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2020.10.20
妹島和世の建築プロセスをホンマタカシが映画化。新キャンパス建設3年半に迫るドキュメンタリー
TEXT BY NANAMI SUDO
大阪芸術大学アートサイエンス学科の新校舎を設計した建築家・妹島和世。構想から完成まで、3年6か月のプロセスに迫ったドキュメンタリー映画『建築と時間と妹島和世』が公開中だ。監督は、写真家であり、近年は数々の建築物を撮り続けてきたホンマタカシ。「公園のような建物」というテーマから生まれた有機的な学びの場は、どのようにして生まれたのか。ホンマタカシが捉えた建築家の視線が見えてくる。
ひらかれたキャンパスを目指して
2017年、大阪芸術大学に新学科「アートサイエンス学科」が設立された。最先端のサイエンスやテクノロジーを生かし、新時代のクリエイターを育てることを目的に生まれたこの学科は、近年のテクノロジーの発展に伴い、表現手法が多様化してきたことが背景にある。美術、舞台、エンターテインメント、公共空間に至るまで、さまざまな場面で新たなかたちのクリエーションが求められるいま、この時代からの要請を大阪芸術大学は「アートサイエンス」という領域で捉えた。「アートサイエンス」という名称が文部科学省から認可されたのは初めてのこと。そして、新世代のクリエイターを育む学びの場となる新キャンパスの設計に選ばれたのが、日本を代表する建築家・妹島和世氏だ。
妹島氏は、金沢21世紀美術館やニューミュージアム(アメリカ)、ルーブル美術館ランス別館(フランス)などを手掛けたことでも知られ、建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞ほか数多くの受賞歴を持つ。
今回、ひとりの建築家が建築物を生み出すまでのプロセスを追いかけたのは、写真家としてル・コルビジェや丹下健三など数々の巨匠の建築物を撮影してきたホンマタカシ氏。写真と並行してドキュメンタリー映像作品の制作にも取り組んでいる彼が、90年代から親交があるという妹島氏の仕事の様子を収めている。
「アートサイエンス学科の校舎」というイメージからは、SF映画に登場しそうな未来的でメカニカルな雰囲気を想像するかもしれないが、妹島氏の目指す建築はそうではない。テーマは「公園のような建物」だったという。
大阪芸術大学は「芸術の森」と呼ばれる緑豊かな丘に位置しており、妹島氏はその自然の地の利を活かし、校舎が「丘と一体化していること」を重視した。周囲の環境から主張しすぎない、なだらかな曲線の輪郭やガラス張りの側面が、内と外を断絶させず、開かれた印象を与えている。
校舎にはあらゆる方向からスロープを伝ってシームレスに出入りすることができる。学科を問わず多様なアイデアが活発に交換されることが期待された、有機的な「交流の場」のランドマークとしてのデザインであることも、重要なテーマだ。
そんなアートサイエンス学科の新校舎誕生の瞬間が美しく切り取られた映画『建築と時間と妹島和世』は、2020年10月3日、渋谷ユーロスペースでの公開を皮切りに、現在全10都府県にて順次公開が予定されている。詳しい上映会場や日程については、公式ウェブサイトをチェックしてほしい。
『建築と時間と妹島和世』
監督・撮影:ホンマタカシ
出演:妹島和世
製作:大阪芸術大学
2020年/日本/カラー/60分/英語字幕付き
配給:ユーロスペース
2020年10月3日(土)渋谷ユーロスペースにて公開(他、全国順次)
kazuyosejima-movie.com