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2019.01.09

デジタルアートフェスを世界各国比較!電子音楽とアートの祭典「MUTEK.JP 2018」レポート

TEXT BY MIREI TAKAHASHI

2018年11月1日〜4日、モントリオール発の音楽とデジタルアートの祭典MUTEK.JP 2018が開催された。メイン会場をお台場の日本科学未来館に、渋谷のライブハウス/クラブのWWW、WWW X、代官山UNITの合計4ヶ所で同時多発的に開催。合計20カ国から70組近いアーティストが集結した。また同時に、本家モントリオールのMUTEK、バルセロナのSónar、ハーグのToday's Art、モスクワのGAMMA Festivalのディレクター陣も集結。各国のデジタルアート、音楽フェスティバルは都市とどんな関係を結んでいるのか。貴重なパネルディスカッションとライブの模様をレポートする。

突然変異を誘発する、音の新体験

「MUTEK」という名称の由来は、MusicとTechnologyの略語であり、Mutation(突然変異)という意もある。ジャンル、バックグラウンドの異なるアーティストが交流することにより、より挑戦的ななコンテンツやアイデアを創出できる人材が集まり育つ場を目指している。ファウンダー・アーティスティックディレクターのアラン・モンゴーが、「相対的な価値を持続させる」と提唱していることからも、それは明らかだ。

お台場の日本科学未来館がメイン会場となったMUTEK.JP。まずは、当日行われた数々の珠玉のパフォーマンスを紹介しよう。

evala 「She, Sea, See - まだ見ぬ君へ」
©MUTEK Japan / Photo by Miho Yoshida, Ryu Kasai, Shigeo Gomi, Yu Takahashi

11月3日夜に行われたevalaのライブには海外から来た人たちもふくむ大勢のオーディエンスが詰めかけた。サウンドアーティストevalaの奏でる音は、おそらく他のどのアーティストとも似ていないだろう。一般的には決して耳に心地よい音ではないにもかかわらず、一度耳にしたらその場を離れることを許さない強烈な吸引力を持っている。4chのスピーカーから出力されるサウンドが人々の精神を捉え、我々が認知している現実の隣り合わせに存在する闇の向こうへと引っ張られていく感覚になる。それと同時にバイブレーションの渦が全身の血管を走り回り、彼の作る音色に宿るゴーストに憑依されたような離人感を覚える。会場後方を歩いてオーディエンスの反応に耳を傾けると「ヤバい、こんなの聴いたことないよ」という声も聞こえた。

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続いてのパフォーマンスはジェフ・ミルズとマイク・バンクスのX-102によるデュオであった。彼らが1992年に発表し、現代電子音楽界で当時最も未来的と評されたアルバム「X-102 discovers The Rings of Saturn」を"再発見"する試みとなったこのライヴ。

土星という惑星に魅了され続けてきた彼らは、探査機Cassiniのミッションなどからインスピレーションを受け、新たな「土星のリングを発見する」ライヴを展開。スピリチュアルなテクノとスクリーンに投影される惑星の映像が、未知への静かな期待とともにオーディエンスの緊張感を解いていく。日常の些事よりも一段大きなスケールから降り注がれるサウンドに浄化されるような恍惚の時空体験となった。

11月4日は、音と錯視で空間を設計するNONOTAKによるパフォーマンス「ECLIPSE」。数メートル四方のスクリーンに投影された線や幾何学模様はNoemiによるデザイン。その間隔やサイズの変化により、あたかもそこにバーチャルな建造物が存在し、そこを浮遊しながらたゆたう錯覚を与える。Takamiの演奏するエレクトロニカとのシンクロとともに、オーディエンスを魅了した。

都市とデジタルアートの関係

常に突然変異(アップデート)を繰り返すMUTEKのフェスティバルを深掘りするために、本稿では各国のデジタルアートのフェスティバルの現状も紹介する。

未来館ホール行われたパネルディスカッション「人と都市を育てる、世界のデジタルアートフェスの秘密」。登壇者はToday’s Art(オランダ ハーグ)のオロフ・ヴァン・ヴィンデン、Sónar(スペイン バルセロナ)のアントニア・フォルゲーラ、GAMMA Festival(ロシア モスクワ)のナタリア・フックス、MUTEK(カナダ モントリオール)のアラン・モンゴー。モデレーターはデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミが務めた。

(左から)アラン・モンゴー(MUTEK)、オロフ・ヴァン・ヴィンデン(Today's Art)、アントニア・フォルゲーラ(Sónar)、ナタリア・フックス(GAMMA Festival)

カナダ・モントリオールで第1回目のMUTEKが開催されたのは2000年のこと。アランによれば、当時はすでにヨーロッパ各地で新しい形態のアートフェスティバルが開催されており、北米が遅れを取っているように感じたのだという。そこで彼らはモントリオールに拠点を作り、ヨーロッパからアーティストを招いて対話の場を作った。

「どのような分野であれ、アートはその発展の手助けとなる専門的なプラットフォームが必要です。そして、それは他の地域へも自然と波及していくはずだと思いました。1回目のMUTEKを終えた後、ヨーロッパの7つの都市のオーガナイザーからMUTEKと一緒に何かをしたいというコンタクトがありました。自分たちを確信した瞬間でしたね」。その後MUTEKはメキシコシティー、バルセロナ、ブエノスアイレス、ドバイ、サンフランシスコ、東京と世界各国に拠点を増やし現在に至る。

