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2016.09.30

序文にかえて - アートとサイエンスをめぐる「ことば以上のもの」とは?

アートとサイエンスの「ことば」は、20世紀の言語学的転回によって、文化の多様性を尊重する考え方を学んだ。それでも、人間中心主義的な発想については、いまだ存分に生き延び続けているようにみえる。言語学的転回以来、多くの新しい「転回」が提唱されてきたのには、まさに言語学的転回によってもたらされたものの考え方が、言語学的転回に何らかの不十分さを見出してきたからにほかならない。その問題のひとつが「ことば」そのものである。人間を例外的に特権化する姿勢を基礎づけてきたもののひとつに、人間だけが合理的で形式的な記号処理としての「ことば」を使える特別な知性を分有しているという考え方があったのではなかったか。

人間が「ことば」を扱う能力は、とりわけ20世紀末以来、人工知能をはじめとしたサイエンスによって、途方もない速度で向上してきたし、それはおそらく今後もますます加速していくにちがいない。しかしその一方でサイエンスはまた、「ことば」にならないものの領域があること、すなわち、人間をふくめた生物たちの社会・生態系は、「ことば」だけでなく「ことば以上のもの」が通用している水準をもまた生きているのだということを明らかにしてもきた。

ただ、サイエンスが純粋に合理的な知の体系を発展させてくることができたのは、そういう「ことば」にならないものについては領分を守って沈黙してきたからにほかならない。先進的なサイエンスが「ことば」にしがたいものの領域へと踏み出してしまうことはしばしば起こるが、賢明なサイエンスは、語りえないものは何であれ神秘や思弁やアートの領域へと分別してきた。

こうした観点からみるならば、アートサイエンスとは、そのような永らく維持されてきたサイエンスとアートという分断を無用にしてしまう境地へと、芸術的かつ学究的に探検することであり、そのような「ことば」の彼方を、「ことば」以外の仕方で体現してのけるだけでなく、そこからなお新しい「ことば以上のもの」を携えて帰還することであるとはいえないか。

イメージには、「ことば」とは別の仕方での、イメージの仕方で作用している力がある。もちろんイメージにも、言語的な記号として理解し、指示作用をおこなう象徴として利用することのできる、「ことば」的な側面もあるだろう。しかし、イメージの作法を、そのような「イメージの言語」や「イメージの文法」として、既知の「ことば」の体系に還元することで理解できたことにしてしまいたくなるのをぐっと堪えて、「ことば以上」のイメージの作法そのものを学術的な知でもって理解することはできるだろうか。

実体としての情報を伝達する「ことば」のモデルにもとづいたコミュニケーション経路を豊かにすることによってではなく、そもそもコミュニケーションのモデルそのものを「ことば以上のもの」についての理解にもとづいて豊かにすることで、みえてくることもあるだろう。

イメージの領域は、サイエンスには非科学的すぎて「ことば」にできないし、アートもまたそれを作品にはできても「ことば」にはできない。その境地に向けてあえて学究的かつ芸術的な探検に乗り出し、精妙な「ことば以上のもの」を編み出すことを、「アートサイエンス」のひとつの理想的な姿勢とみなすことはできるだろうか。人間をふくめた生物たちの社会・生態系が、「ことば」だけでなく「ことば」以上の仕方でもまた、いかに思考しコミュニケーションすることができているのかについての探究と、その理解にもとづいた新しい世界の構想。

さて、この連載の第1回目として、写真家トーマス・ルフを取り上げる。

「写真」には、被写体としての存在の何らかの痕跡として、客観的な現実を指示する「ことば」として伝達されるイメージにとどまらず、そういう「ことば」的な写真とは別の仕方でイメージをつくりだす非写真的な写真の、「アートサイエンス」的なイメージもあるのではないか。トーマス・ルフを、そんな写真作家のひとりと呼んでもよいだろうか。アート写真とサイエンス写真が混交する境地を愛するというルフにお話をうかがい、「アートサイエンス」の仕方でイメージを生みだすとはどういうことかを展望する、ひとつのささやかな探究を試る。

 

CREDIT

Harashima
TEXT BY DAISUKE HARASHIMA
東京大学大学院総合文化研究科特任研究員。基礎情報学/表象文化論。論考に「メディアアートへの視座:サイバネティクス」(『メディア芸術カレントコンテンツ』、2016)、「予測と予知、技術的特異点と生命的特異点」(『現代思想』、2015)など。 http://digital-narcis.org/Daisuke-HARASHIMA/
Rakutaro
PHOTO BY RAKUTARO OGIWARA
写真家。1991年 スウェーデン生まれ。2010年 多摩美術大学芸術学科入学。この頃から写真を撮り始め、2015年に中途退学。フリーランスの写真家として活動中。 http://raku-taro.tumblr.com/

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