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2019.02.10

メディアアートと建築の可能性。「Ouchhh」が提示する、都市に侵食するアートサイエンス

TEXT BY AKIHICO MORI

1月18〜19日の2日間、「都市」をテーマとしたカンファレンスを主とするリサーチプロジェクト「METACITY」が幕張メッセの国際会議場で行われた。このイベントに、トルコ・イスタンブールに拠点を置くニューメディア・スタジオ「Ouchhh(アウチ)」が初来日。世界各地で独自性の高いパフォーマンスを繰り返し、近年は都市空間をキャンバスにアートサイエンスの挑戦を続けている。彼らのMETACITYでの講演「メディアアート × 建築の可能性」およびインタビューから、Ouchhhが提示する、公共空間におけるアートの関係性を考察する。

「謎」こそが美しいトリガーとなる

Ouchhh
トルコ・イスタンブールに拠点を置くニューメディア・スタジオ。彼らの言うニューメディアとは、アート、サイエンス、テクノロジーを統合する作品性を意味する。Red Dot Design Award(2017)、ADC Awards(2017)ほか、世界的なデザインアワードを受賞している。

千葉という都市は、海外の、とくにSFファンからは特殊な視線を向けられているのをご存知だろうか。「千葉市憂愁(チバ・シティ・ブルーズ)」。作家ウィリアム・ギブスンの傑作SF小説にしてサイバーパンクの金字塔『ニューロマンサー』の、「港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった」で始まる第一部がそれだ。

今回、千葉で開催されたイベント「METACITY」のコンセプトは「思考実験とプロトタイピングを通して、ありえる都市の形を探求するリサーチプロジェクト」。今後も多角的な展開を予定しているプロジェクトのキックオフとしてカンファレンスが開催された。出演者には千葉市長をはじめ、noiz architectsの豊田啓介、DOMMUNEの宇川直宏、アーティストの長谷川愛などがBound Bawでもおなじみの顔ぶれが登壇。こうした企画が千葉市後援によって成り立つことには、現代の時代の空気を感じざるを得ない。

中国の「遺伝子操作ベビー」の誕生、AIが人種差別を助長する可能性など、気づけば『ニューロマンサー』が描くデッドテックの世界の片鱗を、すでに私たちはこの社会のいたるところに見出すことができる。

もはやこの世界はどこまでが架空のSFで、どこからが現実サイエンスとして説明できるのか。線引きが極めて難しく、説明がつかない「謎」に、私たちはこれから幾度も出くわしていくのだろう。

――The most beautiful thing we can experience is the mysterious.
(私たち人間が経験するもっとも美しいことは、「謎」そのものである。)

Ouchhhの講演「メディアアート × 建築の可能性」は、20世紀を代表する科学者、アルベルト・アインシュタインの一節を引用しながら始まった。「私たちはこの一節が大好きです。謎というものは、アートとサイエンスの源泉であり、それらが出会う場所でもあります」とOuchhhのファウンダー・ディレクターのフェルディ(Ferdi Alıcı)は話す。

OuchhhのFerdi Alıcı(左)、(右)

《POETIC AI》
パリ11区にあるデジタルアートの中心地「アトリエ・デ・リュミエール(Atelier des Lumières)」にて上映された映像作品。同作品は、映像、書籍および情報の彫刻(POETIC_AI_t-SNE_Data_Sculpture)の3つの形で展示された。

Ouchhhの作品の特徴は、人間が知覚できないほどに微細で複雑で高次元の対象を、AIによって抽象化し、知覚可能な表現に具現化して提示する点にある。

代表作《POETIC AI》では、ホーキングやアインシュタインら、世界の運命を変えた科学者によって書かれた数百万行におよぶ理論、記事、書籍を機械学習とAIアルゴリズムによって解析。それらをビジュアライズすることによってつくられている。作品には、複雑にして巧緻な、人類の知の骨格を見つめているような没入感がある。

この作品には2つのアルゴリズムが使われている。ひとつは「TensorFlow」。もともとはGoogle の「マシンインテリジェンス」の研究組織の研究者らによって、高度な機械学習やニューラルネットワークの研究用として開発されたオープンソースソフトウェアライブラリだ。そして、没入体験をもたらす映像表現は、高次元のデータをビジュアライズするための機械学習アルゴリズム「t-SNE」によって生み出される。フェルディによれば「t-SNEは、それぞれの言葉の関係性を理解しようとするアルゴリズム」なのだという。 

《POETIC AI》は、見る者をいわば「AIの意識(AI Consciousness)」の中にダイブさせる。サイエンスとアートが出会うことによって生まれたその質感は、まさに美しき謎の体験そのものだと言えるだろう。

データによる「宇宙ゲート」宇宙と都市をつなぐ

さらにOuchhhは、AIの意識を現実世界に表出させる。プロジェクションマッピングなどを活用し、ダイナミックなパブリック・アートに昇華させるのだ。

《DATA GATE》
地球と、系外惑星をつなぐゲートをイメージして制作され、中国の南京市にある施設の屋外に展示されている。

《DATA GATE》は、NASAの探査衛星ケプラーの情報をベースにつくられた作品だ。人類のために系外惑星を探索し続けたケプラーによって9.6年間でもたらされた2662の惑星、61の超新星、そして約50万もの天体の情報を機械学習にで解析し、ビジュアライズしている。制作にあたっては、NASAで系外惑星の多様性と「生命居住可能」を研究する天体物理学者、ドーン・ゲリーノ(Dawn Gelino)とコラボレーションを行っている。

