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2020.04.30

アートのオンライン化が進行中。パンデミックで「ネットアート」はよみがえるか?

TEXT BY KENTARO TAKAOKA

世界中の美術館やギャラリーが閉鎖する中、これから何が可能なのか。オンラインによる新たな接続方法が問われるいま、90年代から隆盛した「ネットアート」が再び勢いを見せ始めている。美術館を3Dビューで眺め見る仮想体験も良いが、毎日スクリーンを眺めてみている私たちにとって、オンラインでしか体験しえない質感もあるはずだ。本稿では、2020年代のネットアートの行方を占う最先端シーンを紹介する。

#StayatHomeで始まるアートのオンライン化

私たちの生活を一変させた新型コロナウイルス(COVID-19)。その影響で、世界中の美術館やギャラリーは休館を余儀なくされたが、鑑賞の機会をどうにかして補おうと、展示空間をオンラインに移行する取り組みが盛んになっている。

例えば、Google Arts&Cultureでは、2,500以上の世界中の美術館とギャラリーがバーチャルツアーとオンラインコレクションを提供するようになった。今年開催予定だったArt Basel Hong Kongは、実際の見本市をキャンセルし、2億7千万ドルを超える額を投入して「Art Basel Online Viewing Rooms」を制作。そして、Biennale of SydneyはGoogle Arts & Cultureと連携しオンラインで公開予定という大規模な取り組みも始まっている。

Google Arts & Culture ウェブサイト

オンライン化は展示にとどまらない。ニューヨーク近代美術館(MoMA)では、「What is Contemporary Art?(現代アートって何?)」「Fashion as Design(デザインとしてのファッション)」といった専門のスクール講座を無料で公開。シカゴ美術館はオンラインプラットフォームを制作し、オークションハウスのPhillipsはオンラインオークションを開催。Frieze New Yorkはバーチャル・ルーム設立など、現実の代替となるネット上の取り組みが続出している。

また、新規性のある取り組みでは、オンライン配信ツールZoomを使ってアーティストとコミュニケーションを取りながら作品購入できるサービス「V-Art show」や、開催できなかった大学の展示などを中心にInstagram上で公開するアカウント「Social Distance Gallery」の登場など、さまざまなオンラインリソースを活用して現実空間が閉鎖されるこの憂鬱な状況に抗おうとしている。

ただ、主にバーチャル空間を用いて再現された展示は、実際の展示空間で鑑賞するという身体性を伴った本来の体験とはまた異なるもの。あくまで、現実に対して「仮想」の体験となる。

「ネットアート」はそもそもオンラインベースだった

このパンデミックの状況下で、再び注目を集めているのがインターネットアート(以下、ネットアート)だ。

元を辿ると、ワールド・ワイド・ウェブの出現直後の90年代中頃から始まったネットアートは、インターネットを主要な媒体としたアート作品のこと。ブラウザ内のインタラクションから美的な体験をもたらし、初期はハッカーカルチャーやアクティビズム、アナーキズムと親和性のある政治的な文脈を意識した作品が多かった。

初期の作風はテキストベースの作品が多く、インターネットの技術の進化やブラウザ内で可能な機能が増えるたびに表現が拡張されていった。そこから独自ドメインの取得やFlashが一般化された2000年代前半には「neen」というムーブメントが起き、ラファエル・ローゼンダールなどを筆頭にネットのブラウザをキャンバスとした新たなアート作品が次々と生まれていった。このときラファエルたちは、1作品=1ドメインとしてネット上で作品を公開し、作品購入にあたってはクライアントが作品ドメイン(URL)の保持者になるという手法を取っていた。ネット上で誰でも公開可能な作品に対して、ネット時代における「所有」の新たな概念を提示したのだ。

参考記事:「インターネットは移ろいゆく無常の自然」 ラファエル・ローゼンダール×田中良治|Bound Baw

また常時接続やスマートフォンの出現によってオンラインとオフラインの境目が薄くなっていった2000年代後半には「Post Internet (ポスト・インターネット)」という概念が生まれ、ディスプレイ内で起こっていた美意識を現実に反映させた作品が増えるなど、シーンのなかでもいくつもの流行があった。

