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2016.11.17

イスラム圏発のイノベーション、ドバイデザインウィーク2016レポート

TEXT BY TOMOMI SAYUDA

中東最大の商業都市、ドバイ。豪華主義のイスラム文化、巨大高層ビルの建ち並ぶメトロポリスといったイメージの強いこの都市において、クリエイティブシーンはどう発展しているのだろうか? ロンドンからドバイに移住したばかりのデザイナーが、今秋開催されたドバイデザインフェスティバルの様子をレポートする。

10月24〜29日にかけて、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにおいて、ドバイデザインウィークが開催された。

ドバイといえば、日本ではエミレーツ航空の熱心なプロモーションも功を奏して、絢爛豪華な中東シーンを垣間みられるアクセスの良い観光地という印象も強いだろう。

2020年に中東・アフリカエリアでは初となる万国博覧会の開催が決定し、周辺国の経済と文化のハブとしての影響力をますます強めるドバイにおいて、どんなデザインやアート事情が繰り広げられているのかをレポートする。

中央アジアから中東まで、急成長する新興デザイン

さて、イベントの中心会場はドバイデザインディストリクト(D3)というエリアにある。ここには2013年、ドバイのクリエイティブ産業の育成のために建設された施設があり、デザインウィークの運営をはじめ、スタートアップの支援や各種イベントのオーガナイズを通年で行っている。

現在、ドバイにおけるクリエイティブシーンへの投資は目覚ましい。デザインウィーク期間中、2018年に竣工予定の、Dubai Institute of Design and Innovation(DIDI)というデザインイノベーションの発展を目的とした学校の設立の発表があった。

ワールド・グラデュエート・ショウ 全体風景

このD3では、IKEAやTom Dixon、HAYといった海外有名インテリア系プロダクトブランドのショーケースが立ち並ぶほか、ECALやRCA、Rhode Island School of Design、慶應義塾大学など、世界30か国から集結したアート・デザイン系の有名大学、ドバイの美術系大学(American University in Dubai)といった、全145作品を集めたワールド・グラデュエート・ショウもあった。

注目はAbwabという中東・アフリカ圏の各国の代表デザイナーの手がけたインスタレーション作品によるショウケースだ。

世界のデザイン市場ではまだあまり目にすることのない国々…… UAE、アルジェリア、バーレーン、インド、イラク、そしてパレスチナのデザイナーたちの作品が一堂に介した。

中でも最も目を引いたのは、インドブースの作品群である。デリーを拠点とするデザインスタジオThukral&Tagragaが手がけた、「memory bar」は、観客の「感情」のデータをベースに作られた、カラフルなタイルで構築されたインスタレーションだ。

観客はその場で、いまの自分の気持ちを紙に書き、その紙をシュレッダーにかけると、その気持ちに合った色の石膏を六角形の型に流し込んでタイルを作るというもの。

一人ひとりの感情がマテリアル化され、時とともにビジュアライズされていく工程が面白く、また石膏をテーブル上でこねるというプロセスに、どことなくインドのものづくりの背景を感じることができた。

パレスチナブース/建築家のYousef Anastasによる「Mass Imperfection」。

自国の身近な素材でもあり、パレスチナで古くから工芸品の材料として使われてきたオリーブの樹を用いたアーチ。個々のパーツは、はじめにつくった形状のユニットを、後から人の手で複製することで作られていく。人間の手作業のエラーから生まれる不完全性にフォーカスを当てた作品だ。

世界一高いタワーであるブルジュハリファの全面のLEDパネルには、 Studio Mr.Whiteの「Mapping At Burj」、イギリス在住の日本人デザイナーYusuke Murakamiとタンジェントによる「Accension」の2作品がドバイデザインウィーク限定の映像作品として期間中投影された。

実際の動画はこちらにも。

ほかには、ドバイ在住のデザインスタートアップ支援団体Tashkeelの展示もあった。 Tashkeelは毎年、UAEに住居資格のある者を対象にした、公募のデザインレジデンシープログラム「Tanween」を主催し、優秀な若手のデザイナーのスタートアップ支援を行っている。ここでは今年このプログラムに参加したデザイナー達の作品が並んでいた。

Tashkeel在籍のUAE出身のアーティスト、Zainab al Hashemiがスワロフスキーとのコラボによる作品がストリートの中央でひときわ目立っていた。

ドバイの新たなプラットホーム、ミュージアム・オブ・ザ・フューチャー
ミュージアム・オブ・ザ・フューチャー(完成予想図)

