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2017.06.26

「未来」は科学がつくりだした信仰にすぎない――押井守がホロス2050未来会議で語ったこと

TEXT BY ARINA TSUKADA

これから、どんな未来がやってくるのか? 世界中のそこかしこで語られるこの問いに、米国「WIRED」初代編集長として知られるケヴィン・ケリーは、自著『インターネットの次に来るもの』の中で未来を読み説く12の法則を提唱した。この法則を基軸に、未来社会を予測し、創造していく連続公開会議「ホロス2050」が始動した。第1章のゲスト、「WIRED」日本版の若林恵編集長、そして映画監督・押井守氏が語った「未来」をレポートする。

未来を予測してきた人々

今から30年後を想像してみよう。西暦2047年、あなたの前にはどんなデバイスがあり、どんな家で、何を生業としているのだろうか。

2045年と噂されたシンギュラリティ到来の預言はとうに過ぎ、「AIの進化」なんて言葉が死語になるほど、AIの技術なんてそこらじゅうで使われ、何らかの社会的判断が人工の知性によるものかどうかをいまさら問うこともない。テクノロジーの存在をいちいち気にすることもなく、ほとんど自然環境と同様のものとして捉えられていることだろう(なんとも雑な提言だが)。

こうしたテクノロジーに紐づく「未来予想」は、アメリカではスチュアート・ブラントたちが1968年に『Whole Earth Catalogue』を創刊し、日本では1970年に大阪万博が開催された時代あたりから盛んだったことだ。テクノロジーは人間を変える。社会を変える。それは最早疑いようがない事実だ。

しかし、当時と大きく異なることは、1994年のインターネット民主化によって、あらゆるシーンにパラダイムシフトが起きたことだろう(ちなみに、『Whole Earth Catalogue』に憧れたケヴィン・ケリーたちが雑誌「WIRED」を創刊したのは1993年のことである)。

その翌年の1995年、世界に衝撃を与えるSFアニメ映画が公開される。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』だ。士郎正宗原作のこの作品は、押井守監督が映像化したことで比類のない世界観が打ち出され、世界的な注目を集めたことは今更語る必要もないだろう。そしてまた、「攻殻」に影響を受けたと語る科学者や起業家は今でも枚挙に暇がなく、わたしたちの未来イメージを大きく左右し続けている。それは、電脳やサイボーグをいち早く描くというその卓越した先見性と、未来の人間の抱える苦悩を予見した、究極の「問い」によるものだろう。機械と生命の境界線はどこにあるのか? そこに、ゴーストは宿るのか?

それから約20年の歳月を経て、「攻殻」のハリウッド版『Ghost in the Shell』が公開された2017年の今日、押井守氏と、「WIRED」日本版編集長の若林恵氏をゲストに迎えた公開会議「ホロス2050」が開催された。

未来が良くなるなんて、誰が決めた?

「ホロス2050未来会議」の主催者のひとりであり、ケヴィン・ケリーの名著『テクニウム』や『インターネットの次に来るもの』の翻訳者でもある服部桂氏は、会議のはじめに、ケリーが唱えた「HOLOS(ホロス)」の概念を説明してくれた。

「HOLOS」とは、地球全体が、全人類の集合的知能と全マシンの集合的行動が結びついたもの、つまりすべてのコンピュータと人間がつながっていくことで、より豊かで、高次な未来社会を築こうとする思想だという。

「未来」を予測することは誰にもできないし、大抵の「未来予測」は外れることがほとんどだが、これからの私たちの生活、生き方がどう変化していくかを考えるための試みが、この12ヶ月連続で開催される「ホロス2050会議」なのだと服部氏は語った。

その第1章で招かれた押井守氏のメッセージは、社会を取り巻くポジティブな「未来信仰」に、少しばかり釘を刺すものだった。

「ぼくたちは、より高度に、より複雑に、より高次な存在として進化している。それはきっと、正しいのでしょう。また人間だけが、自分が置かれた世界について考える力、未来を考える力をもっているとされています。しかしその能力は、果たして人間を幸せにするんでしょうか? ぼくには、より高度で複雑になっていくことが、果たして人間を幸せにするのかわからないんです。

ぼくも若い頃は、誰よりも頭が良くなりたいと考えていました。それが無理だと諦めてからは、誰よりも素晴らしくて、100年も200年も残るような映画を作ろうと躍起になりました。

いまですか? まったく考えないですね(笑)。人を感動させようとか、ものをつくる時にそんなことは考えません。それよりも、映画と自分の間にどれだけ幸せな関係をつくれるかの方が重要なんです。

そもそも、『未来に向かって良くなっていく』なんて考えを人間が持つようになったのは、割と最近のこと。つい数百年前まで、たとえばキリスト教社会世界では、人間は時間が経てば経つほど悪に向かっていくと考えられていました。

いつから、未来信仰が生まれたんでしょう。ダーウィンの進化論あたり? または、科学技術が人間の社会を豊かにし、未来を良くするという言説を生んだとすれば、『未来』は科学がつくりだした信仰にすぎないとも言えるでしょう。

ジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんは、よくこんなことを言います。『20世紀は、若者の力で世界を変えることができるという、革命を信じていた時代だった。その結果、ナチスの強制収容所と虐殺が生まれた。ポルポト、レーニン、毛沢東、ヒトラー。彼らはみんな、輝かしい未来を信じた人々だった。そして、彼らが100年かけて行った実験は、何千万人もの犠牲者を出した最低の結果で終わった。目先の未来の問題を考えたところで、目先の問題は目先でしか解決できないんだ』と。

鈴木さんの言う通り、彼らも未来信者のひとりだったとすれば、『未来は明るい』なんて簡単に言えないことがわかるでしょう。未来は、人間に宿った妄想でしかないんです。そもそも、この世には現在しかありませんから。

ぼくにとって興味があるのは、何が幸福をもたらすのかということ、これに尽きるといえます」

ネットも未来も広大だ。さあ、あなたはどこへ行く?

