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2022.03.17

音と光から空間を操るアンビエントの巨匠ブライアン・イーノ。大規模展覧会が京都にて開催決定

TEXT BY NANAMI SUDO

ブライアン・イーノの大規模なインスタレーションが体感できる「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO(ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト)」が京都中央信用金庫旧厚生センターにて2022年6月3日(金)から8月21日(日)まで開催される。音と光を用いて、空間全体で表現されるイーノの芸術は、鑑賞者の感覚を鋭敏にさせ、その空間でしか体験し得ない反響を生み出す。

ブライアン・イーノとアートワールドの出会い

「ブライアン・イーノ」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか? サウンド・アーティスト、アンビエント・ミュージックの創始者、デヴィッド・ボウイやU2、コールドプレイら世界的アーティストのプロデューサー、〈Microsoft windows95〉の起動音の制作者、環境保護を訴えるアクティビスト…。その名を冠する事例は枚挙に暇がない。

参考:〈Microsoft windows95〉の起動音

特に、1975年頃にイーノが提唱したとされる「アンビエント・ミュージック」は、エレクトロニック・ミュージックから派生した新しい音楽概念として、音楽史にその名が刻まれている。アンビエント・ミュージックとは、ある特定の場所や空間の中で発生する、比較的静かな音響の微細な変化を表現の基調とした音楽だ。従来の対峙して聴く音楽とは異なり、聴き手は場と一体化した音楽空間に身を置き、包み込まれるような感覚をもたらす。雨や風など、偶発的に発生する音それ自体を総体して音楽と定義する、サウンドスケープの指向も持っている。

アンビエント・ミュージックは、その後に続くアーティストらにも多大な影響を与え、90年代にはOrbやAphex Twinといったアンビエント・テクノ系のアーティストによってカルト的な人気を誇るサウンドへと発展していった。

『アンビエント1:ミュージック・フォー・エアポーツ』(1978)
地図のモチーフを採用したジャケットが印象的なこの「アンビエント」シリーズは、アルバム4枚に渡ってリリースされた。第一作目は「空港のための音楽」がモチーフとなっている。

1970年代後半からは、イーノはサウンドに限らずビデオを用いた表現領域にも手を広げ、インスタレーション形式で作品を発表。インスタレーションにおいても、アンビエント・ミュージック同様、鑑賞者と作品との関係性は一方的なものではなく、それらを取り巻く環境全体が意識され、互いに反響しあうように構成された。

音それ自体をコントロールして完結させるのではなく、聴く者やその時々の状況によってそれぞれ異なる感覚を誘発し、その自然発生的な現象に委ねるようなアプローチを続けてきたイーノであれば、音楽のみならず、実空間を創るフィールドに目を向けたのも自然なことである。

テクニカルな側面から見ても、アルゴリズムを使用して作品の制作者という定義を揺らがせる[a]など、常に実験的で新しい可能性の開拓にトライしている。

イーノの代表作が歴史的建築物の空間と交じり合う

イーノは1980年代〜2000年代頃まで日本での活動も盛んで、東京や神戸などで個展が複数開催された。2006年には、ラフォーレミュージアム原宿で、イーノ初のコンピュータ・ソフト作品であり、代表作でもある『77 Million Paintings』を世界初披露した。

今回の個展の開催はそれ以来16年ぶりとなる。「ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト」は、日本の文化都市・京都を舞台に、大規模なインスタレーション作品の公開が予定されている。イーノにとってコロナ禍において初の大規模なインスタレーションの発表の場となる今回、世界的に見ても貴重な機会であることは間違いないだろう。

出展予定の『77 Million Paintings』は、その名にある通り、7700万通りのペインティングとサウンドがソフトウェアのアルゴリズムによって自動生成される。音と光が、途絶えることなく変化しながら出現するこの空間芸術は「ジェネラティブ・アート」とも称される。映像と音楽の組み合わせには一回性があり、二度と同じものは繰り返されない。この作品は世界中のアイコニックな建造物に投影された経緯を持ち、2009年には帆のような外観が特徴的なオーストラリアのオペラハウスをジャックした。

