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2023.01.13

骨董の歴史をヒントにNFTとこれからの「価値」を問う。「デジタル骨董展」レポート

TEXT BY NANAMI SUDO

またたく間にアートや経済の文脈で盛り上がりを見せているNFT。無形のデータに対する高値の取引が注目の的にもなっているが、デジタルデータをクラウド上で保管するなど、所有のあり方が拡張した現代における「価値」とはなにか? に着目し、骨董の歴史をヒントに紐解きながら、これからの動向を探る展覧会「デジタル骨董展 これからの価値と所有を考える」が開催された。一体なぜ、NFTを語る上で、骨董が引き合いに出されたのだろうか? 他に類を見ないチャレンジングなその展示を訪れてみた。

骨董とNFT? 異色な組み合わせにも実は共通項があった

骨董品とNFTという一見不思議な取り合わせに挑戦した「デジタル骨董展 これからの価値と所有を考える」が、ラフォーレ原宿のコミュニティスペース・BE AT TOKYOにて2022年10月29日〜11月13日に開催された。

「NFTアートは100年後の『骨董』になりうるか?」を問いに掲げ、骨董の価値と所有の歴史の変遷はNFTのそれにも通ずるのではないか、と着想した本企画プロデューサーの有國恵介(フロウプラトー)のアイデアを起点に、編集者の桜井祐(TISSUE Inc.)と塚田有那(一般社団法人Whole Universe)が企画した。

NFTの行く先を考察するべく、「デジタル骨董」という言葉を提示し、これまで骨董が提示してきた価値基準と、現在のNFT市場の動向を同軸から整理することで、これからのモノの価値と所有のあり方を考察する試みとなっている。

NFTはテクノロジーが浸透した現代だからこそ、制作者・受け手ともにDIY感覚で楽しむことができ、瞬く間に数多くの新たな作品が誕生し、トレンドとして注目されている印象がある。仮想通貨やデータなど、デジタル上での取引は今後ますます主流になるだろう。では、デジタルデータを基本とするNFTも一過性のものではなく、今後はより身近なものとして受け入れられていくのではないか? その時、NFTの価値の本質は一体どこに見出されるのか、改めて向き合う機会がここに用意されていた。

数寄、骨董、NFTの価値と所有の歴史

未来の価値を考えるために、そもそもモノの価値はどのように築かれ、変遷してきたのかを整理できるのが、価値と所有をテーマに、数奇、骨董、そしてNFTという3つの時代の歴史を辿った年表だ。「数寄(すき)」とは、中国から輸入された飲茶が一般化し、それに伴い空間や道具への美意識が育まれたことが普及の一端だと年表に記されている。主に室町〜安土桃山時代における茶の湯文化のなかで育まれたものだが、広くは平安時代から和歌などの風流文雅を好むことの意で「好く」の当て字として使われていた。

この年表では、3つの文化体系から共通する流れを見出している。まず、インフラ(NFTであれば、インターネットやデバイスの普及)が確立することで基盤が生まれ基盤、認知や需要の高まりによってモノの価値が権威化していく。結果、モノの価値が一般にまで広く普及していくと、価値観や所有形態が多様化していく、といった一連の流れを見ることができる。

文化の定着に次ぐ大きな動向としては、評価軸の制定とそれに応じた価値競争や、格付けを踏まえた等価交換や売買等の取り引きの発生がある。そして、ルールやマナーに逆行するようにオルタナティブな価値観が発生し、時代が移り変わる…というような流れになっている。

特筆すべきは、NFTにおいては、象徴的な「権威」が(まだ)確立されていないことだ。骨董の時代においては、それまでの主流な美意識のカウンターとして独自の価値を見出す精神があったように、NFTの場合もボトムアップに文脈を紡いでいくようなスタンスが見受けられる。

年表でも紹介されている、世界中から実際に使用されていた工芸品を集める美術館「as it as」(千葉県)でも、骨董とは「既成の美術の価値観で選ばれた技術的完成度の高い作品よりも、むしろ日常生活や信仰のために作られた工芸品に、私達の心を突き動かす美しさがあるように思われてなりません」と語られている。

