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2016.12.14

VRで人間以外の目になる。マシュマロ・レーザー・フィースト《In the Eyes of the Animal》

TEXT BY ARINA TSUKADA

斬新なアイデアとテクノロジーで、人間の体験を拡張していくロンドン拠点のクリエイティブ・スタジオ、マシュマロ・レーザー・フィーストが今年10月YCAMに登場。「もしも、森のいきものになったら」と題されたイベントでは、文字通り「人間以外の生き物」になって森を歩くという、世界唯一のVR体験が実施された。

あなたが「森」を歩いたのはいつのことだろうか?

ちょっと思い出してみてほしい。幼少期の山登りの記憶でもいいし、旅行ついでに立ち寄った木々の生い茂る神社でもいい。できるだけ陽の光は木々の合間から漏れてくるほどに緑が濃く、直接目に映らずとも、耳を澄ませれば多くの生き物が潜んでいそうな、あの森だ。そこでは、どんな景色が見え、どんな音が聞こえ、どんな空気に包まれていただろうか?

「森」という言葉から連想されるイメージは人それぞれだが、きっと一概に語りきることはできないだろう。なぜなら、さまざまな生き物がそこに存在し、多様な生命の綾を織りなしていることを誰もが知っているからだ。

そうした「森の生き物」たちが持つ多様な世界像に着目したのが、ロンドンを拠点とするクリエイティブ・スタジオ、マシュマロ・レーザー・フィースト(以下、MLF)だ。クリエイティブ・ディレクター、アーシン・ハン・アーシンを中心に、映像から動的なインスタレーション、ライブ演出から近年はVRまで、人の知覚を刷新する体験を与えてきた彼らは、現在のVR技術を駆使して、「森の生き物」になってみる体験をつくりだした。

《In the Eyes of the Animal(動物の目から)》と題されたこの作品は、文字通り動物の「目」になれるVR(仮想現実)である。今年10月には、山口情報芸術センター[YCAM]が彼らを招へいし、山口市内の「犬鳴の滝」周辺の森を会場に体験イベントを開催した。

撮影:山中慎太郎(Qsyum!) 
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM] 

植物の生い茂ったフシギなかたちのヘッド・マウンド・ディスプレイを装着した体験者たちは、実際に会場となる森の中で腰かけながら、トンボ、フクロウ、カエル、ユスリカの「目」になることができる。

ここで体験者が見ているのは山口の森ではなく、イギリスの湖水地方に実在するグリスデールの森が元になったバーチャル空間だ。彼らは実際に森を訪れ、ドローンやレーザースキャナー、CTスキャンなどを駆使して“撮影”し、臨場感あふれる森の景色をつくりあげていった。

『生物から見た世界』で、知覚体験を拡張する

この作品の契機には、彼らが以前、実験的にレーザースキャナーを森に持ち出して大きな樹木を撮影した際、そこに映し出された景色に圧倒されたことがあるという。

『それまで見ていたものをはるかに上回る木の情報量を前にしたとき、いかにぼくたちは何も見ていなかったかに気付かされたんです』

そう語るのは、MLFのメンバーであり、本作のサウンド・デザインを手がけたAntoine Bertinだ。

彼が言う通り、わたしたちが相対する「森」は、あくまで人間の知覚で知りうるものでしかない。そのとき、VRを使って“動物の目”になってみるというアプローチには、生物学者ユクスキュルの名著『生物から見た世界』が思い出される。ユクスキュルはさまざまな生物の生態を調べるなかで、それぞれの種に固有の「環世界(ウムヴェルト)」があると説いた。人間には人間の「世界」があるように、生き物たちにも固有の「世界」がある。

ユクスキュルの問題提起によれば、わたしたち人間の見る「自然」なんてものは、あくまで人間目線のフィルターによって加工されたイメージによって再生されているのだという。他種の生き物からすれば、それらはひどく歪んだ世界に映ることだろう。

ちなみにこの「環世界(ウムヴェルト)」という言葉は、漫画家・五十嵐大介の最新作『ディザインズ』(講談社「アフタヌーン」連載中)にも登場する。遺伝子組み換えによって生まれた「人化動物(ヒューマナイズド・アニマル)」が、最新型殺戮兵器としてこの世界に出現する。ヒョウ、カエル、イルカの生態の一部を組み込まれた新たなヒトの種たちが感じとる景色もまた、人間中心のそれを超えた、新鮮な世界の情景を見せてくれる。

少々話が脱線したが、MLFたちの挑戦は、その人間の知覚、想像力の幅を、ちょっとだけ広げてみようとするものだ。まるで、そこにいるかのような臨場感を追体験できるVRの技術を使えば、「もしも森の生き物になったら?」という仮想実験ができる。

そのとき、彼らが最も重要視しているのは、鑑賞者が実際に森を歩くことだという。これまで世界各地を巡回している作品だが、その都度彼らは近隣の森がある会場にこだわっている(もちろん例外もあるが、理想の環境はアートイベントやミュージアムの近くに森があることだという)。

『VRは、たとえ家の中にいても、世界を旅したり、誰かと会話したりしている気分にもなれるテクノロジーです。でも、ぼくたちはテクノロジーを使って、みんなを外に連れ出したい。実際に森を歩いてみれば、VRで見えている新鮮な映像や音を体験するとと同時に、ちょっと風がひんやりしたり、足下がおぼつかなかったり、虫が肌にくっついてきたり、色々な感覚を知ることでしょう。それは、従来の山歩きだけでも、テクノロジーだけでも、双方がなければ気付かなかったことがあるかもしれません』

テクノロジーの力で、人間以外の「目」や「耳」を持ち、この世界を見つめる知覚体験そのものを拡張していく。そんな新たなリアルがこれからやってくるかもしれない。

 

 

CREDIT

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TEXT BY ARINA TSUKADA
「bound baw」編集長。編集者、キュレーター。「領域を横断すること」をテーマに、編集・執筆のほか、企画、キュレーション、モデレーターなどを幅広く手がける。2010年、サイエンスと異分野をつなぐプロジェクト「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。12年より、東京エレクトロン「solaé art gallery project」のアートキュレーター。編著に『マリー・アントワネットの嘘』(講談社)『メディア芸術アーカイブス』『インタラクション・デザイン』(BNN新社)、ほか「WIRED」など執筆歴多数。 http://arinatsukada.tumblr.com/

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