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2018.09.28

宇宙空間で音楽をつくる時代がやってくるーバルセロナSónar 2018レポート

TEXT BY MIREI TAKAHASHI

2018年6月14日〜16日に、スペインのバルセロナにて、音楽とアートの祭典Sónarが開催された。Sónarは今年で25周年を迎え、119カ国から12万6000人が参加。過去最多の集客数を記録した。宇宙空間における音楽をテーマとした実験プロジェクトから、プライバシー問題が行き着く先まできたインターネットの行く末まで、最高の音楽ライヴと同時に多様な議論が巻き起こった4日間をレポートする。

25年間、Sónarが「特別」であり続ける理由

Sónarには昼間のステージby Dayと夜通し続くステージ by Nightがある。Sónar 2018に参加したアーティストは総勢150人以上、Alva Noto+坂本龍一、Gorillaz、Thom Yorke、Diplo、Bonobo、Young Leanといった豪華ラインナップであった。今年は日西外交樹立150周年ということもあり、コーネリアスをはじめとする日本人アーティストも多く参加していた。

開催2日目の深夜にSonarClubを聴衆で埋め尽くしたのはGorillaz。メンバーのDamon AlbarnとコミックアーティストJamie Hewlettは、世界で最も成功したバーチャルアーティストとして知られているが、歌詞やビジュアルに込められた社会風刺やバンドメンバーの屈折したキャラクター設定も見所である。

3日目のクライマックスを飾ったのはトム・ヨーク。背景のスクリーンに投影されたビジュアルは今年4月にベルリンで開催されたアートプロジェクトISM HexadomeでTarik Barriとのコラボレーション作品「CITY RATS」を再現したもの。「Versum(ヴァーサム)」という架空の世界でトム・ヨーク が歌うという設定である。

時代とともに音楽のトレンドが変化し、フェスティバル市場はどんどんと飽和していくなか、Sónar が常に「特別」だと称される要因としては、同時開催される音楽とクリエイティブのイノベーション創発イベント「Sónar+D」によるところが大きいだろう。

Sónar+Dではビジネスとクリエイティブ、テクノロジーを横断したセッションやワークショップが連日開催され、世界各国から集まる最先端の知見を共有することができる。会場内に設営されたブースでは、体験型インスタレーションや出展物に触れられ、スタートアップガーデンでは起業家やエキスパートから直接アドバイスを得たり、事前に登録したアプリを通して来場者同士でネットワーキングをすることもできる(一部登壇者へのアクセスも可能だ)。

来たるべき未来の予言に耳を澄ませる、秘密の儀式

日本大手のECショップ「ZOZO」で知られるスタートトゥデイの創業者がアーティストを連れて月を旅行すると宣言し、「月世界旅行」が20世紀初頭のSF映画ではなく、近い将来の現実となりつつある。それはとりもなおさず、地球に生息する人類が空気や重力など地球という惑星の持つ環境の下で暮らし、アートや文化もまた、その制約の中で培われてきたことを改めて意識させられる時代となったということでもある。

Sónarでもまた、新たなプロジェクトが始動していた。「地球外で創作される芸術作品は、どのような感覚を与えるか? そして宇宙における人間の文化は、この先どのようなものになり得るのだろうか?」

このような問いからThe Zero Gravity Bandによって制作された、光と音によって無重力の感覚を誘発する360度の没入型インスタレーションが、Sónar会場内に設置された360°ドームで体験することができた。

ドーム内には、無重力と人間の知性によって新しいアートと音楽を創造するためにMITで実験的に制作された無重力空間楽器のプロトタイプTelemetronが展示されていた。サラウンドスピーカーから流れる音楽は暗闇の中で点滅する光と溶けあい、浮遊感と没入感が融合する不思議な空間となった。参加者はドーム内に横たわる者、薄明かりの中でゆったり身体を動かす者、床に座りそっと耳を澄ます者と、思い思いの形で集いその場を共有していた。それは、来たるべき未来の予言に耳をませる秘密の儀式に参加する共同体のようでもあった。 

この展示に関連して、The Zero Gravity Band のメンバーであるバルセロナ在住のミュージシャンAlbert BarquéとMarc Marzenit、そしてMIT Media Labのリサーチャー・アーティストNicole L'Huillierによるトークセッション「Making Music in Space」が開催された。

前述のドームにも展示されていたTelemetronは、無重力空間における抽象的で偶発的な演奏のために作られ、音楽の創造における新しい可能性を開くツールである。「宇宙空間で音楽を作り演奏するということは、音の伝導の仕方も楽器を演奏する際の条件も地球上とは異なります。無重力空間で地球と同じようにピアノを弾くことはできません。ですから、私たちには新しい楽器が必要なのです」。

このような試みは、ともすると新しい物好きによる奇をてらったパフォーマンスと見られがちだ。重要なのは、未来という漠然としたイメージにインスパイアされた作品のみを作ることではなく、その作品を通して世の中に何を問うのかということである。その点についての彼らの答えは明確であった「社会におけるアートの意義は、人の思考に新たな側面を与えることです。そこから人は未来に向けた舵を作ることができるのですから」。

プライバシーの時代は終焉を迎えた。
僕たちはインターネットで何がしたいんだ?

