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2017.03.24

CERNのR&Dプラットフォーム IdeaSquareを拠点に、「宇宙平和」の未来を志向する

TEXT BY YURI TANAKA

「宇宙芸術」プロジェクトを実践する、CERNに滞在中のキュレーター/メディエーターの田中ゆり氏。現在試みる宇宙芸術プロジェクトの背景について綴った前回の記事に続き、今回は、田中氏が活動の拠点とするR&DのプラットフォームIdeaSquareの現在と、自身が進行するプロジェクトの一端を紹介する。

CERN発、世界中から人々が集うプラットフォーム IdeaSquare
IdeaSquareの様子 Photo: Yuri Tanaka

IdeaSquare、それはCERNのなかでも特異な存在のひとつである。CERNはたとえば宇宙の振る舞いなどを追究する、果てしなく基礎研究を行う研究所だが、一方その研究を社会に開いていくことに対して驚異的にオープンな機関でもある。

さらに、2014年に開設されたIdeaSquareは、「openness(開放性)」をコンセプトのひとつとして、R&DなどCERNと社会とつないでいく役割を担っている。また、世界中の大学や企業などから幅広く外部の人々を受け入れ、ハッカソンやワークショップ、他機関との連携プロジェクトなどを開催し、イノベーションを醸成するプラットフォームとなっている。

たとえば、Idea SquareのTuuliさんはChallenge Based Innovation (CBI)というプロジェクトに取り組んでいる。これは課題解決やイノベーションなど、それぞれのテーマに基づき、世界各地の大学の多様な領域から教職員や学生を募って学際的なチームを組み、いくつものワークショップなどを通じてプロトタイプの形成とその発展を目指したプロジェクトだ。現在もオーストラリアの大学と提携を組んでいるが、私もそこでCERNの科学者と共にエンジニアリングやデザインを背景にする学生たちのコーチ任務にあたっている。

私たちはこの場所で、異なる専門性をもつ人間が各人の独自性を活かしつつ、宇宙の視点からつながりあうことで新たな創造を生み出していくことに挑戦している。

IdeaSquareのキッチンで語り合うJoonaさん(左)とTuuliさん(右) Photo: Yuri Tanaka
CERN、ジュネーヴの芸術大学と連携し、本気で志向する「宇宙平和」

さて、自分の主導するプロジェクトについても説明したい。まず私は、プロジェクトチームの協働者となる仲間を探すところからはじめた。そこで、CERNの仲間たちからのアドバイスやこれまでの研究調査を踏まえ、CERNの地元であるジュネーヴの芸術大学、HEAD (Haute école d'art et de design - Genève)の人々と連携することにした。

中長期的に発展可能な協働を育み、密接なコミュニケーションをとっていくためにも、地理的な条件が重要だと考えたのだ。一時的なプロジェクトではなく、私たちの目指すものは本質的な協働であり、パラダイムシフトの転換になりうる宇宙の視点からプロジェクトを編み上げていくことだ。

そこで、IdeaSquareを拠点に、自分の提示したテーマに共感し集ってくれた仲間たちとの協働を紡いでいる。探し求めた末に集ってくれたのは、HEADのアシスタント/デザイナーAurélienさん、そして宇宙の秘密の開拓を試みるATLAS実験に携わる二人の物理学者だ。

その一人はNealさん。ローレンス・バークレー国立研究所でエンジニアとしての経験を積み、現在はATLAS実験に従事する傍らフィルムフェスティバルの監督を務めるなど、いい意味でクレイジーかつ多彩な才能を発揮している。もう一方はStevenさん。オーストラリアのメルボルン大学での研究を経て、ATLAS実験に携わる。近頃は教育やアウトリーチなども担当している一方、それらと芸術の明確な差異を認識し、バンド活動に情熱を燃やすなどその知見の広さを垣間見せる。

Aurélienさん(左)とNealさん(右) Photo: Yuri Tanaka
Aurélienさん(左)とStevenさん(右) Photo: Yuri Tanaka 

皆それぞれ生まれも育ちも異なるが、集い合うといつも発見があり、触発がある。話す内容は宇宙のことだったり、たわいもないことだったりする。そうした、時として不可思議で、時として複雑なコミュニケーションの過程のなかに、彼らの共通言語や何らかの萌芽の要素を探る。宇宙に起こりうるすべての事象に、無駄なことは何ひとつないはずだ。だからそうした過程のすべてを大切している。どうでもいいように思われることも、後々とんでもなく重要なことになったりする。ただし人間の時間というものは限られているので、彼らの貴重な時間を昇華していくことに最大限の誠意を尽くしたい。 

—「私たちはこの宇宙で、どのように幸せに共存することができるだろうか?」

これが私たちの取り組むプロジェクトテーマだ。笑ってしまうかもしれないが、本気である。とはいえユーモアも込めているので、むしろいい意味で笑ってくれればそれに越したことはない。そして、こんな途方もないテーマに共感して本気で取り組んでくれている仲間たちには感謝に尽きない。

さらに、基本的に何事に対してもオープンかつポジティブに受け入れてくれる土壌をもつCERNは、世界にとって重要な存在だと感じている。どこの国でもないCERNでは、皆が一個の人間としてつながりあうことができるからだ。

ニヒリズムや憎悪がはびこる社会のなかで、私たちは常に希望を掲げていきたいのだ。そして、人類が幸せになりうるパラダイムシフトの契機を生み出していきたい。宇宙的に考えれば、皆同じ宇宙のかけらであり、人類という同胞なのだから。

宇宙とは何か。宇宙的な幸せとは何か。それは永遠の問いであり、答えがあるものでもない。その答えは皆異なるものであっていいはずだ。それが宇宙すべてにとってベターなものであれば。

これらは、メンバーが同じ地平で語り合うことからアイディアをつくりあげていく協働の研究プロジェクトである。また、将来的には学生や日本の大学との連携も視野に入れている。アーティストやデザイナー、科学者やエンジニアが互いに心を開き、触発しあう機会をつくっていくのはメディエーターとしての自分の使命である。大きなテーマのもと最終形態はオープンエンドであり、少しずつ歩み進む最中だが、宇宙を志向していけば、必然としてよい結果も表れるという確信がある。それは宇宙に対する確信と、仲間たちへの信頼だ。

 

CREDIT

Yuri portrait 160
TEXT BY YURI TANAKA
筑波大学、UC Berkeleyへの留学を経て東京大学大学院情報学環・学際情報学府修了。その後、直島に在住しキュレーションや地域協働に携わる。2015年、Ars Electronica Futurelabにて滞在研究員としてリンツに約半年間滞在。現在、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程、環境芸術学会宇宙芸術研究部会部会長、ITACCUS(国際宇宙連盟宇宙文化活用委員会)エキスパート。CERNとの協働など、宇宙芸術を専門に世界各地でプロジェクトを展開。宇宙の平和を目指している。

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