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2022.10.28

音楽家・渋谷慶一郎率いるAMSL発信第1弾は、GUCCIのショートフィルム『Kaguya by Gucci』

TEXT BY NANAMI SUDO

音楽家・渋谷慶一郎率いるAMSL発信第1弾は、GUCCIのショートフィルム『Kaguya by Gucci』

「GUCCI」の看板モデルのひとつであり、今年75周年を迎えたバンブーバッグ。世代を超えて愛され続けるバッグを現代的に再解釈した“Be loved”ラインの仲間入りをしたバンブーバッグのコンセプトは、誰もがよく知る「竹取物語」だった。日本から気鋭の監督や演者らが集結し、バンブーバッグを通じてブランドの歴史を今に紡ぐショートフィルムが世界に展開。楽曲を制作した渋谷慶一郎は、アンドロイドの「オルタ」をボーカルに起用し、狂言回し的な物語の重要なファクターを創出した。「AMSLラボ」が研究・開発する「オルタ」の浮世離れした歌声や表現力は、映像にどのようなエッセンスをもたらしたのか。

今年、日本最古の物語「竹取物語」をモチーフに、GUCCIのワールドキャンペーンが日本で制作された。実はGUCCIと日本の竹との間には、ブランドの歴史を物語る深い関係がある。そんな『Kaguya by Gucci』の映像には、アンドロイドの「オルタ」が登場している。仕掛け人は楽曲を手がけた渋谷慶一郎。大阪芸術大学内に「AMSL」というラボを発足し、アンドロイドと人間が共創する未来に先駆けて、アンドロイドをボーカルや指揮者として起用しながらオペラや映画音楽、インスタレーションなど多岐にわたる音楽作品をプロデュースしている。

PROFILE

渋谷慶一郎

音楽家

1973年、東京都生まれ。東京藝術大学作曲科卒業、2002年に音楽レーベル ATAKを設立。代表作は人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』(2012)、アンドロイド・オペラ®『Scary Beauty』(2018)など。2021年8月 東京・新国立劇場にてオペラ作品『Super Angels』を世界初演。2022年3月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、UAE現地のオーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』を発表。テクノロジー、生と死の境界領域を、作品を通して問いかけている。http://atak.jp

この度、渋谷氏を中心に2022年に新設された「Android and Music Science Laboratory(通称AMSL)」のプロジェクトの皮切りとして、アンドロイド「オルタ4」と音楽を共創/協奏する試みが、「GUCCI」のショートムービー『Kaguya by Gucci』において実現した。2022年8月10日より全世界向けに公開されたこの映像は、公開から1ヶ月を待たずにYouTubeで130万回を超える再生回数を重ねている。

物資不足から生まれた日本の竹を用いたオリエンタルなバッグ

1921年の創業以来、長い歴史を持つ「GUCCI」だが、実は日本の「竹」とゆかりがあるのをご存知だろうか。1940年代に第二次世界大戦の勃発によって皮革製品の不足に見舞われたGUCCIは、安定した供給を得られる素材を模索し、皮革の代わりに在庫を確保でき、且つ高級感を演出できるような素材を活用したり、従来のラグジュアリーブランドでは使われないようなキャンバス地にデザインの工夫を施したりと、この苦境の中でもブランド力を象徴するプロダクトを発表してきた。

この度、誕生から75周年を迎えたバンブーハンドルバッグはその代表だ。日本産の竹の優れた耐久性と軽さを持ち合わせた特性に着目し、曲線に加工してハンドル部分を作るという革新的な異素材の組み合わせは、オリエンタルでエレガントな唯一無二の風合いを醸し出し、1940年代の戦時中を生きる当時のセレブやインフルエンサーたちにも瞬く間に広がった。

それから今日に至るまで、色褪せることなくファンからの支持を集める定番製品の75周年を祝して、「GUCCI BAMBOO 1947」という現代的に再解釈したバンブーバッグの新モデルがクリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレによるコンテンポラリーなデザインで登場。発表に併せて、日本産の「竹」が使われるようになった経緯に由来して、世界展開のショートフィルムが日本人で構成されたチームによって制作・発表された。

「現代版」竹取物語が題材のショートフィルム

そのタイトルは『Kaguya by Gucci』。かぐや姫としても語り継がれる日本最古の物語「竹取物語」からインスピレーションを受けている。歴史的なバンブーバッグを象徴するアイコンとなるムービーに、これ以上マッチするストーリーはないだろう。

監督にはCMプランナーとして数々の広告を手掛け、近年MVや映画の監督を務め精力的に作品を世に送り続ける長久允氏。クエンティン・タランティーノなど名だたる映画監督を発掘したことで知られるインディペンデント映画のアワード・サンダンス映画祭では、「そうして私たちはプールに金魚を、」(2016)でグランプリを受賞している。

キャストには、俳優の満島ひかり(かぐや姫役)、永山瑛太(帝役)、そしてダンサーのアオイヤマダ(翁役)を起用。アオイヤマダは、2021年の東京オリンピック閉会式にてソロでパフォーマンスを披露し、話題となった注目の人物だ。

