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2020.07.29

ロボットの群れから学ぶ、生命感と社会の縮図。宇川直宏×菅野創×塚田有那トーク(後編)

TEXT BY SAKI YAMADA,PHOTO BY MASASHI KUROHA

アーティスト菅野創による、120台のロボットが行き交う《Lasermice》は、まるで人間社会や生態系の縮図を映し出すかのように、様々な視点を与えてくれる群ロボットインスタレーションだ。今年3月に開催された展示企画では、作家の菅野創と同展キュレーター/Bound Baw編集長の塚田有那、そしてゲストにDOMMUNEの宇川直宏を迎えたトークが開催された。

アーティスト菅野創による群ロボットインスタレーション《Lasermice》と、OLAibi、Kuniyuki Takahashiという2人の音楽家によるライブセッションが原宿CASE Bにて開催された。前編の記事でも紹介した通り、ライブ当日は人間とロボットによる「異種間の共生」を探る実験的なショーが実現。翌日の菅野創、塚田有那、そしてDOMMUNEの宇川直宏をゲストに迎えたトークショーでは、《Lasermice》における「群れ」の現象をひも解きながら、生命観や人間社会のメタファーへと話題が拡張していった。ここでは、当日語られた重要なキーワードを順に解説していく。

(左から)塚田有那、菅野創、宇川直宏
クラスターと感染。同期現象からひも解く集団行動と人間社会

Lasermiceはレーザー光を放つと同時に、相手のレーザー光に反応すると音を鳴らすため、彼らがフィールド内を自走するうちに、次第に行動の連鎖(音の連鎖)が生まれていく。また緑と赤2色のレーザー光にバージョンアップした《Lasermice dyad》では、緑の光を受けると自身のレーザー光も緑になり、同様に赤色の光を受けると赤くなるように設計された。トーク中に菅野氏が紹介したシステム・シミュレーションでは、赤色と緑色のマウスがそれぞれ感染し合い、クラスターを生み出していくような状況が見受けられた。「クラスター」という言葉がここまで身近になった昨今、Lasermiceたちが生み出す連鎖反応は、人間社会の群れをも想起させる。

生命性は毛に宿る。『どきんちょ!ネムリン』との類似点

オーディエンスの多くがそのふるまいに生命性を感じてしまう《Lasermice dyad》。「あの子たちは仲良さそう」「あいつは孤独にがんばってる」など、観客それぞれが感情移入してしまう何かがそこにはあった。そのヒントとして、宇川氏が紹介した80年代の特撮番組キャラクター『どきんちょ!ネムリン』と「Lasermice」の共通点から、「生命性は毛に宿る」という格言(?)が出現。ビジュアルはいたって簡素な人形にも関わらず、「妙な生命感を掻き立てるのはこのふさふさした“毛”に違いない」と宇川氏。

1984年に放映された『どきんちょ!ネムリン』。なんと原作は石ノ森章太郎。

宇川氏の指摘に対し、「白い毛を使ったのはレーザーの光を拡散させるため。ただ、思いついたきっかけは当時のスタジオにいた白い猫でした。レーザーの実験中、たまたま猫が通りかかって、これいいなと思って」と菅野氏。なるほどロボットxネコという着想源がLasermiceの生命感を際立たせていたようだ。たしかに「知らぬ間に人形の毛が伸びていた」といった恐怖体験が昔からあるように、「毛」には人々の想像をかき立てる何かがあるのかもしれない。

Lasermice制作当時、菅野氏のスタジオにいたネコ。
群れはときに凶暴化する

さらに宇川氏は《Lasermice dyad》を読み解くもうひとつの視点である「群れ」を想起する生物として、バッタの大量発生を例に挙げた。『エクソシスト2』のエンディングではバッタの大群が畑を襲撃するというシーンが流れるが、バッタは時折群れになると凶暴化することが知られている。この行動はバッタ同士の羽がこすれ合うフィジカルな接触がきっかけでないかとも言われているが、群れにはある種の狂気性を帯びる瞬間がある。各個体の孤独を打ち消し、生の実感を生み出す「群れ」は、必ずしも調和だけをもたらすものではないことがわかる。

