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2016.11.08

社会変革期の台湾、オルタナティブの視点を与える台湾ビデオアートシーン

TEXT BY JUNYA YAMAMINE

日本からも人気の観光地として親しまれる台湾が、いま社会変革のただ中にあることをご存知だろうか。その社会状況は、アートシーンにも大きな影響を与えている。現在開催中の台北ビエンナーレ、台湾ビエンナーレなどの参加作家を中心に、台湾の現代美術の動向を見ていきたい。

宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』のモデルとなった言われる旧市街・九份をはじめ、小龍包や火鍋、マッサージなど、観光や食事を楽しみに毎年多くの日本人観光客が訪れる台湾。親日国としても有名で、近年、LCCの登場によって、日本人にとって最も行きやすい海外のひとつになった。

しかし、ひとたびその台湾の歴史や政治状況に目を向ければ、そうした楽しげな側面からだけでは物語ることはできないことがわかる。

大航海時代にはスペインとオランダから、その後は中国や日本から領有化されてきた台湾だが、現在も中国は台湾を不可分な自国の一部としている。そのため中国の影響力が拡大する昨今では、ますます国際的に独立国家としての承認を得にくい状況が続いている。

その一方で、文化や経済の独自性は広く知られるところであり、内部的にも台湾固有のアイデンティティを獲得しようという機運が高まっている。そうした台湾人としての自意識の醸成を背景に、2014年の「ひまわり学生運動」が起こり、2016年には民進党の女性党首・蔡英文が総統選で勝利、歴史的政権交代へとつながっていった。

日本でも1960年代の学生運動や東日本大震災の際に多くの文化人が行動を起こしたように、こうした社会変革が文化に与える影響は大きい。つまり、このような社会変革期にある台湾のアートシーンはいま、世界的にも注目すべき場面にあると言えるだろう。

都市に埋もれた記憶を呼び起こす。
台北ビエンナーレ「Gestures and Archives of the Present, Genealogies of the Future」

今秋の台湾では、隔年で開かれる台湾最大の国際芸術祭「台北ビエンナーレ」をはじめ、台湾人アーティストが集結する「台湾ビエンナーレ」、台北国立芸術大学に併設する關渡美術館の「關渡ビエンナーレ」、日本から高山明やミヤギフトシらが参加した鳳甲美術館の「台湾国際ビデオアート展」などが開かれている。

台北私立美術館を会場とする台北ビエンナーレでは、例年海外からゲストキュレーターを招いて開催されてきた。1998年の第一回目は森美術館館長の南條史生氏が、2014年には『関係性の美学』を著したニコラ・ブリオーと、これまで国際的なキュレーターが名を連ねている。

今回は、ブリュッセルのアートスクール、エコール・ド・レシェルシェ・グラフィーク(Erg)のディレクター、コリーヌ・ディゼレンスがキュレーターに就任した。掲げたテーマは「Gestures and Archives of the Present, Genealogies of the Future(現在のアーカイブとジェスチャー、未来の系譜学)」、歴史や社会、そしてアーカイブといった問題が交差する地点へと向かうアートに焦点が当てられた。

参加作家には、東京都現代美術館(MOT)での個展が記憶に新しいフランシス・アリス、メディアシティソウル2014をキュレーションしたパク・チャン・キョンがいる中、台湾の現代美術を牽引してきたアーティスト、陳界仁(チェン・ジエレン)の映像作品《Realm of Reverberations》が、展覧会テーマを象徴する作品として最も大規模に展示されていた。

《Realm of Reverberations》の舞台となったハンセン病患者収容施設「楽生院」は、日本統治時代に建てられたが、2006年に台北市高速鉄道省による取り壊しが決まり、そこに住む人々が強制的に退去させられた場所である。その後、その場所にまつわる記憶を残そうと10年にも及ぶ反対運動が続いてきた。陳界仁はそうした「楽生院」を取り巻く、歴史、人々の物語をまとめ、4面の映像インスタレーションと関連資料などを通して、都市開発の中で失われていく歴史に焦点を当てた。

CHEN Chieh-jen, Realm of Reverberations, 2014, four channel video installation, about 23min for each continuous loop, Photo courtesy of Taipei Fine Art Museum.

こうした政治、歴史、メディアといった権威への対抗軸としてアートの可能性を試みる作品は他にもある。フィールドワークで得た歴史的資料にフィクションを織り交ぜ、大文字の「歴史」に疑義を投げかける許家維(シュウ・ジャーウェイ)の《Spirit-Writing》だ。

また、メディアを通して日々消費される情報と、それに対する受け手の麻痺を出発点に、2009年の大規模な台風被害を受けた山間部の村々の実態を取材した写真家李旭彬(シュ・ピンリー)の《Disastrous Landscapes》などが展示されていた。

HSU Chia-Wei, Spirit-Writing, 2016 two channel video installation 9min 45sec, Photo courtesy of Taipei Fine Art Museum.
社会のタブーと偏向を見通す
台湾ビエンナーレ「Possibility of an Island」

