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2023.06.23

混沌の街・渋谷の伝承と未来ーー菅野歩美個展が渋谷SACSで開催「明日のハロウィン都市」展

TEXT BY NANAMI SUDO

新たな渋谷の[Classics]を見据え、現代アートの展示などをはじめとする交流の場を展開するアートプロジェクト「Might Be Classics」。その第一弾として、民俗学的視点からその場所や人、物語を捉える現代美術家・菅野歩美による「明日のハロウィン都市」展が7月7日(金)まで開催中だ。今まさに大規模な都市開発において目まぐるしく変化する渋谷の地で、その混沌のシンボルともなる「ハロウィン」をテーマに、3DCGの映像で「未来の渋谷」を描き出す。菅野の提示する「明日のハロウィン都市」とは、一体どのようなものなのだろうか。

菅野歩美の新作が問いかける、都市と人々が生む混沌
撮影:小川尚寛

1994年生まれの気鋭の現代美術家・菅野歩美は、これまで、どこの土地にも存在する伝承や怪談といったフォークロアが、なぜ人々によって紡がれてきたのかを、その背後にある歴史や個人の感情から汲み取り、映像インスタレーションによって表現してきた。そんな菅野が、今回渋谷駅からすぐの新たなアートスペースで「ハロウィンと都市」をテーマに新作を発表した。

 

菅野歩美

現代美術家

1994年東京生まれ、東京藝術大学大学院博士後期課程在籍中。主な展覧会に『Study:大阪関西国際芸術祭「無人のアーク」』(うめきたSHIPホール、大阪、2023)、『GEMINI Laboratory Exhibition: デバッグの情景』 (ANB Tokyo、東京、2022)、『News From Atopia / アトピアだより』 (コートヤードHiroo、東京、2022)など。

そもそも、いまから2000年以上前に古代ケルトで発祥した「ハロウィン」は、本来は秋の収穫や安全を願う儀式だった。しかしいまではすっかりカボチャや仮装を中心とする民間行事として世界各地で定着している。ここ日本でも、渋谷のスクランブル交差点では、10月31日を目前にすると全国から漫画やアニメのキャラクターなどをはじめ、思い思いのコスプレをした人々が集うようになり、コロナ禍を経てもなお、その人気は止まることがない。

ハロウィンの日に渋谷に爆発的に人が集まるようになったのは、2015年ごろからだという。その熱狂ぶりと一部の羽目を外すような行為や危険性が取り沙汰され、日本におけるハロウィンは今や「若者による馬鹿騒ぎ」などと揶揄されることも多い。日本に限らず、ハロウィン前夜祭を機に多くの人々が繁華街に集まり、狭い路地で押し合いになったことで150人以上の死者を出した韓国・梨泰院の圧死事故も記憶に新しいだろう。

そうした無秩序は、都市にとって排除するべき対象とされる。厳重な警備体制が敷かれ、近隣のコンビニエンスストアでは酒類の販売が中止されるなど、街のあるべき秩序を保とうとあらゆる手法が講じられる。また、都市開発といった規模でも、建築や公共空間のデザインなどを通じて持続的な秩序の統制が試みられている。そして嘆かわしいことに、都市開発におけるデザインやアートは「排除アート」としてホームレスの居座りを防止するなど、その権力行使に加担するよう機能することもしばしばである。

コロナ禍の自粛規制のピークも過ぎ、国内外からの人足がすっかり戻りつつある渋谷では、毎日のようにハロウィンらしき様相が立ち昇っており、時代とともに街の外見は変わっても、その渦巻く混沌は不変のものであることは間違いない。

大規模な開発が続く今こそ考えたい「渋谷ハロウィン」過去と未来の交差点
撮影:小川尚寛

菅野は、こうした渋谷における都市とハロウィンの関係に着目し、現在開催中の「明日のハロウィン都市 /  Halloween Cities of To-Morrow」では独自のアプローチで渋谷の「過去と未来」を考察し、表現している。普段何気なく渋谷を訪れている人たちにとっても、ふと立ち止まって思いを巡らせたいテーマだ。

明日のハロウィン都市 キービジュアル

菅野は、これまでにもリアルとファンタジーを揺るがすような地域特有の物語を編んできた。例えば、ICCで6月24日〜開催予定の長期展示「ICC アニュアル 2023 ものごとのかたち」や、過去には東京都美術館でも展示された《未踏のツアー》という作品は、福島県西会津町をモデルに3DCGでつくられた架空の街のツアーに誘われるという内容だ。しかし、作家自身も実際にはその地に足を運んでおらず、資料のリサーチや現地住民とのビデオ通話を通じて知り得た情報だけをもとに、3DCGの街の随所に物語の要素を散りばめた。そして、そこで語られる物語とともに街を巡ることで、土地への馴染みの有無に関わらず、どこか懐かしい記憶が呼び起こされるという仕掛けだ。

これは、必ずしもその場にいなくとも、その土地で代々語り継がれてきた歴史を継承したり、未来の街を紡いだりできる装置として、新たなフィールドワークの在り方をも提示している。