NFTは作品スタイルも評価軸も多岐にわたるがゆえに、NFT流行の全体像を掴んではじめてカウンターカルチャーが生まれうる。「デジタル骨董展」では、骨董の辿った歴史とともにNFTを見つめてみることで、これまでNFTに触れたことがないような人でも、その市場価値の仕組みがイメージし易く設計されていた。

モノを超えて広がる、価値と所有のシステムを分析する

本展では、骨董とNFTをより関連付け、考えを巡らせるための試みとして、「投機性」「希少性」「正統性」「時間性」「公共性」という5つのキーワードを立ち上げ、事例とともに展示を行った。

まず「投機」とは、「投機熱」など証券取引においてよく使用される用語で、短期的な相場の変動を目論見ることで利益を得ようとする取引のことである。モノの価値は、その時代ごとの評価や権威によって決定付けられていく。

本展では、このキーワードに紐付けて、毎日ひとつずつ自動生成されるピクセルアートのキャラクターをオークションで取り引きする「Nouns(ナウンズ)」という作品と「襤褸(ぼろ)」が取り上げられている。

「Nouns」のシステムには「DAO(自律分散型組織)」が採用されており、オークションで作品を競り落とすと、NounsDAOの投票権が得られ、Nounsの価値を高めるための意思決定に参加することができる。

対して「襤褸(ぼろ)」は、文字通り「ボロ切れ」のことで、当時は貧しい人々が東北の寒冷地で寒さをしのぐために、布を繰り返し継ぎはぎして重ねて着られていた衣類だ。しかし、現在では日本のモノを無駄にしない精神文化として世界から注目され、その価値は180°変化した。その「もったいない」という感覚が美意識として理解されている環境だからこそ、高値で取引されるようになってきたのだ。

では、NFTにおける「希少性」や「正統性」はどうだろう。ここで紹介されている「Loot」では、RPGに登場するようなアイテムが8000種存在し、その出現率はいわゆるゲームの「ガチャ」のように一定の確率が定められている。あるアイテムをユーザーが高値で評価すると、自然発生的にそのアイテムの希少価値が高まる仕組みが形成されているという。

また、複製可能なデータにおいて、それが唯一無二の「本物」であるという証明はできるのだろうか。NFTの世界では、ブロックチェーンの改ざん困難な暗号処理によって、正統性は再現可能だ。唯一無二のデータであることを証明し、「いつ/誰が」所有したかも証明できるようになった。その唯一性を保証する記号は、あくまでも対象となるNFTに係る付加価値や裏付けの情報に過ぎないが、ファッションブランドのロゴのように、記号そのものがシンボリックな存在となり、価値の評価に働きかける場合もあるだろう。

たとえば骨董における「箱書き」も、「いつ/誰が」所有していたかが箱に明記されるようになったことで、箱書きがあること自体に価値が付くようになった。モノ単体ではなく、そのモノと所有者の間にある関係性を含めて「骨董」の価値が決定されている。

また、ここまでの3つのキーワードに対し、逆行しているようにも捉えられるのが「公共性」である。民藝の世界では、大量生産され、人々の生活と密接に関わり、日常的に使用されていたモノに対して美を見出すという姿勢がある。従来使われていた、ごく当たり前の安物を意味する「下手物」に代わって、思想家の柳宗悦が中心となり「民藝」という言葉を立ち上げて評価した。この点において、公共性とは民藝においてこそ最も発揮される価値のひとつであり、希少性などの評価軸とは一線を引いていることがわかる。

一方、NFTの公共性の例には、藤幡正樹の「Brave New Commons」というプロジェクトが挙げられている。作家が任意に設定した作品の価格に対して、複数人が同時所有可能で、支払価格もその作品の購入希望者数で割って決まるというシステムだ。つまり、支持が少ない作品の方が、取引価格としては高くなる。さらに、オリジナルとコピーに差がない。「Brave New Commons」がもたらす新しい所有の在り方は、民衆の中で広く共有されてこそ、個人の行動が運動として輪郭を持ち始め、一筋の潮流がつくられていくような、民藝の精神文化にも共通するのではないだろうか。

