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2020.03.23

AI・ロボット研究者とSF作家が協働研究、大澤博隆が語る「SFから読み解く科学史」

TEXT BY MIREI TAKAHASHI,PHOTO BY TAKEHIRO GOTO

世にある数々のSF作品において、テクノロジーはどのように描写されてきただろう? 筑波大学の大澤博隆は、科学者自らがSF作品を分析し、これからのAIやロボットをどう捉え、実際の研究開発に役立ていくかを探るプロジェクトを立ち上げた。題して「想像力のアップデート:人工知能のデザインフィクション」。JSTの研究領域「人と情報のエコシステム(HITE)」のもとで進められる研究活動だ。科学者、人文学者、そしてSF作家が協働する異色の研究プロジェクトについて話を訊いた。

まずは、プロジェクトの概要を教えてください。

このプロジェクトでは、研究者であるか否かを問わず、「すべての人の想像力をアップデートすること」をテーマとしています。具体的には、過去のSF作品の中でも特にAIやロボット全般に関わる物語がどのように描かれてきたかを広くサーベイすることから始めています。また、その調査から見出された知見を発想の糸口として、新たな未来ビジョンを世に発信できればと考えています。

なぜSF作品に着目されたのでしょうか。

フィクションで描かれた想像力と、昨今めまぐるしく進展するテクノロジーの実情とを密に結びつけることで、新たな発見につながると思っています。

例えば『鉄腕アトム』(初出1952)は、ロボットやAIのイメージを一般の人に伝えた最初期の作品のひとつとしてよく議論に上ります。しかし鉄腕アトムの貢献は大変大きいものですが、鉄腕アトムで描かれた未来社会のビジョンが、果たして現代のAI開発の目指す目標として掲げるのが最適かどうかは、疑問が残ります。ですから、SF作品に描かれた未来像をそのまま受け取るのではなく、過去作品の描かれた背景、固有のイメージやその影響を改めて洗い直し、現代に適用可能な問題意識・本質的要素を検証したいと考えています。

ほかにも、アメリカの生化学者であり作家のアイザック・アシモフによるSF小説に登場する「ロボット三原則(*註)」(初出『われはロボット』1963)は、小説だけでなく後世に多大な影響を与えた原則で、一部のロボット工学者から「遵守すべきセオリー」に挙げられることすらあります。けれどアシモフの作品のストーリーをよく読むと、実際はロボット三原則によってトラブルが防げているわけではなく、むしろ三原則が引き起こすトラブルが、議題の中心となる話もあります。

われはロボット』(早川書房)

*ロボット三原則

1. ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
2. ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
3. ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。
— 2058年の「ロボット工学ハンドブック」『われはロボット』 

もともとアシモフは論理や合理性に規範を置いた作家で、超自然的なものも基本的に人間に解明されうるものとして扱っています。ロボット三原則も、それ自体がうまく動かすために有効な原則というより、非常にシンプルなルールで説明可能な制約条件を設定しておくことで、ロボットのような未知の技術においても、人間が予測可能な状態をつくることに意義がある、と読み解けます。特に20世紀初頭のSFでは、ロボットが一種の制御不可能なモンスターとして扱われてきました。

被造物がいずれ反乱を起こすストーリーは、人が根源的に持つ恐怖心として根強いように思いますが、それに対しアシモフは、人工物は設計可能な存在であり、特定のルールで記載できるということを改めて提言しました。

明確なルールで記載できるからといって、トラブルを未然に防げるわけではないかもしれませんが、トラブルの原因を説明することはできます。その説明可能性こそが、ロボット三原則の本当の価値ではないかと思います。だからこそエンジニアを含めた人々にも理解がしやすく、現代のAI倫理の議論などでも、引用される価値を持っているのだと思います。

テクノロジーがもたらす様々な社会課題や倫理に対して、物語から気が付くチャンスがあるということですね。

その観点で言えば、我々はハードSFだけではなく、もう少し「SF」の概念を広くとらえるべきだと考えています。必ずしも技術的に正確な描写ではなくても、思考実験の題材として十分想像力を刺激するかたちのものを検討することは有用だと思います。

例えばチェコの作家カレル・チャペックの『山椒魚戦争』(初出1935)という作品では、非常に賢いサンショウウオが発見されることから物語が始まります。みんなでそのサンショウウオを奴隷のように扱い、広めていくのですが、最終的にはサンショウウオが人間の個体数を超えて武装化し、
戦争に関わり始めるまでが描かれています。チャペックは人工的労働者としての「ロボット」という用語を初めて使った人物(自身の作品『R.U.R.』内で提示した)として有名ですが、異種の知能が入った社会のシミュレーションという意味でも、サンショウウオ戦争は重要です。実際にサンショウウオが知的になることはないと思いますが、そうした異種の知能が存在した時、社会の誰がそれに注目し、利益を得て、どのように広まっていくかという点については、今でも充分参考にできるものがあると思います。

