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2020.03.19
世界のクリエイティブ・シーンを次世代へ伝える。Super Flying Tokyo 2019 レポート
TEXT BY AYUMI YAGI
世界中のトップクリエイターが東京に集結するカンファレンスイベント「Super Flying Tokyo」が、2019年8月23日〜25日に日本科学未来館にて約5年ぶりに開催された。今回のレポートでは24日の13時から6時間超で行われたトークセッション、「インターナショナルアーティスト・プレゼンテーション&トーク」のセクションの模様をダイジェストでお届けする。長時間ずっとインプットの嵐だったこの時間をさらうには、かなり駆け足になってしまうが、この空間に溢れていたクリエイティブの可能性や躍動感を少しでも追体験してほしい。
アーティストのプレゼンに入る前に、Super Flying Tokyo 2019のステートメントにある一文を紹介したい。
クリエイティブ・オリエンテッドとコンテンツ・マネージメントが、高いレベルで融合することで、次世代の可能性が見えて来るという予想を抱きますが、そのクリエーションのための環境やインフラストラクチャーは、過不足なく満たされているのでしょうか。あるいは、その成果認識や次世代人材への教育波及効果が、社会の公共性に対して十分に浸透しているでしょうか。
あらゆる領域で、世界的な変動や移行を迎えている時代において、現時点の課題を発見し、解決のための新たな組織編成、コラボレーション、クロスオーバーのスタイルや方法など、多様な地域からの様々な取り組みを、モデルケースとして紹介していきます。新しいクリエイティブから、さらに大きな多様性の実現に向けて、今まで以上に共同創出のための環境を開放し、発信していく必要を、現場のクリエイターたちは感じています。
東京・お台場の日本科学未来館に、第一線で活躍するクリエイターが世界中から集まった日。ビジュアルアート、サウンドアート、インスタレーションなど、国内外で注目の活動を行うアーティストたちがいま抱えている思いや狙いとは。
現実をまるごと変容させる:「目(め)」荒神明香・南川憲二(日本)
トップバッターは日本から、現代芸術活動チーム「目(め)」が登壇。いま目の前で見えている景色を一転し、どちらが現実で、どちらが幻想かわからなくなるような不思議な感覚を呼び起こす、現象を知覚化する作品を多く制作している。目の作品は、一体全体どうやって作られているのか検討がつかないものも多い。今回は、その謎に触れるかたちで作品紹介を行なってくれた。
さいたまトリエンナーレ2016で話題となった《Elemental Detection》。何もなかった空間に架空の湖のような場所をまるまる作ってしまうという大型インスタレーションで、幻想的で摩訶不思議な空間に度肝を抜かれた人も多かった。この作品は継ぎ目のない鏡面の素材開発から行なっており、納得できる素材に行き着くまでに1年半を費やしている。
続いては、荒神さんが中学生の時に見た夢がもとになった作品《おじさんの顔が空に浮かぶ日》。これは、「空に人の顔が浮かんでいる。その光景を電車の車窓から見ていた」という、一見奇想天外な夢の景色を現実世界に実現させてしまった前代未聞のプロジェクトだ。
宇都宮美術館の協力のもと、地元の人々の「顔」を収集し、投票と議論の結果、「最もおじさんらしい顔」の巨大な風船型オブジェをつくりあげた。突如として宇都宮の空に浮かんだ顔の大きさはなんと15m。写真を65万粒のドットに解析し、人の手でひとつひとつ判子を押して転写するという、マンパワー作業で作り上げた。目の作品は、地道で実直な作業の積み重ねで私たちの前に実態として現れているのだ。
この顔を浮かべるプロジェクトは続きがあり、2020年の夏、オリンピック関連企画として、東京の空で《まさゆめ》と題して行われる。顔の公募には世界中から1300以上の応募があり、まさに顔の選別を行なっている最中だという(2019年夏当時)。
また、千葉市美術館で初の大規模個展「目【mé】 非常にはっきりと わからない」もまた、最終日には長蛇の列をつくるなど大きな話題を呼んだ。自分の目に映るものは現実なのか、虚構なのか? 目の生み出す「もうひとつの現実」は見るものの知覚と思考を育んでくれる。
巨大なロボットアームのインスタレーション:VTProDesign(アメリカ)
続いてはアメリカのクリエイティブスタジオのVTProDesignによるプレゼンへ。40人ほどのスタッフを有し、ライブイベントやインスタレーションなどを中心に活動している。
2017年に発表したインスタレーション《TELESTRON》は、制御されたロボットアームと光を組み合わせており、2台が時に共鳴するようにソリッドな空間を作り上げている。
この動画で見て取れるように、《TELESTRON》で使用した巨大ロボットアーム「Kuka」は重さ2500ポンドもあり、開発中はLEDスクリーンにぶつかるなどのアクシデントも。テクノロジーもしくは人、どちらでどのように安全性を担保するのかはハードを含めての開発時にいつも気を使っている点だという。
