツ、ファイナンス・ビジネス、そしてサイエンス・テックを包括的にデザインとして捉えるのが特徴です。

そして新しいテクノロジーをより良く使うためには、新しい文化も同時を築いていく必要があると僕は考えています。先進的なテクノロジーが資本の力だけで一気に暴力的に進化すると破壊をもたらす場合があります。既存の文化を駆逐してしまったり、気づけば誰も望んでいないものに進化してしまったり。AIの社会実装など、みなさんの身の回りにもそうした例を見いだせるかもしれません。テクノロジーを人間のものにするためには、人間の文化としてそれらを使うための土壌がなければならないと僕は思っています。

思考実験からビジョンを生み出す

KANDOのサービスプロセスは、3つのフェーズから成り立っています。フェーズ2からは、いわゆるクリエイティブワークですが、その前に必ず思考実験というものを導入するようにしています。

思考実験は、ビジョンをつくる上で最も重要なプロセスです。いわゆるディスカッションをベースとしたワークショップなのですが、プロセスの中でアカデミックな知見と積極的に交流しながら、未来を模索していきます。

僕もメンバーであるサイボークベンチャー・MELTIN社のケースをご紹介したいと思います。彼らは人間の生体信号を正確に解析できる世界有数の技術と、人間の指先のような繊細な動きを再現するための世界最高峰のロボット技術を併せ持つ、サイボーグ技術を提供する会社です。そして彼らがやろうとしているのは、サイボーグ化を通して人間の身体をアップデートすることです。

僕たち人間の持つ身体はときに僕たちの進化そのものを妨げる場合があります。たとえば、僕たちは宇宙の真理に迫り、宇宙に出ていくためのサイエンス・テクノロジーを持っているのに、真空で生きていくことはもちろん、地球以外の星の環境に完全に適応することはほぼ不可能だろうと考えられます。身体そのものをアップデートしない限り、僕たちは、人間の知性の進化に追いつくことができない。この矛盾を、サイボーグ技術によって解決しようとしているのがMELTIN社の事業です。

MELTIN社の思考実験は、サイエンスライターやアートサイエンスに関するメディアをつくる編集者、デザイナー、サイエンスメディエーターといった肩書を持って活動している専門家の協力を得て行いました。いわゆる一般的な企業のブランディングなどの文脈では登場しない人たちばかりです。というのも、サイボーグが存在する未来を見た人なんてこの世界中に誰もいないからです。行く末をみんなで考えて、物語化したり、人間がサイボーグ化したときにどんな進化を辿るのかといったことをディスカッションし、既存のサイエンスや影響力の強いSFなどのコンテクストを踏まえてストーリー化およびテキスト化し、ビジュアル化しました。

 

ーー我々はどこから来たのか、そしてどこへ向かうのか  ?
人間は進化できる。限界を突破し、今までにない創造性を手に入れることができる。
私たちMELTINはそう信じています。
MELTINが目指すのは、サイボーグ技術によって身体と機械が溶け合い、
人間の「創造性」が無限に発揮される未来です。

 

これはMELTIN社のウェブサイトの「ビジョン」に掲載されている言葉ですが、こうしたコピー以外にも、「未来進化史」と名づけられた未来の人類の進化をまとめた資料や、同社が開発したアバターロボット「MELTANT-α」の命名およびそのプロトタイプのデザインも思考実験から生まれました。MELTANT-αは海外のメディアにも掲載されました。

ビジョンがないと、これは恐るべきことなのですが、どんなにすばらしいテクノロジーを持っているサイエンティストでも、次に何をやるか迷ってしまうというパターンが多々あるんですよ。そして迷っている間に、その研究やスタートアップは終わってしまう。

だから、その技術をちゃんと社会実装させるために、技術も含めた事業ロードマップをつくって牽引していく。それが、ビジョンのパワーです。

そうしたビジョンを形にして社会を変革するために、アートサイエンスという表現を使うということが、KANDOのミッションなのです。

 

CREDIT

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TEXT BY HARUKA MUTA
福岡県出身。現在は京都を拠点に、フリーランスのライターとして活動中。暮らしに関する実用書から医師や大学教授へのインタビューまで、幅広い案件を手がける。関心のあるテーマは脳、幻想文学(澁澤龍彦)、植物。
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PHOTO BY YOSHIKAZU INOUE
1976年生まれ。1997年頃から関西のアーティストやバンドのライブ写真を撮り始める。 その後ライブ撮影を続けながら雑誌、メディア、広告媒体にも活動を広げ2010年から劇団維新派のオフィシャルカメラマンとなりそれ以降、数々の舞台撮影を行う。2015年に株式会社井上写真事務所を設立し活動の幅を広げながら継続してライブ、舞台に拘った撮影を続けている。 http://www.photoinoue.com/

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