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2017.06.27

スズキユウリ+Qosmo、AI×サウンドのインスタレーションを発表。ミラノデザインウィーク2017報告

TEXT BY TOMOMI SAYUDA

毎年4月、イタリア・ミラノに世界中から人々が集結するミラノデザインウィーク。今回Bound Baw では、自動車メーカーのアウディが主宰するAudi City Lab とのコラボレーションにて、AIを題材としたインスタレーション《ソニック・ペンデュラム》を手がけたメディアアーティスト・スズキユウリ氏へのインタビューを敢行。また、後半ではミラノデザインウィークの中心となる世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ2017」の動向をレポートする。

スズキユウリ×Qosmo、AIとサウンドのインスタレーション
《ソニック・ペンデュラム》

毎年、先鋭的なデザインのインスタレーションが発表されるミラノサローネにおいて、今年大きな注目を集めたのがアーティスト・スズキユウリ氏とQsomoの手がけたAudiのサウンドインスタレーションだった。

ミラノの由緒正しき修道院を舞台に、 AIの学習によって動きが変化する振り子の形状のスピーカーを使ってサウンドスケープを作り出しい《ソニック・ペンデュラム》。制作の意図をスズキユウリ氏本人に伺った。

《ソニック・ペンデュラム》の制作のきっかけは?

スズキユウリ(以下、スズキ):アウディの次世代の車にAIが搭載されていることから、AIをテーマとしたインスタレーションの制作依頼がありました。そこで、近年AI×クリーエションの分野を開拓するQosmo(コズモ)CEOの徳井直生さんに声をかけ、日々変化し、音を覚え、成長していくサウンドスケープのソフトウェアを開発しました。

今回の会場はとても趣のあるスペースですね。インスタレーションと会場の関係はどのように考えられたのでしょうか?

スズキ:この会場は、元々古い修道院だったんです。過去にローマ法王もここで勉強していたほど歴史の深い場所であり、50年間近く一般には公開されていませんでした。

そのためクライアントからは、「とても厳かで重要な場所のため、強烈なレーザーやプロジェクターなどを使った、インパクト重視のプロジェクトとは異なるアプローチをしてほしい」というオーダーをいただいていました。

また、ミラノデザインウィークは大量の展示で溢れているので、ほとんどの展示の滞在時間は10分程度という厳しい条件の中、1時間くらい滞在してしまうようなインスタレーションを作ってほしい、という要望もありました。

今回のインスタレーションの仕組みについて教えてください。

スズキ:広場にマイクやカメラを設置し、会場内の人数やマイクがピックアップした音のデータを元にAIが学習し、サウンドトラックが変化していきます。設置した大きな振り子自体がスピーカーになっていて、一つひとつのスピーカーから全て異なる音が出ているんです。スピーカーの数は合計30個、さらに四隅にサラウンディングスピーカーを設置していて、人が立つポジションによって音のスケープは全く違う表情を見せます。これは、バイノーラルビートやアルファウェーブといった、違う音が右と左に起こることによる、脳内のリラックス効果を狙っています。

またサウンドトラックだけではなく、振り子の動きもAIのフィードバックによって変化します。AIと人間がいかにコクリエーションできるのか、またAIによって建物や大きな構造物自体に人間のような性格をつけることで、いかに人々をリラックスさせることができるのかを考慮しました。

Audiの自動車に搭載されているAIの技術との関連はあるのでしょうか?

スズキ:自動車に搭載されたAIとは違う技術を今回は使用していますが、機械が学習し続けるディープラーニングの本質的なアイデアに関しては、車もソニック・ペンデュラムも同じ原理ですね。

サウンドと自動車にはどんなリンクがあると思いますか?

最近は自動車における「音」のデザインがとても重要になってきています。それは電気自動車の普及により、どんどんと車の動作音が静かになっていて、その分自動車の接近に人が気付かないといった危険性が浮上していることなどに由来します。現在は、ハザードランプの代わりに音でアテンションを作ったり、車中を静かに保つためにホワイトノイズを出したりするなど、自動車から発する「音」を新たにデザインする必要性が生まれているのです。実はこのインスタレーション会場にもホワイトノイズが出ていて、意図的に静けさを構築しています。

今回の作品を出展してみて、どんな感想を持ちましたか。

スズキ:長い時間滞在してくれる方や、リピーターのお客さんも多く、当初の狙い通り「心地良く過ごしてしまえる場所」をつくることができたのが、とても良かったと思っています。

AIを使った試みについての注目は大きかったようですが、AIとは何かをひと言で語れるものではありません。ただ私感として、AIはトレーニングするもの、つまり自分たちが育てていくものであり、それがまた面白いところだと思っています。最初に自分の作った音楽をAIに学習させた後に、その後の彼の経験から、もっと新しい音楽を学習させていく。そんな関係性をつくりだせるといいですね。

ありがとうございました。

ミラノサローネ2017・ダイジェスト

続けて、今年のミラノサローネのダイジェストレポートをお送りする。本来家具のトレードショウとしての機能が大きかったミラノサローネだが、年々その枠を超えて、新たな枠組みとしての「デザイン」を議論する場に発展している。

