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2016.09.28

ニューヨークにある“詩的プログラマー”の楽園、SFPC

TEXT BY AKIHICO MORI

SFPC(School For Poetic Computation)、直訳すれば「詩的なコンピューテーションのための学校」という、ちょっと不思議な名称を持つオルタナティヴ·スクールがNYにある。世界中から若手のクリエイティブ·コーダーやアーティスト、デザイナーが集結するその学校では、どんな実践が行われているのだろうか? NYのSFPC本拠地の様子をレポートする。

――155 Bank street, West Village, New York

ニューヨークのロウアーマンハッタンのほぼ最西北。そこに「SFPC(School For Poetic Computation)」はある。

学校の名称にある、「詩」と「計算(コンピューテーション)」がどんなふうに結びつくのだろうと思いを巡らせながら、地下鉄の駅『14St.』で降り、SFPCにほど近いチェルシー地区を歩く。

このあたりは元倉庫街が一変して高級ギャラリーのひしめく地区へと発展した、多様な文化と歴史が渦巻くエリアだ。ロースターのあるコーヒーショップでコーヒーを買って、現代アートからファインアートまで、興味の向くままに足を止めながら街歩きをするのに最適。

すぐ近くにはGoogleのニューヨークオフィスや、観光客と地元の買い物客でにぎわう「チェルシー·マーケット」もあり、マンハッタンの中でもアートとテクノロジーとヒップなカルチャーが混ざり合った場所だともいえるだろう。

SFPCの拠点は、かつて「ベル研究所」があった場所にある。歴史の教科書で一度は暗記したことのある、電話の実用化に歴史的貢献をしたグラハム·ベルの名を冠する研究所だ。大学受験で、せいぜい選択肢の「エ」のマークシートを塗りつぶしただけだけの人名が、不思議な場所で結びつく。

詩と計算が結びつくとすれば、それは何らかの法則性を見つけて記述することではないか? そんなことを思いながら、SFPCのドアをくぐった。

 

 

コンピュータの詩をつくる、奇妙なもの、実用的ではないもの

シンプルにSFPCについて言い表せば、それは「メディアアートのためのプログラミングスクール」だといえるだろう。SFPCのWebサイトのMissionには、「仕事探しのためのポートフォリオではなく、奇妙で美しい創作を行う」ことがスクールの目的であると明記されている。それにしても、ここでの「詩的」という言葉が意味することとは何なのだろう?

「そもそもcomputationということ自体が詩的なものなんだ。僕たちは詩をつくる時、自然とインタラクションし、人間とは何か、自然とは何かを言葉をつかって、詩という構造に基づいて記述する。computationも同様に、僕たちはコンピュータとインタラクションし、プログラミング言語で記述する。僕たちはcomputationを詩的と捉え、メディアアートもふくむpoetic computationを実践している」

2013年にSFPCを開校したひとり、メディアアーティストでありハッカーでもあるザック·リバーマンはそう話す。

これはただの比喩ではないのだろう。「技術的なもの」と思われてきたプログラミングは、コンピュータの進化とともに、詩的と捉えられるほどに豊かで多様性に満ちたものになりつつある。SFPCは、そうした環境への必要性から自然発生的に生まれた「場」なのだ。 

ザック·リーバーマン

アーティスト、リサーチャー、ハッカー。クリエーティブコーディングのオープンソースC++ツールキット「openFrameworks」の開発者として広く知られる。Ars electronicaインタラクティブアート部門「Golden Nica(金賞)」、デザイン博物館(ロンドン)「年間インタラクティブデザイン賞」受賞。Time誌のBest Inventions of the Yearにも選出された経験を持つ。

SFPCには、講義などを行うセミナールーム、電子工作ができる工作スペース、そして参加している生徒たちが創作をしたり、自由にディスカッションできたりするフリースペースがあり、その中心には「ここが僕たちにとってもっとも重要な場所さ」とザックが語る広々としたダイニングルームがある。食は言葉を超えたつながりを生み、アルコールは言葉で話せないことを共有できる道具なのだ。

ザックをはじめ、講師はフリースペースの中を行き来しながら、生徒の創作を技術的なアドバイスを含め、サポートする。ディスプレイに浮かぶのは無限に動き続ける幾何学模様、カーソルを追尾する操り人形、ノートに描かれた絵と数式……、この学校では出欠確認時に生徒数ではなく、作品の個数を数えた方が早そうだ。

何をしてもいい。たとえば、プログラミング言語をつくってもいいし、プログラミング言語で詩を書いたっていい。SFPCでの学び方は、ちょっとアウトローで、クレイジーで、偏執狂なアーティストを退屈させることはない。

「ここでは奇妙なもの、実用的ではないものを、おおいに称賛したい。よくアートは実用的ではないと言われるが、それは実用的なものとは異なる可能性と未来があるということだ。アートは創造性を、デザインは実用性を追求する。そもそもそれは、アートとデザインは解いている問題が違うからに他ならない。

