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2024.02.02

メディアアート視点の回顧展「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」

TEXT BY KENTARO TAKAOKA,EDIT BY AYUMI YAGI

2023年3月28日に逝去した音楽家・坂本龍一。彼の功績を振り返るために、彼が生前に関わったメディア・アートを中心にした作品が展示される展覧会「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」が東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター [ICC]にて開催されている。坂本と親交の深いメディア・アーティスト・真鍋大度(Rhizomatiks)と、ICC主任学芸員・畠中実によってキュレーションされた本展では、過去作だけではなく、生前のデータを活用して制作された新作も並ぶ。これまでの足跡をたどるだけでなく、未来へと繋げていく意思が伺える展示の見どころを紹介する。

いち早く催された坂本龍一のトリビュート展

坂本龍一といえば、細野晴臣、高橋幸宏と結成したYellow Magic Orchestraでのテクノポップのアーティストとしての世界的な活動が最初に思い浮かぶという方も多いはず。

もともと坂本は音楽以外にも関心が強く、高校時代から現代音楽や現代美術に傾倒しており、実験音楽家のジョン・ケージやヴィデオ・アートの開拓者であるナムジュン・パイクが当時のヒーローだったという。その後、東京藝術大学音楽学部作曲科に通うこととなるが、音楽学部の学生よりも美術学部の学生と親交を持っていた。また、大学の研究室でシンセサイザーなどの電子楽器を学ぶなど、新興メディアやテクノロジーに興味を示していた。

このように音楽だけに限らず、音楽と美術を横断する活動は10代から現在に至るまで通底している。生前の活動の中、さまざまなアーティストとコラボレーションを行い、メディア・アーティストや現代美術家とともに作品をつくってきたヒストリーを振り返ることもできる展覧会となっている。

「坂本さんはICCの節目で何度も展示を行ってきていただいたので、逝去にあたって、なにかしないと申し訳ないという思いがあった。真鍋さんと企画を進め、2023年4月には坂本さんのマネージメントに相談しました。坂本さんの思いをどうやって受け継いでいくのかを軸に、展示をまとめていきました」(畠中)

「坂本が作ったかもしれない作品」としての制作

会場であるICCと坂本の関わりは、ICC開館前にオンラインで開催された1991年の「電話網の中の見えないミュージアム」から始まる。これは電話やファクシミリ、コンピュータを通じて作品やメッセージを鑑賞するという、当時の先端技術によるヴァーチャルな催しだった。その後もICC 開館10周年となる2007年には「坂本龍一+高谷史郎 LIFE - fluid, invisible, inaudible ...」を、20周年記念となる2017年には「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME」を行ってきた。

本展は真鍋大度キュレーションによる、坂本龍一の生前にインターネットで配信を行った演奏データなどを活用した新作が並ぶ空間と、畠中実キュレーションによる、坂本龍一が過去にコラボレーションをしたメディア・アートや現代美術のアーティストによる作品が集う空間の、二部構成となっている。

自身がアーティストでありプログラマ、DJでもある真鍋はこれまでにも坂本とのコラボレーションを行ってきており、テクノロジーと音楽、両側面での造詣が深い理解者でもある。

「技術的にはAIを使ってもうこの世にいない人の新作をつくることもできるが、さまざまな制約の中で、2023年のこのタイミングで発表できる作品として、このような形になった。『坂本さんが作ったかもしれない作品』として、生前のデータとのコラボレーション作品の制作を行いました」(真鍋)

【インスタレーション】見えない電磁波を可視化
坂本龍一+真鍋大度《センシング・ストリームズ 2023-不可視、不可聴》(ICC ヴァージョン) 2023年

アンテナによって収集された周囲の電磁波を可視化・可聴化するインタラクティヴなインスタレーション作品。コントローラーで周波数を変更させ、ヴィジュアルとサウンドを体験する内容。「札幌国際芸術祭2014」において、札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)およびモエレ沼公園ガラスのピラミッドに設置された作品。その後さまざまな国を巡り、本展覧会用にアップデートされた最新ヴァージョンが展示されている。

【インスタレーション】演奏する坂本龍一の背景がインタラクティヴに変化
真鍋大度+ライゾマティクス+カイル・マクドナルド《Generative MV》2023年

スクリーンには、グリーンバックで撮影されたピアノを演奏する坂本龍一の姿が流れており、スクリーン前にあるデヴァイスに鑑賞者がテキストを入力することで、そのテキストからAIが生成した背景が合成される。鑑賞者が任意のテキストを入力することも可能だが、プリセットテキストとして、「ニューヨーク」「蒸気波(ヴェイパーウェーヴ)」などの単語も登録されている。選択もしくは入力した単語をもとにAIが背景ヴィジュアルを生成し、坂本龍一の演奏姿が合成され、これまでの坂本龍一のイメージとは異なった印象のミュージックヴィデオが生み出される。この坂本の素材となっているアーカイヴ映像は、ライゾマティクスが参加し、全世界に配信されたオンライン・ピアノコンサート「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020」で収録されたもの。

【インスタレーション】北海道の旅情と坂本龍一のサウンドが絡み合う
毛利悠子《そよぎ またはエコー》(部分を「坂本龍一トリビュート展」のために再構成)2017/23年

北海道の旅からインスピレーションを得て「札幌国際芸術祭2017」で制作・発表された作品。その旅の中で、時間や環境によって摩耗し、風化していく、ピアノや街路灯などさまざまなモノの様子を音の現象として変奏し、本作品のために、坂本龍一が曲を提供した。本展では、坂本のピアノによってその楽曲が自動演奏される部分を中心に毛利の作品《I/O》、《BRUSH》とともに再構成したヴァージョンとなる。