《未踏のツアー》

昨年10月に開催された菅野の個展「アトピアだより」。ユートピアの訪れを想像することが難しい現代において、むしろ「場所ではない」ような「奇妙な」空間についての思考を促す。

《アトピアで盆踊り / Dancing in The Atopia Night》撮影:高橋マナミ

都市開発において排除の対象となる無秩序の象徴、または妖怪のような存在として「渋谷ハロウィン」は捉えられる。スクランブル交差点にある未来の定点カメラから「ハロウィンが伝承と化した未来の渋谷」を覗き見る、というテーマのもと、建築家の小泉立(週末スタジオ)とともに展示は構成される。

撮影:小川尚寛

渋谷ハロウィンの混沌さは、祭りが発生していく過程そのものであるともいえる。長い年月を経て、このような祭りが変化を繰り返しながらも伝承されていったとしたら、どんな街が現れるのだろうか。そのような観点を踏まえながら、菅野がリサーチと並行して想像を膨らませたストーリーが、3DCG映像を横幅6メートルもの巨大ディスプレイに投影することで表現されていく。

撮影:小川尚寛

菅野は、この展示で発表予定の新作について「従来の建物の構造を活かしながらの会場構成にこだわりました。会場内を歩き回り、窓の外の街との関係も含め、空間全体を楽しんでほしいです。やさしいカーブのベンチも特設したので、是非気軽に遊びに来て下さい」とコメントした。

撮影:小川尚寛

昨年行われた彼女の個展「アトピアだより」のタイトルにある、「場違い」「奇妙な」という意味を持つギリシャ語「アトピア」が、菅野の創作活動に通底するキーワードのひとつであることは間違いない。今回の展示においても、リアルとファンタジーの狭間にある表象との出会いが、鑑賞者の心情にどこか懐かしい気持ちと不思議な感覚を共存させるのだろう。

今回の会場は、渋谷・桜丘のアートスペース「Shibuya Art Collection Store [通称: SACS]」。SACSでは「渋谷の谷底から、世界へ。」をコンセプトに、展覧会の企画・開催などを通じて次世代のアート / アーティストとともに渋谷に渦巻く混沌さに向き合い、表現することで、世界への発信を加速していく。また、プロジェクトテーマである「Might Be Classics」には、渋谷の「これまで」と「これから」を見据え、100年後の定番や常識、あるいは伝統になりうる未来の[Classic]を形づくる火種をまくように、という想いが込められている。

撮影:小川尚寛

本展の会期中には、作品とクロスオーバーするような関連イベントも開催される。初日となる6/18(日)には、装いの研究家・あしやまひろこ氏を迎え、国内ではコスプレのイメージも強く根付いているハロウィンを、装いや変身といった人々の潜在的な欲求や意識から「ハロウィンと日本」の関係性をあぶり出すトークイベントを実施した。

また、他にもPARADISE AIR / YAUの森純平、本展の設計・施工を担当した建築家の小泉立、編集者 / ライターの大石始らをゲストに迎え「都市」「祭り」などのテーマから多角的に渋谷でのハロウィンという“現象”についての対談が展開される。イベントは全3回で、いずれもトーク終了後にDJイベントが続く予定だ。SACSとそこに訪れる人々によって表象されるハロウィンという祭りはどのような空気を醸し出すものになるのだろうか。そして、いかに未来へ紡がれていくのだろうか。渋谷に行かれる際はぜひ立ち寄って季節外れのハロウィンを目撃してみてほしい。

撮影:小川尚寛
展覧会情報

Might Be Classics #1 菅野歩美 個展「明日のハロウィン都市 / Halloween Cities of To-Morrow」

期間:2023年06月18日(日) 〜 2023年7月9日(日) 
時間:12:00-20:00(初日は14:00開場)
入場料:無料
会場:Shibuya Art Collection Store(SACS)
住所:東京都渋谷区桜丘町16-12 桜丘フロントビル 1F
会場URL:https://shibuyasacs.com/ 
主催:東急不動産株式会社
企画担当:CCC ART LAB
施工担当:小泉立(週末スタジオ)
公式Instagram:https://www.instagram.com/mightbeclassics/ 

【会期中イベント】
① 6/18 17:00-20:30「渋谷ハロウィンに見える日本」あしやまひろこ(装いの研究者)×菅野歩美
DJ:PU$$Y好好、DJ鬼殺し
② 6/23 18:30-22:00トーク「ハロウィン的な都市」森純平(PARADISE AIR / YAU)×小泉立(建築家)×菅野歩美
DJ:DJ POIPOI、Hibi Bliss
③ 6/30 18:30-20:30「祭と夜」大石始(ライター / 編集者)×菅野歩美
DJ:1-DRINK 、大石始

事前申し込みサイト:https://peatix.com/group/12362256 
トーク配信URL:https://www.youtube.com/channel/UCyUXYwAsTDt-tMQxBqwuFRA 

メインビジュアル撮影:小川尚寛

 

CREDIT

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TEXT BY NANAMI SUDO
栃木県出身、1998年生まれ。2020年早稲田大学文化構想学部卒業後、フリーランス編集者に。主にWEBサイトやイベントのコンテンツ企画・制作・広報に携わっている。2023年よりWhatever inc.でProject Managerとしても活動中。

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