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2016.09.03

RCA、セントマーチンズ…ロンドン美大卒制展で見つけた、未来・社会志向なデザイン実験

TEXT BY TOMOMI SAYUDA

2016年の今日、ロンドンの美大にはどんな「アートサイエンス」や社会に向けたデザインの実践が始まっているのだろうか? QSユニバーシティーランキングにて「世界一の美大」に輝いたイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)、そしてイギリスで最も有名な美大のひとつのセントラル・セントマーチンズの卒業制展の様子をレポートする。

美大の数の多いロンドンでは、毎年6月下旬に各大学の卒業制作展でにぎわう。この時期はイギリス国内のアート・デザイン関係者が多数訪れるため、プロフェッショナルを目指す学生たちは、未来につながる第一歩をつかむための作品を披露し、競い合う一大イベントとなっている。

ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下、RCA)の卒業生であり、現在はインタラクティブデザイナー/メディアアーティストとしてロンドンを拠点に活動する左右田智美が見つけた、各大学のトレンドや発見をお届けする。

時代の変遷に応じて、常に自らを改革し続けてきたイギリスの名門美大のひとつ、RCA。さかのぼること2年前には、デザイン・インタラクション、デザイン・プロダクツ、ファッション、ファインアートといった様々なコースのディレクターの総入れ替えがあり、大きな話題を集めた。

デザインインタラクション学科の学長であった「スペキュラティヴ・デザイン」(*1)の提唱者としても著名なアンソニー・ダンやフィオナ・レイビー、デザインプロダクト学科学長のプロダクトデザイナーのトード・ボーンチェなどの教授陣が去った後、新しい方向に移行しつつあるRCAの学生たちからは、どんな作品が出てくるのかが今回一番の気がかりだった。しかし、そんな杞憂を吹き飛ばすくらい、学生の作品のクオリティは高く保たれていた印象を受けた。

 

* 1 スペキュラティヴ・デザイン … 「課題解決」から始めるデザインではなく、「問い」を生み出し、未来のシナリオを創造することで、いまある世界に別の可能性を提示するデザインの方法論。「スキュラティブ」とは「思弁的な・空論の」といった意味をもつことば。ダン&レイビー教授に師事した日本人アーティストには、スプツニ子!、長谷川愛、牛込陽介(takram London)などがいる。

 

「空想」を現実化させる、RCA学生たちの実験
Herim Shin《Be My Mother》

【「赤ちゃんのかわいさ」を家電に宿す】

 

デザイン・プロダクツ学科の学生Hyerim Shinによる《 Be My Mother》は、「かわいさとは何か」という哲学から出発した家電シリーズ

ここでいう「かわいさ」とは、たとえばトースターにあるパン粉の受け皿を取り出そうとレバーを引くと「ハックション」とくしゃみをする音が出たり、自動掃除機のルンバやゴミ箱も丸みをおびたかわいさを表現したプロダクトデザイン作品 。

このデザインは、自分たちよりも弱い「赤ちゃんのかわいさ」という原理のリサーチに基づいたものから生まれ、この機器の使い手である人間は、彼らのお母さんのようになってほしい、というメッセージがこのタイトルに込められている。

Yiyun Chen《Sick Better》

【病気の症状を音楽やスポーツ等、クリエイティブなものに使えるかも?】


デザイン・インタラクション学科の作品で、最も目を引いたのは、Yiyun Chenの《Sick Better》 という作品だ。これは、お年寄りや病気を持った人たちの病症を普遍的なもの、またはそれ以上にポジティブなものにも変えられないかという未来の状況を提案するプロジェクト。

病人の男性の「咳」をリズムとして録音すれば、そのリズムを音楽として楽しめるのではないか? 病による「震え」を音楽制作に適応できないか? 吐いた息を使ってスポーツを楽しめないか?といったアイデアを、シュールなイラストレーションで提案している。

Kay Dale & Lility Hasbeck《Odds&Ends》

【人生の最期を考えるゲーム型プラットフォーム】

 

サービスデザイン学科では、Kay DaleとLility Hasbeckによる《Odds & Ends》という「死」にまつわるプロジェクトが印象に残った。これは人生の最期を迎えるときの計画、そして死に関することを話すきっかけを作るオンラインサービスの提案だ。


会場には、「死」について話すきっかけを作るためのアイデアとして、まるで「人生ゲーム」のボードゲームのようなプラットフォームの構想が展示されていた。
彼らの所属するサービスデザイン学科では、実用かつ現実的なトピックから出発することがほとんどだが、死というタブー視されがちなトピックを選び、観客にも興味を引くような仕組みを考える姿勢が共感できた。

【女性の性感帯は、性器のみにあらず】

イノベーション・デザインエンジニアリング学科のWang Tzengは、女性の性感帯にまつわるプロダクトを提案した。

これは女性が性器以外でも「敏感に感じる場所」にも新しいセンセーションを呼び起こそうと試みたものだ。腕や胸の上部、首筋など特に感覚が強い部分にデバイスを取り付け、それに付随したセンサーが一定量を感知すると、そのデバイス自体が振動し、これまで感じたことのないセンセーションが与えられるという。 「セックスにまつわる話題を、プライベートな話題でなくもっと一般的な話題として議論するきっかけを作りたかった」とデザイナーのTzeng氏。

