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2022.02.15

音とアートの社会実装。インビジ代表・松尾謙二郎、建築家・妹島和世と田口音響コラボによるスピーカーを発表

TEXT BY YURIKO ISHII

音とアートの社会実装。インビジ代表・松尾謙二郎、建築家・妹島和世と田口音響コラボによるスピーカーを発表

インビジ及びcotonの代表を務め、サウンドアーティスト/テクニカルディレクターとして活躍するアートサイエンス学科客員教授の松尾謙二郎氏が、全4回にわたるアートサイエンス学科の特別授業を行った。授業の最終日には建築家・妹島和世氏とコラボレーションで制作したスピーカーを披露。この新スピーカーに合わせて学生たちがデザインしたサウンドスケープが発表されるなど、新たなサウンドプロジェクトの実態に迫る。

 

松尾健二郎

アートサイエンス学科 客員教授

1966年生まれ、福岡県出身のサウンドデザイナー、作曲家、メディアアーティストである。武蔵野音楽大学卒業。株式会社インビジ、株式会社coton代表取締役。新しい音の価値と経験(サウンド・エクスペリエンス)を創造することをミッションに、サウンドデザイン、楽曲・映像制作、アートインスタレーション、インタラクティブデザインなどを行う。

「音」を探求していく多様なクリエイターが集結

松尾謙二郎(以下、松尾):今回、大阪芸術大学のアートサイエンス学科棟ホールに設置するオリジナルスピーカーを制作するというプロジェクトを手がけることになりました。今回の特別授業は、学生たちが音響プロダクトを開発し、新しい音の価値を生み出す体験をしてもらうことを目的としています。

ひとつのプロジェクトに取り組むためには、多くの人たちの協力が必要です。プロフェッショナルの皆さんがどのようにスピーカーと向き合い、どのように制作や発注を進めていけば良いのかなどを体感できる授業にしたいと考え、毎回ゲストをお招きしています。

第1回は立体音響をはじめさまざまな音響技術を開発するCearの村山好孝さん、第2回は作曲家・メディアアーティストであるcotonの宮本貴史さん、第3回はAIと創造性をテーマに活動するアーティスト・研究者のQosmo徳井直生さん、第4回はアーティスト・エンジニアのPonoor Experiments堀尾寛太さんをゲストに迎えました。各界で活躍する現役のサウンドクリエーターたちの話を交え、「芸術家の生き方と音技術の応用」や「音と構造」などにまつわる講義も行いました。

第4回ゲストで講義をしたPonoor Experiments堀尾寛太
田口音響とSANAA、異色のコラボレーションから生まれたスピーカー

松尾:今回、新たに生まれたスピーカーの外装は、アートサイエンス学科棟の設計を手がけた建築家・妹島和世さんと西沢立衛さんによる建築ユニットSANAAにデザインして頂きました。

肝心のスピーカー内部は、日本でも有数のメーカーである田口音響研究所によるものです。代表の田口和典さんがこれまで手がけてこられたスピーカーは国内外でも評価が高く、音響映像機器や楽器の企画、研究開発、製造、販売をはじめ、音響建築の計画や設計、施工も行ってきました。大変残念ながら、田口さんは2021年7月に亡くなられ、今回のアートサイエンス学科向けのプロジェクトのスピーカーが、生前最後に手がけたものになります。今回は、ある意味で伝説に残るプロダクトを制作することになったプロジェクトとも言えますね。

SANAAがデザイン、田口音響が内部を手がけたカラフルな球状スピーカー
「聞く音楽」から「感じるための音楽」へ

松尾:アートサイエンス学科では、テクニックを学ぶ部分もありますが、どちらかというと今回は企画力を育てるほうがメインと考えたため、スピーカーの細かいディテールに関しては、それぞれの学科の専門の先生にお任せしました。今回の授業では、学生たちが表現したい音をどのようにかたちにしていくのかに焦点を当て、私が代表を務めるcotonが開発した音楽生成システム「soundtope-M」を学生たちに使ってもらい、5グループに分かれて音のコンセプトを考え、それぞれサウンドスケープをデザインしていきました。

松尾謙二郎

soundtopeの生成エンジンには、「ブラウン運動」というモデルが使用されています。ブラウン運動とは自然界によく見られる現象のひとつで、複雑性と規則性が混ざった運動のこと。soundtopeは、このモデルを出発点とし、環境データや研究データを最新のAI技術と組み合わせ、目的に合った、有機的なゆらぎを持った音楽を生成することができます。その結果、さまざまな音楽のスタイルや楽器の音色、音素材をデザインすることが可能となります。

「聞く音楽」というより「感じるための音楽」もしくは「自分の周りに快適性をもたらすための音」と言えるでしょうか。人々がリラックスして音に包まれるような体験ができる環境音を生成する点が特徴です。

Soundtope自体は、明確な完成目標があって生まれたというより、試行錯誤を重ねていくうちに生まれたシステムです。つまり、まだ色々な可能性を秘めているので、みんなで活用方法を考えていけると面白いと思うんですよね。

アイデアというのは、ゼロから考えていくのはとても難しいことですが、多少の条件はあっても可能性のあるものをみんなで共有し、その中で何をするのかを検討する方が考えやすいと思います。今回もまだ未知数のスピーカーとサウンドシステムを用いて、みんなでアイデアを出し合うトライアルをしている感じですね。

音とアートの社会実装をめざして

松尾:授業の最終日には、アートサイエンス学科棟ホールに設置したオリジナルスピーカーから、学生が制作した作品(音空間)を発表します。第3回目の授業で各グループがルールや音の方向性を決定し、それぞれ「音を鳴らすルールの制作」と「音のサンプルの検索・共有」のタスクを与えました。たとえば「〇〇モジュールの△△の値が××だった時に音源『□□』を再生する」といったようなマッピングルールを考えもらうことで、5つの作品を仕上げてもらいました。soundtope-Mで生成した音を事前にYouTubeで学生に共有していたのですが、実際にスピーカーを通して聞くと迫力があり、印象が違ったという感想が多くありましたね。

授業を通して学生たちに体感することの重要性や、未知のことに対してどのように知識を得ていくのか、その情報収集やアクセスの仕方、自分ができることは何か、知識を持っている人とつながることの大切さなどを学んで頂けたのであれば幸いです。

今回の授業で取り組まれたスピーカー制作のプロジェクトは「音とアートの社会実装」がテーマです。今後もsoundtopeの機能や、このスピーカーを使って映像と連動させるなどのインスタレーションを企画しています。

 

CREDIT

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TEXT BY YURIKO ISHII
芸術系大学を卒業後、グラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナーとして従事し編集者に。海外留学を経てオーストラリアに約8年滞在。現地の日系メディアで副編集長を務め、2019年日本に帰国。現在、大阪を拠点にフリーランスの編集・ライターとして活動中。

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