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2023.05.30

妹島和世、渋谷慶一郎らが登壇。アンドロイド オルタ4との共演も。「PRADA MODE 東京」レポート

TEXT BY ERI UJITA

2023年5月12日と13日、日本の東京都庭園美術館で「PRADA MODE 東京」が開催された。本イベントでは、建築家であり、庭園美術館の館長、そして大阪芸術大学アートサイエンス学科のキャンパス設計を手がけた妹島和世によって、主催、キュレーションされ、さまざまなアクティビティが行われた。ゲストには、本学の「AMSL(アンドロイド・アンド・ミュージック・サイエンス・ラボラトリー)」を設立し、客員教授を務める渋谷慶一郎も登場。今回は、妹島和世とキュレーター・長谷川祐子による対談と、アンドロイド オルタ4を用いた渋谷慶一郎によるパフォーマンス、渋谷慶一郎と朝吹真理子による対談「都市と音楽」が行われた、イベント2日目の様子をお届けする。

妹島和世がつくる一期一会の体験。「PRADA MODE」

「PRADA MODE」は、アーティストのカールステン・ホラーが手掛けた「Prada Double Club」から自然発生的に生まれた、現代文化をテーマとしたイベントシリーズだ。これまでにマイアミ、香港、ロンドン、パリ、上海、モスクワ、ロサンゼルス、ドバイで開催されてきた。今回の第9弾となる「PRADA MODE 東京」の監修を務めた妹島和世は、「このイベントは、建築と庭園、アート、音楽がひとつになる新しいかたちのコミュニケーションの場所です。これは美術館を新しい公共の場とする試みです」とコメント。

実際に、緑豊かなヨーロッパ風の庭園内には、空間に沿って様々なエリアが設置され、トークイベントや音楽演奏が行われた。さらに敷地内の建物では、ワークショップやアート作品の展示、日本庭園では茶会やサウンドインスタレーションも開催。来場者たちは広い会場内を探索しながら、思い思いにイベントを楽しむことができる内容となっていた。

妹島和世と長谷川祐子が語る、シンビオシス(共生)を育む建築とアート

庭園内のメインエリアには、今回のイベントのために妹島和世が設計した仮設パビリオンが設置され、ゲストによるトークイベントや音楽演奏が行われた。2日目はあいにくの雨模様だったが、木製の曲面がステージと座席をゆったりと覆い、街の音や木々のざわめきが心地よく聴こえ、円やかに会話を促す空間となっていた。

この日最初のトークイベントのテーマは、「犬島シンビオシス:生きられた島」。妹島和世と金沢21世紀美術館の館長である長谷川祐子が登壇し、建築家とキュレーターそれぞれの視点から、環境とアートが一体となりながら、ゆるやかに人々との交わりを生み出す犬島のプロジェクトについて語られた。

瀬戸内海に浮かぶ犬島は、周囲3.6kmという非常にコンパクトな島であり、徒歩でも島内を気軽に1周することができる。島には100年ほど前に建てられた近代化産業遺産である銅の精錬所があり、妹島によると最盛期には住民が5000人以上いた頃もあったそうだ。そんな犬島で新たな地域創造のモデルとして循環型社会を意識した「犬島アートプロジェクト」が始まったのは、2001年のこと。犬島のシンボルである精錬所跡地を舞台に、産業遺産と環境、建築、アートが一体となった作品が設置された。

そして2008年より、金沢21世紀美術館の立ち上げに携わった長谷川と妹島が「犬島アートプロジェクト」に参加。金沢21世紀美術館で実現した、アートと人々の暮らしを柔らかくつなげるプロセスをさらに進化させ、生活と共に自然とアートがある在り方を目指して「家プロジェクト」がスタートした。2021年には、その10年以上にわたる取り組みをまとめた展示『Symbiosis: Living Island シンビオシス:生きられた島』展が、ジャパン・ハウス ロンドンにて開催された。

「シンビオシス(共生)」という言葉について長谷川は、「生物の進化において、本当は強者が生き残ってきたのではなく、利他共生的に他者を助け続けることによって、お互いに進化しつづけてきたという説があります。犬島の家プロジェクトも、そこにある環境や既にある建物をどのように組み合わせ、イノベーションしていくのか。毎日見ていても飽きるものではない、天候や季節の移り変わりに沿って絶えず変化していくものを考えていきました」と説明する。また、「電気を使わない」「コンパクトに運べる建材の使用」など、非常にエコロジカルな姿勢が求められる、チャレンジングなプロジェクトだったという。

長谷川祐子

妹島からは、プロジェクトがどのように進められていったかが語られた。「2008年は集落に58人ほど住んでいらっしゃって、平均年齢は80歳程度、そして15年経った現在も、平均年齢は変わらないまま、23人にまで減少しました。当時から島にはたくさんの空き家があって、私たちは集落をうろうろと歩きながらアートでどのようにこの場所を活性化させるかを考え、それができた後はどうやってつくったものを活用していけるかを考えていきました」

妹島和世

はじめは集落の中に点在する空き家を活用し、まだ使える部材を積極的に再利用しながら、リノベーションしていくという手法でギャラリーをつくっていった。長谷川もその過程で、建築とアートが一体化していく様を目の当たりにしてきたという。また、島で過ごす時間を増やすために捨てられていた温室を改修。サステナブルな暮らしを考えるための施設「犬島 くらしの植物園」を立ち上げた。そこからさらに、外部から訪れた人たちが泊まれる「犬島ステイ」をスタート。また、ランドスケープの専門家と共に、訪れた人が歩きながら島の歴史に触れられるように再整備も進めている。

