• TOP
  • WORLD-TOPICS
  • NFTアートを取り巻く現況を徹底解説。「Proof of X展」マニフェスト

WT

2022.08.11

NFTアートを取り巻く現況を徹底解説。「Proof of X展」マニフェスト

TEXT BY hasaqui

2021年前後を境に、世界的トレンドのひとつとなった「NFT」。アートの界隈でも驚くような高額取引が話題となったが、それだけでは既存の貨幣価値から脱せず、一瞬のバズワードで終わってしまうだろう。NFTとアートの関係がもっと面白くなるのは、NFT独自の特性をよく見つめた先に生まれる表現や、価値や取引のオルタナティブとしてではないだろうか。Bound Bawでは、今年春に開催され、NFTアートの批評に一石を投じた「Proof of X – NFT as New Media Art」展のマニフェストの一部を掲載。NFTアートを語るには、まず本稿を読まれたし。

「金融化のミニチュア版」と批判されるNFT、今後の課題は?

NFTアートは「永遠が与えられたものとせよ」というお題を提示し、私たちに制作を促すものです。またそれは、そのメディウムの可能性を引き出すように、アーティスト、制度設計者、金融デザイナーたちを魅惑します。NFTアートは、「タイミング・スペシフィック」の特性によって、トランザクション履歴のアウラを纏いながら、時空間とリアル/バーチャルを横断し、あるいは混交して送り届けられるものです。

NFTアートは主にその投機面に注目が集まり、「NFTは、アーティストがグローバル資本主義から少しばかり恩恵を受けるための手段であり、金融化のミニチュア版に過ぎない」と発言したブライアン・イーノをはじめとして、「関わるまい」というスタンスの方も大勢いる状況です。そんな投機的な市場でトレードされ、環境負荷も問題視され、作品の質も疑わしいNFTアートを、「アート」としては認めないという意見も多々見られます。それらの立場は今日の状況を鑑みれば、やむを得ない面があると言えるでしょう。

エリック・S・レイモンド
アメリカのプログラマ、作家。オープンソースソフトウェアの提唱者として有名。

主なNFT批判の内容を以下に箇条書きしてみましょう。これらの課題は継続してシーン全体で取り組む必要のあるものです。エリック・S・レイモンド(Eric S Raymond)の「ハッカーになろう」から引用するならば、「この世界は解決を待つ魅力的な問題でいっぱいです 」*1。

*1…Eric S Raymond “How To Become A Hacker”,2001
「The Hacker Attitude 1. The world is full of fascinating problems waiting to be solved.」
http://www.catb.org/~esr/faqs/hacker-howto.html

・投機的な市場
・永続性についての誇大広告
・環境負荷
・既存のアートの歴史への無理解
・詐欺の横行
・技術者と非技術者との新たな階層構造
・ジェンダーバランス
・オンライン活動の中毒性    ...etc

CryptoやNFTは「金融の民主化」と「アートの民主化」を実現するための手段として捉えられていますが、一方では資本主義を加速させ格差を助長するものとして、あるいは既存のアートの負の面を強化するようにも捉えられてもいます。個人間の取引が仲介なしに行われることにより資本主義が加速することは事実だと考えられますが、それがどのような意味を持つのか、捉え方は様々でしょう。現状ではこのようなインフラが整った事実をひとまず受け止め、Web3とは何かが活発に議論されているように、今後のあるべき姿を模索する段階だと言えるのではないでしょうか。

世界で最初に生まれたNFT

世界で最初のNFTは2014年5月に制作されたケビン・マッコイ(Kevin McCoy)による<Quontum>とされています。<Quontum>は2021年6月にロバート・アリス(Robert Alice)がキュレーションに参画したサザビーズのオークション「Natively Digital」に出品され、147万ドルで落札されました *2。

*2…<Quontum>のオークションはその後その所有権をめぐり、KevinMacCoyとサザビーズがカナダのFreeHoldingsに提訴され、現在係争中です。