AIの導く"認識"とは?:カイル・マクドナルド(アメリカ)
息つく暇もなく、次のプレゼンへとバトンタッチ。同じくアメリカより、メディアアーティスト&リサーチャーのカイル・マクドナルドが登壇。ライゾマティクスとの親交も深く、共同で作品制作を行なったこともある。
Rhizomatiks Research、MIKIKO率いるELEVENPLAY、メディアアーティストのカイル・マクドナルドのコラボによって実現したパフォーマンス『discrete figures』
「機械学習は楽しいと知ってほしい」と語るカイルは、PCのインカメラで表情を読み取り、学習データと付き合わせながら近しい表情の絵文字を表示するシステムを実演。お茶目なカイルらしいデモだったが、同時に犯罪者を画像システムが探す事例や、美しい顔をAIが判断する事例などを紹介してくれた。
これらの技術は私たちの実生活にどう落とし込まれていくべきなのかを、参加者が考えるきっかけになったに違いない。
日常生活に潜むネットの罠:ローレン・マッカーシー(アメリカ)
続いての登壇はアーティスト、プログラマーのローレン・マッカーシーは、プログラミング言語であるp5.jsの作成者でもある。笑顔でいないと釘が頭部を刺してくる帽子《Happiness Hat》に見られるように、いたるところにネットワークが張り巡らされた私たちの生活に対する痛烈なツッコミのような、社会的インスタレーション作品を多数発表している。
《Social Turkers》
出会い系サービスで新しく出会った人とのデートの様子をAmazonのWebサービス、Amazon Mechanical Turkを使用したシステムに電話で送り、何をすべきか、相手に何を言うべきかの指示がテキストメッセージで送られてくるというプロジェクト。
人間スマートホーム《LAUREN》
スマートデバイスを通じて、人の目によって24時間ずっと家の中のあらゆる側面の監視・制御を数日間続けるというパフォーマンス。デバイスの先にいるのは、人間なのか、機械なのか?
監視・自動化が進み、私たちの生活は一見便利になったと言えるが、果たしてそれは本当に安全なのか?私たちが当たり前としていることは、必要なものなのか? これは遠い話ではなく、普段の私たちの生活と地続きの話だということを痛感するプロジェクトの数々だった。
バーチャルLIVEの可能性:イアン・サイモン / Strangeloop Studios(アメリカ)
ロサンゼルスに拠点を構えるムービースタジオ、Strangeloop Studiosの事例を紹介してくれるのは、オーディオ - ビジュアルデザイナーのイアン・サイモン。Strangeloop Studiosは音楽への造詣が深く、フライング・ロータスやラッパーのケンドリック・ラマーのMVや舞台演出を手がけている。
今回のプレゼンの肝となったのは、イアンがアドバイザーを務めているサービス「WaveXR」。オンラインでLIVEを楽しめる、バーチャルコンサートプラットフォームで、公式サイト内にはライブのスケジュールも掲載されている。
コラボ展開も積極的で、アメリカのヴァイオリニスト、リンジー・スターリングとコラボも。日本では、VTuberのキズナアイとも行なった。
中国のメディアアート事情とは?:Pink;Money(香港・中国)
香港と中国本土で活動するPink;Moneyは、活動3年目を迎えているメディアアートチーム。彼らは少し趣向を変えて、自分たちの活動軸ではなく「中国におけるメディアアートの現状」についてプレゼンを行なってくれた。
「中国でも日本のメディアアートは絶大な人気を得ています。特によく名前が挙がるのが、真鍋大度、池田亮司、黒川良一。彼らに憧れている中国人アーティストはとても多い。また、チームラボの作品も非常に人気で、中国ではチームラボという固有名詞がそのまま通じるほど。北京にある現代アートのメッカ『北京798芸術区』のPACE GALLERYで2017年に行われたチームラボの展覧会の人気は凄まじいものがありました」
また、チェックしておくべき中国の有名アーティスト、イベントは以下。
中国のオーディオビジュアルアートのKingと呼ばれているLoga Hong。
アート×テクノロジーの超先駆者と言われているWu Juehui。
ジェネラティブのビジュアル化に定評があり、アニメーターでもあるRaven Kwok(アメリカ在住)。
Wu Juehuiがディレクター/コンセプト設計を行なっており、Pink;Moneyも参加したメディアアートのフェスティバル『.Zip:Unzip the Future 释放未来』。ニューヨークの3LD Art & Technology Centerで開催された本イベントでは、30×15×20mという巨大壁面を余すことなく体験できる没入感抜群の作品が並んだ。
また、国ごとの特徴と言えるかもしれないが、公共資金をベースにした活動は難しいと言う実情も語ってくれたPink;Money。あれほどの大国でも、アーティストの活動を支えるのは企業スポンサーだという。
「音響兵器」への問題提起:Kode9(イギリス)
まだまだ知られざる海外のメディアアート界隈の実態。中国 / 香港のPink;Moneyの次は、イギリスの音楽家Kode9にバトンが渡された。
