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2022.06.03

「END展 死から問うあなたの人生の物語」速報レポート

TEXT BY SAKI HIBINO

死に関するさまざまな問いを来場者に投げかける参加型展覧会「END展~死から問うあなたの人生の物語~」が、5月27日に幕を開けた。iTSCOM STUDIO&HALL 二子玉川ライズにて、6月8日(水)まで開催中の展覧会をレポートする。

昨年11月に東京・六本木のANB Tokyoで開催された「END展 死×テクノロジー×未来=?」からアップデートを遂げた本展。テクノロジーの発展する社会において、死をどう捉えるかという観点から問いを投げかけた前回から発展し、今回の展示では、死というものをより広義に捉え、より多くの人が、普段あまり考えることのない「死」について思考する機会を生み出す展示内容となっている。

マンガを通じて考える死

会場は「魂のゆくえ」「終わりの選びかた」「死者とわたし」「老いること、生きること」という四つのテーマで構成される。各テーマに対し、「生まれ変わりたいですか?」「生きるとは?」「未来に遺したい知恵や文化はありますか?」など、死や生きるということに関する様々な問いが投げかけられ、それぞれの質問に関連する「名作マンガの1シーン」がセットで紹介されている。

赤塚不二夫『天才バカボン』や士郎政宗『攻殻機動隊』、野田サトル『ゴールデンカムイ』、板垣巴留『BEASTARS』、山下和美『ランド』、ヤマシタトモコ『違国日記』、よしながふみ『大奥』、萩尾望都『トーマの心臓』など、抜粋されている漫画のラインナップも非常に豪華。読んだことのあるマンガやまだ読んでいないマンガも含め、すべて読んでみたくなってしまう。

また、『海獣の子供』『リトル・フォレスト』など、高い画力と繊細で緻密な描写がファンを魅了するマンガ家・五十嵐大介による、民俗学者・柳田国男「遠野物語」を題材とした描き下ろし短編マンガの原画や、『妖怪ハンター』『暗黒神話』など、伝奇ミステリーの巨匠・諸星大二郎の、描き下ろしの原画作品も見ることができる。

マンガ好きな筆者としては、抜粋された1シーンをみて、その言葉や背景にある感情や文脈の深みを改めて実感し、死や生に対して想いを巡らす時間となった。世代を超えた幅広い鑑賞者各々が触れてきた作品をとおし、死について家族や友人、パートナーなど身近な人と気軽に対話する機会を育む展示でもあろう。

大切な人の死との向き合い方

マンガのシーンの抜粋のほか、本展では、2つのインスタレーションが展開されている。大須賀亮祐+中根なつは+野島輝による《死を変換する》は、自分にとって大切な愛する存在の死をどのように受け入れることができるかについて、ラディカルな問いを鑑賞者に投げかける作品だ。

「自分の愛する存在の遺体を食べられますか?」という問いが掲げられたこの作品は、愛犬の死をきっかけに制作されたという。愛犬が死に、火葬され、土になり、作物や動物、情報などに変換されていく過程から、死んだあと、その遺体が自然や物質、他の生物、情報などの一部へと組み込まれ、私たちの周りや意識、体内にとりこまれていくサイクルが明示された。普段意識することのない観点から、死んでしまった存在と私たちの共生関係を再考させる。

dividual.inc(ドミニク・チェン+遠藤拓己)による《TypeTrace / Last Words》(10分遺言)は、「あいちトリエンナーレ2019」でも注目を集めたインスタレーション。
書いたり、消したり、ためらったりといった執筆プロセスを記録・再生するソフトウェア「TypeTrace」を用いたこの作品では、自分の死を想定した人々の「最後の言葉」が収集されている。

dividual inc.(ドミニク・チェン+遠藤拓己)《TypeTrace / Last Words》(10分遺言)