 

そうしたSF作品の調査は、今後どのようにアウトプットされる予定でしょうか。

いずれは新たなSF作品の創作も並行して進めたいと思っています。今は勢いのあるSF作家も増えているので、プロジェクトで議論された知見とともに、彼らの力を借りながら、想像力の広がるストーリーを発信したいと考えています。ただし、研究者と作家が協働するからといって必ずしも技術の正確性を問うのではなく、技術の本質について何かヒントになるアイデアに重点を置くつもりです。例えば「これは到底実現できない」という技術のアイデアがあったとしても、その実現不可能性が新しいドラマを生み出せるのであれば、また異なる技術の解釈が発見できるかもしれません。

また、制作物は海外も視野に入れていきたいですね。日本のSFの海外進出はまだまだ途上ですが、今動向を注目しているのは中国です。中国はAI開発に多額の投資をしていますが、同時にSF作家の海外マーケット進出も支援しています。中でも『紙の動物園』で知られる中国のSF作家ケン・リュウがアメリカで大ブレイクし、彼自身も中国の若手作家の作品をどんどん海外に紹介しています。『Nature』誌では2009年からSF小説を連載し、中国作家の作品も数多く紹介されていますが、いまだ日本人はゼロ。こうした部分にも挑戦していきたいですね。

最後に、「想像力のアップデート」というプロジェクト名に込めた思いを教えてください。

私自身はエンジニアですが、広義には文学もまたエンジニアリングの一つだと考えています。何かしらの目的に対して、「これはどうだろう?」とアイデアを提示し、そこから発生する物語やビジョン・解決策を出していく。このプロジェクトでも、社会に新たな解決策を提示していきたいんです。そのとき、未来はひとつではありませんし、私たち一人ひとりを含めた人類が選んでいくもの。そこで私たちができることは、あくまで人々が未来を考える能力としての「想像力」を鍛え、それを更新、アップデートしていくことだと思います。その一助となるプロジェクトに育っていくと嬉しいですね。

大澤氏の選ぶ「いま読んでほしいAI時代のファンタジー作品」

近年、AIがリアルに生活の中に浸透しはじめ、現代のAIを題材とする作品も増えてきた。中でも、これまで監修などで関わった作品の見どころについて、大澤氏からコメントをもらった。

情報処理学会2020年1月号特集「『AIの遺電子』に学ぶ未来構想術」

「AIの遺電子」作者の山田胡瓜先生の作品論をベースとして、情報科学分野の新進気鋭の研究者が、それぞれ小説を書いた特集になります。情報処理学会に対し、我々のプロジェクト「想像力のアップデート:人工知能のデザインフィクション」が全面協力し、企画を行いました。プロの小説家とは一味違う、最先端の研究者が考える、新鮮な物語を楽しんでいただけましたら幸いです。

「アイとアイザワ」
原作:かっぴー 漫画:うめ(小沢高広・妹尾朝子)

広告業界出身で「左ききのエレン」等の作者であるかっぴー先生が原作を書き、「大東京トイボックス」「スティーブズ」等の作者であるうめ先生が漫画化を行った共作漫画です。天才女子高生がAIに恋するところから始まる逃走劇で、私は技術監修や、章間のコラムを担当しました。物語中のアイザワは、自身で物語を紡ぐAIでもあり、本作に関わることで、私自身もプロジェクトの役割を多く考えることになりました。
全2巻ですが、構成を直し、コラムがアップデートされた1冊の完全版が発売されています。また、本作を元にしたマーダーミステリー「アイとアイザワ:フライト・ゲーム」も作られています。

 

「AI崩壊」

「SR サイタマノラッパー」「ビジランテ」等の映画の監督をされた入江悠監督の最新作です。AI技術が普及した2030年における破局的状況を背景とした逃走劇です。私は東京大学松尾豊先生、はこだて未来大学松原仁先生とともに、作品の技術監修を担当しました。
未来におけるAI技術・情報管理のあり方や、映像の力、技術監修のリアリズムのバランスについて、本作品を元に議論いただけますと、監修者の一人として、大変嬉しく思います。

CREDIT

Mirei
TEXT BY MIREI TAKAHASHI
編集者。ギズモード・ジャパン編集部を経て、2016年10月からフリーランスに。デジタルカルチャーメディア『FUZE』創設メンバー。テクノロジー、サイエンス、ゲーム、現代アートなどの分野を横断的に取材・執筆する。関心領域は科学史、哲学、民俗学など。
Goto160
PHOTO BY TAKEHIRO GOTO
2008年(株)イイノ・メディアプロ入社。2009年より池田晶紀に師事。 2013年独立。 http://takehirogoto.com/

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