そして「時間性」というキーワードにおいては、NFTと骨董の特徴は対になり得るという。NFTは特定の地域性や文脈を持たず、グローバルに共有される傾向が強いが、骨董は独自の地域のや共同体の暮らしのなかでこそ育まれるものであるため、気候や風土、人々の宗教観や文化などに強く依存している。そう考えてみると、グローバルで共通言語を持ったデジタル空間において、NFTにはどのような固有のアイデンティティが表出してくるのか、非常に気になるところだ。

加えて、「時間性」というキーワードについてはさまざまな捉え方が可能だ。ここで展示されているクリエイティブコーダー・高尾俊介の「Generativemasks」は、ジェネラティブアートで生成される1シーンを切り取ってNFT作品にすることで、アルゴリズムの偶然から生まれた一瞬を物質化する試みでもある。プログラムで作成された1万点の仮面作品が3DプリントされたりARになったりと、形を変えて展開されていく。3Dプリント版は今回が国内初の展示で、アーティストのAyumu Nagamatsuにより制作された。NFTにおける「もの性」や、使用されているクリエイティブコーディングが民藝の民主的な要素のメタファーになるのではないかと作者らは語っている。

NFTの構造を巧みに捉え、人々の感情や行動までアレンジするアート作品

NFTと骨董の共通項が整理されると、NFTに馴染みのない筆者でも今後NFTがどのような歴史を歩むのか、俄然興味が湧いてくる。デジタル骨董展では、100年後の価値について考えられたアート作品が展示されていた。
そして、来場者へ向けて掲げられた問いは、以下の3つである。

Q. これからモノの価値への「信頼」はどのように保証されるのか?
Q. モノの価値は「誰」が決めていくのか?
Q. バーチャル空間で生まれる「生命」に価値はあるのか?

まず、HUMAN AWESOME ERRORの「民主的工藝」では、益子焼と100円均一ショップの陶器を並べている。それぞれにNFCタグが埋め込まれており、スマホを使ってtoken情報を読み取ることができる。陶芸の世界では、少しでも傷がつくだけで市場価値は極端に下がるため、NFCタグが埋め込まれた陶器はほとんど価値がなくなる。しかし、高額な骨董品は所有するだけで固定資産税などのコストがかかるため、モノは同じでもNFT化されたほうが価値が下がり、所有者にとってメリットがあるという見方もある。本来は価値を保証する「正統性」と、歴史的に受け継がれてきた評価軸が相反するという面白い現象を演出している。

2台のガチャガチャに「DOG vs CAT」と書かれたポップなパネル。そして bit状の犬と猫のなんとも可愛らしいフィギュアたち。本展のNFT監修も務めた加藤明洋の「WAN NYAN WARS」は、展示風景を一目見ただけでは「これがNFTなのか?」と不思議に思うかもしれない。こちらはNFTを所有したことがないという人にもぜひ触れてみてほしい作品だ。

これは動物保護団体の支援にもつながるシステムで、犬派か、猫派かという2つの看板を立てて議論し、各団体への「寄付」というかたちでNFTの売買が行われる。

犬・猫それぞれ100体ずつのNFTが用意され、それぞれに対して最も高値をつけた人にそのNFTの所有権が与えられる。さらに、NFTの所有=投票権(寄付権)となり、選んだキャラクターに応じて、定期的に寄付戦争が開かれ、NFTを持つ人だけが犬もしくは猫の保護団体へ寄付をすることができる。より多い寄付を集めた陣営にそのシーズンの勝者の証として、NFT上の画像をフィギュア化したブロックチェーン証明書付きの物理アート作品が送られてくる。今回は、投票したい方のガチャガチャを回し、得たステッカーを1票に変換することで、物理空間上で本作品が提供するNFTの仕組みを体験できるようになっていた。