押井氏の痛烈な未来批判に応じて、最後にディスカッションが行われた。現在、国家のかたちが再定義されゆく時代であることを説いた、ホロス2050の主催者でもある高木利弘氏。トランプ大統領が誕生した後、急激に『1984』が売上を伸ばし始めたことは、新たな情報統制時代のシグナルを感じ取った人々の行動ではないかと語った。


過去30年、そして未来30年の人類の歴史を「◯」と「△」でたとえた高木氏のスライド。人類が有史以来築いてきたピラミッド型(△)の権力構造に対し、インターネットの登場によって水平分散的なコミュニケーション(◯)が可能になった。現在は、この◯と△が拮抗し、既存の権力がグラグラと揺れている。この先30年は、◯がより拡大していくボトムアップ型の社会が生まれるという予測が成り立つが、その一方で、現在ピラミッドの頂点にいる専門家/エリートたちによって、さらに強固な「△」が形成されるディストピアがやってくるのかもしれないと説いた。

続けて若林氏は今年3月に開催されたアメリカ・テキサスのSXSWを振り返り、今年のカンファレンステーマが「AIとファシズム」「IS、ネオナチといった狂信者とSNSの関係」だったことを指摘した。テクノロジーは決して人間を幸せにするだけではないことが、浮き彫りになった時代とも言える、と。

対して押井氏はこう切り返す。「スティーブ・ジョブスは消費によって社会を変えました。たしかに社会は変わったけれど、革命の根幹であるインターネットは、果たして消費の一種だったのだろうかという疑問もわきます。

『技術』と『商品化された技術』はまったくの別物です。その意味で、『技術本来の思想』をとくに日本人は未だに理解していないと思うんです。そもそも、『科学』と『技術』も別物であり、科学はより広い思想をもった新しい宗教であり、新たな世界認識の方法だったはずです。インターネットが生まれたことのもっと深い意味をもう一度考えてみたいとぼくは思いますね」

服部氏は最後にこう締めくくった。「未来を選べる。それがぼくたちの自由であり、生きることと同義だと思います。しかしいまのアメリカなどを見ていると、まったく予想もしなかった未来と遭遇してしまう危険がそこかしこに渦巻いています。そのために、テクノロジーが変える未来社会を予測しながら、さまざまな選択肢を導き出していくことが、この会議の目的なんです」

わたしたちの前に差し出されたさまざまな選択肢。それを考え、選ぶのは自分自身だ。

Holos 2050 | 未来・予測・創造・プロジェクト ​
【第3回 開催情報】
2017年7月18日(火)19:30~21:00(受付開始 19:15)​ / 21:00〜21:30 懇親会
ゲスト:古田大輔(『BuzzFeed』編集長)鈴木みそ(漫画家)
場所: 御茶ノ水 デジタルハリウッド大学駿河台キャンパス 3F(アクセス)
料金: 一般/前売り 4,000円(Peatix) 当日 4,500円(受付)
学生/前売り 1,000円(Peatix) 当日 1,500円(受付)
個人会員/年会費 50,000円(Peatix)
法人会員/年会費 108.000円(消費税込み) 2名まで(Peatixまたは申込書)​
http://holos2050.jp/

トップ画像:©Thomas Hawk (CC BY-NC 2.0)​

 

CREDIT

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TEXT BY ARINA TSUKADA
「Bound Baw」編集長。編集者、キュレーター。「領域を横断する」をテーマに幅広く活動する。サウンドアーティストevalaのサウンドプロジェクト「See by your ears」マネージャー。2010年、サイエンスと異分野をつなぐ「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。12年より、東京エレクトロン「solaé art gallery project」のアートキュレーター。編著に『マリー・アントワネットの嘘』(講談社)『メディア芸術アーカイブス』『インタラクション・デザイン』(BNN新社)、ほか「WIRED」など執筆歴多数。 http://arinatsukada.tumblr.com/

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「Bound Baw」は大阪芸術大学アートサイエンス学科がプロデュースする新しいWebマガジンです。
世界中のアートサイエンスの情報をアーカイブしながら、異分野間の知見とビジョンを共有することをテーマに2016年7月に運営を開始しました。ここから、未来を拡張していくための様々な問いや可能性を発掘していきます。
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そして、未知の航海に乗り出す次世代クリエイターのためのスコープとして、アートやデザインなどの表現・文化の視点と、サイエンスやテクノロジーの視点を融合するメディア「バウンド・バウ」が誕生。境界を軽やかに飛び越えた、冒険的でクリエイティブな旅へと誘います。

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