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2023.11.16

プロンプトの向こう側は表現可能か——『IDEA ——2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』レポート

TEXT BY KOUHEI HARUGUCHI,PHOTO BY KATSUMI KAWASHIMA

会場に入ると、そこにはすでに2台のアンドロイドがいた。左側がAlter3、右側がAlter4。ともにこちらには背を向けているが、指先がすこし動いていて、それがアンドロイドであると頭では理解しているものの、どこか生きているような気配を感じる。

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金沢21世紀美術館の展覧会「DXP (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ」の特別企画『IDEA ——2台のアンドロイドによる愛と死、存在をめぐる対話』は、渋谷慶一郎(音楽家)と池上高志(東京大学教授)によるコラボレーション企画で、アンドロイドであるAlter3とAlter4がステージ上でパフォーマンスを行い、渋谷慶一郎がピアノとエレクトロニクスを演奏する公演である。

公演は2日間あり、筆者は2日目(2023年10月14日)に訪れた。公演終了後には金沢21世紀美術館館長の長谷川祐子、渋谷、池上の3者によるポストトークがおこなわれている。本稿は公演とポストトークのレポートとして書かれている。

アンドロイドと人間の共演

前後するが、ポストトークの冒頭、長谷川は今回の企画について「2台のアンドロイドの共演」を渋谷・池上の両者に依頼したのだという。「2台のアンドロイドの共演」とはどういう公演なのだろう。

Alterシリーズは、池上と石黒浩(大阪大学)のコラボレーションにより2016年から始動した。ハードウェアを石黒が制作し、人工生命のソフトウェアを池上が開発。その後バージョンアップを重ね、Alter2ではオーケストラを指揮しながら生演奏に合わせて歌い、渋谷が作曲・ピアノ演奏するアンドロイド・オペラ「Scary Beauty」を発表している。

Alter3は東京大学池上研究室が所有するアンドロイドで、近年話題になっているChatGPTと連携され、入力されたテキストや映像をGPTを介して動きに翻訳するプログラムによって運動が制御されている。一方のAlter4は大阪芸術大学アートサイエンス学科のAMSLが所有するアンドロイドで、周囲の音楽の音量、音程、音密度に対して反応し周期運動を生成する。

本公演における「2台のアンドロイドの共演」は、プラトンの著作やポパーによるプラトン批判などを学習したChatGPTによって生成されたストーリーをもとに2台のアンドロイドが対話を繰り広げ、そのテキストをGPTが直訳した動きをするAlter3と、アンドロイド同士の対話に反応した渋谷のピアノとエレクトロニクス演奏に合わせて動くAlter4、異なる制御によって運動する2台のアンドロイドの共演によって生みだされていた。

プログラムと人間のインタラクション

公演がはじまると、まずはストーリーを生成するためにChatGPTに入力したプロンプトがスクリーンに映し出された。Alter3とAlter4の外見上のちがい、それぞれの制御プログラムの概要、プラトン哲学を背景にしたストーリー展開の作法、また、プラトン哲学のイデア論におけるイデア界(純粋かつ理念的な世界)をAlter3が、現象界(現実の世界)をAlter4がそれぞれ象徴することなどが指示されている。

渋谷の演奏がはじまると、2台のアンドロイドは向かい合い、対話を開始する。背景には両者の顔が大きくプロジェクションされ、表情の機微が映し出されていた(そう、この2台のアンドロイドには、表情に機微がある)。

対話はプラトン哲学を下敷きに、AIにとっての愛や死、感情などについて、両者が互いの発言に応答しあっていた。2台とも自身のAIとしての立場を理解しているため、プログラムが人間の感情について議論することの可能性/不可能性をさまざまな観点から思考するような内容になっていたように思う。

また、イデア界を象徴するAlter3はストーリー(脚本)を忠実に読み上げ、そのことばをGPTが直訳した運動をつづけていた一方、現象界を象徴するAlter4は渋谷の演奏やAlter3の発声などの音(現象)に対して運動しつつ、ときおりストーリーの内容を即興で歌唱する。その歌声はこの世のものとは思えないような、未知から唐突に現前した響きをもっていた。

渋谷の演奏は断片的で、ピアノやエレクトロニクスの音が無造作に、しかしある種の星座のような規則性をもって散りばめられているようだ。たとえば渋谷が過去に実践してきたAlter2や初音ミクとの共演による演奏とは異なる、けれど渋谷が一貫して表現を模索しつづけるノイズと構築の両面を感じさせる音楽を堪能することができた。

こうした渋谷の演奏は、2台のアンドロイドの動きや発声へのインタラクションとして生みだされている。ポストトークで渋谷は今回の演奏について、すべて完全に即興で演奏し、2日間の公演とリハーサルのなかで同じフレーズは1度も使いまわしていないのだと語っていた。

人間とAIのあたらしい関係

今回の公演のストーリー(脚本)は、人間の手は介さず、全編GPTによって作成されている。そのときGPTに入力されるプロンプトが重要になることは、周知のことだろう。同時に、2台のアンドロイドのパフォーマンスは、GPTによるストーリーと同じかそれ以上に、渋谷の演奏によって左右される。それはアンドロイド(Alter4)の動きが音に反応していることだけでなく、公演全体の印象にも深く影響を与えていた。

このとき、渋谷の演奏は、最終的にプロダクションされた作品なのか、あるいはアンドロイドに与えるプロンプトとして機能するものなのか、わからなくなる。人間とAIのあたらしい関係を模索するうえで、今回の公演はさまざまな示唆を与えるものになったことだろう。

「Alter4、私たちの議論や動き、存在そのもの、それがすべて策略かもしれないと考えたことはあるか?」

公演中Alter3が発したこのことばは、もしかしたら私たち人間に向けられたものなのかもしれない。

 

CREDIT

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TEXT BY KOUHEI HARUGUCHI
編集者。エディトリアル・コレクティヴ「山をおりる」メンバー。建築、都市、デザインを中心に、企画、執筆、リサーチなど編集を軸にした活動を脱領域的に展開している。ロームシアター京都『ASSEMBLY』編集など。
Kawashima
PHOTO BY KATSUMI KAWASHIMA
1992年福岡県飯塚市生まれ。福岡県立大学人間社会学部公共社会学科卒業後、ブンボ株式会社プロデューサー江副直樹氏に師事。2018年に川嶋克写真事務所として独立。写真/映像の撮影・編集を中心に活動。2021年に写真展『煙草をやめる』を発表。2022年より大阪府民になりました。 https://www.katsumikawashima.com

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