恐怖で結束する集団意識

バッタの群れを人間に置き換えてみるとどうか。新型コロナウイルスのように人類にとって大きな脅威が現れたとき、戦争や災害などでパニックに陥ったとき、その恐怖から強烈な集団意識が生まれることもある。塚田氏は、「愛情ホルモンとも言われる“オキシトシン”は、愛情や親密さを増幅させる一方で防衛本能が強まるとも言われている。守ろうとする意識が高まると、かえって他者に対して攻撃的になる」と語る。「またはある強いイデオロギーやイシューが集団を強化することもあるだろう」と。

またLasermiceも小動物のような可愛らしさがあるが、彼らの放つレーザー光線は直接目にすると危険でもある。生命への愛着という観点において、見た目やふるまいのかわいらしさなどがよく語られるが、異種である生き物には常に危険や不安もつきまとう。これは異種との共生を考える上で向き合っていくべき局面だとも言えるだろう。

フィジカルの行方。ライブストリーミングとアイドル握手会

ソーシャルディスタンスにより、デジタル世界でのコミュニケーションのさらなる進化が問われるようになった2020年。Lasermiceという機械とのセッションは、今後デジタル/フィジカルといった境界を越えるヒントになるかもしれない。宇川氏がストリーミングチャンネルDOMMUNEを始動したのはもう10年以上前だが、いまやどこもかしこもコロナの影響を受けてストリーミングライブを始めるようになった。だが「アイドル握手会」のような密度の高いファンの会合はそうもいかない。もしも今後5Gが普及し、異空間と現実の交わり方に変化が起きたとき、私たちはリアリティを超えたところにある何かを模索するときが来たと言えるだろう。

アバターと自己表現。子供とぬいぐるみの関係性からひも解く

トークラストの質疑応答において、観客席にいた児童精神科医の小澤いぶき氏は、「子どもたちとのコミュニケーション・ツールとしてぬいぐるみを手渡すと、そのやわらかな触覚から安心感を覚えるだけでなく、ぬいぐるみを自身のアバターのように会話し始めることがある」と語っていた。たとえば、今後Lasermiceが自己投影できるアバターとなり、自分自身を知る機会になりうるかもしれない。さらには、Lasermiceのもつ白い毛をさらに発展させ、人々の感情を喚起させるアイデアとして、宇川氏から「個人のDNA入りの毛髪を移植するのはどうか?」という発言も飛び出た。

相手が人であろうと、ロボットであろうと、誰かや何かと心を通わそうとする行為は一夜にして身につくことではない。何度も練習や気付きを重ねて理解を深めることが、他種との共生の第一歩となるだろう。
 
《Lasermice dyad ensembles》のイベントレポートはこちらから。
ロボットと人間がジャムセッション? Lasermice dyad Ensembleで見た生命の饗宴(前編)

 

CREDIT

Saskia
TEXT BY SAKI YAMADA
NYLON JAPANやi-D JAPAN等のカルチャーマガジンを中心にエディター・ライターとして活動。また”Saskiatokyo”名義にてダンスを軸としたエレクトロニックミュージックをプロデュースし、2017年に米レーベルDetroit Undergroundから1st EP『Fantasia』、2019年に日本のレーベル+MUSから2nd EP『Mag En Ta』と1st SINGLE「Ayeki」をリリース。Contact Tokyoを始めとする国内外のクラブでアバンギャルドなライブセットを披露する他、映像やインスタレーションの音楽制作も手掛けている。
Kuroha profile1
PHOTO BY MASASHI KUROHA
1988年生まれ。独学で写真を学び、都内撮影スタジオに入社。その後、写真家・鈴木心のアシスタント、アマナのプロデュースチームに所属。2018年に独立し、企業広告、雑誌、WEBなど媒体問わず、人物写真を中心に活動中。人の目を引く写真のアイデアと写真を見た後に何を感じてもらうか、を考えながら日々撮影している。 http://masashikuroha.com/

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