Adam Waldron – (Election) of Emoji for release in 2017

【これからの選挙は絵文字で投票?】

ビジュアル・コミュニケーション学科のAdam Waldronは、これから2017年に導入されるという「絵文字の投票所」を作品化させていた。

絵文字というデジタルなトピックをあえてフィジカルな投票所にたとえて作ったコンセプトが単純明快で 目を引いた。

これらのほかにも、建築学科のStiliyana Minkovskaによる《Parturition》など、病院外での出産をテーマに、「理想郷的な出産場所」を提案した建築プランに興味が引かれた。
RCA やBartlett、AA などをはじめとするイギリスのトップ建築系大学の作品は、こうしたユートピア的な空間を ビジュアライズするという、自由度が高く実験的な作品が多い。

 

未来のテキスタイルは、未来のマテリアルに。セントマーチンズのディグリーショウ

セントマーチンズで目を引いたのは、なんといってもマテリアル・フューチャー学科の展示だった。RCAのデザイン・インタラクション学科出身で、ポップなスペキュラティブ・デザイン/アート作品を得意としてきたNelly Ben Hayounが のチューターの一人として教鞭を取っているせいか、彼女の作品の特徴でもある、コンセプチュアルかつ強い視覚表現で作品のストーリーを伝えることがよくデザインされた、見応えのある展示だった。

元々ここはテキスタイル・フューチャーと呼ばれていた学科だったが、いまはテキスタイルという枠ではくくることのできない作品が増え始め、マテリアル・フューチャーという学科名に近年変更されたんだとか。この学科の中でも特に印象的だった三点を紹介したいと思う。

Anne Vaandrager

【自宅出産キットには、掃除機を応用】

Anne Vaandragerは、「もし公共の病院が私営化されたら、出産のプロセスはどう変化するのか?」をテーマとしたプロジェクトを行なっている。

2016年現在、イギリスは国民保険サービス(NHS)による社会保障によって、医療費が無料である。しかし、もしイギリスの病院がすべて私営化してしまったら、病院で出産できる人数も限られるかもしれない。そうしたとき、誰でも自宅で出産できるキットを提案した。この解説ビデオの中では、キットに内包されたアタッチメントを自宅の掃除機の先に取り付け、掃除機の吸引力で女性の膣から胎児を取り出すという大胆なアイデアが発表されている。

Valentina Coraglia

こちらは、Valentina Coragliaによる社会と文化的な問題を助長する刺激的なツールとしてデザインを応用するプロジェクト。自然災害発生後、そこらじゅうに現れる瓦礫のくずをパスタの型でかためて、後の文化的な遺産にすることはできれないか、という問いを表現をしている。

Maritta Nemsadze

Maritta Nemsadzeは、スマートフォンに支配された現代社会における、新たなファッションを提案。普段スマートフォンを使っているときにありがちなポーズを、服というかたちでビジュアライズすることで、わたしたちがつい毎日同じ姿勢でい続けてしまうことを警告している。

石井挙之《Street Grammer》

【ホームレスの存在や彼らの物語を図書館にインスタレーション作品。】

最後に、ナラティブ・エンバイロメント学科の日本人学生・石井挙之の《Street Grammer》という作品を紹介する。

1年にわたって西ロンドンに住むホームレスたちと交流を深めるため、自らホームレス暮らしをすることで彼らの生活を体験し、その経験から作り上げたインスタレーション作品。ホームレスの取材を進めるうちに、彼らが地元の図書館に身を寄せていることが多いと知った石井は、図書館という場所がホームレスの中のコミュニティ空間になっていることを発見した。

そこで、実際に取材を行っていた 「図書館」に、取材で出会ったホームレスそれぞれの物語を読めるようなデジタルの仕掛けをインスタレーションとして設置した。ロンドンという経済大都市の中にも、ホームレスのコミュニティが確かに存在し、彼ら一人ひとりのストーリーがある、という事実に光を照らし社会事情の実態を提示した作品。

図書館の中の本棚に、 取材したホームレスの人たち一人一人のインタビュー の入ったカードを図書コードと同じように本棚に分類して展示した、 インスタレーション作品。

RCAとセントマーチンズのデザイン・アート系の展示を含む数百以上の作品を見た中で、今年最も印象に残ったのは以上の作品だった。

ロンドンの美大の卒業制作は、昔からジャンルを超えた作品が多かったが、近年特にこの傾向が強い。逆に言えば、どれも似たような作品も多く現れがちだが、こういった文化の平坦化が進めば進むほど、自分の興味から出発し、最後まで好奇心を持ち続けて完成させた作品ほど、その個性を楽しめるものが強かった。

いまイギリスは突然のEU離脱決定で非常に不安定な状況下にあるが、世界的にもハイレベルの教育機関があり、クリエイティブの市場があり、世界中のタレントを虜にする土地であることに変わりはない。これからもこの勢いを絶やさず、世界のクリエイティブのハブであり続けることを願うばかりだ。

 

 

CREDIT

Tomomi sayuda square s
TEXT BY TOMOMI SAYUDA
武蔵野美術大学中退。Royal College of Art (MA) Design Products修了。テレビ朝日にてセットデザインアシスタントとして勤務後、2005年渡英。卒業後ロンドンでOnedotzero, Fjordでデザイナーとして勤務した後に、現在ドバイのGSM projectにて、インタラクティブデザインリードとして文化的コンテクストとテクノロジーを用いたミュージアムデザインの案件に携わる。2009年Creative Reviewベスト6卒業生選出。2014年The Mask of SoulがBBC等で紹介され話題に。会社勤めと同時に自身の作品をFrieze Art Fair, ICFF NY等で発表。様々なプロジェクトにものづくり視点からの、遊び心のあるデザインを提案している。 http://www.tomomisayuda.com/

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