IKEA

「IKEA Festival」と題し、企業パビリオンながら、学生のデザインコンペをはじめ、ヨガレッスン、有名デザイナーのトーク、Teenage engineeringを招いた音楽系イベントなど、バラエティに富んだワークショップやイベントを連日開催していたIKEA。いわゆるブランドフェア的な硬い雰囲気を消し、誰もが参加できるコミュニティスペース的なハブとしての企業PRを積極的に行なっていた。

ペインティングマシーンが絵を描き続けていたり、学生を招いてのワークショップスペースで議事録が公開されていたりと、フェアの会場中に出来上がっていくプロセスを効果的に見せている。

ECAL
The future sausage By Carolien Niebling

ここ数年、毎年斬新な展示を発表しているスイス・ローザンヌの美術大学ECAL。今年も家具やインテリアデザインの学生の作品が展示されていたが、中でも注目は学生Carolien Nieblingによる作品《The future sausage》だ。

これはソーセージを動物性たんぱく質の得られる効率の良い食肉の手本と掲げ、たんぱく質の欠如を補う食品をデザインするプロジェクト。分子調理法のシェフ、肉屋のマスター、デザイナーがチームとなり、「未来のソーセージ」をデザインしている。様々な種類の肉や野菜などを組み合わせて作られるソーセージの写真や模型モデルを提案していた。

Mini

これから先の未来、資源も土地も減少していく。エネルギーの消費を最小限に抑えた環境を見据えたら、どんな都会での生活ができるのか。その観点から未来の家を提唱したインスタレーションを実施したのは自動車メーカーのMini。ニューヨーク拠点の建築デザイン会社、SO-ILは手がけた、未来の家のショウケースが展示されていた。

自動車企業のPRでありながら、展示コーナーに自動車を一切置かず、Miniが提唱する未来のライフスタイルに重点を置いた点が印象に残った。

Studio Swine x COS

ここ数年、ミラノデザインウィークで若手の新進気鋭のデザイナーとのコラボレーションが毎年大きな話題を集めるスウェーデンのファッションブランドCOS。今年はロンドン在住のRCA出身のイギリス人と日本人の2人によるデザインスタジオ、Studio Swineとのコラボレーションだ。

日本の桜からインスパイアされた、煙が入った花が咲く樹のインスタレーション《New Spring》では、樹から発生するシャボン玉を実際に観客が触れて、消える瞬間までを体験することができる 桜の持つ、儚さと移ろいゆく季節を表現し、皆が集まる特別な瞬間を作り上げたという作品。この作品は今年のミラノでは一番の話題に上がっていた。

LG x 吉岡徳仁 SF Senses of the Future

韓国の総合家電メーカーLGとアーティスト吉岡徳仁によるインスタレーション「S.F chair」「Wall of the Sun」は、LG's ultra-thin OLED lighting panels が持つ、強いライトの性能を引き出し、子供心に描いたような夢のようなSFの世界を作り上げるという作品。LGの極薄ライトパネルを使用して、17個の椅子と背後のライトの壁を作り上げた。このインスタレーションは今年のミラノデザインアワードの最高賞を受賞した。

Formfantasma

最後に取り上げるのは、アムステルダムを拠点に活動する、Formfantasmaによるライティング作品。光のプリスムや効果など、素材に注目した照明デザインを提案し、ミラノデザインアワードのテクノロジー部門で大賞を受賞した。

ミラノデザインウィークは街全体がデザインフェアの会場となっており、他のどの都市のデザインフェアとも比べ物にならないほどの大きさを誇る、世界最大のデザインショーケースだ。

最近では、本来の、家具やインテリアデザインの見本市としてのデザインビジネスの機能と並行して、企業のPRパビリオンもコンセプチュアルなインスタレーションや、ワークショップを中心とした観客参加型のショウケースが目立つようになった。「見本市」から「対話」の場へ、「デザイン」はいま、トップデザイナーのものだけではなく、よりデモクラティックに、対話と実験をベースに前進していく時代になってきているのかもしれない。

 

 

CREDIT

Tomomi sayuda square s
TEXT BY TOMOMI SAYUDA
武蔵野美術大学中退。Royal College of Art (MA) Design Products修了。テレビ朝日にてセットデザインアシスタントとして勤務後、2005年渡英。卒業後ロンドンでOnedotzero, Fjordでデザイナーとして勤務した後に、現在ドバイのGSM projectにて、インタラクティブデザインリードとして文化的コンテクストとテクノロジーを用いたミュージアムデザインの案件に携わる。2009年Creative Reviewベスト6卒業生選出。2014年The Mask of SoulがBBC等で紹介され話題に。会社勤めと同時に自身の作品をFrieze Art Fair, ICFF NY等で発表。様々なプロジェクトにものづくり視点からの、遊び心のあるデザインを提案している。 http://www.tomomisayuda.com/

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