加藤は、作品の二次流通を含め、NFTを取り巻くエコシステム全体を肯定的に捉えており、やり取りされるのはモノやデータだけでなく、あるテーマに対する「自分の意思」を表現できる場であると主張する。NFTはコミュニティのなかで建設的な議論を促すプラットフォームにもなりうるのだ。

千房けん輔と赤岩やえによるアートユニット・エキソニモによる「Metaverse Petshop」は、バーチャル空間上における生命のあり方を問いかける。

2022年8月にニューヨークのアートフェア「NADA New York 2022」でも発表されたこの作品は、檻の中に“閉じ込められ”ながら展示されたバーチャル上の犬というインパクトのある外見で、一度見たら忘れられない。バーチャル犬たちの寿命はわずか10分間で、その間にモニター上に表示されたQRコードから誰かが購入しなければ、新しい模様の犬に交代する。もし購入した場合は、スマホ上などで共に過ごすことも可能な反面、その犬をNFT化すると、犬は消えて毛皮の模様のデータだけが残される。本展では、その毛皮を物理的にプリントしたファブリックと、そこから制作されたカバンが展示されていた。

檻ごしにバーチャル犬たちを見つめていると、ペットショップさながら、こちらに何かを訴えかけているようにも感じるし、犬たちが自由気ままに動きまわる様子はそこに自律した生命の様相を実感させる。10分という時間制限も、それをとどめたいという欲望を喚起させる。しかし、いざ購入され、晴れて寿命が伸びた後、メタバースペットは購入者からどのような扱いを受けるのだろうか。NFTという名の生命が所有されコントロールされていく未来まで、この作品は予見しているかのようである。

NFTを歴史やキーワード、アート作品や書籍から多角的に分析し、価値とは何かを真摯に問いかけた「デジタル骨董展」。一過性のブームに終わらず、今後もNFTが残り続けるとしたら、一体どのような価値が見出されていくのだろうか。加藤は「骨董と同じく、誰がいつ、どのように所有したかということが今後NFTが受け継がれるにあたってポイントになるのではないか」と推察する。NFTでも所有アドレスが機能するが、まだ「正統性」の観点における付加価値には至っていないようである。

また、骨董監修の哲学者・鞍田崇は、「ある文化のコミュニティが広がると、評価軸が既存の権威的な美意識や、多数の受け取り手にとって一致している価値をなぞっていくので、その中で何が残っていくのか興味深い」と語る。NFTは現存のシステムのカウンターから始まっているものだからこそ、さらに新しい価値がつくられていくかが今後の肝になりそうだ。鞍田が自身の著書でも骨董の本質的な価値を「インティマシー(親密さ)」と提示しているように、美しさでも貨幣でも代替できない、否応なく惹きつけられる“いとおしさ”は、モノやデータさえも超えることがある。NFTでは特に、NFT界隈のコミュニティの盛り上がりも加味して、ユーザ間でNFTアートへの愛着を育むこと(インティマシー)は十分ありえるのではないだろうか。

数寄や骨董の時代にもあったように、既存のNFTの傾向に対する抵抗運動も発生する可能性があるが、前段階として、本展のように美術や経済の批評的観点から別の文化とも照らし合わせながら編集し、丁寧にNFTについて考える機会が必要である。ただキュレーションするのではなく、作家との議論を交えながら今後も展示を制作していきたいという企画陣。次回があるとするならば、その時「デジタル骨董」的な価値は醸成しているのだろうか、NFTの所有のその先にはどのようなアイデアが生まれているのだろうか…想像しながら心待ちにしたいと思う。


デジタル骨董展
https://be-at-tokyo.com/projects/beatstudio/10744/

PHOTO BY ICHIRO MISHIMA

 

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TEXT BY NANAMI SUDO
栃木県出身、1998年生まれ。2020年早稲田大学文化構想学部卒業後、フリーランス編集者に。主にWEBサイトやイベントのコンテンツ企画・制作・広報に携わっている。2023年よりWhatever inc.でProject Managerとしても活動中。

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