ケビン・マッコイのWebサイトより https://www.mccoyspace.com/project/125/

この最初のNFTが誕生したのと同じ時期に、今日のNFTアートの姿を明確に予見していた人物がいます。それが、Blockchainアーティストとして当時から活動していたレア・マイヤース(Rhea Myers)です。マイヤースは、自身の2014年5月のブログ記事 「Artworld Ethereum – Identity, Ownership and Authenticity *3」において次のように述べています。

*3…Rhea Myersによる2014年5月9日の記事「Artworld Ethereum – Identity, Ownership and Authenticity」
https://robmyers.org/2014/05/09/artworld-ethereum-identity-ownership-and-authenticity/

 

スマートプロパティとしてのデジタルアートには3つのケースがあります。
・ひとつめは、contractのコード自体がアート作品であるか、アート作品に含まれるような、コンセプチュアルアートまたはコードアートのケースです。
・二つ目は、Ethereumストレージのケースで、小さなデジタルアート作品がEthereumのデータストアに保存されます。
・三つ目は、識別子( identifier )が保存されるケースで、アート作品の識別子またはプロキシのみがcontractとともに保存されます。

このようにマイヤースは、Ethereumが本リリースされる前の2014年の時点で、Smart Contract自体を作品とするあり方と、Blockchain上に作品のデータを載せるOn-chainのあり方、そしてBlockchainの外部に保存された作品データについて、その識別子だけをBlockchain上に載せる、一般的なOff-chainのNFTアートのあり方を提示しています。
 

NFTアートを構成する4レイヤー

さて、NFTアートは技術的にどのような構成となっているのでしょうか。以下の表はNFTの技術的な説明としての厳密さはありませんが、NFTアートに焦点を当てた際に注目すべき4つのレイヤーについてまとめたものです。

レイヤー:Web Application
コンテンツを画面表示するなど、一般的なWeb アプリケーションのレイヤー。マーケットプレイスのUIなど。

レイヤー:Data Storage
コンテンツデータを配置するストレージのレイヤー (On-Chain と Off-Chainの違いがある*)。

レイヤー:Smart Contract
コントラクトコードに任意の動作をプログラムするレイヤー。単純なETH送金やNFT転送から、より複雑な動作を実行可能とする。

レイヤー:Blockchain
EthereumやTezos など各Blockchainのレイヤー。非中央集権のパブリックチェーンを一般的には指すが、企業や団体が中央集権的に管理するプライベートチェーンやコンソーシアムチェーンなどもある。

高額のガス代と引き換えに成立する、高解像度と永続性

Data Storage レイヤーのOn-chainとOff-chainの違いについて少し説明します。On-chainはBlockchain上に、作品のフルデータを載せる方式を指します(厳密にはどこまでデータを載せるかについてはグラデーションがあります)。歴史的には2019年4月にAutoglyphsが最初にフルオンチェーンを行い、2020年11月に後述するArt Blocksが続きました。その後BlitmapやNouns、Lootがフルオンチェーンプロジェクトとして注目され、2017年にリリースされたCryptoPunksも2021年8月にOn-chainにしています。

最近ではCyberBrokersもOn-chainにしていることで注目を集めました *4。On-chainは永続性の観点で高く評価されています。しかし、それを行うためには高額のガス代が必要となるため、ガス代を抑えるためにいかにデータを圧縮するかがポイントとなります

かつて、ヒト・シュタイエル(Hito Steyerl)はその論考「貧しい画像を擁護する」において、どんなにコンピュータがハイスペックになって高解像度の画像データを扱えるようになっても、小さなデータ容量の「貧しい画像 *5」はその取り扱いやすさの面 (速度と強度と拡散)で価値があると主張しました。その主張はこのような制約を持つBlockchainにおいても当てはまるため、あらためて評価することができるでしょう。