まるで劇場や映画館のようにじっくりと鑑賞されている様子。「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」ではどのような会場構成になるのだろうか。
これらの幾何学的な抽象絵画は、マイクロソフトのエンジニアによって開発されたソフトウェアによって自動生成されたヴィジュアル。絶え間なく画面をフェードイン/アウトし、リアルタイムで新たなイメージを作り続ける。
『The Ship』光が生み出す幻想的な空間に、様々な種類のスピーカーが並ぶ。

出展が発表されているもうひとつの作品は、タイタニック号の沈没からその名が付いた『The Ship』だ。21分超の大作となるサウンドは、インスタレーションでの発表を前提として制作されたもので、会場に立ち並ぶマルチチャンネルオーディオのスピーカーの間を歩くことで、音の中を浮遊しているような感覚に包まれる。また、カラフルな光やスピーカー群の彫刻的な配置は、視覚的にも独特な世界観を醸し出している。この作品は、イーノが制作中に、ふと自身の声域が以前よりも低く変化していることに気がつき、人の体内で起こっている音の事象に感銘を受けたことがきっかけであるという。

このように体の内と外、空間の内と外といった境界を横断し、サウンドスケープを拡張するような体験の創出は、コロナ禍やデジタル化によって実空間での鑑賞体験の未来について様々な議論が為される中で「場」への意識に今一度立ちかえることができるきっかけにもなりそうだ。

これらの作品の他にも、追加の出展ラインナップは公式サイトで順次発表される。

激動の社会で、非日常へと飛び立つスペースを提供する

ありきたりな日常を手放し、 別の世界に身を委ねることで、 自分の想像力を自由に発揮することができるのです

上記は本展に向けてイーノが寄せたメッセージである。イーノは一貫して、自身の活動において音と映像、光を用いた空間における没入的な鑑賞体験を重視してきた。

また、2015年に行った「BBC Music John Peel Lecture」のレクチャーで、「アートとは非日常的でセンシティブな感情を体験できる、安全なスペースを提供するもの」と語っている。これはコロナ禍や、国際情勢の激動の中にある2020年代を生きる我々にとっても、現実から乖離した空間をリアリティを伴って体験することによる思考の解放を説く視点はとてもクリティカルに感じるであろう。

イーノのサウンド・インスタレーションは、仮想空間を再び実体化させたような印象を受ける。だからこそ、普段の現実空間よりもリアリティが増したような不思議な状態が作り出され、身体や音、光、空間の存在について角度を変えて想像力を膨らませることができるのだろう。

今回の会場は、90年前から存在する京都中央信用金庫旧厚生センターである。こちらは不動貯金銀行の旧支店として現存する数少ない建築物であり、過去には「京都国際写真祭」の会場の一部にもなっている。

イーノが追求するサウンドインスタレーションの在り方は、どこかその虚無感や内省を生む点で日本独自の美意識である「侘び寂び」と共通しているようだ。その未完成な美しさは、京都に残り続ける歴史的な景色にも見られる。

そんな京都の地で、コロナ禍における制作期間を経て、満を持して開催される本展。イーノはどのような空間と鑑賞体験をプロデュースするのだろうか。そして、足を運ぶ我々はどのように作品に呼応する演者として扱われるのか。今夏の会期が待たれる。

展覧会情報

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO(ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト)

会場:京都中央信用金庫旧厚生センター
住所:京都市下京区中居町七条通烏丸西入113
会期:2022年6月3日(金)〜8月21日(日)
開館時間:11:00 - 21:00(入場は閉館の30分前まで)
チケット: [前売り]平日/ 一般 ¥1,800、専 ・大学生¥1,300、中高生¥800、小学生以下無料  [当日券]各200円増

主催:AMBIENT KYOTO実行委員会(TOW、京都新聞)
企画 ・ 制作:TOW、 Traffic
協力:a-station FM KYOTO 、 京都METRO、 CCCアートラボ
後援:京都府、 京都市, ブリティッシュ ・ カウンシル、 FMCOCOLO
機材協賛:Genelec Ja pan Bose Ma gnux 静科
特別協力:Beatink、 京都中央信用金庫

AMBIENT KYOTO

 

 

CREDIT

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TEXT BY NANAMI SUDO
栃木県出身、1998年生まれ。2020年早稲田大学文化構想学部卒業後、フリーランス編集者に。主にWEBサイトやイベントのコンテンツ企画・制作・広報に携わっている。2023年よりWhatever inc.でProject Managerとしても活動中。

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