今後のドバイ・クリエイティブシーンでさらなる注目を集めているのは、2018年に開業予定の「ミュージアム・オブ・ザ・フューチャー」だ。

これはドバイの皇太子ハムダン・ビン・ムハンマド・ビン・ラシド・マクトム氏が始動したミュージアムであり、「未来のテクノロジー」をコンセプトとしている。

今回デザインウィークで発表されたポップアップ・エキシビションでは、AIがこれからどのように生活に関わっていくのかをテーマとしたプロトタイプ展示や、来場者からのフィードを集めるデバイス展示などが行われていた。

ミュージアムの運営を手がけるのはドバイ・フューチャー.ファンデーション。ちなみに、今年5月にオープンしたばかりのそのオフィスはちょっとしたドバイ名物になっている。

なぜなら、建築から装飾、内装にいたるまで、すべて3Dプリンターで造形されているからだ。実際に活用されているオフィスとしては世界初の試みであり、3Dプリンターの性質をよく活かした、曲線美の美しいアイコニックな空間になっている。まるでSF世界がそのまま具現化されたようなオフィスだ。

右傾化する国際情勢と、イスラム独自のカルチャー発展

ドバイデザインウィークは、2015年に始まったばかりだが、右肩上がりのドバイの経済発展と連動して、中東・アフリカ圏のクリエイティブのハブとなることは間違いなさそうだ。

バーレーンやアルジェリアをはじめ、そして私たち日本人にとっては紛争地帯のイメージしかないパレスチナやイラクのようなエリアのデザインシーンを知ることができたのは貴重な経験だった。

政治的な混乱の多い地域でも、現代に深く根ざした新たな息吹は着実に存在している。

もちろん、グラデュエート・ショウなどを見る限りでは、国際的な大学の学生と比べると、現地学生や若手デザイナーたちには、これからの伸びしろに期待をしたいところ。

しかし、世界各国の優秀なデザイナーたちをドバイまで招へいし、直に交流の機会をはかったり、作品を見せ合ったりすることで、デザインの現場に活気を与えることは間違いない。また、その状況を加速するべく、ドバイの行政側が精力的に外との交流を結びつけようとしていることがよくわかった。

アメリカの大統領選、イギリスのBrexitといった右傾化が続き、欧米のメインマーケットではイスラム圏などマイノリティに対する風向きは厳しくなっていることは確かだ。

しかし、ここドバイでは、UAE(アラブ首長国連邦)の国民をはじめ、イスラム圏やアジア出身者たちが主役となり、非常に大きな経済が動いている。 もちろんイスラム圏特有の文化的な制約はあるものの、その文化的な背景を上手に使いながら、ここでしか生まれえない、独自の現代カルチャーが確実に育まれていると感じる。

この潤沢な経済発展を遂げるドバイにおいて、今後さらなる付加価値をつけるのがアートやデザインの役割だ。いま、新たなランドマークとしてのデザインやアートを取り入れる事で、観光業における付加価値や、世界の優秀な人材を集める魅力的な場所としての効果を高めはじめている。

そして、ドバイのマーケットはいまだ、大量消費社会をベースとした高度経済成長の最中にある。その市場は、特別なサービスやモノにお金を落とす高所得購買層が確実に地域内に存在していることを意味している。

中国の大都市やシンガポールと同様に、早いスピードで日々進化を続ける大都市ドバイ。4年後の万博も控えたいま、この国際感覚と地政学的なファクター、独自の経済活動などから、今後はどんなクリエーションが生まれるかに期待したい。

 

CREDIT

Tomomi sayuda square s
TEXT BY TOMOMI SAYUDA
武蔵野美術大学中退。Royal College of Art (MA) Design Products修了。テレビ朝日にてセットデザインアシスタントとして勤務後、2005年渡英。卒業後ロンドンでOnedotzero, Fjordでデザイナーとして勤務した後に、現在ドバイのGSM projectにて、インタラクティブデザインリードとして文化的コンテクストとテクノロジーを用いたミュージアムデザインの案件に携わる。2009年Creative Reviewベスト6卒業生選出。2014年The Mask of SoulがBBC等で紹介され話題に。会社勤めと同時に自身の作品をFrieze Art Fair, ICFF NY等で発表。様々なプロジェクトにものづくり視点からの、遊び心のあるデザインを提案している。 http://www.tomomisayuda.com/

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