一方で、Off-chainの場合は作品のデータは主にIPFSの分散型ストレージに保存され、Blockchain上にはあくまでもそのIPFSにおける作品データの識別子だけが載る方式です *6。一般的にNFTを販売しているマーケットプレイスのほとんどがmint機能においてOff-chainの方式を採用しています。そのため作品データ自体は外部の分散型ストレージに保存されているだけであるためBlockchainとは関係なく、別物だということです。また作品のデータがIPFSではなく通常のサーバーに保存されている場合は、改竄のリスクに晒されることとなりNFTが喧伝する唯一性を保証するようなものではなくなってしまいます。

*4…wildmouse(TART)による主要NFTのOn-chain状況の資料を参照しています。
*5…Hito Steyerl “In Defense of the Poor Image”, e-flux Journal,2009 
https://www.e-flux.com/journal/10/61362/in-defense-of-the-poor-image/
久保田晃弘はこのヒト・シュタイエルの考察を踏まえて、「短いコードを擁護する」という論考を書いています。 久保田晃弘+畠中実『メディア・アート原論 あなたは、いったい何を探し求めているのか?』、フィルムアート社、2018年
*6…例えば“ipfs://Qmf45hcnFyH8TBg8YA49wmSFZh6ruHg4kTUMAFq4MYv914/nft.mov”のように、IPFS上の作品コンテンツのURIを指定します。

Smart Contractは新しい価値を展開するか

コンテンツのデータ形式は、OpenSeaがサポートしているデータ形式を見てみると、JPG、PNG、GIF、SVG、MP4、WEBM、MP3、WAV、OGG、GLB、GLTFとなっています。このようにNFTとなりうる対象は日常的に利用している視覚イメージのデータ全般・音声データ全般であり、つまりは、日常私たちが視覚・聴覚で感受しているものは(データに変換されさえすれば)NFTにすることができるということを意味します。

NFTの機能にとって一番のコアとも言えるのはSmart Contractレイヤーです。Smart Contractでは事前に定義・実装した処理内容(契約内容)をBlockchain上にデプロイすることによって自動実行することが可能となります。Smart Contractに複雑な条件処理を組み込むことにより、信頼できる人の仲介を要さないtrust lessな自動機関を立ち上げることも可能となります。

批評家のシャーロット・ケント(Charlotte Kent)は「Smart Contractの美学を求めて」という2022年3月の論考 *7の中で、「if/when…then」の条件処理で作られるSmart Contractが、経済的な面とクリエイティブ面の両方においてNFTを推進していると指摘します。例えばPFPコレクティブルのプロジェクトであっても、その希少性(rarity)はSmart Contractに書かれた生成的なランダム性を実現するアルゴリズムによって実現しているわけです。

ケントはまたSmart Contractが時間の経過とともに進化する、多世代プロジェクトを実現させるようなトリックスターとしての側面に注目します。また、外部データとの連動や、mint時のtransaction hashをGenerative Art のseedにする例のように私たちを参加型の関係に巻き込む側面についても注意を向けています。このような多様な処理実行が可能なSmart Contractは、NFTアート固有の新しい価値を展開するものだと言えます。そして、その制御は私たちを巻き込むものである以上、時としてその力は(可能な限りコードレベルで)警戒感を持って分析すべき対象でもあるでしょう。

*7…Charlotte Kent “IN SEARCH OF AN AESTHETICS OF SMART CONTRACTS”, RIGHT CLICK SAVE , 2021 March 28  https://www.rightclicksave.com/article/in-search-of-an-aesthetics-of-smart-contracts

NFTアートのメディウム特性
「Proof of X – NFT as New Media Art」展 会場風景(3331 Arts Chiyoda 104)
コーディングを創造的な行為として認める