今から5年後、10年後、15年後のインターネットは、どのようなものになるのだろうか? オープンで分散したインターネット空間における倫理について、今の私たちは、何を語ることができるのだろうか? 2日目に行われたセッション「The New Internet」では、アーティストでありブロックチェーンのリサーチャーであるMat Dryhurstと、情報セキュリティを啓蒙する団体Tactical TechのメンバーAlistair Alexander、そして、スケーターコミュニティで10代を過ごし、Apple Musicの前身となるBeats Musicを初めとするインターネットとデジタル音楽ビジネスの先駆者Ian Rogersが、インターネットの未来について語った。

Alistairが所属するTactical Techは、「The Glass Room」という名のポップアップショップ型のインスタレーションを、ニューヨークほか、世界各国で展示している。不愉快なことだが、この会場の前を通り過ぎただけですべてのデバイスの情報がトラッキングされる仕様になっている。これは、無料で使えるアプリやブラウザなどを通してインターネット上の人々の行動記録が集められ、ビッグデータの一部として様々な用途に使われる現状を示唆している。

また、2012年にLinkedInがハッキングされた際に流出し、ダークウェブ上で公開されたユーザー460人分のパスワードをずらりと掲載した冊子や、家族のプライバシー保護のために自宅の四方に立てられた家まで買ったマーク・ザッカーバーグの邸宅を、Googleマップのデータから再現したジオラマなどが展示されている。同氏が2010年に「プライバシーの時代は終焉を迎えた」と発言したことを考えると、何とも皮肉なことである。

Ian RogersはBeats Musicの元CEOであり、同社がAppleに買収された後はApple Musicのシニアディレクターとして定額制音楽ストリーミングの基礎を作った。21年間音楽とテック業界でキャリアを積んだ後、現在はLVMHのデジタルチーフを務めている。 Mat氏とAlistair氏によるインターネットにおける公平性に関する問題提起を受け、Ian Rogersはこう延べた。「今議論すべきことは、僕たちはインターネットで何がしたいのか、ではないだろうか?

日常の共有やニュース、議論、時には炎上と、言語や国籍を問わずインターネット上では日々色々なことが起きているが、多くの人たちは自分の欲求も目的も分からないまま、インターネットで起きている事象に対して反射的に反応するばかりである

そして同氏がインターネットについて言及した、もうひとつのキーワードは「ローカルとグローバルという二項対立は、もはや存在しない」ということ。1993年にBeastie Boysのウェブサイトを立ち上げて以来、彼は音楽ファンがインターネットを通じてアーティストや楽曲に容易にアクセスする環境の構築に貢献してきた。

「リスナーが音楽を知って購入するまでのプロセスは、20年前とはまったく変わりました。それと同様に、かつては大都市に住む人だけが享受できたラグジュアリーファッションもまた、大都市であっても片田舎に住む人であってもオンラインで購入できるようになりました」とIan氏が語るように、インターネットによってフラット化された今の世の中では、自分が何をしたいのかというモチベーションが、より重要となるのは確かである。

25周年という節目に、誰もが「最高!」と語らざるを得ない最高の音楽パフォーマンスを繰り広げるSónarの傍らで、宇宙に向けた音楽実験の挑戦からインターネット時代の終わることのない混乱まで、様々な議論を起こしたSónar+D。そしてバルセロナ市内のクラブでは通称「Off Sónar」と呼ばれるサテライトイベントが同時多発的に展開される。毎年6月、バルセロナに世界中から集結する理由はここにある。

 

CREDIT

Mirei
TEXT BY MIREI TAKAHASHI
編集者。ギズモード・ジャパン編集部を経て、2016年10月からフリーランスに。デジタルカルチャーメディア『FUZE』創設メンバー。テクノロジー、サイエンス、ゲーム、現代アートなどの分野を横断的に取材・執筆する。関心領域は科学史、哲学、民俗学など。

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