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2020.10.22

SHIBUYA SKYは、新たな渋谷の「聖地」となるか? ライゾマティクスデザイン有國恵介インタビュー

TEXT BY MIREI TAKAHASHI

渋谷の夜空に巨大な光の柱がかかる。それは、2019年11月に開業した大規模複合施設・渋谷スクランブルスクエアの屋上から発信されるサーチライトだ。同施設の「SHIBUYA SKY」と呼ばれる展望施設には、100年に一度と言われる渋谷の大規模再開発の一環として、大都市の中心に人の創造性を解放させる聖地を作るという意図があった。企画から体験設計、演出、広告まで多岐にわたるディレクションを手がけたライゾマティクスデザインの有國恵介に話を聞いた。

なぜ人は登るのか。世界中の「聖地」を検証した展望台

SHIBUYA SKYのプロジェクトを手掛けるにあたって、ライゾマとしてチャレンジしたことを教えて下さい。

有國恵介(有國):  SHIBUYA SKYは空間設計の比較的早い時期から企画に参加できたため、空間や体験デザインに携わることができました。多くは空間設計がほとんどできあがったところで僕たちに演出の相談が来ることが多いのですが、ここは空間と演出、広告までを含めたトータルのコミュニケーションが可能になったと思います。設計や演出のほか、コンセプトを伝えるビジュアルやコピーの制作、スタッフへのマニュアル作りやユニフォームのデザイン、オフィシャルグッズいたるまでを一貫して手掛けました。

大切にしたことは、カルチャー、ストーリー、メッセージの3つ。カルチャーは制作の動機に関わります。例えばこの写真は1957年の渋谷駅周辺を上空から撮影したものですが、まだ渋谷都市開発の黎明期であるこの年に渋谷駅の真上に五島プラネタリウムが建てられたという歴史は、クライアントである東急がとても大事にしてきた文脈です。同社が都市開発の上で重視する「良い街には人が育つ文化が存在する」というコンセプトにつながるからです。その文脈に沿うなら、100年に一度といわれる渋谷再開発のシンボルであるSHIBUYA SKYもまた、人が育つ文化の発信地となるべきです。

体験ストーリーを組み立てるにあたって、「なぜ人は登るのか?」という問いを根本から見つめ直しました。ランドマークとなる高い建物はどの街にもありますが、それは高台から眺めて街の歴史やエネルギーを感じたいという人が根源的に持つ欲求に起因するのではないか、と考えました。そうして世界の文化を見ていくと、例えばインドのヒンドゥー教、チベット仏教などの多くは高い山の奥地に聖地があるし、イスラム教の聖地であるアラファト山も然りです。日本にも山自体が御神体だったり、頂上部分が聖地になっていたりしますね。では、なぜ山頂にあるのかといえば、視界をさえぎるものがなく景色が360度広がって見えること、そこで世界を見つめ、さらなる創造力が刺激されるからではないかと考えました。

宮島「弥山展望台」から見渡す風景

そんなインスピレーション源となった場所のひとつが、三分一博志さんが設計した広島県宮島の「弥山展望台」です。御神体は弥山そのもので山頂に展望台があります。弥山を登る途中の道では狭い岩場に視界がさえぎられ、まったく外の様子がわかりません。登り切ると突如として視界が開け、そこから振り返ると自分が今まで通ってきた道を俯瞰して見られる構造になっています。これは普遍的な体験構造で、さまざまな文化圏に存在する通過儀礼にもあるような、日常から人を分離させて、過渡期を経て変容した自己をまた元の状態に戻すプロセスに通じるのだと思います。

つまりSHIBUYA SKYでも、そうした聖地に見られる「変容」を意識したんですね。

有國:そうありたいと思いました。その体験構造を施設全体の体験ストーリーに盛り込み、それぞれの空間の役割を規定していきました。SHIBUYA SKYでは、日常から「分離」し、再び日常に戻る「統合」までの一連の流れを、14階にあるエントランスからすべての空間に当てはめました。

SENSING HALL 予感の部屋

例えば14階のエントランスでは意識的に天面の鏡や床面の反射を使って、空間が少し歪んで見える構造にしてあります。そうすることで、まず来場者の意識を日常から非日常に導いていく。入り口から45階まで上がるエレベーターでは、乗客が重力を身体的に感じるタイミングで天井に投影された映像がふわっと切り替わるなどの工夫をしています。音の聞こえ方にもこだわりたかったため、合計8台のスピーカーをエレベーター内に設置しました。エレベーター内部の構造にはさまざまな制約があったので、ここの設計にはかなり苦労しましたね。

TRANSITION POD 移行する部屋

到着して扉が開くと、二重らせん構造の部屋に入ります。ここにも内側にせり出した壁を作るなどして敢えて圧迫感を演出したり、46階まで登るエレベーターでは玉砂利の上を歩く音を使うなど、神聖さを感じる雰囲気を演出しています。そうした狭くて暗い空間を登り切ってSKY STAGEに入った瞬間、屋上に出た瞬間にはっとするような開放感に包まれる。そのとき、できるだけ視界に余計なものを入れたくなかったんです。あえて屋上にも余計な物を設置せず、自由に回遊し、のびのびと寝転んだりできるような設計を練りました。

SKY STAGE 解き放たれる空の舞台
クリエイティブを維持する戦略

大型の複合施設施設案件で、クライアントの意向や安全面も考慮しながら企画を実現させていく。相当のハードルがあったかと思いますが、どんなチーム編成でプロジェクトを進めたのでしょうか?