続いては、Today’s Artのオロフ。Today’s Artは2003年から15年間にわたってオランダのハーグでデジタルアートの祭典を行っている。彼らもまた、伝統的な文化機関が扱いにくい新たなタイプのアートを発表するプラットフォームの必要性を感じていた。

「私たちの活動は本当に草の根から。はじめはビルを不法占拠して音楽イベントを開催して、そこにアートアカデミーの学生を招待していました」とオロフは振り返る。彼はバーで働いて生計を立てながら仲間とともに活動を続けていた。自治体の文化事業に対する助成金を受けてはいたが、スタッフに給与を支払えるようになるまで、4〜5年の歳月がかかったという。

やがて彼らに大きな転機が訪れた。当時ハーグでは大規模な国際ジャズフェスティバルが開催されていたが、開催地がローゼンハイムになったことを受け、ハーグの自治体が国際的なものへと成長する可能性があるアートイベントを公募した。オロフたちは、「すべての芸術分野に対してオープンな、新しいプラットフォームを」というプレゼンテーションが功を奏して市に選出され、Today’s Artという形でアートフェスティバルが実現した。2014年からはここ日本でも提携プロジェクトが開催されている。

アントニアがキュレーターを務めるSónarは25年の歴史を持ち、毎年10万人を集める老舗の電子音楽フェスティバルであり、近年はアートやテクノロジーの最先端を奨励するプラットフォームSónar+Dも同時開催する(詳しくは弊誌 Sónar/Sónar+Dレポートを!)。彼女たちにとっても、資金調達の課題は重要である。Sónarを運営しているのはAdvanced Musicという民間企業で、来場者からのチケット収入とともに、バルセロナおよびカタルーニャからの公的資金、フェスティバル間のコラボレーションに資金提供をするEUのファンドからの資金を運営資金に充てているという。

一方でロシアのARTYPICALが運営するGAMMA Festivalの信条はあくまでインディペンデントにあるとナタリアは語る。モスクワにある旧ソ連時代の巨大工場の跡地を会場に、アンダーグラウンドな空気をまとった超実験イベントが種々開催される。
「アートイベントに助成をする制度がロシアにはないので公的資金には頼っていません。それに、独立した組織としてイニシアチブをとり続けるためには、政府からの助成など公的資金に頼ることは非常に危険だとも考えています」。

それと同時に国際フェスティバルなどを通して国際社会と関係を構築していくことも、活動を続けていく上で重要となる。海外からのゲストを呼ぶ際に、海外の組織や文化センターなどからの助成を申請する糸口となるからだ。

フェスティバルは未来への投資

この十数年で各国増加し続けているテクノロジーとアートの祭典、彼らがもたらす波及効果とは何だろうか?開催地の文化資源として、各国から観光客が集まることにより経済の活性化はもちろん、各年のコンセプトを掘り下げることで、その土地のアイデンティティを再確認することもある。そして、もうひとつの重要な要素となるのは、教育という未来への投資である。

「もちろんベテランのアーティストを招くことは良いことですが、私たちが最も優先すべき責任は、新しい才能と新しいアイデアを発掘することです」とアントニアは語る。発掘対象となるのはアーティストのみならず、新たなテクノロジーやアイデア、視点、体験もふくむ。

ほかにもSónar+Dでは7〜8年前からアート&サイエンスのワークショップの開催を重視しており、毎年その数を増やしている。そこでは、小型衛星の構築方法から、モジュラーシンセサイザーの構築、VRコンテンツの制作まで様々なことを学ぶことができる。

「モントリオールのMUTEKは、教育やインスピレーションをもたらすことにこそ意義がある」とアランは語る。来場者や参加アーティスト同士に対してはもちろん、モントリオール市の政策決定者たちに対しても、街の運営の方針について示唆を与えることを意図している。

また彼は、デジタルアートが若年層にも訴求しやすい表現方法であると語る。「コードを使ったアート教育は、まだ通常の教育機関では提供されていません。ですからアーティストがクリエイティブなコードを使用して表現しているのを見た若い世代が、そこからインスピレーションを得ることで、新たなアートの開拓へ進んでくれればと願っています」。

Touchdesignerワークショップの様子
©MUTEK Japan / Photo by Miho Yoshida, Ryu Kasai, Shigeo Gomi, Yu Takahashi

MUTEK.JPでも、教育要素としてTouchdesignerやAbletonのワークショップを開催。MUTEKの開催目的は異なるジャンルや国籍、バックグラウンドを持つアーティストが集うプラットフォームを作ることであり、世界各地で起きているムーブメントとコラボレーションしながら発展していくことである。次回また東京で開催される時には、さらなる進化をとげているに違いない。

 

CREDIT

Mirei
TEXT BY MIREI TAKAHASHI
編集者。ギズモード・ジャパン編集部を経て、2016年10月からフリーランスに。デジタルカルチャーメディア『FUZE』創設メンバー。テクノロジー、サイエンス、ゲーム、現代アートなどの分野を横断的に取材・執筆する。関心領域は科学史、哲学、民俗学など。

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