台北ビエンナーレが国際展として開催されている一方、台湾ビエンナーレは国内作家のみで構成され、台湾現代美術の現在形を見ることができる。

今回の台湾ビエンナーレのテーマは、「Possibility of an Island(この島の可能性)」。「六本木クロッシング」(森美術館)のゲストキュレーターやトーキョーワンダーサイトなどを巡回した「アジア・アナーキー・アライアンス」のキュレーターを務めてきた台北国際芸術村のディレクターの吳達坤(ウー・ダークン)をゲストキュレーターとして招き、台湾国立美術館のキュレーター林曉瑜(リン・シャオユ)との共同企画で行われた。

出品作家、蘇匯宇(ス・フェイユ)の《Super Taboo》は森の中に佇む初老の男の回想が、2面で展開されるビデオインスタレーションである。

回想は、彼のさえない学生時代に森の中でポルノ雑誌を発見し、読みふけっているところを学校の生活指導員に捕まるという、なんとも情けないシーンから始まる。そして、カメラはカットを変えず、森の中で繰り広げられる過激な妄想世界へと移行していく。

作品に登場する裸体の羅列は《Super Taboo》という名にふさわしくポルノ映画さながらの内容だが、その直接的で露骨な映像は、時代や国、媒体、対象などによって異なる規制と表現の関係について問いかけている。

Su Hui-Yu, Super Taboo, 2015, two channel video installation, 18 min 30 sec. Collection of Double Square Gallery. Photo courtesy of the National Taiwan Museum of Fine Arts

次に紹介する陳敬元(チェン・チユエン)は、フラシス・ベーコンを思わせる重厚なペインティング、風刺的な立体作品やビデオインスタレーションを手がけている。そこにはさまざまな寓意が込められており、国際情勢や民族感情などを見立てた作品も多い。

今回展示されていた映像作品《Staggering Matter》は、机を囲みながら繰り広げられる白人の男女とアジア人男性の会話によって進行していく。そこで繰り広げられる会話は、オリエンタリズムの中に未だ回収されてしまうアートにおけるアジアの立場など、現実にある欧米とのさまざまな関係性の隠喩が込められている。

CHEN Ching-Yuan, Staggering Matter, 2011, three-channel video, 67 min 51 sec. Collection of the National Taiwan Museum of Fine Arts. Photo courtesy of the National Taiwan Museum of Fine Arts.
ビデオアートは、社会を照射する

ここまで、今年の台北ビエンナーレ、台湾ビエンナーレの参加作家の中から、台湾のビデオアートを紹介してきたが、その他にも歴史や社会状況を描いた重要な作品をあげることができる。

中でも、90年代にZKM(カールスルーエ)でビデオアートを学んだのち、アーティストとして多数の国際展に参加する一方、台北国立芸術大学で教鞭をとり、多くのアーティストを輩出してきた袁廣鳴(ユェン・グアンミン)を欠かすことはできない。

水戸芸術館の2人展「記憶の円環」でも展示された『Energy of Landscape』は、原発とそこに隣接するビーチの地関係から日常に隣接するリスクを取り上げ、また、『The 561st hour of occupation』ではひまわり革命で占拠された台湾立法院の内部で写し、今日の社会情勢をアーティスティックな手法で示した

YUAN Goang-ming, The 561st hour of occupation, 2014, Single channel video, Photo courtesy of TKG+.

また、LSD (Lost Society Document)というグループと共に、廃墟となった公共建築の施工責任者や施工費などを調べ上げ、写真と共に展示していくシリーズを制作する姚瑞中(ヤオ・レイヅォン)、タクシードライバーや東南アジアからの外国人労働者など低所得者層を通して社会の一側面を切り取る饒加恩 (ジャオ・チアエン) なども重要な作家である。

若手の中では、植民地化され続けてきた台湾の歴史をアニメーションで描いた杜珮詩(ツー・ペイシー)やナショナルアイデンティティについて言及する朱駿騰(チュ・チュンテン)。文化や言語によって生じるコンフリクトを描く余政達(ユ・チェンタ)などを挙げることができる。

情報に溢れた今日、ともすれば簡単に巷にあふれるステレオタイプなイメージに飲み込まれ、大きな時流に対して無批判になってしまいがちである。しかし、これらの作品は、アーティストとしての視点から社会の一側面を鋭く照射し、オルタナティブな視点をあたえてくれる。

こうした作品を通して見えて台湾の姿は、日本に広がるステレオタイプな台湾像とは大きく異なる。しかし、歴史的にも深く関わっており、距離的にも近い台湾だからこそ、こうした作品を通して改めて見て欲しい。

 

CREDIT

Yamamine
TEXT BY JUNYA YAMAMINE
水戸芸術館現代美術センター学芸員。1983年茨城県つくば市生まれ。多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科卒業。東京芸術大学映像研究科メディア映像専攻修了。文化庁メディア芸術祭事務局、東京都写真美術館、金沢21世紀美術館を経て現職。主な展覧会に「3Dヴィジョンズ」「見えない世界の見つめ方」「恵比寿映像祭(4回–7回)」(以上東京都写真美術館)、「Aperto04 Nerhol Promnade」(金沢21世紀美術館)。ゲストキュレイターとして、IFCA- International Festival for Computer Art (2011、スロベニアMKC Maribor)、waterpieces(2013、ラトビア、Noass)、SHARING FOOTSTEPS(2015、韓国、Youngeun Museum of Contemporary Art)、Eco Expanded City(2016、ポー ランド、WRO Art Center)などに参加。2015年度文科省学芸員等在外派遣研修員。

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