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2023.03.23

現代アートチーム・目[mé]が渋谷の上空に仕掛ける「ただ、眺める」装置「SKY GALLERY EXHIBITION SERIES vol.5 『目 [mé]』」

TEXT BY NANAMI SUDO

都内上空に突如現れた巨大な顔が記憶に残る《まさゆめ》や2つのフロアにまったく同じような光景が広がる会場構成が話題を呼んだ千葉県立美術館での個展『目 非常にはっきりとわからない』(2019)など、現実空間における複雑でねじれた対比構造などをありありと浮かび上がらせ、事象と鑑賞者の相互作用を誘発し、実感に落とし込む作品を発表してきた現代アートチームの目 [mé] 。彼らの企画展が、展望施設「SHIBUYA SKY」内のギャラリー「SKY GALLERY」で現在開催中だ。都会の喧騒から離れ「ただ、眺める」という行為を最大化したというその全容を、目 [mé] へのインタビューとともにレポートする。

「想像力を刺激し、知的好奇心を育む」をコンセプトに2019年にオープンした「SHIBUYA SKY」は渋谷スクランブルスクエアの14〜46階、そして屋上までが日常から非日常へ誘導する狙いによって、感性を刺激する展望施設。情報が飛び交う都会の喧騒から離れ、229mの上空から360°パノラマで東京の街を一望することができる。

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そんなSHIBUYA SKYでの体験をさらに深めるために、46階の屋内展望回廊では「視点を拡げる」を共通テーマにアーティストとのコラボレーション展示「SKY GALLERY EXHIBITION SERIES」を行っている。第5回目となる今回は、現代アートチームの目 [mé] による企画展『目 [mé]』を開催。自身のアーティスト名をタイトルに掲げた本展では、目 [mé] のこれまでのキャリアにおける実践と、SHIBUYA SKYが提供する価値がリンクし、鑑賞者が「ただ眺める」体験を最大化した装置として相乗効果を生んでいる。

目 [mé] は、アーティスト・荒神明香、ディレクター・南川憲二、インストーラー・増井宏文を中心に構成された現代アートチームで、手法を問わず個々の特徴を活かしたクリエイションを実施。独自の観察眼により、果てしなく不確かな現実世界を、アートを通じて私たちの実感へと引き寄せてきた。東京の空に突如巨大な顔を浮かび上がらせた《まさゆめ》で問う「個と公」をはじめ、鑑賞者の心情変化などの応答までを含めて作品とし、人間の営みの本質を浮き彫りにするような機会を創出している。
 

景色を「眺める」行為を最大化する導線設計

今回は、目 [mé] から荒神明香と南川憲二、そしてSHIBUYA SKYの立ち上げ時から施設のディレクションを担当し、SKY GALLERYのキュレーションも行うフロウプラトウの有國恵介を交えて、展望施設に位置するギャラリーという特殊な状況下で、どのような導線づくりを行ったのか話を聞いた。

「渋谷という都市には文化施設が多くあります。その中で、SKY GALLERYでは単純にアート作品を置くのではなく、基盤となる体験構造の中にあるギャラリー空間であるということを大切にし、それをアーティストに理解してもらった上で共創しています。その点、目 [mé] さんはSHIBUYA SKYのコンセプトに対する理解と順応がとても速かったです。

目 [mé] の歴代作品のエッセンスとなるコンセプト映像の数々を見て、目から提案のあった非言語で伝えたいというたい意図をお互いに展覧会の準備段階で共有できたと思っています。そして、彼らと同じ視点で観客に渋谷を見てもらえたら面白い体験になるのではないかと思いました」(有國)

SHIBUYA SKYの体験は14階のSKY GATEから始まる。そこから屋上展望空間に辿り着くまでの過程においても、街の運動から離れて上に登っていく意識を高めるような仕掛けが随所に散りばめられている。天井のプロジェクションによる視線の誘導や、エスカレーターの狭さ、壁面のグラデーションなど、まるで木々が生い茂った森林の中の参道のような視界の抑圧と、そこを通り抜けたときの開放的な見晴らしのギャップが印象的だ。

「有國さんから施設の説明を受けて、非日常へと誘導するをイメージした導線が敷かれていることを知りました。屋上からの『眺め』を大事にしている場所で、何の情報の介入もなく『ただ見つめる』という体験を最大化できないかと考え、荒神と今回の展示を考えました。普段はものを色々な理屈を通して見てしまうけれど、ただ眺めているという状況をいかに作れるか、という観点に重きを置いて作品を作ることが多いのですが、その点でこの施設のテーマとの親和性を感じていました。」(南川)