「仕事から活動になってきています」と妹島が語るように、この15年はあらかじめプランするのではなく、島民からの申し入れも聞き入れながら、緩やかにプロジェクトが進んでいった。その結果「少しずつ成長していきながら、島全体が美術館のような存在」になったという。その進化はまさに、シンビオシスを実践してきた結果である。最後に長谷川は、「21世紀とは異なる、迷いながら進めていく創発的な場をつくるには、誰もがアイデアを出し合えるほどのスケール感の小ささも重要なのではないか」と述べ、「そこで得た気づきから、別のものとしても意味を成していけたら」という期待で締め括った。

「オルタ4」が歌う。渋谷慶一郎による即興パフォーマンス

続いては、渋谷慶一郎とともに、ロボット研究者・石黒浩が開発し大阪芸術大学アートサイエンス学科のAMSLが所有する、アンドロイド オルタ4が登場。その台座の設計も妹島和世が担当している。今回は「ガーデン・オブ・アンドロイド」と題してアンドロイド・オペラを上演。その内容は、プログラムの内容や場所や時間の情報など、イベントについての情報をインプットしたChat GPTによって膨大な量の歌詞が考えられ、それを読み込んだアンドロイド オルタ4が、渋谷慶一郎が即興で奏でる音楽に合わせ歌うというものだ。

「二度と同じことはできないと思うので、集中しつつ楽しんでください」という渋谷の挨拶を皮切りに、演奏がスタートした。

アンドロイド オルタ4と渋谷慶一郎

街の音を背景に、シンセサイザーの音に合わせて動き出すオルタ4。その口からは、言語なのかメロディなのか、判別しがたい不思議な声が発せられる。

頭部と前腕は生身の人間のような質感で、リズムをとるように繊細に上腕と指先を動かし、そして会場にいる一人ひとりに目配せをしながら歌う。その動きと音が妙に興味をそそり、時に音楽的なグルーブ感をも生み出す。いつの間にか演奏に没頭させられ、あっという間に30分間の演奏が終わった。

渋谷慶一郎と朝吹真理子が捉えた「都市と音楽」の関係性

最後にパビリオンでは、「都市と音楽」をテーマに渋谷慶一郎と小説家・朝吹真理子が対談を行った。

(左から)朝吹真理子、渋谷慶一郎

このテーマに対して、2人はまずヤニス・クセナキスの存在を思い浮かべたという。
「クセナキスは20世紀を生きた異例の現代音楽作曲家で、建築家でもあり、ル・コルビジェの建築の構造計算をするほどの人物でした。彼は作曲に確率論を用いて、都市の騒音モデルを確率分布に置き換え、それをオーケストラにしたり、構造計算を音楽に転用したりと、通常の音楽セオリーに即さない音楽をつくり、僕も非常に影響を受けました」と渋谷。

一方で朝吹は『音楽と建築』というクセナキスの書籍から、「死すべき者と永遠の二元性を解決しよう。未来は過去にあり、その逆とも言える。現在のはかなさを打ち破り、あらゆる場所に同時に存在し、『ここ』が20億光年の彼方でもあるような……」という一文を紹介。「クセナキスが語るように、自分の中にも『今ここ』という色々な時間が、同時多層的に流れているという感覚があります。渋谷さんにも似たような感覚があるのではないでしょうか?」と投げかけ、渋谷は「まさに音楽もそうで、聴こえている音楽の中には無数の聴こえない音が含まれていて、それをどう構成するかを作曲では考えている」と答えた。

また、日本の都市環境を貧しくしている要因を渋谷はこう語る。
「日本の都市に流れている音楽の多くは、一曲を通して時間を細分化するような、定量的で均等なビートが刻まれていることが多いんです。ドバイでは、1日に何回もコーランが街中に流れることもあり、世界中のハイブランドが入った大きなショッピングモールですらBGMを流しません。その結果、ショップに訪れる人の話し声などの環境音が自然とBGMの代わりになるんです。そこで、均等なビートが流れていない都市はいいなと感じました」

それに対し、「コロナ禍の初期は、今まであたりまえにあった都市の雑多な音がパタっと止んでしまったことを覚えています。そうすると、世界がグレーになったように感じて。嫌だなと思って避けていたことが、無くなってみると生きている感覚がなくなるというのも、すごく面白いですよね」と朝吹は応えた。

今回のイベントでは、日本庭園に24チャンネルを設置したインスタレーションも行い、電子音と自然を融合させた渋谷慶一郎。

ここから2人の話はさらに広がり、文学的な方向にも内容が及んだ。どの領域の表現者にとっても、建築や都市が生み出す環境は表現に大きな影響を与え、さらに近年は表現が環境に与える影響も重視されてきている。そのような双方向から作用しあう観点は、これからのアートサイエンスの進化にも欠かせないものになっていくだろう。

 

CREDIT

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TEXT BY ERI UJITA
フリーランスライター・エディター。専門はコミュニケーションデザインとサウンドアート。「表現によって生まれるいい循環」を捉え、伝えていきます。

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