このおよそ5分間のムービーでは、翁とかぐや姫の、まるで家族、親友、恋人という言葉では形容しがたい関係性が描かれている。満島ひかりは、従来のかぐや姫のイメージを覆すような、活発で奔放な雰囲気が印象的である。さらに、アオイヤマダの存在感にも目を奪われる。本来「竹取物語」は赤子の状態から発見した翁と嫗がかぐや姫を育てるという、親子のような関係性が定説だが、それを大胆に改編し、かぐや姫と翁の間にある愛には、さまざまな解釈が湧き起こるようなストーリーで、2人のやり取りの間に宝石のように携えられたグリーンのバンブーバッグが光っている。

アートサイエンス学科の新設ラボ発、アンドロイドと共創したダイナミックな楽曲

そして、演出において重要な役割を担っているのが、なんといっても音楽とアンドロイドの存在感だ。渋谷慶一郎氏の書き下ろしによる楽曲は、アナログとデジタルが混在するシンセサイザーやストリングスなどを用いて、耳に残るざらざらとした質感を以って情緒豊かに響く。

人間と機械の間のような独特な歌声は、アンドロイド「オルタ」から発せられており、観るものの感覚を瞬時に異次元へと連れ出してくれる。「Alter(オルタ)」とは、世界的なヒューマノイド・ロボットの研究開発者として知られる石黒浩氏(大阪芸術大学アートサイエンス学科客員教授)や、ALIFE(人工生命)を研究する東京大学の池上高志教授らが中心となり、人間とのコミュニケーションの可能性を探るために開発されたアンドロイド。

「もうひとつの生命のかたち(alternative)」などの意味を込め名付けられた「オルタ」は人間にそっくりな見た目ではなく、ロボットらしいむき出しのボディに相反したリアリティのある顔が特徴的だ。AI学習でメロディを自動生成したり、周囲の音に応じて即興で旋律を歌うことが可能である。その「オルタ」を制作者や演者として扱いながら、前例のない新しい音楽表現を研究する大阪芸術大学アートサイエンス学科のラボ「AMSL」から、人間とテクノロジーとが音楽を共創するという試みが今回のショートフィルムにて初めて披露された。

Photo by Kenshu Shintsubo

今回、GUCCIのショートフィルムに登場したのはその最新バージョンとなる「オルタ4」で、初のメイクアップが施され、渋谷と共に画面内にも出演している。関節数と表情筋や舌の筋肉が増強し、より細やかな表情やなめらかな動きの変化がパフォーマンスで出せるようになったという。

受け手にとっても、アンドロイドが自発的に歌唱しているような、ある種「生命的な要素」を感じることができる。渋谷慶一郎による「アンドロイド・オペラ®︎」で「オルタ」はある時は指揮者、またある時はボーカリストとして舞台に立ち、国内外で行われる公演で反響を得ている。「オルタ」は、あらかじめ人間が設計したものや、ピアノやオーケストラなどの伴奏を“聞き”それに応じるようにメロディを生成し歌唱するという即興的なものなど、さまざまなプログラムの組み合わせによって動いている。

「アンドロイド・オペラ®︎」は新国立劇場での『Super Angels』(2021) をはじめ、アップデートを続けており、ドバイ万博ではオーケストラに加え、仏教音楽の「声明」を組み合わせた公演『MIRROR』(2022) を成功させている。アンドロイドと“コラボレーション”するという姿勢は、ドラえもんやPepperなど、我々には浸透してきた価値観かもしれないが、国外からは日本独自の感性として新鮮に受け入れられた。オペラという芸術の存在は、西洋文化の歴史の中で語られ続けてきたものであるが、それを脱構築し、新しい総合舞台芸術の形を生命と非生命の「共生」の提案とともに表した。

今回のために制作された楽曲‘I come from the Moon’の歌詞の一部は「Cypher」という名義のAIが手がけた。サウンドトラックのクレジットには「長久允、Cypher(AI)」と名が連なっている。

この「オルタ」を用いたアートプロジェクトは、生命・非生命の垣根を越え、共に作品を作り上げるという哲学的な問いを提示してもいる。今後も渋谷氏、石黒氏、そして電子音楽家の今井真一郎氏らが率いる「AMSL」にて、学生たちにそのプロセスをオープンにしながらプロジェクトは展開され、2025年に開催予定の大阪・関西万博でもその成果が発表される予定だ。今回がデビュー作ともなった「オルタ4」が今後渋谷氏の創作にどのように関わり合っていくのか、今後アンドロイドの存在は私たち人間や社会とどう共鳴し溶け合っていくのか、そして次の世代へとつなぐ学生たちはこのラボからどんなインスピレーションを受けるのか…「AMSL」の今後の行方から目が離せない。

 

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TEXT BY NANAMI SUDO
栃木県出身、1998年生まれ。2020年早稲田大学文化構想学部卒業後、フリーランス編集者に。主にWEBサイトやイベントのコンテンツ企画・制作・広報に携わっている。2023年よりWhatever inc.でProject Managerとしても活動中。

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