本展の特設サイトでは、目 [mé] のこれまでの制作活動の中でインスピレーションとなったビジュアルがどこまでも広がっている。

また、展示会場の冒頭に配置された映像には、人が瞬きをするようなトランジションでさまざまな情景が切り替わっていき、誰かの視点を共有しているような感覚をつくり出している。目 [mé] の作品におけるコンセプトの源泉となっているイメージの集合体が本展のイントロダクションとなり、鑑賞者との「眺める」行為のレッスンが始まるのだ。

「個と全体」の対比から広がる、眺め方の選択肢

今回の展示空間に一貫しているのは、作品を解説するキャプションがどこにもないことだ。それにより、作品が空間から孤立せず、窓の外に見える景色と連続性を持った存在として佇んでいる。

「多くの場合、展示では作品にキャプションを設置しなければなりません。色々な人が訪れるのに対して、作品を開くためには説明をつける必要があるからです。けれど、今回の『ただ眺める』という価値を提供することに関しては、そのような言語による説明なしに体感してほしいと方向づけました」(有國)

作品側に設置されたモニターに流れる映像や写真、窓の外に見える景色が補完し合い、それぞれに異なる眺め方を誘発している。南川は、本展における作品の役割として、望遠鏡を例に挙げた。

「言ってしまえば、私たちにとって作品は『無視されてもいい』くらいのものなんですが、完全に存在感が消えてしまうと、それはそれで私たちの行為の意味がなくなってしまいます。作品は景色の延長線上にあれば良いんです。そのような『見ていないけれど、見ている』という状況をどうつくれるかということを考えたときに、観光地の展望台などに置かれている望遠鏡のことを思い出しました。今では、あの望遠鏡に100円を入れて見るということをほとんど誰もしないかもしれません。けれど、望遠鏡はここが『見る場所』であることを間接的に伝える彫刻ともいえます。そんなことを意識しながら作品を配置しました」(南川)

《movements》

《movements》は、「個と全体」をテーマにした作品。天井から吊るされた無数の時計の針が群れをなして個々に時を刻み、集団の運動としてのイメージが立ち現れている。

「時間」もこの作品の重要なキーワードのひとつだ。南川は「時間は意味の塊で、人間しか明確に認識できないもの」だと言う。時間を「針の運動」に置き換えて可視化し、空間に溶け込ませている。また、夜の作品の見え方まで想定し、時計の針の素材は光に反射しやすいものにアップデートされている。昼は窓から入ってくる光に呼応するように反射し、夜は窓ガラスに映り込み、外の景色と重なってレイヤーになる。

《movements》

先述の通りキャプションは会場のどこにもないが、非言語の領域で目 [mé] が伝える「眺め方」を習得できる仕掛けがある。作品に添えられるように床に立てかけられたモニターには、1秒ずつコマ送りで進む鳥の群れの映像が流れ、《movements》の意図を間接的に伝えている。他にも、スクランブル交差点の人の動きに焦点を当て、都市に見られる「個と全体」を喚起させるような映像も、作品と相関するように巧妙に配置されている。これらの映像は、SHIBUYA SKYの制作チームが目 [mé] と何度も対話を重ね、作品のコアを捉えた上で制作したという。窓の外の景色と作品、そしてその間をつなぐ補助線としての映像が響き合い、眺めるという行為をより深めていく。

《matter α》

それに関連して、全体を眺める際に忘れ去られがちな「個」に意識を向けられる作品が《matter α》だ。仰々しくアクリルケースの中に置かれ、等間隔に展示された3つの石は、よく観察してみると、実は全く同じ造形であることがわかる。気づかずに通り過ぎてしまう人も多くいるだろう。視線を外して窓の外に目を向けると、上空から地上を眺めるときに、どの建物も人も同質化して見えることを想起させる。

また、大きく出力されたマクドナルドのゴミの写真は、目 [mé] が「展示の中でも一番見せたかったもの」だという。“しょうもない”渋谷の景色の一部を切り取り、窓から見る圧倒的な景色と渾然一体になっている様子を漠然と見せている。このゴミも、窓から見える景色をつくっている物質のひとつであることを表し、私たちの価値観を揺らがせる。

会場内を隈なく見ていくと、窓ガラスや柱、床に落ちた紙くずなど、至るところにQRコードが散りばめられていることに気づいた鑑賞者もいるかもしれない。QRコードをスキャンすると、展覧会の特設サイトにアクセスし、目 [mé] が眺めてきた無数の景色の並びに奥行きが出て、それぞれの作品に関連する写真が出てくるようになっており、作家の視点を体験することができる。
非日常体験を経て、新たなまなざしで日常へ繰り出す

屋内展望回廊を進んでいくと、目 [mé] が拠点を置く埼玉県のスタジオの近所にあるという橋の景色を切り取ったような映像が、長さおよそ40mもの巨大ディスプレイ一面に投影されている。朝・昼・夜の様子が4分おきにリピートされ、街の文化や匂いを直近に感じられる。自然の川の流れと、通り過ぎる車の中にはそれぞれ異なる人の生活が潜んでおり、一見すると何の変哲もない風景の中に、いくつもの運動が捉えられていることがわかる。

