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2017.09.29

エネルギーの未来を問う、カザフスタン・アスタナ万博レポート

TEXT & PHOTO BY TOMOMI SAYUDA

今年、中央アジア初となる万国博覧会(以下、万博)エキスポ2017が、カザフスタンの首都アスタナで6月10日から9月10日の3ヶ月に渡って開催された。テーマは「未来のエネルギー」。石油に天然ガス、ウラン、石炭など、天然資源の豊富さを武器に急成長を遂げる中央アジアの国で、一体どんな未来が提示されたのか。現地の様子をレポートする。

「CO2の排出を抑えながら、どのように安全で、サスティナブルなエネルギーを持続することができるか」という問いを掲げたアスタナ万博。日本を含める115カ国と22の国際機関が参加し、国や組織、企業や一般市民をまたいで、未来のエネルギーへの可能性が語られた。

カザフスタンという国にどんなイメージをお持ちだろうか。ロシア連邦、中華人民共和国、キルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタンと国境を接するこの国。あまりイメージが湧かないというのも当然で、中央アジア圏は数年前まで、ほとんどの国で観光客でもビザが必要とされていたからだ。

そのためほとんどの外国人にとって謎に包まれていたエリアだったが、アスタナでエキスポの開催が決定してから、ビザに関する規制も緩和された。年内まで日本人観光ビザは30日間まで免除される措置が取られており、今回のエキスポをきっかけにカザフスタン政府が観光やビジネスにおける門戸を開こうとしている印象があった。特にカザフスタン人はモンゴロイド系の人々が多いため、私たち日本人にとっては見た目も似ていて親しみを感じやすいだろう。

首都アスタナは、ソ連崩壊後に政治的戦略によって1997年に旧都アルマティから遷都された。その際には日本の建築家の黒川紀章氏が設計した都市計画が採用されている。街はどこもピカピカな新しいビルや道路が並び、区画も大きく取られているせいか、生活感をあまり感じない不思議な都市である。街なかはいたって安全、街のシンボルとしてノーマン・フォスターデザインのシンボルタワーが立っている。

アイコニックな球型のパビリオンをはじめ、全体の会場デザインは、シカゴ拠点の建築デザインスタジオ、エイドリアンスミス+ゴードンギルアーキテクチャーによるもの。ドバイのフルジュカリファなど数々の世界のランドマークをデザインしてきた実績のあるカンパニーだ。

今回は「認定博覧会」という位置付けのため、5年に一度開催されるメガ博覧会と比べると小規模ではあるが、各国の次世代エネルギーに関するビジョンや取り組み、中央アジアの新興国のリアルな隆盛の様子や、国際化されていくプロセスを見るには大変良い機会だったと思う。

ブライアン・イーノも参加したイギリス館「We are energy」

「We are energy」というコピーを掲げたイギリス館。万博全体的にメッセージが散漫なパビリオンも多かった中で、インスタレーションのクオリティの高さと世界観の構築においては類を抜いていた。

ここではエネルギーの根源をテーマに、人間の偉大なる発明の一例として、カザフスタンの伝統的なテントであるユルトをモチーフとして選出。そのユルトの形状を一本一本の構造体を触ると光るアクリル板に置き換え、観客に人間が日常的に生み出すエネルギーとの関係性の密接さをビジュアライズした、インタラクティブインスタレーションを発表していた。

この作品はイギリス人の建築家アシフ・カーンとサウンドスケープのパイオニアである音楽家ブライアン・イーノのコラボレーションから生まれたもの。カザフスタンの山々をコンピューター合成し、360度に張り巡らせた映像とサウンドのランドスケープを展開。音と映像によって、固有の土地を示すのではなく「想像上のマウンテン」を展開している。

自分たちはどれだけ世界を変えることができるのか?
ドイツ館「Energy on track」

再生可能エネルギーに焦点を当て、「Energy on track」をテーマにしたドイツのパビリオン。中に入ると、電池を彷彿とするプラスとマイナスのアイコンが彫られたスマートスティックが入場者に渡される。このスマートスティックで入場者の言語を母国語に変換してビデオを観たり、ゲームのポイントを貯めたりすることができた。

ここでは、自分たちのアクション次第でどれだけ世界を変えられるかがコンセプトとなっている。来場者がスマートスティックと手をテーブルに置くとそのエネルギーが一つの力になり、ブラックホールやレーザー光線が現れるプレゼンテーションを展開していた。