NFTはデジタル作品のコード自体を作品として取り扱い、流通させることに成功しました。ティム・バーナーズ・リーによるWorld Wide WebのソースコードがNFTとなり、2021年6月にサザービーズのオークションで、6億円で落札されたことは象徴的な出来事だったと言えるでしょう。ティナ・リバース・ライアン(Tina Rivers Ryan)はこのオークションが「コーディングを創造的な行為として認め、技術者に報酬を与える適切な方法は何か」という問題提起をしていると評価しています *8。

コーディング自体が創造的な行為として認められた代表的な事例としてGenerative Art を専門に取り扱うプラットフォームであるArt Blocksの成功が挙げられます。コード自体を作品として取り扱い、流通させることはメディアアートの分野において長年の課題であり、NFTがデジタルで完結するかたちでその販売方法を提示したことは評価される部分です(これまでもメディアアートやデジタルアートの販売方法がなかったわけではありませんが、NFTではデジタルで完結し、マーケットと直結しているという点がポイントです)。

*8…Jo Lawson-Tancred “Tim Berners-Lee said the world wide web was for everyone, so why has he sold its source code as an NFT?”  https://www.apollo-magazine.com/tim-berners-lee-internet-source-code-nft-sothebys/

《OpenTransfer》Toshi(TART), wildmouse(TART)  
いつでも誰でも好きなアドレスに作品をTransferできるようにすることで、所有の新たなかたちを問う。
「Proof of X – NFT as New Media Art」出典作品
同時代性を誘発するアート・アクティビズム

また、NFTの大きな特徴は、それがtransaction履歴を保存し続けるという点にあります。それにより、あらゆる時間・タイミングがNFT化の対象となり得るため、身近なところでは誕生日などのお祝いにNFTを作成したり、POAPのようにイベント参加者向けのNFTを作成したりと言ったような「いま、ここ」を強調する「タイミング・スペシフィック」のNFTを生み出すことも可能となります *9。

アート・アクティビズムの文脈において、キューバのアーティストであるタニア・ブルゲラは「ポリティカル・タイミング・スペシフィック」という概念を提示しています。政治的なイベントが発生した際に、そのタイミングに即したかたちで、どのような介入を試みるかを課題とし、作品における重要な要素として扱っています。アート・アクティビストの活動においてNFTが実践的に利用できることは、現在(2022年3月)継続しているロシアによるウクライナ侵攻の中で、アートアクティビストグループとして有名なプッシー・ライオット(Pussy Riot)らが中心となってUkraineDAOを発足し、早急な資金調達に成功したことからも明らかになりました。

*9…2022年2月28日のゲンロン ・シラス配信、田中功起×東浩紀(+上田洋子)「共生と育児と抽象とケア――『リフレクティヴ・ノート』から1年、美術家が語るコロナ禍の社会」において、田中と東はNFTに批判的ではありながらも「タイミング・スペシフィック」の性質について少し言及しており、本テキストでも参照しています。

UkraineDAO Webサイト https://www.ukrainedao.love/ukraine-dao
《WanNyanWars》Akihiro Kato, Asami Kato
犬と猫それぞれ100個のNFTをリリースした本作において、購入者は犬or猫の動物愛護団体への寄付を行うことで、犬派or猫派としての勢力に加勢することができる。NFTを通じたガバナンスや投票、資金調達のスキームを提示する作品。「Proof of X – NFT as New Media Art」出典作品
二次流通でもアーティストの利益となりうる

NFTのプログラマビリティにより、二次流通においてもアーティストに指定した比率でのフィーが支払われる点(そのようにあらかじめプログラム可能な点)も大きな特徴であり、この点は当初よりアーティストにとってのメリットとして謳われています。特に1万点の作品から成るようなPFP系のコレクティブルプロジェクトにおいては、NFTホルダーとのリレーションを、コミュニティがケアし続けることによってそのNFTの価値が高まります。

また二次流通を活発化させることによって、持続的なフィーを得ることがビジネス面で重要な要素となります。そのようなビジネス面を抜きにしたとしても、一度tokenとして作られたNFTは、履歴が可視化されるが故に、アーティストやコレクター相互にとってケアの対象となるでしょう。