有國: 展望施設の設計をメインで行ったのは日建設計さんでした。2年半前くらいに最初の打ち合わせが始まった段階では、僕らはあくまでコンテンツ制作者でした。ただ、丁寧にコンセプトやストーリーをつくってプレゼンを続けたことが功を奏して、施設全体の体験のディレクションまで携われるようになりました。

とはいえ、僕たちに建築のバックグラウンドはないので、乃村工藝社さんとタッグを組み、それぞれ分担しながら設計を進めていきました。もちろん苦労はしましたが、渋谷スクランブルスクエアさんとは深い信頼関係を構築できたとも思います。この関係が築けたおかげで、空間からコンテンツ、広告戦略までを一貫して形にすることができたと思っています。

CLOSSING LIGHT 上空を照らす光の柱
SKY GALLERY

チーム全体の規模感は?

有國: 20人くらいです。僕がプロジェクトディレクターとしての立ち位置で全体を統括しました。広告周りのクリエイティブディレクションはライゾマティクスデザインの清水啓太郎と共同で行い、コピーライターやアートディレクターなどのクリエイティブチームを作りました。空間のデザインは、僕がディレクションしながら乃村工藝社の空間チームと弊社のチームで担当しました。コンテンツの開発は、ライゾマティクスリサーチのチームも手掛けています。

そういう意味では、ライゾマティクス内のデザイン、アーキテクチャー、リサーチという三部門がこうした大きなプロジェクトのもとで協力することで、最大限のパフォーマンスを発揮できたかなと思っています。

GEO COMPASS 中心に立って世界を見通すコンパス

これだけ人工物に囲まれた渋谷という街の中で、巡礼地や霊山としての「聖地」を建てるという試みがとてもエキサイティングですね。

有國: 人の想像力を拡張させる場所が街の中心の高みにあって、そこに人々が実際に立つことができる。本来、街にはそういう場所が必要なのだと思います。ただ観光的に訪れてもらうだけではなく、もっと文化が育っていく場所にしたい。そこで今後は、写真展や音楽イベントなどのカルチャーコンテンツを企画しています。SHIBUYA SKYの展望台は、プロセスの体験自体をコンテンツにすることで、「見る」という行為の持つ可能性を広げたかった。100年に一度の都市開発の象徴として、未来を見通す場所になっていくといいなと思います。

 Photo: Maciej Kucia (AVGVST)

有國恵介 Rhizomatiks Design・Rhizomatiks Architecture兼務。プロジェクトディレクター/プランナー。東京造形大学卒業後、イベント制作会社、大手広告代理店を経てライゾマティクスに入社。東京駅100周年記念TOKYO COLORS総合演出などを手掛ける。2019年11月にオープンしたSHIBUYA SKYのプロジェクトディレクションなどを担当。 

INFORMATION 

2020年11月1日(日)、SHIBUYA SKY開業1周年を記念したカルチャーコンテンツプログラムがスタート。
SHIBUYA SKY WEBSITE
https://www.shibuya-scramble-square.com/sky/1aniv/

EXHIBITION SERIES vol.2   IWASAKI TAKAHIRO
FOCAL DISTANCE  | 焦点距離

開催期間:2020年11月1日(日)~2021年1月17日(日)
場 所:SKY GALLERY(46階)
協 力:ANOMALY
「視点を拡げる」という共通テーマを持った展示シリーズの第2弾。アーティストの岩崎貴宏による、観る者の視点に潜む焦点距離を変化させることに着眼した変貌する都市のポートレート的作品を展示。作家自身がSHIBUYA SKYを体験したインスピレーションから制作されたオリジナル作品を主軸に展開。

 

ROOFTOP THEATER vol.2
IMAGE FORUM FESTIVAL in the SKY

開催期間:2020年11月6日(金) / 7日(土) / 20日(金) / 21日(土)
開催時間:各日18:00~21:00
場 所:SKY STAGE(屋上)
【上映作品】
2020年11月6日(金) / 20日(金)
Program A:『エンパイア』アンディ・ウォーホル、『リズム』レン・ライ ほか
2020年11月7日(土) / 21日(土)Program B:『ファイナル・カット』パールフィ・ジョルジ

東京都渋谷区を拠点に、芸術性の高い作品やアヴァンギャルドな古典映像の企画など、独自の上映と発信を 行うイメージフォーラムによる映像祭「イメージフォーラム・フェスティバル」の特別上映プログラムを開催。世界で評価されたアニメーション作品と、貴重なアートフィルムでプログラムを構成し、SHIBUYA SKYの360°のパノラマビューと共に楽しむ映画体験をお届けする

ROOFTOP MUSIC vol.3 / vol.4
“CONTACT” WITH SKY

開催期間:2020年11月14日(土)vol.3 / 28日(土)vol.4
開催時間:各日16:00~19:00
場 所:SKY STAGE (屋上)
機材提供:Pioneer DJ 
【出演アーティスト】
2020年11月14日(土)DJ: WATA IGARASHI | LIVE: machìna
2020年11月28日(土)DJ: Kaoru Inoue(Chari Chari) | LIVE: bird

日本における、クラブカルチャーを生み出し、牽引してきた渋谷。その中心である渋谷道玄坂に拠点をおくクラブ「CONTACT」プロデュースによる、DJ+LIVEイベントを開催。屋上の“解放感”を最大に感じるサンセットアワーを音楽と共にお楽しみいただきます。

 

CREDIT

Mirei
TEXT BY MIREI TAKAHASHI
編集者。ギズモード・ジャパン編集部を経て、2016年10月からフリーランスに。デジタルカルチャーメディア『FUZE』創設メンバー。テクノロジー、サイエンス、ゲーム、現代アートなどの分野を横断的に取材・執筆する。関心領域は科学史、哲学、民俗学など。

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「Bound Baw」は大阪芸術大学アートサイエンス学科がプロデュースする新しいWebマガジンです。
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