【サウンドインスタレーション】世界中で行ったフィールド・レコーディング
Dumb Type + Ryuichi Sakamoto《Playback 2022》2022/23年

ダムタイプによる、アナログ・レコードを使ったサウンド・インスタレーション作品。坂本龍一が世界各地で行ったフィールド・レコーディングを収録した16枚のレコードが、そのレコーディングを行なった世界各地のアーティストからのコメントとともに展示され、会場では坂本自身の未発表音源「Tokyo 2021」を聴くことができる。坂本が使っていたスピーカーと同じ機種が用いられ、展示されている。

【映像】電子音楽家とのセッション動画
alva noto + ryuichi sakamoto《insen live (short)》2009年 含む展示風景

坂本とアルヴァ・ノトことカールステン・ニコライによる、ピアノと電子音響と映像によるコンサート・ツアーを収録した映像作品とメイキング映像。音楽とヴィジュアルによる実験的パフォーマンスを2002年から2011年にかけて5作品からなるシリーズをともに作り上げてきた両者による、化学反応を楽しむ様子が収録されている。会期中の上映プログラムとして、ICC 館内シアターにて大きな画面と音響で鑑賞することも可能。(事前予約推奨)

【絵画】アルバムジャケットのドローイング
李禹煥《遥かなるサウンド》2022年

1960年代末から1970年代中期にかけて現れた日本の現代美術の大きな動向「もの派」。作家は、土や石、木など、それまで素材であった「もの」を、ほとんど手を加えないで展示することで、「もの」との関係を探ろうとした。今回、その代表作家である李禹煥による、坂本の生前最後のオリジナル・アルバムとなった『12』のジャケットのために描き下ろされたドローイングの原画を展示している。国立新美術館で開催された李の個展に坂本が訪れた際の写真も展示され、アーティスト同士としてのふたりの親交がうかがえる。

【写真】もの派の影響を受けた震災の写真作品
高谷史郎《Piano 20110311》2018/23年

東日本大震災の津波で海水をかぶったことで演奏できなくなってしまった宮城県名取市の高校のピアノを、楽器としてではなく「もの」としてスキャンするように撮影した作品。 ICC 開館20周年記念企画展『設置音楽2|IS YOUR TIME』で、インスタレーションの一部としてこのピアノが展示された際に、高谷が撮影した。「近代を象徴する楽器を自然がモノに返したと感じた」と坂本は語り、もの派の考え方の影響をうかがわせる。

残されたデータを活用するキュレーション

メディア・アートを中心に、さまざまなジャンルでのコラボレーション作品が並ぶ。本展では紹介されていないが、坂本は他にもナムジュン・パイクや三上晴子、岩井俊雄らともコラボレーションを行い、近年では楽曲の楽譜をNFT化した作品をリリースするなど、語られるべき作品はまだまだある。

東京都現代美術館では、坂本の大型インスタレーション作品を包括的に紹介する展覧会「坂本龍一展(仮)」が2024年12月21日〜2025年3月30日に開催される予定となっており、こちらは本展とはまた違ったキュレーションで坂本龍一の作品に触れる場となるだろう。

国内外問わず坂本龍一の活動の足跡を巡る機会が行われていく中での本展の特筆すべき点は、坂本が残したデータを活用して、彼が作ったとも言えるかもしれない新しい作品がつくられたこと。そのことが、いわゆる回顧展とは違う趣を生み出している。これも彼のことを理解しているアーティストやキュレーターとの関係性があってのこと。もう直接話すことのできない故人の新作を作るという、その実験精神を体感するために、まずは本展に足を運んで欲しい。

Information

「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」

会期:2023年12月16日(土)—2024年3月10日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA
開館時間:午前11時—午後6時(入館は閉館の30分前まで)
入場料:一般 800円(700円)、大学生 600円(500円)
ICC年間パスポート:1,000円

*( )内は15名様以上の団体料金
* 障害者手帳をお持ちの方および付添1名、65歳以上の方と高校生以下、ICC年間パスポートをお持ちの方は無料。
休館日:毎週月曜日、年末年始(12/28–1/4)、ビル保守点検日(2/11)
月曜日が祝日もしくは振替休日の場合、翌日を休館日とします。
休館日以外においても,開館時間の変更および臨時休館の可能性がございます。
最新情報はICCウェブサイト(https://www.ntticc.or.jp/)などでお知らせします。

共同キュレーション:畠中実(ICC)、真鍋大度(ライゾマティクス)

主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC](東日本電信電話株式会社)、株式会社アブストラクトエンジン
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】
協力:株式会社キャブ、KAB America Inc.、有限会社ダムタイプオフィス、commmons
企画協力:ライゾマティクス
機材協力:株式会社イースタンサウンドファクトリー、raytrek(株式会社サードウェーブ)
音響機材協賛:KEF

https://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2023/tribute-to-ryuichi-sakamoto-music-art-media/

[ALL PHOTOS]

撮影:冨田了平
写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

 

 

CREDIT

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TEXT BY KENTARO TAKAOKA
オンラインや雑誌で音楽、アート、カルチャー関連の記事を執筆。共編著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』『ピクセル百景』など。荏開津広、寺沢美優とのグループ「Urban Art Research」で活動中。
Yagi ayumi 160
EDIT BY AYUMI YAGI
三重生まれ、東京在住。紙媒体の編集職として出版社で経験を積んだ後、Web制作会社へ転職。Web制作ディレクションだけではなく、写真撮影やWeb媒体編集の経験を積みフリーランスとして独立。現在は大手企業のブランドサイトやコーポレートサイトの制作ディレクターや、様々な媒体での執筆や編集、カメラマンなど職種を問わず活動中。車の運転、アウトドア、登山、旅行、お酒が好きで、すぐに遠くに行きたがる。 https://aymyg1031.myportfolio.com/

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