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2020.09.17

グラフィックレコーダー清水淳子が考察、COVID-19から生まれたインフォメーション・デザイン(後編)

TEXT BY JUNKO SHIMIZU

3月下旬に立ち上げた「Information-Design研究会」で行うことはひとつ。それぞれの専門家としての視点と、コロナ禍で過ごすイチ生活者としての視点。このふたつを混ぜ合わせて、良いと思う情報、または違和感を感じる情報などをFacebookのタイムラインにアップしてもらうというシンプルな活動だ。だが、参加メンバーそれぞれの視点が活かされた様々な幅広い情報デザインが集まったように思う。ここからはInformation-Design研究会で集まった事例の中で筆者が気になったものをピックアップして紹介していく。

ソーシャルディスタンスの意義と必要性を確認する

ウィルスが倍々ゲームで増える状況を視覚的に表したアニメーション。自宅で仕事してた。バーベキューに行かなかった。出張をやめて飛行機に乗らなかかった。家にいた。今後のCovid-19の展開に、なんの影響もないように感じる自分一人の行動の変化が、結果に大きく作用することをイメージできる。遊びにいけないことに不満を感じる小さな子供にも直感的に家にいるが伝わるアニメーションになっている。

慣れない「距離感」のイメージをつかむ

専門家が推奨する距離、ソーシャルディスタンスの6フィート(1.8メートル)を離れることをイメージさせるために、企業各社がロゴで呼びかけをした。

感染リスク低減へ「距離をとって」、企業各社がロゴで呼びかけ
https://www.cnn.co.jp/business/35151495.html

有名CDジャケットの距離を 6フィートのソーシャルディスタンスで再構成している。企業ロゴと同じく、見慣れたグラフィックに大きな隙間を与えることは大きなインパクトとなる。

正しい感染予防対策を政府が率先して広める

企業やクリエイターに負けないスピードでポスターを展開していたのはデンマーク。現地に住むメンバー曰く、2月27日、政府の公式発表がされるやいなや、公式ポスターが街のあちこちで貼られはじめたとのこと。このポスター七ヶ国語のバージョンがあり、誰でもWEBからダウンロードして印刷できるようになっている。行政がどこよりも早くシンプルに統一した美しいポスターデータを配布することで、似たようなポスター掲示や情報発信を抑制し、インフォデミックを防いでるとも考えられる。

「情報をつくるための情報」を発信する

国連は3月20日に、公開ブリーフを作成した。Covid-19に関する情報の中で特に重要なものをまとめて世界中の人々の視点で作成できるようにした。重要とされる情報は6つのカテゴリに分類された。手洗いなどの個人の衛生管理、2メートル以上の社会的距離、症状の理解、やさしさの伝染 、恐怖心と誤情報を乗り越えるデマ撲滅 、行動や寄付の促進。焦る人々が間違った情報を拡散しないように、インフォデミックに繋がることを防ぐためにも効果があったように思う。

世界のクリエイティブの皆さんへ国連からの公開ブリーフ
https://www.unic.or.jp/files/d00fa063f9b47add719d4f2b1e0e3b5c.pdf
緊張感と日常の間で

4月7日、ロックダウンされたインドで、警察が新型コロナウィルスをイメージしたヘルメットで自宅待機を呼びかけている。威圧的な雰囲気をユーモラスな仮装で和らげつつ、目に見えないウィルスのイメージを表現している。

With India under lockdown, police have taken to the roads wearing coronavirus-themed helmets and shields to educate the masses about the virus
https://twitter.com/Reuters/status/1247204923059642370?fbclid=IwAR3IJQvOfidOsRl02YhX0Wo0Yn-v1lwFVZU4SOJUM28WBMjDmgEunw2tAX8
情報から生まれる偏見や差別を防ぐ

日本赤十字は、4月21日、医療従事者や罹患された方々やそのご家族に対する差別や偏見を考え直すための映像を公開した。インパクトある数字や映像が再現なく流れ込んでくる情報環境で、ウィルスを警戒することと誰かに偏見を持つことの境界線はグラデーションである。どこまでが自分の身を守行為で、どこからが過剰な防衛本能なのか?冷静な語りがヒートアップした思考をクールダウンしてくれる。

数字ではなく、それぞれの死の悼みに心を傾ける

数字で世界を捉えることは、全体像が見える俯瞰視点を手に入れる代わりに、時に個の人生に対する想像力が麻痺することにも繋がる。東日本大震災の直後、ビートたけし氏は『週刊ポスト』誌上で『人の命は、2万分の1でも8万分の1でもない。そうじゃなくて、そこには「1人が死んだ事件が2万件あった」ってことなんだよ。』と語った。数字が伸びていくことに漠然と恐れを感じるだけでなく、covid-19の実際の個別の犠牲者への想像力を取り戻す試みを2つ紹介する。

アメリカでのコロナウイルスによる死者は、3月1日から5月27日までの間で10万人を超えた。想像が追いつかず途方もない数字だ。そこでNYタイムズは10万人のシルエットをひとつのwebページに可視化した。これはビートたけし氏の言葉を借りると「一人が死んだ事件が10万件あった」という視点の転換を促す構成だ。スクロールしていくとところどころに亡くなった方の名前や職業やエピソードが掲載されている。

こちらのサイトも、亡くなった10万を可視化しているが、シルエットではなく、写真でのアプローチだ。ページをスクロールしていくと、コンピューターがcovid-19で亡くなった人々の人口統計学を使って、年齢、人種、性別を再現するよう生成された写真が並んでいく。個人のプライバシーを保護しつつも限りなくリアルな写真によって、一度も会ったことのない人々の消えてしまった時間を想像しなおすことができる。非日常過ぎる数字を毎日みることで、麻痺してしまった心の悼みを取り戻すような体験だ。

Information-Design研究会には、現在200点近くの事例が集まっている。ここですべてを紹介することはできないが、目の前に無い物をどのようにイメージするか?過剰に恐れすぎず、過小評価しすぎないためにどうしたらいいのか?まだまだ続く緊張感ある日々の中で、情報との付き合い方のヒントになれば幸いだ。

 

CREDIT

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TEXT BY JUNKO SHIMIZU
1986生まれ。2009年 多摩美術大学情報デザイン学科卒業後 デザイナーに。2013年Tokyo Graphic Recorderとして活動開始。2019年、東京藝術大学デザイン科修士課程修了。現在、多摩美術大学情報デザイン学科専任講師として、多様な人々が集まる場で既存の境界線を再定義できる状態 “Reborder”を研究中。 https://4mimimizu.net/

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