先ほどあらゆるものがNFTになるような言い方をしましたが、NFTアートが持つ限界、既存のジャンルのアートとの境界についても触れたいと思います。それは一言でいえば(当たり前のことですが)NFTアートはNFTというメディウムを採用したアートであるということです。つまり、そこでは多種多様に存在する既存のメディウム(キャンバス、プリント、スクリーン、ディスプレイ、コンピュータ)ではなく新たな別のメディウムが選択されているということです。その点については意識する必要があるでしょう。もちろん、NFTアートでは既存のメディウムを様々なかたちで記録し、シミュレーションすることも可能であり、複合的なメディウムを採用するハイブリット作品もありえます。しかし、それらは、既存の絵画や彫刻とは同じものではなく、また既存のデジタル作品と比較しても同じものではありません。そこにはtokenとしてのメディウムの性質が必ず付いて回るのです。(既存のメディウムでのアート活動は、NFTの登場による影響を受けながらも、間違いなくそれはそれで続いていくでしょう)

また、NFTアートは、その実質的な表象を担っている各種マーケットプレイスのUI・UXや、今後普及する各種メタバース”空間”によってかたちづけられます(別の言い方をすれば制約を受けます)。また、NFTアートの価値付けに大きな作用を及ぼすマーケティングやコミュニティの主な舞台はTwitterとDiscordです。かつて美術館やギャラリーのホワイトスペースが批判や分析の対象となったように、それらのインターフェースの力学が今後研究の対象になっていくと考えます。

NFTアートとアウラ

個人差があると思いますが、NFTアートにはアートとしてのアウラが感じられます。特にそれはNFTアートを購入した際に「所有感」として語られます。そして、意識して脱魔術化の姿勢を持たなければ、NFTに親しんでいくなかで、かつての「ただのJPEG画像」という純粋な感触は失われ、不可逆なものとなるかもしれません。この人類に訪れた画像に対する心理的変化は哲学的にも興味深いテーマであるはずです。

ここでは、複製技術がアウラの喪失を招いたと論じた、ベンヤミンの1935年の著作『複製技術時代の芸術作品』からNFTアートのメディウムについて考えることにしましょう。まず、ベンヤミンが提示した有名な芸術作品の「礼拝的価値」と「展示的価値」について確認します。ベンヤミンは洞窟壁画や宗教壁画のように特定の時間と場所に強く結びついた旧来の芸術作品を「礼拝的価値」を持つもの=アウラを持つものと捉えていました。一方で写真や映画など、複製技術による芸術作品については、1回性を失ったことによってアウラを喪失し、また量が増えていくことによって大衆が参加しやすいものとなり、「展示的価値」を持つものと考えました。

デジタルアート作品はそのデータがRight-click and Save *10により容易に複製可能なものであり、拡散されるものです。そしてNFTアートは、token自体は複製不可能なものである一方で、それと紐づく作品の画像データは基本的には旧来の画像データと何も変わらない同じ性質で、誰でも複製し自分のPCに保存することができます。

しかし、NFTの技術はtoken化によってデジタルアートに唯一性を与え、独自のアウラを蘇らせたと言えるのではないでしょうか。このようなアウラの復活は、作品データが特定のタイムスタンプ (時間)とトランザクションハッシュ(場)に強く結びつくことに由来すると考えられます。しばしば、NFTアート作品が「念」や「お守り」といった呪術的なワードによって語られる理由はそのような唯一性のアウラによるものだと言えるでしょう。またマーケットプレイスで可視化される他者の欲望は、よりそのアウラを強固なものとします。

*10…Right-click and SaveはXCOPYの作品<Right-click and Save As guy>のタイトルとしても知られ、一つのミーム的なワードでもあると言えます。