「《DATA GATE》という作品を通して、私たちは建築、データ、そしてアートの関係性を同時に理解し、近未来的な没入感のある作品をつくろうと考えました。そのプロセスの中で、テクノロジーが、人々の経験とアイデアを共有する方法を変えてゆくことを体現してゆきました」《DATA GATE》では、膨大な情報量を巨大な物理的体験としてパブリックな場に存在させることで、「異質なもの」との邂逅を都市生活者に与えている

アートが都市に存在するとき、何が起こるか
METACITY会場にて

​講演後の短いインタビューで、フェルディに「都市とアートは、どのように良い関係性を構築できるのだろうか?」と尋ねてみた。

「アートは問いを作る営為であり、問題解決の手段ではありません。よって、アートが都市の問題そのものを解決したり、効率性を高めたりすることには期待していません。
しかしアートが都市空間に存在することで、都市の中に存在する問いと解決の循環を刺激できると考えています。

つまりアートが都市内にあることで、その都市のあり方が変わる。すると再びそのデータを用いてアーティストが作品をつくることがあるかもしれない。アートによって変化した都市を、その後リバースエンジニアリングできるという面白さがあります。それが結果として、都市に何か良いことをもたらすことは期待できるかもしれません」

サイエンスの「究極の理論」を可視化する

またOuchhhは、サイエンスに深い憧憬をもつアーティストでもある。物理学者や数学者の脳内にある風景とはどんなものか、計算式に埋め尽くされた黒板を通して、彼らの脳内にはどんな世界が広がっているのかに思いを馳せる。

素粒子物理学者は、この世界における「あなた」と「わたし」、そして宇宙の最果てと“ここ”、それらすべてが、「同じもの」だと考えることができる。それは素粒子が、私たち人間から宇宙の成り立ちまで、自然界をかたちづくる物質と力の最小部品だからだ。

素粒子物理学は、この宇宙を究極に抽象化する。Ouchhhはそのサイエンスの営みを、アートで表現してみせた。METACITYの目玉の展示である《AVA/V2 (Particle Physics Scientific Installation)》で、Ouchhhは宇宙を小さなドームに閉じ込めてしまったのだ。

《AVA/V2 (Particle Physics Scientific Installation)》
バックミンスター・フラーのアイコニックなドーム型の建造物からインスピレーションを受けてつくられたインスタレーション作品。6台のプロジェクターで、半球のドームの外側360度に対し、外側からプロジェクションマッピングしている。 

「ミニマルなドーム型のインスタレーションという表現で、私たちは素粒子物理学の法則を表現しようと考えました。私たちはこれが宇宙そのものであると考えています」

さらにOuchhhは、現代の素粒子物理学における「究極の理論」と形容される「超弦理論(超ひも理論)」をモチーフに、エレガントなパフォーマンスアートとして昇華している。数々のSFにも登場する超弦理論は、物理学における20世紀最大の功績である量子論と一般相対性理論を統合することが期待されている。

《SAY_SUPERSTRINGS》
超弦理論は、「この世界は9次元である」という高次元説とともに、宇宙を構成する最小部品である素粒子が「振動するひも」によってできていると説明する理論。ピアノとヴァイオリンの室内楽とともに、高次元的世界の成り立ちを叙情的に演出した作品。

「私たちは演奏中のミュージシャンのデルタ波、シータ波、アルファ波、ベータ波そしてガンマ波をリアルタイムで計測して、脳波の変化をビジュアライズし、コンサート体験へと昇華させました。超弦理論では、宇宙は、宇宙を生み出すために振動していると考える。そして音楽は、まさに音楽を生み出すために振動している。この共通点が私たちにこの作品をつくらせました」

講演後のインタビューでフェルディは「自分たちが出会いたいもの」について語ってくれた。その言葉には、アート&サイエンスを、インスタレーションやパフォーマンスアートへと昇華させ、提示する意義のすべてが込められていた。

「たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチは、作品をつくった後に、それが何かを説明することはありませんでした。しかし、私たちは説明しなければならない。なぜなら、作品がシェアされ、拡散するインターネットの中で私たちはアーティストとして活動しなければならないからです。私たちはその中で作品の価値を守るために説明をしているのです。

でも実際には、そんなことはしたくありません。私たちは、作品を見る人に、ただ発見をしてもらいたいんです。そして話したり、分析したりして、そのクリエイションの前に何があったのかを探る中で、新しい何かと出会ってほしい。私たちは、そうした人たちと出会いたいと、いつも思っているのです」

 

CREDIT

Profile mori
TEXT BY AKIHICO MORI
京都生まれ。2009年よりフリーランスのライターとして活動。 主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、インタビュー、ライティングを通して書籍、Web等で創作に携わる。 幼い頃からサイエンスに親しみ、SFはもちろん、サイエンスノンフィクションの読み物に親しんできた。自らの文系のバックグラウンドを生かし、感性にうったえるサイエンスの表現を得意とする。 WIRED、ForbesJAPANなどで定期的に記事を執筆している。 
 http://www.morry.mobi

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