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2023.02.10
四半世紀の歴史を辿る「文化庁メディア芸術祭25周年企画展」レポート
TEXT BY KENTARO TAKAOKA
“メ芸”の愛称で親しまれてきた文化庁メディア芸術祭。その歴代受賞作品が一挙に展示される「文化庁メディア芸術祭25周年企画展」が2023年2月4日(土)〜14日(火)まで、東京・天王洲の寺田倉庫B&C HALL/E HALLで開催している。アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門から約50作品を展示や映像等で紹介し、25年にわたる歴史を振り返る大規模な企画展となった。
国内外からもファンの多い歴史ある芸術祭
1997年より開催されてきた「文化庁メディア芸術祭」。文化庁が主催し、メディア芸術の創造とその発展を図るため、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供する祭典だ。
メディア芸術祭は公募によって集まった作品から選定され、国内では例が少ない文化庁が主催する賞だ。優秀な作品を奨励することで、受賞作家は公的な評価とともに認知度が高まるだけでなく、国際的な活躍の場を増やすチャンスを得られる。そうした作家の育成だけでなく、その年ならではの受賞作が年々アーカイブされることによって、各時代のシーンが記録として残ることも意義のひとつだ。
また、本展に関連した展示は、国内の地方展だけでなく海外でも行われ、都内以外にも作品に触れる機会を創出していた。ちなみに前回の第25回文化庁メディア芸術祭では、世界95の国と地域から3,537作品の応募があり、世界的な賞として認知されるまでに成長した。
そして2022年に今年度は作品募集を行わないと公式ウェブサイトで発表があった。これについて朝日新聞は文化庁への取材を元に、「役割を終えた」として第25回をもって文化庁メディア芸術祭は終了と報じている。この突然の報道にアーティストだけでなくファンからも終了を惜しむ声が多数上がった。それもあって本展はメディア芸術祭に関する最後の展示となる可能性が高いと言われている。
“メディア芸術”という国内独自の枠組み
メディアアートに関する芸術祭は海外でも数多く行われているが、メディア芸術祭ではメディアアートを中心に奨励する「アート部門」だけでなく、「アニメーション部門」「マンガ部門」、ゲームなどを中心にした「エンターテインメント部門」がある。そして、それらを包括する「メディア芸術」という枠組みを設けていることが特徴的だ。
「メディアアート」は、20世紀以降の新しい技術によって生まれたニューメディアを扱うアート作品のことを主に指すが、「メディア芸術」という言葉については、2001年12月7日に公布された文化芸術振興基本法のなかで以下のように定義されている。
「国は、映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術の振興を図るため、メディア芸術の製作、上映等への支援その他の必要な施策を講ずるものとする」
ここでいう「メディア芸術」とは、内閣府の定めたクールジャパン政策の一環として、サブカルチャーを奨励していくという意図がある。
このメディア芸術祭の元を辿ると、1996年に開催された文化政策推進会議「マルチメディア映像・音響芸術懇談会」から始まる。懇談会から報告書「21世紀に向けた新しいメディア芸術の振興について」を文化庁長官に提出したことから、文化庁メディア芸術祭の誕生へとつながったという。90年代中頃はパーソナルコンピューターやビデオカメラ、インターネットなどの新しいテクノロジーが普及して、輝かしい21世紀が到来するだろうという時代の雰囲気も後押ししていた。25年経った現在では、当時とは時代背景が変わってきている。今回の展示にある過去の作品を鑑賞することによって、時間の経過を体験する希少な機会となるはずだ。
時代の流れを感じさせる作品群
今回の会場となったのは、都内・天王洲の倉庫街の一角にある会場、寺田倉庫B&C HALL/E HALL。受賞作品が50点並び、「アート部門」「エンターテイメント部門」では、実際の作品もしくは記録映像が展示され、また「マンガ部門」「アニメーション部門」では、原画や映像を鑑賞することができる。
会場に入ると、まず最初に歴代の受賞作の巨大な年表があり、今回展示されていない作品もリストアップされている。ひとつひとつを眺めていくと懐かしい思いにひたることができる。では、本誌に関連するアート部門の受賞作を紹介しつつ、過去の本誌の記事をリンクするので作家の詳細に触れてほしい。
