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2017.08.29

エレクトロニック・ミュージックとアートの最大実験場、バルセロナ Sónarは革新を続ける(前編)

TEXT BY HIBIKI MIZUNO

6月13〜17日にかけて、スペインのバルセロナにて20年以上続く世界的ミュージック・イベントSónarが開催された。注目すべきは、最近のSónarが音楽イベントに限らず、イノベーション創出のプラットフォームSónar+D、メディア・インスタレーションなどを積極的に取り込むなど非常に多角化が進んでいることだ。熱狂に包まれた現地の様子を前後編にわたってレポートする。

音楽、クリエイティビティ、テクノロジー、そしてビジネス

まず、「Music, Creativity & Technology」をテーマに掲げるSónarを総括的に俯瞰することから始めたい。昼間は「Sónar by Day」として、街の中心に近い 巨大カンファレンス会場Fira Montjuic を舞台に、野外ステージから中規模の屋内ホールまでの5会場が同時進行で音楽ライブが繰り広げられる。

 

そして金曜・土曜の夜になると、世界的音楽家たちのライブや数時間に及ぶDJセットなどが目玉となる「Sónar by Night」が早朝まで夜通し繰り広げられる。会場は巨大なアリーナが連なるFira Gran Via L’Hospitaleで、毎年10万人以上を収容する壮大なイベントとなる。140もの音楽パフォーマンスが3日間で繰り広げられ、世界105カ国以上から今年は過去最高の12.5万人を動員した。

合計12万人が行き交う超満員ステージ

さらにここ近年は音楽イベントに限らず、「Creativity, Technology & Business」を掲げたイノベーションのためのプラットフォーム「Sónar+D」が昼間のFira Montjuic内のパビリオンで同時開催される。メディア・インスタレーション、VR体験、スタートアップ経営者らの交流会からプロダクト展示、カンファレンス、アーティスト・トーク、DJデモ、ギーク・ワークショップまで、実験的コンテンツが満載だ。すべてが同時多発で、息をつく暇もないほどだ。

また、バルセロナ市内に出れば、近年、東京・科学未来で展開されたBjörk のVRインスタレーション「Björk Digital」、デヴィッド・ボウイの回顧展「David Bowie Is」、さらに ブライアン・イーノの新作インスタレーション展「Lightforms/Soundform」も同時開催されるという豪華ぶりだ。

 

特徴的なのは、ヨーロッパを代表する集客性の高いエンタテイメントに対し、テクノロジー・ビジネスといった2面的な展開を、確信犯的な戦略として結びつけていること。類似例には、USテキサス州オースティンで開かれるSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)が、ミュージック、フィルム、インタラクティブといった関連ジャンルの連動拡張を行っている事例があるが、その影響が相互に反映されているのだろう。

「フェスティバル」を逸脱した、最高の実験空間

そんな世界屈指の音楽×メディアアートのフェスティバルと称されることも多いSónarだが、実は、もはや、数年前からフェスティバルとは自称していない。タグラインでもある “Advanced Music, Creativity & Technology”を三大要素とし、公式サイト内でも「カルチュラルイベント」と定義し、いわゆる一般的な音楽祭とは一線を画していることが伺える。毎年その斬新さが注目されるメインアートワークだが、今年も、なにやらミステリアスな木とマリモの合いの子のような生き物がトレードマークらしい。

こんなにも壮大で、何十万人もの人々が踊り狂うイベントであるにもかかわらず、あえて「フェスティバル」という言葉を使わないのはなぜか。実感したのは、最新の音楽、創造性、そしてテクノロジーを複合的かつ多岐的に融合させた演目を製作することで、一要素では到達できないイベントを作り込んでいることだ。そこには、たしかに使い古された「フェスティバル」という表現では収まりきらないスケール感があった。

まだインターネットがほとんど普及していなかった1994年、Ricard Robles、Enric Palau、Sergi Caballeroの3人によってSónarは発足された。当時、エレクトロニック・ミュージックのフェスティバルを実施すること自体が前衛的な試みだったが、それに加えてアートと融合させるという一捻りを、彼らは最初から目論んでいた。

一見、既に関わりが深そうな音楽家や視覚技術者、アーティストなど一種の「同業者」を同イベントで密にコラボレーションさせることにより、例えば小さなクラブでしか普段は聞けないような実験音楽が、もっと巨大なスケールの観客に届いたり、ビデオアーティストの映像作品がギャラリーからライブ会場へのデビューを果たしたり、レイヴミュージックがアート空間(最初の20年間は、バルセロナ現代美術館(MACBA)とバルセロナ現代文化センター(CCCB)で開催されていた)で流されたりといった、いくつものイノベーションが生まれていったのだ。

大御所から新鋭まで、エレクトロニック・ミュージックの温故知新

実は、大物アーティストの方がSónarへの出演に緊張することが多いという。確かに今年を振り返ってみても、ArcaとJesse KandaのVJ/パフォーマンスによるコラボの結晶、Nosaj ThingとDaito ManabeのARを用いた斬新なステージ映像、Amnesia Scannerの観客を盲目にさせそうな勢いのストロボライトと影絵のショーを体験した後に、野外ステージでシンプルに歌うシンガーソングライターに、いくばくかの物足りなさを感じてしまうのは否めない。