ネットアートはすなわち、我々が日々使用するようになったインターネット・メディアのテクスチャをアートとして表現することにある。こうして、90年代後半〜2000年代にかけて火がついたネット上の「ストリート」は、いまこのStay Homeの状況下で新たな兆しを見せている。

ここからは、パンデミック発生後に開催されたネットアートのオンライン展をいくつか紹介する。ぜひ「ディスプレイ越し」で鑑賞してほしい。

ネットアートによる国際的連帯「We = Link:Ten Easy Pieces」

いち早く動きがあったのはやはり中国から。「We = Link:Ten Easy Pieces」は、上海のアートコミュニティChronus Art Centerが、2月上旬に国際的なメディアアートコミュニティに公募を送り、ロックダウンで不可能となったリアル展示の代替としてオンライン展示を開始した。現在の不確実性と不安に応えることを目的としたこの展覧会は、中国、韓国、アメリカ、オランダなど国境を越えた12のネットアートに関する機関の協力によって成り立ち、初期のネットアート・シーンから現在も活躍するJODI、Evan Rothの新作が展示されている。

ディスプレイ越しの不安から遠ざかる「Well Now WTF?」

インターネットやデジタルマテリアルを扱うアーティストのグローバルなハブとなる団体、「Silicon Valet」(シリコンバレーをもじった“シリコンの従者”の意)。その共同キュレーターでありネットアーティストでもある、Faith Holland、Lorna Mills、Wade Wallersteinによって企画された展示が「Well Now WTF?」だ。

ウェブサイトの解説には「私たちは一緒に集まり、自由に使えるクリエイティブツールを使用して、不安を引き起こすニュースサイクルや平凡なソーシャルメディアフィードの外に開放するスペースを構築する」とある。つまりは、日々ディスプレイ越しに伝達される「不安」を一時的に遠ざける内容となっているのだ。現在90名以上のアーティストによって開催中で、5月2日までに25人以上のアーティストが追加される。展示だけでなく、Paypalによるドネーション機能や、Twitchを介してオンラインパーティが東部アメリカ時間の5月2日14時〜16時(日本時間 5月3日早朝4時〜6時)で開催される模様。

世界最大オンライン・ビエンナーレのストリーミングTV「thewrong.tv」

アート、音楽などデジタルカルチャーにおける世界最大のオンラインビエンナーレ「the wrong」は、ストリーミングTV「thewrong.tv」を新しく立ち上げた。The Wrongの制作者は、「メディアはパンデミックに満ちており、私たちは常に現実とつながっています。そのため、私たちがストリーミングテレビを作成したのは、その現実とは何の関係もないものを見たくなったときのために」と説明し、絶え間なく続く報道から距離を取らせようとする。ちなみに3月に閉幕したビエンナーレは、2,300のアーティスト、210のキュレーター、150のパビリオン、100の大使館、世界中の320のイベントと、物理的な空間を必要としないネットアートゆえの最大規模数を誇っている。

「監視」と「資本主義」から脱するアイデアを公募

オンラインエキシビションのみならず、早い段階からアートプログラムの公募を始めたところもある。ニューヨークにて、テクノロジーとアートの複合レジデンス施設を持つ非営利団体「EYEBEAM」は、「Rapid Response For A Better Digital Future(より良いデジタルの未来に向けた緊急レスポンス)」という取り組みを開始。「監視・資本主義」を抜け出すためのアイデアとなるアプリケーションをオープンコールを通じて5月21日まで集め、上位12件に5,000ドルの助成金を提供するという。現在のソーシャルディスタンスへの対応ではなく、すでに始まった「with コロナ」の時代に向けて、10年後〜20年後の未来を早くも構築しようというメッセージだ。これは20年間、現在の社会システムをハックし、オルタナティブな未来をつくろうと挑戦し続けてきたEYEBEAMらしいプロジェクトといえるだろう。

