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2017.02.21

アルスエレクトロニカ発、アートの力で産業・社会のイノベーションを触発する STARTS Prize

TEXT BY EMIKO OGAWA

世界最大のメディアアート拠点、アルスエレクトロニカが毎年行うコンペティション「Prix Ars Electronica (プリ・アルスエレクトロニカ)」は有名だが、それとは別に、アートの力によってテクノロジー、産業、社会におけるイノベーションを触発するプロジェクトを奨励するオープンコール「STARTS Prize」が2016年から立ち上がった。
アルスエレクトロニカが目指す、新たなアート×インダストリーやアート×サイエンスのかたちとは? 長年、Prixのヘッドを務める小川絵美子が語る。

アート×インダストリー(産業)の活性を目指す「STARTS」とは?

昨年から始動した「STARTS Prize」の正式名称は、「Grand prize of the European Commission honoring Innovation in Technology, Industry and Society stimulated by the Arts」。その名の通りテクノロジー、産業、社会におけるイノベーションをアートによって刺激することを目的としています。欧州委員会の任命を受け、アルスエレクトロニカが、ブリュッセルのアートセンターBOZAR、アムステルダムの文化機関Waag Societyと共に運営しています。

今日、私たちの社会・生活の中に自動運転車やロボット、人工知能、バイオ・ナノテクノロジーなど、新しいテクノロジーが急激な速度で展開され始めています。このような予測困難な社会状況では、未来の人々の暮らしや社会へ本質的な問いを投げかけ対話を作り出すアーティストたちの存在がますます重要になってきます。STARTSは世界中ですでに始まっているそれらの試みを集め、支援し、その可能性をさらに社会に広めていく意義を担っているのです。

プリ・アルスエレクトロニカが世界中の優れた芸術的表現、芸術的探求、そして芸術的アクションを表彰するのに対し、STARTSは産業とのコラボレーションにおける芸術的探求に着目しています。ここで、アートは「触媒」としての役割を期待されています。

アートが科学的・技術的な知識やスキルをいかに社会と共有できるカタチに変化させられるか、アートがどのように産業とコラボレーションし、テクノロジーの新しいあり方を提言できるか、そしてそのプロジェクトが未来の産業や社会、教育の分野におけるイノベーションを触発できる可能性があるか、が評価のポイントになります。

STARTSの大賞は2点、「芸術的探求(Artistic Exploration)」と「イノベーティブ・コラボレーション(Innovative Collaboration)」の賞からそれぞれ選ばれます。大賞受賞者は賞金20,000ユーロのほか、9月に開催されるアルスエレクトロニカ・フェスティバル内での授賞式、展覧会、シンポジウムに招待され、作品はその後ブリュッセルのBOZARで巡回展示されます。

Magnetic Motion / Iris Van Herpen (NL) Photo: Florian Voggeneder

昨年は、芸術的探求の大賞にオランダのファッションデザイナーIris van Herpenが選ばれました。彼女は世界最大級の素粒子物理学の研究所として有名なCERN(欧州原子核研究機構)を訪れ、多大なるインスピレーションを受けた後に、カナダの建築家Philip BeesleyやオランダのアーティストJolan van der Wielとコラボレーションを重ねて、3Dプリンタや構造的になるレーザーカットの手法、射出成形といったテクノロジーを製造工程に融合。最終的に、複雑な構造を持ちながら体の動きに沿う繊細で大胆な衣服のシリーズを作り上げ、自身のコレクションで発表しています。

Artificial Skins and Bones Group Photo: Florian Voggeneder

イノベーティブ・コラボレーションの大賞には、ヴァイセンゼー・ベルリン芸術大学、ファブラボ・ベルリンと義肢メーカーのオットーボック社による「Artificial Skins and Bones Group」が受賞しました。新たな身体のあり方の探求を目指すこのプロジェクトでは、様々な人工の皮膚や骨のプロトタイプやビジョンを制作。新しい形のデジタルファブリケーション、オープンイノベーションを通して、大学、地域のクリエイティブハブ、企業が連携しながら具現化していく理想的なコラボレーションの先駆事例となりました。

STARTSとプリ・アルスエレクトロニカはひとつのフォーマットで同時に応募が可能です(プリ・アルスエレクトロニカの応募フォームから、「STARTSへの応募チェックボックス」にチェックを入れます)。2017年度の応募期間は3月3日まで、ぜひご応募ください!

プリ・アルスエレクトロニカ(日本語ページ)http://www.aec.at/prix/jp/
STARTS Prize(英語ページ)http://starts-prize-call.aec.at/

アート×サイエンスのレジデンスプログラム

またアルスエレクトロニカは、科学研究機関とのコラボレーションを通して、様々な形のアーティスト・イン・レジデンスプログラムも積極的に実施しています。このArt & Scienceプログラムは、先述のCERN、いわゆる「ヨーロッパのNASA」であるESA(欧州宇宙機関)、チリにあるESO(ヨーロッパ南天文台)へそれぞれアーティストが滞在し、その後、アルスエレクトロニカのR&D部門であるFutureLabにも滞在して作品の構想や実現のサポートを受けるというものです。

募集は不定期に行われるので、アルスエレクトロニカのページをチェックいただくか、ニュースレター登録をいただくと最新情報が手に入ります。

ESOでレジデンスを行ったMaría Ignacia Edwards(右端)。ALMA望遠鏡の説明を受けているところ
Photo: Claudia Schnugg

最後に、今から応募を検討している皆さんへ。これらのオープンコールへの応募に際して、「どのように資料をつくるべきか」という相談をよく受けます。私がいつもお答えしているのは「目の前に審査員がいるとして、その人にプレゼンするように、作品説明を書くこと」です。作品説明は審査員が必ず見る重要項目です。まるで広告のように美しく作り込まれた文章や芸術的な詩は必要ではありません。

審査員はできるだけその作品を理解したいと思っています。まずその作品は一言で言うとどんなものなのか。どのような動きや作用をするものなのか、それを作る背景はなんだったのか、それによって何を目指しているのか。もちろん、これらをコンパクトに伝える映像は審査の過程で有効ですが、それ以上に、作品説明をしっかり書くことを何よりも大事にしていただきたいと思います。

応募期間が定期的なのはプリとSTARTSだけ(毎年1月〜3月)ですが、アルスエレクトロニカは様々なオープンコールを実施しています。賞金があるもの、レジデンスがあるもの、フェスティバルに招待されるものなど仕様は色々ですが、いずれも応募は無料です。ご興味があればいつでもお待ちしています。

COVER PHOTO BY Bernardo Aviles-Busch
Visible Strength / Lisa Stohn, Jhu-Ting Yang (Artificial Skins and Bones Group)  

 

CREDIT

Emikoogawa bk 160
TEXT BY EMIKO OGAWA
オーストリア・リンツ在住のキュレーター、アーティスト。アルスエレクトロニカのコンペティション部門であるPrix Ars Electronicaの長を務め、文化事業を幅広く手がけている。2009年にオープンした新アルスエレクトロニカ・センター立ち上げに関わり、以降アルスエレクトロニカ・センター、フェスティバル、エキスポート展示の様々な企画展のキュレーションも担当。アーティストとしては、h.o(エイチドットオー)のクリエイティブ・ディレクターとして多くのプロジェクトを制作している。 http://www.howeb.org http://www.aec.at/prix

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