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2020.09.15

グラフィックレコーダー清水淳子が考察、COVID-19から生まれたインフォメーション・デザイン(前編)

TEXT BY JUNKO SHIMIZU

2020年夏、私たちはどんな猛暑の日でも、外出時はマスクを必ず装着する日常にいる。半年かけてじわじわと変化していった日常。変化の始まりは、もはや遠い過去になってしまったように思う。この期間、世界中のメディアを通じて「情報」はどのように届けられていったのか。本稿では、グラフィックレコーダーとして活躍する清水淳子が、COVID-19以降で生まれた情報デザインを振り返る。

筆者が新型コロナウイルスをはっきりと意識したのは2020年1月25日だった。タイムラインで武漢で急ピッチで病院を建設してる動画を目にして、ただ事ではないように感じた。だけど、まだまだ遠い土地のことで私たちの日常が大きく変わることはないと考えてた。

2月8日、ワークショップの仕事。同じ部屋で飲み食いしたり、輪になって話し込んだ。今思うと、これがみんなで集まることに対して何の罪悪感もなかった最後の週になった。次の週からじわじわと不安が広まる。2月26日には大規模なイベントの自粛要請が出た。

3月7日、ニューヨークでクオモ知事が非常事態を宣言。日本では、トイレットペーパーが町から消え、美術館や博物館が休館を決めていった。3月11日、WHOのテドロス・アダノム事務局長は、COVID-19を「パンデミック(世界的大流行)」と認定した。米ハーバード大は授業の前面オンライン化に踏み切った。日本の学校は卒業式だけでなく、入学式も次々と中止になる。「春になればこの混乱はきっと終わる。」という希望的観測が崩れ去った瞬間だった。

「移動の自粛」を訴えるビジュアルレポート

世界中が先の見えない不安に包まれる中、3月14日、ワシントンポストがビジュアルを用いたレポートを発信した。ひとりひとりが不要な移動を止めることでウィルスの感染速度を下げることができることをデータを用いてアニメーションでビジュアライズした。

Why outbreaks like coronavirus spread exponentially, and how to “flatten the curve”
https://www.washingtonpost.com/graphics/2020/world/corona-simulator/

「移動を止めること」が本当に見えないウィルスに対して効果的なのか? 当時はほとんどの人が懐疑的だった頃に、この記事はその場に止まることの効果を見事に伝えた。ワシントンポストには、デザイナー、開発者、データアナリスト、地図製作者、イラストレーター、作家、編集者が所属する約30人のビジュアルジャーナリストのグループがある。この記事を作ったHarry Stevensは、そのチームに所属するグラフィックレポーターである。

Post Graphics jobs / ビジュアルジャーナリストのグループの求人ページ
https://www.washingtonpost.com/graphics/ns/graphics-jobs/

ビジュアルジャーナリストたちは、 PythonやRなどのツールを用いて膨大で複雑なデータを分析する。そしてそこから浮かび上がるファクトを適切なビジュアルに落とし込みストーリーとして伝える。色とりどりのビジュアルやアニメーションは、文章や数式が深く理解できない人にも直感的にメッセージを伝えてくる。このような事例は従来の紙メディアにはなかった新しいビジュアライズの可能性を強く感じさせてくれる。

インフォデミックの光と影

一方、ビジュアライズの難しさが見えてきた事例もあった。3月22日、ニューヨークタイムズのデータヴィジュアライゼーションだ。中国の旅行の移動制限がウィルス対策には不十分だったことを示そうとしてる。非常にわかりやすいが、流れ出す人の動きや色が、過度に中国への嫌悪感を与えることに繋がる危険がある表現方法であった。

2003年にSARSが流行した際に一部の専門家の間で使われ始めたインフォデミック(infodemic)という言葉がある。インフォメーション(information)と‎エピデミック(epidemic)を組み合わせた言葉で、情報の急速な伝染を意味する。インフォデミックは、信頼できる情報が何かわからない状態で、正しい情報、不確かな情報、デマが大量に混在し、社会の動揺が引き起こされる状態を示す。

3月13日、データの視覚化ツールを提供しているソフトウェア会社Tableauに、データのアドバイザーとして参加しているAmanda Makulecは、公衆衛生とデータ視覚化の観点から、誤解を招くチャートの作り方について警鐘を鳴らす記事を発信した。「ビジュアライゼーションは、何が表されていないかを伝え、正直でなければならない」「視覚化が社会にどのような影響を与えるのか検討せねばならない」など情報を発信する際の10個のポイントをまとめている。

この記事は「感染症のデータは、あなたのTwitterで披露するためにあるデータではない」と釘を刺す形で締めくくられている。誰しもがデータに触れることができて、気軽に発信者になれる時代だからこそ気をつけたい。良かれと思って作った情報がインフォデミックに加担してしまう危険も意識せねばならない状況なのだ。

インフォメーション・デザインを検証する研究会が発足

このようにCovid-19の情報は膨大過ぎてすべてに目を通すことは不可能だ。また更新のスピードが早すぎて、ひとつひとつの意味を検証する時間は取れない。何をもってインフォデミックと定義できるかは曖昧だが、私はこの状況を心細く不安に感じた。

3月24日深夜1時、FBグループでInformation-Design研究会を立ち上げる。情報産業に関わるプロフェッショナルが横断的に集まり、コロナウィルスに関連するインフォグラフィックを始めとする多様な情報デザインを、様々な観点から収集をできる場だ。

「Information-Design研究会」は、データを始めとするテクノロジーや、デザインやアートの芸術的観点、メディアやジャーナリズムのあり方など横断的に対話できる場を目指し、情報デザインに関する好奇心を持った方なら誰でも歓迎した。

ビジュアルを扱うアーティスト、フォトグラファー、イラストレーター、デザイナーに限らず、文字情報を取り扱う編集者、記者、メディアや情報プラットフォームの運営、各分野の研究者、経営者など、多様なメンバーが集まった。現在8月25日時点で527名のメンバーが参加している。この記事を読んでいるあなたも興味があれば大歓迎だ。

 

COVID-19から生まれたインフォメーション・デザインを考える(後編) へつづく

 

CREDIT

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TEXT BY JUNKO SHIMIZU
1986生まれ。2009年 多摩美術大学情報デザイン学科卒業後 デザイナーに。2013年Tokyo Graphic Recorderとして活動開始。2019年、東京藝術大学デザイン科修士課程修了。現在、多摩美術大学情報デザイン学科専任講師として、多様な人々が集まる場で既存の境界線を再定義できる状態 “Reborder”を研究中。 https://4mimimizu.net/

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