オーストリア館、人間のエネルギーが未来のエネルギーをつくる

次世代のエネルギーは自分たちの力によって生まれてくるという、極めて単純明快なコンセプトを掲げたオーストリア館。コンセプトの潔さだけでなく、ポップでクリアなデザインと、アナログ・キッチュな要素を生かした展示デザインが好感触だった。

パビリオン全体が自転車の回転の発電によってデコレーションが回ったり、液晶スクリーンに出ている映像がその回転数によって再生スピードが変動したりと、とにかく人間のもたらすエネルギーが何らかのエネルギーに変換される、というメッセージが至るところで反映されている。

ローバジェットを逆手にとって、チープな素材で遊んだり、骨組みをわざと見せたりするような仕組みがかえってカジュアルな雰囲気を演出し、親しみやすい工夫が随所に凝らされていた。

カザフスタン館、エネルギーの誕生から未来まで

主催国カザフスタンのパビリオンは、エキスポの永久展示として保存されることを前提に設計されていた。

銀河のエネルギーの誕生や太陽エネルギーに始まり、石油、風のエネルギーの仕組み、そして次世代エネルギーについての体験型展示が球体型パビリオンの1階から7階まで余すところなく設置されていた。子どもの来場を意識した、よくできた科学博物館のようなつくりのパビリオンであった。館内の至るところでLED電飾が飾られキラキラした館内は、バブルで急成長中のカザフスタンを反映しているように感じた。

韓国館、劇場型エクスペリエンスでエネルギーを感じる

韓国館はアニメーション映像が流れ、最後にそのアニメのキャラクターが実際に実写のダンサーに変わるというシアター型のエクスペリエンス。最後の部屋では来場者全員にタブレットが渡され、館内で次世代エネルギーに関することのインタラクティブARを体験できた。

モナコ館、壮大なスケールの映像でエネルギーを考える

モナコの湾岸沿いに位置する地形をイメージし、大胆な波型のミラーパネルによって構成されたキネティックスクリーンをメインに配置したパビリオン。このキネティックスクリーンには、モナコが掲げる未来エネルギーを題材とした映像が映し出されていた。

アスタナ万博を通じて感じた、各国の情報アプローチ

筆者にとっては、愛知、ミラノに次ぐ3度目の万国博覧会。特に記憶に新しい2015年のミラノの国際博と比べると、今回は規模も内容も小規模なものではあった。また、イギリスやドイツといった諸外国の展示も開催国の観客の国際的な情報の理解度、関心度に帳尻を合わせている様子が見られた。よくある先進国で行われる祭典の、自国の持つ最先端の技術や演出を試みるというよりも、カザフスタンの観客たちが初めて触れるだろう自国の基本的な情報を多くの人々に届けるという方向にフォーカスされていた。こうした各国の外交的な力のかけ具合やそのパワーバランスを見るという意味で、様々な国の万博に訪れて、色々な情報を探るのは面白い。

しかし、中央アジアで初の開催であること、これから経済力を伸ばし大きく発展していくカザフスタンでこの万博が行われた今年の意味は大きい。全体的に市民も観光擦れしていない印象があり、外国人訪問者を歓迎している印象があった。若者も新しい情報や文化を吸収したいというエネルギーに溢れ、欧米の大都市で行われる祭典とは雰囲気が違い、初々しくフレンドリーな印象。

これからの経済成長に伴い、文化や芸術の分野にも大きく発展の可能性のあるカザフスタン。これから日本とも関わりが多くなる可能性もあり、また2025年には、大阪万博の開催も噂されている中、今回の万博訪問は世界のクリエイティブや政治情勢を探る上でも非常に有意義な時間となった。

 

CREDIT

Tomomi sayuda square s
TEXT & PHOTO BY TOMOMI SAYUDA
武蔵野美術大学中退。Royal College of Art (MA) Design Products修了。テレビ朝日にてセットデザインアシスタントとして勤務後、2005年渡英。卒業後ロンドンでOnedotzero, Fjordでデザイナーとして勤務した後に、現在ドバイのGSM projectにて、インタラクティブデザインリードとして文化的コンテクストとテクノロジーを用いたミュージアムデザインの案件に携わる。2009年Creative Reviewベスト6卒業生選出。2014年The Mask of SoulがBBC等で紹介され話題に。会社勤めと同時に自身の作品をFrieze Art Fair, ICFF NY等で発表。様々なプロジェクトにものづくり視点からの、遊び心のあるデザインを提案している。 http://www.tomomisayuda.com/

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