「毎日観察していると、空いている時間や混んでいる時間が一定で、いつも同じような情景があることに気づきました。その中には色々な人の人生があるはずだけれど、私たちはそれをどこか無関係な、漠然とした運動として見ています」(南川)

夜に会場を訪れると、河川敷の風景が窓に反射して映るようになっている。都市の夜景に田舎の名も無い橋が重なり、そのコントラストを楽しむことができる。

「ぼーっとすることって難しいですよね。SHIBUYA SKYの屋上展望も、ついた瞬間は視界が抜けた感じがするけれど、少しするとスマホにメールが届いたり、東京タワーなどの具体的な建築物が目に入ると自分の記憶と結びついてしまったりして、具体的なことが頭に浮かんでしまいます。なんでもないものをなんでもないものとして見られるようにできないかな、と考えながら構想しました」(南川)

「横に長いディスプレイに投影するため、映像は12Kの超広角カメラで撮影しました。本来は遠くに見える画角の景色を接近して見るため、車の速度がゆっくりになっているなど、距離感にバグが起きるんです。俯瞰して見るときとは異なり、街も「個」が集合した大きな運動体であることがわかります」(有國)

《アクリルガス》

まるで月のような様相を構える《アクリルガス》は、アクリル絵の具を樹脂と混ぜたものが融解中に固まることでできた作品。液体を上から落下させ、飛散して生まれた自然の形状が、物質に係る速度や密度を可視化している。街を眺めてみても、さまざまな物質が目まぐるしく変化している。その情景と絡めて、今回本作を配置するに至ったという。この作品も、夜になると窓ガラスに反射し、夜空に惑星のように浮かび上がってくる。

偶然に生まれる形状の中で、作品として使用するものはどのような基準で判断しているのだろうか。荒神は「良いものができると、型を外したときに殴られたみたいな衝撃があります。もはや判断できない領域。怖さのような感覚を頼りにしています」と語った。

《アクリルガス》

目 [mé] の作品とリンクさせながら渋谷の街を眺めると、大きなひとつの運動体としても、「個」に焦点を当てることも、目まぐるしい変化の中の一瞬を切り取ってみることも可能になる。ぜひ、言語を超えた「ただ、眺める」という方法で渋谷の街、そして自分自身の視点とコミュニケーションしてみてほしい。

「SKY GALLERYは、ともすれば美術館やアートギャラリーよりも、わかりやすい言語による説明が求められるような場所だと思いますが、有國さんが私たちの方法論をコミュニケーションデザインとして捉え、実現するためのロジックを見出してくれたことで、今回、非言語での展示という発表方法が叶いました。また機会があればそういった挑戦を続けたいです」(南川)

「『目 [mé] を見にきた』という動機で展示や作品にアクセスしたり消費を可能にしたりせず、何に気づき、何を取捨選択するのか、鑑賞者自身の応答に委ねている目 [mé] 。無意識下で『見る』行為が研ぎ澄まされていくとき、私たちの眺め方にはどのような作用が起こるのか、今後の活動からも“目が離せない”。

本展で印象的な鑑賞者のふるまいとして、展示物だと気づかずに子どもが触っていたり、物を置いたりという様子が見られますが、これは作品と鑑賞者の境界線を引いていないからこそ起こっていることなのかもしれません。本展に立ち寄った方たちには『見ることへの疑い』を持ってほしい。それが訪れた人たちのまなざしにとって何らかの気づきになるといいなと思います」(有國)

渋谷という土地と建築、そしてその中を行き交う人々が「個と全体」「日常と非日常」というコントラストがSHIBUYA SKYの連続性をもった導線を通じてグラデーションとなり、それまで対比構造であったものが混じり合う接続点ともなっている。施設一体が箱舟となってコンテンツの循環を繰り返すことで、訪れた人々が新しいまなざしを得て街へ繰り出し、街を創る文化の担い手が生まれることをめざして、SHIBUYA SKYの航海は続いていく。

INFOMATION

SKY GALLERY EXHIBITION SERIES vol.5『目 [mé]』

開催期間:2023年1月13日(金)~3月24日(金)
開催場所:SHIBUYA SKY 46階「SKY GALLERY」
SHIBUYA SKY入場チケット詳細はこちら。
https://www.shibuya-scramble-square.com/sky/ticket/ 

Photo: Ichiro Mishima
 

 

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TEXT BY NANAMI SUDO
栃木県出身、1998年生まれ。2020年早稲田大学文化構想学部卒業後、フリーランス編集者に。主にWEBサイトやイベントのコンテンツ企画・制作・広報に携わっている。2023年よりWhatever inc.でProject Managerとしても活動中。

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