《民主的工藝》HUMAN AWESOME ERROR
民藝の文脈でも名高い益子焼の器と、100円ショップで購入した器の双方にNFCタグを埋め込み、NFTと紐づけることで、骨董や工藝品における「価値」の意味を問い、価値が付与される過程を民主的に可視化しようと試みる。
「Proof of X – NFT as New Media Art」出典作品

そしてNFTアートはたやすくインターネット上だけでなく、リアル空間においてもサイネージやプロジェクションによって展示可能です。そのため、シンプルに考えればNFTアートはベンヤミンの提示した「礼拝的価値」と「展示的価値」の性質を併せ持つメディウムであると考えられます。この点については異論も含め今後議論が深められるところだと思います。

NFTアートはtokenとしての価値を持つため、芸術と貨幣の歴史からNFTアートを考察することも重要でしょう。芸術と貨幣との関係を論じた有名な書籍として、マーク・シェルの『芸術と貨幣』 *11があります。例えば、マーク・シェルはその第2章「芸術と貨幣」において金(アウルム)と後光(アウラ)との関係について言及し、伝統的なキリスト教絵画に描かれた聖者の後光の光に明らかに貨幣的特徴が見られることを分析しています。金銭的な価値の付与がアウラの生成に寄与することは感覚的にも納得のいくものではないでしょうか。インターネット上で展示(公開)されていたアート作品がNFTによってプライスと唯一性が付与されることにより、時として既存のアートと並びうるアウラを持つことになったと言えるかもしれません。貨幣は人類において長きに渡って浸透した共同幻想であり、循環論法的な言い方をすれば、NFTにアートとしてのプライスが付くことが、NFTアートの「アート」としての成立にとって決定的な要素となったのだと言うことができるでしょう。

*11…マーク・シェル『芸術と貨幣』、みすず書房、2004年

 

ARTICLE'S TAGS

CREDIT

Hasaqui
TEXT BY hasaqui
アーティスト。 “Towards a Newest Laocoön”をスローガンとして掲げ、2019年にAIの画像生成を利用したデジタル作品の制作を開始。2021年2月より、NFTのアート作品を発表し、オンライン・オフラインでの展示に参加。最近ではp5.jsによるGenerative Artの制作を行うと同時に、元々の美術理論や現代アートにおける批評への関心を継続させるかたちでNFTに関わる批評についてリサーチと執筆も行っている。 <Proof of X - NFT as New Media Art>、<Crypto Art Fes 2022>、<Asia Digital Art Award FUKUOKA 2019>などの展示に参加。

page top

ABOUT

「Bound Baw」は大阪芸術大学アートサイエンス学科がサポートするWebマガジンです。
世界中のアートサイエンスの情報をアーカイブしながら、アーティストや研究者の語るビジョンを伝え、未来の想像力を拡張していくことをテーマに2016年7月から運営を開始しました。ここから、未来を拡張していくための様々な問いや可能性を発掘していきます。
Bound Baw 編集部

VISION

「アートサイエンス」という学びの場。
それは、環境・社会ともに変動する時代において「未来」をかたちづくる、新たな思考の箱船です。アートとサイエンスで思考すること、テクノロジーのもたらす希望と課題、まだ名前のない新たなクリエーションの可能性をひも解くこと、次世代のクリエイターに向けて冒険的でクリエイティブな学びの旅へと誘います。

TOPICS

世界各国のアートサイエンスにまわる情報をを伝える「WORLD TOPICS」は、国内外の展覧会やフェスティバルのレポート、研究機関や都市プロジェクトなどを紹介します。「INTERVIEW」では、アーティストや科学者をはじめ、さまざまなジャンルのクリエイターへのインタビューや異分野の交わる対談を掲載。「LAB」では、大阪芸術大学アートサイエンス学科の取り組みを紹介しています。

STAFF

Editor in Chief
塚田有那
Editorial Manager
八木あゆみ
制作サポート
communication design center
Flowplateaux
STEKWIRED
armsnox
MountPosition Inc.

Copyright 2016 Osaka University of Arts.All Rights Reserved.

close

bound baw