政治コンセプトを打ち出すアートコレクティブ「Dis」
パンデミック下のドローンを動画に

アートコレクティブ「Dis」は、ソーシャルディスタンスを求められる状況下でドローンを用いた動画を公開。ドローンは街をどれだけ歩いても感染しないからだ。「Dis」はもともとネットを介した表現を扱うオンラインマガジン「DIS Magazine」として始まり、オンラインならではの表現をシニカルに紹介し続けてきた。

その後、アート活動を開始し政治的なコンセプトを含んだ動画を公開するようになる。最近ではバーニー・サンダースの応援サイトを作るなど、直接的な政治的な活動も行うように。ネットアート自体、もともとアナーキズムやハッカーカルチャーを元にしていたものが、時代とともに異なった政治性を帯びてくるのが興味深い。

続々と展開されるオンライン・エキシビション

その他にも、パンデミックによって起こったネットアートに関する取り組みはいくつもある。中国のオンラインミュージアム「X Museum」は、鑑賞者が自宅から施設を探索する機会を与える、インタラクティブな仮想プロジェクトスペース。6月にオンラインで開催されるデジタルアートのフェア「CADAF Online」。収束まで会期が延長される、CPUによるキュレーションのオンライングループショー「Host」。デジタルアートの仮想展示スペースであり、アートイベントをオンラインで開始できるサービス「dot.gallery」。デジタルアートの教育スペースであるPOWRPLNTは「POWRPLNT our Virtual Doors」と称し、現在の状況下におけるリソースのリストを公開している。

ほかにも、オンラインプラットフォーム「upstream.gallery」で開催中の新しいシリーズのオンライン展覧会。その初回は、ポスト・インターネットアートの潮流で名が知れたラファエル・ローゼンダールがキュレーションを担当する。この展覧会「Quiet, Calm, Staring」は、「私たちは危機の前からオンラインでしたが、危機の後にもここにいます」と宣言し、参加するアーティストはパンデミック以前から名高いネットアーティストたちによる過去の作品が集結した。

ネットアートの歴史は更新されるか

ネットアート史における重要な作品は、ニューヨークにあるデジタルアートの展示と継承、ソフトウェア開発を手がけるプラットフォーム「Rhizome」が作った100作品を選出した回顧展「NET ART ANTHOLOGY」で現在も鑑賞できる。インターネット黎明期から2010年代までの作品が紹介され、この企画に関連した展示もニューヨークの美術館ニューミュージアムで行われた。

こうした個々の作品だけでなく、現実を代替するかのように、いくつかの作品を複合的に展示するオンライン展も増えていった。1991年のパソコン通信時代から2013年までのオンライン展の歴史はRhizomが中心になって制作したこちらの年表にまとめられている。先ほど紹介したオンライン展含め、近年の展示がまとまった記事もあるので、触れてみてほしい。

展示に続いて、2010年代前半にはネットアートのグランプリオークションもつくられ、現実で行われていたアートを取り巻くさまざまな環境が、ネットアートの進化とともにオンライン化されていった。これら過去の取り組みによって、冒頭に紹介したパンデミック以降に盛んになった現実のギャラリーやオークションなどがオンライン化されることへの迅速な橋渡しになっているはずだ。

ここ数年ネットアート自体は停滞していたが、パンデミック下でネット上に人が集まるようになり、奇しくもネットアートに再度注目が集まるようになった。そしてZoomなどを介してディスプレイ越しに会話をすることに違和感がなくなった現在、以前に増してネットというストリートから、新たなクリエイティブが生まれることだろう。

 

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TEXT BY KENTARO TAKAOKA
オンラインや雑誌で音楽、アート、カルチャー関連の記事を執筆。共編著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』『ピクセル百景』など。荏開津広、寺沢美優とのグループ「Urban Art Research」で活動中。

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