Nosaj Thing×Daito Manabe ©NereaColl

それほど、いくら大物アーティストといえども、若手と同列で「イノベーション」を要求される環境であるため、映像やライトショーなどをフル活用したパフォーマンスに磨きをかける。それはまた、業界人やプロフェッショナルが多い客層こそが、パフォーマンスの独特な高水準を保っている秘訣かもしれない。

 

もうひとつのSónarの魅力は、出演者の絶妙なバランスだ。歴史を振り返ると、2013年の20周年記念のSónarは賛否両論あった。若者の間でEDMが大流行する中、dubstepの象徴であり当時25歳のSkrillex と電子音楽のキング Kraftwerkを同時にブッキングした。EDMファンへのアピールが強すぎると批判が飛び交う中、Sónarの運営チームは「ルーツを知るために、若い世代のSkrillexファンたちがKraftwerkの3Dコンサートを体験すること、それが私たちにとって重要だ」と、古きと新しきを融合する姿勢を貫き通した。

DJ Shadow

今回もDe La Soul、DJ Shadow, Carl Craig、RP Booなど、ハウスからジューク/フットワークまで各ジャンルのゴッドファーザー的存在と、Thundercat、Total Freedom、Jlin、Elysia Crampton など、最先端をいく演者たちが次々と競い合った。

ベテランと新鋭だけでなく、メインストリームとアンダーグラウンドのせめぎ合いともいえる。古いものが新しいものをインスパイアさせるのは音楽、創造性、テクノロジーのすべてにおける変化の過程。Sónarはそのルーツを辿りながら革新していく周期を熟知し、音楽のラインアップの構成もその哲学をベースとしている。だからこそ、13万人近くが同時に感動し、楽しめるほどの振り幅を提供できるのだろう。

メインストリームとアンダーグラウンドの交差点で

例えば、Red Bull Music Academyとのスポンサード・ステージであるSónarDomeでは、ステージのど真ん中に洗濯機が突如現れ、Matmosがその音だけで作った『Ultimate Care II』を披露する一環として、観客から汚れた服を募集してパフォーマンス中に洗濯をしたり、Robert Hood と娘の Lyric Hoodのコラボ・プロジェクトである Floorplanのライブ初デビューが行われたりといった遊び心に溢れていた。

ジャングルを模したステージでプレイし続けたBjorkのDJセット

14日の前夜祭で、Bjorkが4時間ものDJを披露したSónarHallでは、ポルトガルのBoris Chimp 504が、1969年に初めて月に送られたチンパンジーの話をベースに、オーディオビジュアルのパフォーマンス『Multiverse』を披露。地平線にも月面にも見える無数のパターンが画面に広がった。

個人的に最も気に入った会場は、SónarComplex。真夏の暑さから一瞬逃れ、真っ暗な座席のある劇場で、好きなだけ音に酔える極楽な環境だ。そこでは、Andy Stottが繰り出す、地響きの共鳴たるサウンドスケープに浸り、アイスランドのレーベル Bedroom Community を創立した Sigurðssonが、バロック時代の楽器、ヴィオラ・ダ・ガンバ を弾くLiam Byrneとフォーク・グリッチ実験に挑戦する。

Fat Freddy’s Drop

バルセロナの眩しい太陽が恋しくなったら、野外のSónarVillageでビールを飲みながら Fat Freddy’s Dropの安定型ダブ・レゲエ・ファンクで休憩。少しエッジを求め、Sónar XSの小さなスペースで、鼓膜が破けそうになる aethereal arthoropod のグリッチとドローンとノイズの大波にのまれる。

ラストショーを飾ったBlack Madonna

夜のSónarLabのハイライトの一つは、Carl Craigの曲をライブのアンサンブルで演奏するというCarl Craig presents Versus Synthesizer Ensembleがテクノとクラシックの融合を図ったもの。4人のシンセ演奏者、そして長年のコラボレーター、Francesco Tristanoがグランドピアノに構え、Craig本人は一番奥でCDJやシンセに囲まれ、10年近く費やしてきたプロジェクトを披露した。最終日夜、SónarPubのトリを飾ったシカゴのハウスDJのBlack Madonnaは、この数年間で人気沸騰となったことを裏付ける大盛況のクロージングセット。日の出と共に、満面の笑みでステージ上の数人のダンサーたちとからみあいつつ、Sónar2017の終幕を盛大に祝った。

イノベーションを合言葉に、メインストリームとアンダーグラウンドを交差し、エレクトロニック・ミュージックから広がる他領域への無限の可能性を探求し続ける。3日間という短期間で、音楽、創造性、そしてテクノロジーの複合物としての最先端を、世界中のこれだけの人々に提供しているイベントは他にあるだろうか。来年で四半世紀を迎えるSónar。次はどんな現象に巻き込んでくれるのか、次回も目が離せない。

 

CREDIT

Hibikimizuno 160
TEXT BY HIBIKI MIZUNO
東京生まれ。幼少期から4年ごとに米国と日本を行き来し育つ。米国コネチカット州ウェスリアン大学卒業。リベラルアーツを専攻し、メディアと視覚文化、カルチュラル・スタディーズなどを学ぶ。これまでニューヨークのインディペンデント映画修復、DVD・ブルーレイ制作会社や現代アートの収集をサポートするウェブサービスなどで働き、2016年夏に日本へ帰国して以降は芸術集団Chim↑Pomの海外広報やArt Translators Collective(ATC)を通して芸術祭、ギャラリー、演劇分野の通訳などに携わる。翻訳や広報、マネージメントを通して、日本と海外の現代アートやカルチャーの距離を縮めることに取り組んでいる。

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