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2017.12.07

ライゾマティクスリサーチ《phosphere》の世界的称賛の理由。音楽とアートの実験場Sónarレポート(後編)

TEXT BY KAZUNAO ABE

スペインのバルセロナにて毎年開催される世界的ミュージック・イベントSónar。音楽ライブのすぐ横で、先鋭的なアートインスタレーションを繰り広げながら、テクノロジー×ビジネスへの波及をも目指すSónar+Dはまた、イベントの新たな顔として注目を見せる。日本から招へいされたライゾマティクスリサーチのインスタレーション展示《phosphere》を中心に、イベントの様子をキュレーターの阿部一直がレポートする。

Sónarレポート前編はこちら

最先端メディア表現の先に、音楽の未来がある

Sónarの興味深いところは、あくまで音楽のライブイベントを中心とした、集客性、話題性、経済効果のみならず、テクノロジー、R&Dへのビジネスへの波及効果もとらえた多角展開にあることは、すでに多くが指摘している事実である。

そこには、音楽がライフスタイルの先端デザインやモードが、ワールドワイドなトレンドとしていち早く反映されるメディアであることと意識されているのは言うまでもない。さらに、この先の音楽業界の収益性や著作問題などが、すでに確定されたフォーマットを失いつつあり、それゆえにメディア錬金術のイノべーションの先に、音楽の未来を見い出そうとするモティーフを強く感じもする

 

その意味で、Sónarが「SónarPLANTA」という新たなフレームにおいて、イノベーションの先端実験素材としてのメディア・アート・インスタレーション展示を導入しているのもまた、近い将来を見据えた先見的な判断だと取れる。

 

「SónarPLANTA」は、スペインで有数の石材産業大企業Sorigué財団によるスタンドアローンのスポンサードで実現されており、クライアント・ソーシングとしても明確な基盤を持っている。2014年にはカールステン・ニコライ、2015年にART+COM、2016年のセミ・コンダクターのインスタレーションに次いで、今年招聘されたのが真鍋大度+石橋素+ライゾマティクスリサーチという日本チームである。

生身の身体と、光学・プログラム表現が融合する
ネクストレベルのダンス・インスタレーション

《phosphere (installation version)》@ SónarPLANTA

今回のライゾマティクスリサーチは、今年4月に東京・後楽園のGallery AaMoで初披露されたELEVENPLAYとのダンスパフォーマンス《phosphere》を再構築した《phosphere (installation version)》を展開した。

本作品は、未曾有のアート構想、緻密な空間設計、精度の高いデータマイニングとリアルタイムインタラクションで、メディアテクノロジーのアート展開におけるネクストレベルを示していたといっても過言ではないだろう。これは先立って公開されたパフォーマンスとは異なるSónar独自のバージョンとして、まったく異なる印象を受けた。

 

SónarPLANTAの会場は、天井高がかなりある巨大倉庫のような広大な空間がブラックアウトされ、《phosphere》1点のみが展開されるという、贅沢きわまりない展示環境である。インスタレーションは、実体的な存在(身体)/光学・音響による表現/プログラムによるモデリングが完全に等価なレベルで融合するという、ハイブリッドな空間が作り出されている。

 

ステージ空間はモーションキャプチャーシステムで360°トラッキング可能になっており、24台(32光源)のレーザープロジェクターが4方から取り囲んでセットされている。プロジェクションは、3D上の線的なビームで構成されるパートと、人体像を結実させるもの、さらにダンサーの手の動きから解析された軌跡による映像などで構成される。

 

スモークが大量に焚かれるスペースの内部に、光線の交錯をオールラウンドに多角的な方向からトラッキングの交錯点に集中プロジェクションさせ、そこにスモークに反影するホログラムとしての立体的な3D映像効果を視覚的に立ち現れる。各プロジェクションのアングルを正確に分析し、そのアングルから捉えていくはずの人体シルエットを、アングルごとに分割してリアルタイムに映像化し、32光源から同じ交錯点にプロジェクションすれば人体の立体映像が空間に立ち上がるはずである。

 

この画期的なプランは、SónarPLANTAで見事に結実した(東京公演でもこの立体映像は実現されていたが、諸状況条件の違いによるのか、バルセロナ・バージョンの視覚効果は絶大だった)。

特筆すべきは、SónarPLANTAでの《phosphere》は、当初、観客参加可能なインスタレーションのみの公開が予定されていたが、主催者側の熱心な提案から、限定的なパフォーマンスが組み込まれたことだ。今回はスペシャルバージョンということで、東京公演では、MIKIKO演出・振付による8人版(50分)であったELEVENPLAYのダンサーから、3人[篠原沙弥、安川香、脇坂江梨沙]が参加し、25分のコンパクパフォーマンスが、インスタレーションの一般公開と交互に公演された。

元々《phosphere》は、表現空間を、ダンス・ステージとインスタレーションが共有することによって成立するという発想から生まれており、出演が3人になったことで、プロジェクションの編み出す空間幾何学と、緊密なダンサーの3人のコレグラフがメディア表現と対等に組み合わされ、抽象性を増したことで、ライゾマティクスリサーチの目ざす数理的なデータビジュアリゼーションの美が極められたといってもよい。

身体が幾何学の一部になる

主なクリティカルアイデアソースのひとつには、1920年代のバウハウス舞台工房でオスカー・シュレンマー(1888-1943)の開拓した「トリアディック・バレエ」および論文「人間と人工人物(1925)」がある。 

