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2020.04.08

アートサイエンス学科の挑戦。地上52階のパブリックペースを彩る劇場型インスタレーション

TEXT BY MANAMI FUKUDA,PHOTO BY YOSHIKAZU INOUE

アートサイエンス学科の挑戦。地上52階のパブリックペースを彩る劇場型インスタレーション

去る2月5日、地上約300mの地点にあるあべのハルカス展望台「ハルカス300」。凍てつく冬の寒さが残る中、オープンエアの58階天空庭園に映し出されたのは、ファンタジーあふれる雪と氷の幻想世界だ。パブリックスペースを大々的に用いた夜景体験インスタレーション、制作を手がけたアートサイエンス学科の6名の学生たちの声を集めた。

2014年度よりスタートした、動員総数250万に上る人気の夜景体験イベント「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED –Crystal World–」に新作が公開された。大阪芸術大学アートサイエンス学科と株式会社ネイキッドが取り組む「0×0=∞(ムゲンダイ)プロジェクト」によって制作された、本編とは異なるオリジナルストーリーだ。本プロジェクトは、プロフェッショナルと学生が共同で作品の企画・演出・制作を行い、ゼロからクリエイティブを生み出す試みで、過去にも大阪市中央公会堂のプロジェクションマッピングなどを手掛けている。

公共空間にストーリーを紡ぎ出す

0×0=∞(ムゲンダイ)プロジェクトのオリジナル作品は、実は記者会見当日(つまり公開日前日)、午前4時にようやく完成したという。これまでの同プロジェクトでは、学生はネイキッドの制作する作品のアイデア出しの部分のみに関わっていたのが、今回はアイデア出しから映像制作まですべて学生たちの手で行っている。彼らが作品づくりにおいて、最も重視したのが「ストーリー」だ。ただテーマに沿った美しい映像をつなぎ合わせるのではなく、物語性を持たせることで、より観客を引き込む劇場型の世界を作り出す。それはネイキッドが手掛けるプロジェクションマッピング制作のセオリーとも言える。

会場は大阪の夜景が見渡せるあべのハルカス58階の天空庭園

アートサイエンス学科講師でもあるネイキッドの川坂翔氏のもと、6名の学生でアイデアをブラッシュアップ。プロットを練りながら何度も絵コンテを描き、ようやく構成が完成した。そこからは5名が映像制作を担当、1名が全体の音楽担当でそれぞれの作業を進めていく。各自がビデオ・コンテを作り、全員で確認しながら修正を繰り返す。こうして2019年内を締切りに設定して作業を進めていくも、ファーストサンプルは映像の滑らかさがなく、完成度が低い。そこでフレーム数を増やしてよりスムーズな仕上がりを目指していった。こうして公開ギリギリまで作業を行い、全力を出し切った6名の学生たちは、安堵の表情を浮かべ達成感に満たされていた。

制作に携わった6名。(左から)榊田 祐也、濵本 孝亮、桑名 未悠、髙橋 知子、中原 祥吾、櫛引 豊

「一番大変だったことは?」と聞くと、全員が口を揃えて言う。「絶対やり切らなければならない、間に合わせない訳にはいかないというプレッシャー」だったと。「お客様が入場料を払って見に来てくれるものなので、半端な気持ちでは制作できない」という責任感に突き動かされていたそうだ。ただ、この緊張感があったからこそ誰一人妥協することなく、お互いのモチベーションを高め合いながら、納得いく完成品へと仕上げることができたのは言うまでもない。

川坂講師は語る。「今回は彼らを見守ることに徹しましたが、6名とも3年生で、この3年間の成長をしっかり感じ取ることができました。学生のうちにビジネスとしての制作を経験できることはとても貴重です。チームメンバーだけでなく、数多くの関係者と触れる中でたくさんの気づきがあったようです」。

改めて約10分の作品を鑑賞する。美しいクジラが突如出現し、潮を噴きながらすぐ足もとにまで近づいてくる。潮を噴きながら優雅に泳ぎ、それはいつしか流星群となる。そして未知なる世界への大扉が開き、広大な空から海へ、目まぐるしく景色は変わる。ラストはオーロラが現れ、神秘的なオーロラ姫が舞い降りたところで、夢の世界の扉が閉じていく。16mの高さにも及ぶ通称「ツインタワー」と床面を一体化させたインタラクティブな作品は、まるでナルニア王国やアリス・イン・ワンダーランドを思わせる幻想的な世界へと観る者を誘う。それらの映画の主人公のように、うっかりともう一つの世界に入り込んでしまったような…そんな感覚を楽しめる。

このプロジェクトを通して、将来プロの道へ進むことを決意しているメンバーも多かった。彼らが今後、社会に出て、さらにエンターテイメント性あふれる作品や人々に感動を与えるような作品を生み出していくことに期待したい。

 

CREDIT

Manami
TEXT BY MANAMI FUKUDA
グラフィックデザイン事務所KAMIKILE所属。出版社勤務後、フリーランスのライターに転身。流通業から飲食業、製造業、医療業、サービス業あらゆる業界の企業から若手クリエイターまで幅広く、新規ブランドの立ち上げやコンセプトワーク、PR活動を支える仕事を手掛けている。
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PHOTO BY YOSHIKAZU INOUE
1976年生まれ。1997年頃から関西のアーティストやバンドのライブ写真を撮り始める。 その後ライブ撮影を続けながら雑誌、メディア、広告媒体にも活動を広げ2010年から劇団維新派のオフィシャルカメラマンとなりそれ以降、数々の舞台撮影を行う。2015年に株式会社井上写真事務所を設立し活動の幅を広げながら継続してライブ、舞台に拘った撮影を続けている。 http://www.photoinoue.com/

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