スマートフォン上で再生される、子から親へ、親から子へ、友人や恋人に向けて書かれた様々な最後の言葉は、普段面と向かって伝えることがなかったであろう正直な想いに溢れており、喪失の悲しみや怖れというものというよりも、むしろ温かな祈りや希望を感じさせた。死について語ることは、とてもネガティブでタブー視されているが、すべての存在は有限で脆く、死を迎えるという事実を理解し、受け容れることで、自己や他者、そして世界と深く向き合う扉がひらかれる。会期中にも遺言の募集は行われているそう。あなたも、大切な人に向けて「最後の言葉」を綴ってみてはいかがだろうか。

参加型作品によって生まれる対話

会場の一角には、鑑賞者が死にまつわる自分の体験を共有する参加型のブースも設置されていた。

「あなたの人生のなかで、死に関する印象的なエピソードがあれば教えてください」という問いに対して、訪れた人がシェアしたポストイットには、家族の死や事故、自然界での光景や、老いや記憶にまつわるようなエピソードが綴られていた。

余談ではあるが、筆者は、普段ドイツ・ベルリンを拠点に暮らしており、今回2年半ぶりに日本に一時帰国をしている。東京を訪れる前は、京都や奄美大島などに滞在していた。それらの土地が持っている独特の歴史や風土もあるのかもしれないが、寺社仏閣が無数に混在する京都の町を散歩したり、奄美大島の海に潜る中で、過去や今、未来といった時空や生と死などが混ざり合って共存し、未分化になっている領域を感じることが多々あった。過去に生きていたものは死を迎え、その死の上で、生きているものもある。そして、今生きているものは未来では死にゆくものでもある。そういう意味では、常に生と死は、互いを一時的に覆いあい、分化されることなく同一の空間に共存しているともいえる。

時空や生と死などが共存するこの世とこの世ではない領域の裂け目のような空間や感覚は、わたしたち日常の中にも存在している。それらの領域は、この世界の定まらなさや脆さを映し出し、私たち人間という存在が、人間が作り出した世界よりもはるかに大きなスケールの世界の一部であることを認識させる。こうした認識の先でひらかれる世界が、あらたな可能性を生み出すのかもしれない。

ここ最近、そんなことを考えながら過ごしていたのもあり、生と死というトピックは私にとっても非常に興味深い題材であった。会場で共有されていた見知らぬ人の想いや体験に触れ、改めて誰かとこのトピックについて対話がしたいと強く思った。そして誰かのインスピレーションになるといいと思い、自分が考えている感覚も、ポストイットに書いて壁に貼り付けた。

この展覧会のコンセプトに関して、キュレーターの塚田有那はこう語る。


「誰にも100%関わる事柄である『死』をテーマとすることで、一人ひとりがこの社会や未来を自分ごととして捉えられる環境を生み出すことを大切にしています。自分の内側から湧き出る感情や想像力を、人の目や正解を気にすることなく表出し、思考していく状況をつくりたいと意識していました」

死について問うことは、生きることについて想いを巡らすことでもあり、わたしやあなた、そしてこの世界との関係性について考えるひとつのきっかけにもなるだろう。
この展覧会をとおして、各自の心のなかで、自分自身も気付いていなかった想いやアイデアが浮かんでくるかもしれない。

Photos: Ryo Mitamura

Information

END展 死から問うあなたの人生の物語

会期:2022年5月27日〜6月8日
会場:iTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズ
住所:東京都世田谷区玉川1-14-1
開館時間:平日 11:00〜20:00 / 土日 10:00〜20:00(最終日〜17:00)※入場は閉館の30分前まで 
料金:無料(オンライン事前日時予約制。入場にはWEBサービス「Hiraql(ヒラクル)」への登録が必要)
https://hiraql.tokyu-laviere.co.jp/end-exhibition/ 

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CREDIT

Saki.hibino
TEXT BY SAKI HIBINO
ベルリン在住のエクスペリエンスデザイナー、プロジェクトマネージャー、ライター。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、企画・ディレクション、プロジェクトマネージメント・執筆・コーディネーターなどとして、国境・領域を超え、様々なプロジェクトに携わる。愛する分野は、アート・音楽・身体表現などのカルチャー領域、デザイン、イノベーション領域。テクノロジーを掛け合わせた文化や都市形成に関心あり。プロの手相観としての顔も持つ。

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