会場入口にある最初に展示された作品は《KAGE-table》。テーブルの上に並ぶ円錐形のオブジェクトに触れることによって、投影される映像が変化する作品だ。インタラクティブアートの初期作品といえる内容で、第一回の受賞作だけあって今後の同祭の指針ともなるようなたたずまいだ。25年経った現在も問題なく作品が動いていることにも感動があった。年齢問わず楽しめる作品で、取材当日も幼児が変化する映像に驚いていた。
鉄の彫刻の表面に磁性流体を流動させる、新しい彫刻の原理「磁性流体彫刻」を作品にしたもの。コンセプトは「表面の質感がダイナミックに変化する有機的な塔」。時間と共にゆるやかに変化する流動的なキネッティックアートは、日々の忙しなさを忘却させてくれる。
メディアアーティストでもある岩井俊雄による「音楽の知識が一切無くても、視覚的・直感的に作曲、演奏ができる21世紀の音楽インターフェイス」というコンセプトでつくられた楽器。LEDのボタンを押していくことで、楽曲のシーケンスを組むことができるという画期的な作品で、現在販売されているDTM・DAW用のMIDIパッドに影響を与えた。
ブラウン管テレビを鍵盤打楽器として演奏する和田永のソロ・プロジェクト。ブラウン管テレビから出る静電気を素手を使ってキャッチし、足に接触させた電極を通してギターアンプから音を鳴らす。昔のメディアに新しい解釈をしたパフォーマンスだ。ちなみに和田永は音楽ユニット「ずっと真夜中でいいのに。」の音楽隊として参加して、近年のメジャー音楽シーンでも話題となっている。
鉄道模型の先端にはライトが投影され、線路の周りに置かれた日用品を投影していく。展示会場内の壁に投影された影が、車窓からの風景のように情緒的に移ろいでいく。影絵が人間を介さずに自動的に更新されていくインタラクティブアート。
鑑賞者に同性カップルの子供は可能かという生命倫理を鋭く問いかけるバイオアート。この家族写真は、実在する同性カップルの一部の遺伝情報からできうる仮想の子どもの遺伝データを生成して制作したもの。現在のテクノロジーでは起こり得ない同性カップルの子どもは未来のテクノロジーの行き先を示唆させる。
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ロボット工学者である石黒浩と、人工生命研究者の池上高志らによるアンドロイド。従来のアンドロイドは「見かけの人間らしさ」を追求していたが、さまざまなセンサーを駆動させ、「動きの複雑さ」と音や動きとの調和によって生命らしさをどこまで表現できるかを挑戦している。機械が放つ不気味な動きに思わず違和感を抱いてしまう。
プログラミングによってこれまでにない映像表現を実現した作品。景色を写した動画のデータ内にある、空間、色、時間という異なる概念に、独自のアルゴリズムによる回転を加えると渾然一体となっていく様子を表現した。高次元空間における美をテーマとした映像と音響によるプロジェクト。
ダンサーの動きをセンサーで読み取り、動きに同期した映像を投影するパフォーマンス。モーションキャプチャーという技術によって、人間の動きを読み取っているが、細かい動きまで同期させるのは熟練の技術があってのもの。真鍋大度と石橋素による作品は本作以外にも第15回アート部門優秀賞を受賞した《particles》も記録動画が展示されている。
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四角い模型がベルトコンベアの上で動き回り、途中で関門が出てきて、四角い模型はすり抜けていく。ベルトコンベアに付属されたビデオカメラによって、その状況は会場内の壁にリアルタイムで投影され、3DCGで作られた動画を見ているような正確さに惹きつけられる。
25周年とともに終了を迎えるメ芸
会場の2階には、令和4年度メディア芸術クリエイター育成支援事業に採択された7組の新進気鋭のメディア芸術クリエイターによる新作プロジェクトと、海外に派遣された次世代の文化プロデューサーの活動報告を行う成果プレゼンテーション「ENCOUNTERS」も同時開催。若手の作家の作品にも触れられる。その隣にはマンガ部門の作品とゆっくりと読書できるスペースがあり、鑑賞に疲れたら休息できる。
このように歴代の作品を振り返ってみると、当時最先端のメディアへのアプローチが盛り込まれた作品や、もしくは過去のメディアをその時代ならではの解釈で捉え直す作品が多く感じた。時代とともにメディアへの眼差しが変化していて、2023年ならではのメディアアートならではの問いかけとはなんなのかを問われているように思えた。実際に会場に足を運んで、本展の歩みを体感してほしい。
展覧会情報
文化庁メディア芸術祭25周年企画展
会期:2023年2月4日(土)~2月14日(火)※2月7日(火)休館
時間:日曜日~木曜日11:00~19:00
金曜日・土曜日11:00~20:00
会場:寺田倉庫B&C HALL/E HALL(東京都品川区東品川2-1-3)
入場料:無料
主催:文化庁
企画展ページ:https://j-mediaarts.jp/25jmaf