少し深妙な表情を見せたかと思うと、淡々と話し始めたのは、音を使用した兵器のことについてだった。
「私のリサーチを紹介したいと思います。10年前に武器としての音について『SONIC WARFARE』という本を書きました。私たちが通常聞いているような音だけでなく振動、私がUnsoundと呼んでいる、通常の人の耳では聞くことができない超音波などについての話です」
実際にシリアやキューバなどで懸念されている事項も織り交ぜつつ、音による暴力や通信の危険性を暗示したKode9。
参照:Kode9単独インタビュー「AIの恐怖から音響兵器まで。Hyperdub主宰、Kode9が探求する音楽とアートの交錯点」
http://boundbaw.com/world-topics/articles/94
ノサッジ・シング(アメリカ)
ライゾマティクスとのコラボレーションも多く行なっているエレクトロニック・プロデューサー兼DJ、ノサッジ・シング。この日のトークも盟友であるライゾマティクスの真鍋大度と共に壇上にあがり、制作の裏話などもこぼした。
真鍋大度らとコラボレーションしたMV『Eclipse/Blue』
同日夜に行われたSFT NIGHT PARTY@代官山UNITにて、ライブセットでのパフォーマンスも披露したノサッジ・シング。トークでは、そのセットの見所を紹介した。
「今夜のライブでやるのは11チャンネルで、シークエンスは上から下。キックドラムやスネア、ベースに分かれているので、ミックスの自由度があがり、色々な組み合わせができる。まるで、自分のオーケストラを持っているような感覚です。制作を行なっていてベストな状況は、テクニカルの部分を考えなくていい点に到達した時。どうやって作られたのか、理解しようとしなくてもわかる感覚ですね」
豪華ラインナップで満員の代官山UNITは朝まで熱気冷めやらぬ様子だった。最近始めたというレーベル、TIMETABLE®︎も要注目だ。
テックをエンタメに変換する:MIKIKO・真鍋大度・石橋素(日本)
6時間にも及ぶ、インプットの嵐であるトークのトリを締めくくったのはSuper Flying Tokyo 2019主催でもあるライゾマティクスの真鍋大度、石橋素と、共に数々のプロジェクトを遂行するELEVENPLAY主宰・演出振付家のMIKIKOによるセッション。
このチームでのプロジェクト数はかなり多く、画面に映し出されたパソコンの画面のフォルダには、大量のKeynoteが。これらの資料を活用して、DJならぬ「Keynote ジョッキー」として、会場からの質問により具体的に答える……そう、最初からいきなりQ&Aスタイルで進行するという。有名なプロジェクトも多いチームへ、質問の手が次々と挙がる。
同チームで制作した、ELEVENPLAY x Rhizomatiks Research 《24 drones》ドローンの振り付けもMIKIKOさんが担当しているという
会場から、「テクノロジーに興味がない人にもわかってもらうために工夫していることはあるか?」との質問には「体験を想定して、不快でない裏切りを与えられるように意識しています。テックネタは興味がある人に分かってもらえたらそれで充分なので、表現として新しいかどうかだけを見るようにしています。また、このチームの中でのダンサーのように、違う視点の人がチームに加わるのは新しい発見もあるしいいかもしれませんね。」と、様々なエンタメを提供してきたチームならではの返答が寄せられた。
最後に、前日のカイル&ローレンによる中高校生ワークショップに参加していた中学生から「高校生の時にやっておきたかったことは何ですか?」との質問が挙がった。
それに対し三人からは「好きなことを見つけて没頭できればいいと思う。好きなことが見つけられないパターンもあると思うけど、食わず嫌いせずにまずはやってみる。気になることは全部やっておいたらいいし、自分の方向は自然に決まっていくから大丈夫」とのアドバイスが。これからのクリエイティブ業界を担っていくであろう若者へのメッセージで、長丁場のアーティストトークは幕を閉じた。
インターネットや移動手段の多様化などテクノロジーの進化によって、クリエイティブシーンも益々グローバル化が求められていくであろう。クリエイターの視野を広く、視座を高くしていくためにも、国内外問わずトップクリエイターの思考を知る機会は貴重に違いない。プレゼンターである彼らはもちろん、思考の種を受け取った参加者たちが今後どのようなアウトプットをしていくのかもとても楽しみな1日となった。
Photo by Tomoya Takeshita
CREDIT
- TEXT BY AYUMI YAGI
- 三重生まれ、東京在住。紙媒体の編集職として出版社で経験を積んだ後、Web制作会社へ転職。Web制作ディレクションだけではなく、写真撮影やWeb媒体編集の経験を積みフリーランスとして独立。現在は大手企業のブランドサイトやコーポレートサイトの制作ディレクターや、様々な媒体での執筆や編集、カメラマンなど職種を問わず活動中。車の運転、アウトドア、登山、旅行、お酒が好きで、すぐに遠くに行きたがる。 https://aymyg1031.myportfolio.com/