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2020.06.08

ロボットと人間がジャムセッション? Lasermice dyad Ensembleで見た生命の饗宴(前編)

TEXT BY SAKI YAMADA,PHOTO BY MASASHI KUROHA

アーティスト菅野創による、120台のロボットが行き交うインスタレーション《Lasermice》は、人間とロボットのロマンティックな関係を示唆する作品だ。3月、光と音を放つこの小型ロボットと人間の音楽家が文字通り「共演」する。出演したKuniyuki TakahashiとOLAibiはロボットとのアンサンブルから何を見出したのだろうか?

環境変動の深刻化、さらに民衆の二極化を加速させる社会問題など、混乱に満ちた世界を目の当たりにしている人類。いまこそ「共生」というキーワードをより具体的に考えるべき段階にきているのではないだろうか。Lasermice dyad Ensembleから、新たな共生のかたちをひも解いていく。

120台のロボットが生み出す、新たな「自然」のかたち

群ロボットインスタレーション《Lasermice》は、ホタルやムクドリなど、群生する生物に見られる「同期現象」から着想を得た作品だという。今回発表されたアップデート版《Lasermice dyad》は赤と緑2色のレーザー光を放ち、緑の光を感知すると装着されたソレノイドを床に打ちつけ、赤の光を感知するとしっぽの部分についた鈴が鳴る仕組みになっている。

そのLasermiceが120台も集結する時、何が起こるか。お互いの放つレーザー光に反応し合ううちに、音の鳴るタイミングが同期し、よりダイナミックな連鎖反応が生まれていくのだ。そのリズムは空間を満たし、まるで森の中でカエルの合唱に耳をすませ、ホタルが群れになって煌々と輝く姿を見るかのごとく、人工的な「自然」が出現する。

《Lasermice》緑1色バージョン。次第にLasermiceが同期していく様子がわかる。

二極化する社会を越えて、Lasermiceに見る共生の可能性

また2色のレーザー光が交錯するLasermiceの群れは、社会問題化する分断や二極化のメタファーとして捉えることもできるだろう。赤色のレーザーを受ければ赤となり、緑色のレーザーを受ければ緑になる。2色は拮抗しながら、絶妙なバランスで共存している。

これらのロボットはあくまで菅野創の設計したパラメータに基づいて動いてはいるが、彼らがどこへ進み、どこで赤から緑に感染し、どこでリズムを生み出すかはあくまでLasermiceのふるまいに任せられている。時に段差にからまったりしながらも自由にぐるぐると自走するLasermice。その光景を見つめていると、すべて人間によってコントロールしようとする人間中心の設計ではなく、機械にする自律性が生まれ、人間ならざる生命の一種として共に存在していけるような気さえする。

AI(人工知能)が人間社会における最適化を目指す設計だとすれば、ALife(人工生命)は生命的な現象や仕組みを機械でつくりだすことで、生命の本質を理解しようとする構成論的アプローチに基づいている。Lasermiceもまた、極めてALife的な作品だといえるだろう。

そのとき、AIが人間社会を支配するといったよくあるディストピアでもなく、テクノロジーの進化にあらゆる希望を託すのでもなく、人間と機械、そして他の生命とが共生していく道が拓けるのかもしれない。

そんな期待も寄せながら、3月14日に原宿CASE Bにて開催されたイベントが《Lasermice dyad ensembles》である。Lasermiceが生み出す自律的な光と音のループに音楽的要素を見出し、前代未聞となるロボットと人間のミュージシャンとのジャムセッションが実現した

音楽は異種と呼応するランゲージになる

Lasermiceのコラボレーターとしてライブを披露したのは、即興性とエレクトロニック・サウンドを融合し、自由自在に音を操るKuniyuki Takahashiと、自然界のあらゆる音を創作のインスピレーションとする打楽器奏者のOLAibiだ。

有機的かつ原始的な音楽アプローチをもつ彼らが、一見情緒のない無機質なロボットとセッションする。それは都心の展示会場が、不思議と居心地の良い空間へと変容していく異様な体験だった。ミニマル・ミュージックのごとくそこら中でカチカチと鳴くLasermiceに、心を通じ合わせるように音を鳴らすKuniyukiとOLAibi。

(左から)Kuniyuki Takahashi、OLAibi、菅野創

Lasermiceの音は私たちを未来へと連れていき、ミュージシャンの音楽は私たちを過去へと連れていく。そんな時間のパラドックスさえも感じさせる幻想的なライブは、壁に反射した2色のレーザーの演出も相まり、宇宙空間へ放り出されたかのようだった。

「セッションする時は相手の音によって自分の音も変わってくるんですが、このLasermiceとのセッションではリズムが何より大事でした。リズムを意識することで人間側とロボット側のコミュニケーションが成立する気がします」と、Kuniyukiは語る。

Kuniyuki Takahashi

一方、普段は鳥取の広大な森を「音の実験場」と捉えて暮らすOLAibiは、Lasermiceそのものに森の生命と同種の気配を感じたという。「普段から録り続けている森の音のように、別のベクトルで生きている生命体なのかなと思って。Lasermiceたちを見ているとカップルができたり、複数が集まってコミュニティになっていたり」。

OLAibi

ライブ終了後、「全員が一斉に鳴らす波動みたいなものがほしくなる」と語ったOLAibiからのリクエストは「この子たちと一緒に寝てみたい」。そんな声に応じて、菅野たちはOLAibiの暮らす鳥取までLasermiceを連れて向かった。当日のライブから鳥取の森への旅の様子は以下のドキュメンタリー映像からのぞくことができる。

Lasermice dyad Ensemble ドキュメンタリー映像「Dialogue with Lives」/映像監督:坂本麻人

音を鳴らす度にLasermiceとのコミュニケーションを実感し、そのコミュニケーションがLasermiceに対する愛着へと変わる。そんなごくごく普通な絆の生み出し方さえも尊く感じる。争いというループを打開する最善策とは思えない分断した社会の現状。異種間で歩み寄り心を通わせようと努力する、そんなまなざしを持つ姿勢こそが今後の社会を生きるアイデアのひとつだろうと、輝かしい気持ちになる夜だった。

ライブ終了後のトークにて

後編は、ライブ翌日に開催されたDOMMUNE宇川直宏とのトークの様子をお届けする。

編集・構成:塚田有那(Bound Baw編集長)

 

CREDIT

Saskia
TEXT BY SAKI YAMADA
NYLON JAPANやi-D JAPAN等のカルチャーマガジンを中心にエディター・ライターとして活動。また”Saskiatokyo”名義にてダンスを軸としたエレクトロニックミュージックをプロデュースし、2017年に米レーベルDetroit Undergroundから1st EP『Fantasia』、2019年に日本のレーベル+MUSから2nd EP『Mag En Ta』と1st SINGLE「Ayeki」をリリース。Contact Tokyoを始めとする国内外のクラブでアバンギャルドなライブセットを披露する他、映像やインスタレーションの音楽制作も手掛けている。
Kuroha profile1
PHOTO BY MASASHI KUROHA
1988年生まれ。独学で写真を学び、都内撮影スタジオに入社。その後、写真家・鈴木心のアシスタント、アマナのプロデュースチームに所属。2018年に独立し、企業広告、雑誌、WEBなど媒体問わず、人物写真を中心に活動中。人の目を引く写真のアイデアと写真を見た後に何を感じてもらうか、を考えながら日々撮影している。 http://masashikuroha.com/

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