オスカー・シュレンマー「トリアディック・バレエ」
バウハウスの教員であり、アーティスト、デザイナーであったシュレンマーによる、人間の身体と空間との幾何学的組織化を目指した3人のパフォーマーによるダンス作品。

《phosphere》では、シュレンマーの示した、身体や生理が光、色、リズムといった空間的な幾何学の中に要素に等価に組み込まれ、造形要素の一部となるといった構想を彷彿とさせ、そこからさらに立体視覚化が加わった形でリアライズされていくという、非常に強度の高いステージとなっていた。

ラストシーンは、ダンサーがオフ空間へ退場し、3Dの身体シルエット映像のみのダンスのクライマックスとなる。終演後には毎回、まさにあれはなんだったのかといった驚嘆の声が上がり、盛大なスタンディングオベーションが送られていた。

今回のライゾマティクスリサーチの《phosphere》は、表現の完成度、テクノロジーやデータマイニングの厳密さからして、これまでの数年間のSónarPLANTAのインスタレーションシリーズの白眉を彩るものであったことは間違いないだろう。事実、マスコミ、報道、批評などのプレスカバレージは過去最高のリアクションで、費用対効果では《phosphere》だけで1億3000万円以上の換算になったという。

戦略的にテクノロジーの未来系を、ミュージックライブイベントのDJ/VJでは届かない箇所を、ハイレベルのインスタレーションで見せていく戦略性にSónarの企画力を感じるとともに、スポンサードの緊密なプロデュース力にも舌を捲く。また、熱狂狂乱のライブホールから、わずか数ブロック離れたロケーションや動線構成によって静謐で集中力のあるインスタレーション空間を運営している設計力やしたたかさにも驚かされる。

また真鍋大度は、Nosaj ThingとのDJセットで、最終日のメインSónarHallでライブを行い、ビューク以上の大観衆を集めていたことも特筆すべきだろう。ステージは、予め用意されたCGのミキシングではなく、3台のカメラ映像を、リアルタイムでCGに取り込んでいくライブドライブ感が強いもので、他のDJセットとはまったく別次元のVJを作り出していたといえる。

Nosajもアブストラクトで変幻自在なビートコントロールによるライブセンスによって、LAビートシーンをリードする存在を見せつけたステージとなっていた。真鍋大度とライゾマティクスリサーチは今回、Sónar全体の中で、インスタレーション《phosphere》、VR作品《border》、Nosaj ThingとのDJセット、トークショー、といった展開を3日間で一気に繰り広げたわけだが、これだけ多岐にわたるアクティビティーを1アーティストが披露したのはライゾマティクスリサーチだけであり、あらためて彼らのユニークさと多次元性が際立つ2017であったといえるだろう。

また日本からは、イノベーティブなプロジェクトのショウケース「MarketLab」においてサウンドアーティストのevalaが出展。ポータブルに設営可能な無響空間ボックスによる非常にユニークなサウンドインスタレーションのプロジェクト「See by your ears」をプレゼンテーションしていたことにも注目すべきだろう(なお、evalaは《phosphere》でも全サウンドを作曲している)。ここでは周囲のミートアップイベントやワークショップとは異質の集中力を要求する特異な空間と感覚を作り出していた。

期待される業界トップパーソンたちのワールドワイドオフ会的なミーティング&ネットワークをつくりだす場所性の重要さや、ビジネスプレゼンの凝縮された壮大なスケールも端倪すべきプロデュースパワーではあるが、人間の未曾有の驚くべき知覚力を瞬時に引き出し、有無を言わせぬ説得力を持って呈示するのは、本格的なインスタレーション展示を置いて他にない

ライゾマティクスリサーチ、evalaという、インスタレーションで追随を許さないハイレベルの作品が展示されていた事実に、改めて日本のクリエイティブ力を実感したSónarであったということがいえるかもしれない。

 

CREDIT

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TEXT BY KAZUNAO ABE
1960年長野市生まれ。東京藝術大学美術学部藝術学科美学専攻卒。90~01年キヤノン株式会社「アートラボ」プロジェクト専任キュレーター。01年より山口情報芸術センター[YCAM]開館準備室、03年~17年3月まで同館チーフキュレーター、アーティスティックディレクター、12年より副館長兼任。YCAMでは、池田亮司「C4I」、三上晴子+市川創太「Gravicells-重力と抵抗」、Carsten Nicolai「syn chron」、エキソニモ「WORLD B」、坂本龍一+高谷史郎「LIFE-fluid,invisible,inaudible…」、大友良英「ENSEMBLES」、「ミニマム インターフェース」展、三上晴子「Desire of Codes-欲望のコード」、Carsten Nicolai+Marko Perjhan「polar m」、ライゾマティクスリサーチ「particles」、渋谷慶一郎「THE END」、グループ展「Vanishing Mesh」、「コロガル公園シリーズ」などを数多くのオリジナルプロジェクトをキュレート/プロデュース。06年ベルリン「transmediale award 06」国際審査員、14年~16年文化庁芸術選奨メディア芸術部門選考審査員、17年文化庁メディア芸術祭アート部門審査員、17-18年韓国光州市ACC「第3回ACC Festival」ゲストディレクターなどを務める。現在フリーランスのキュレーターとして活動。

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