もちろん実用的な問題を解くことも大切なことだが、SFPCに来たときは、人は何かを学ぶとき、ついひとつの領域に特化しがちなことに気付いてほしい。ここではその領域を拡張して、アートの問題をデザインで解こうとすること、デザインの問題をアートで解くこと、そんなJourney(旅)を楽しんでほしいんだ」(ザック)

 
好奇心は、感染する。

SFPCは、10週間のカリキュラムによって構成される。その中で、参加する生徒はコンピューテーション、エレクトロニクス、理論に関するさまざまなトピックを学んでいく。

講師のひとりであるTaeyoon Choi は「Poetics And Politics of Computation(computationにおける詩と政治学)」と題した講義を行っている。computationを批判的に用いて、表現や創作を行うための倫理や文化背景などを教えているという。

「コンピュータは決してニュートラルな存在ではない。フォン·ノイマンは偉大なコンピュータの発明家だが、原子爆弾も同時に生み出してしまった。テクノロジーは、どんな時代にも問題を抱えてきた。プライバシー、ジェンダー、人権、政治…。僕のクラスでは、computationにおける、非常に高度で抽象的な問題を扱っている」(Taeyoon Choi)

彼もまた、さまざまな作品を発表しているアーティストだ。

SFPCには、アメリカ全土はもちろんのこと、世界各国から生徒が集まってくる(日本からも度々参加している)。SFPCに「校風」があるとすれば、それは言語も人種も表現方法も超えたコミュニティの中にあるだろう。

「僕たちの目的が何かと聞かれれば、好奇心をつくることだろうね。生徒の誰かが何かへの好奇心を発揮すれば、それが全員に感染して広がる。そうする中で彼らに友情が生まれ、コミュニティになっていく。そして僕たちは疑問こそを称賛する。生徒みなが好奇心を抱き、多くの疑問を言える場所をつくること。それこそが、僕たちがSFPCで目指すものなんだ」(Taeyoon Choi)

Taeyoon Choi

韓国のソウルとニューヨークのブルックリンで拠点を置いて活動するアーティストであり教育者、キュレーター。電子回路、絵画、ストーリーテリングなどさまざまの手法を用い、パブリックスペースにアートを展開する。

入学資格は「オープンな創造性」

ザックはかつて、デザインスクールでアーティストに向けて、コンピュータビジョンなどのメディアアートに関するプログラミングを教えていた。しかし次第に大学のシステムへ疑問を抱くようになり、独立を決めたという。

「大学で教えることは本当に退屈だった。アメリカでは、学費の高騰が社会問題化している。しかし、その学費が一体どこに消えているのかは分からないんだ。教える側として、学生にとってももっとよい場所、よい環境があるんじゃないかと思っていた。僕と同じようなことを考えていたアーティストや講師を集めて、このスクールをつくったんだ」

SFPCで学びたいと思った人はWebサイトの「Participate」から、直近の学期を選ぶことから始めよう。入学資格はただひとつ、「オープンな創造性」だ。

「ここは誰でも歓迎だよ。僕たちが求めているのはオープンであること。僕の言うオープンというのは、創作のプロセスを共有して、関係性を築けるということだ。開かれた心を持って、コラボレーションできる人であれば誰でも歓迎したい。そうそう、僕たちの入学申込書では、『What do you want the School for Poetic Computation to be? (SFPCがどんな学校であってほしいか)』という質問がある。とても奇妙な質問だろ? これもコラボレーションのひとつさ。ポートフォリオも何も関係ない。僕は来てくれる人たちがSFPCにどんなことを望んでいるかを聞いて、一緒につくっていくのが何よりも好きなんだ」

学費は直近の学期のもので5500ドルと記載されている。SFPCでの学びはもちろん、人生において10週間という時間をニューヨークで過ごすことができることを考えれば、この投資は金額だけでは判断できないに違いない。

最後に、入学の参考としてSFPCの日本人卒業生を紹介しておく。次のSFPC参加者は、あなたかもしれないから。

Motoi Shimizu http://nuafk.jp/ 
Toru Urakawa http://sfpc.io/people/toru-urakawa/
Yosuke Sakai http://yosuke-sakai.com/within-the-world
Yuki Yoshida http://sfpc.io/people/yuki-yoshida/
Ryota Okawa http://bubuportfolio.wixsite.com/portfolio
Hiroaki Yamane http://mnmly.com/

イーストビレッジにほど近い場所にある、現代アートのミュージアム『New Museum』屋上から見たロウアーマンハッタン。中央にあるのはワールドトレードセンタービルの跡地にあるOne World Trade Center。

 

 

CREDIT

Profile mori
TEXT BY AKIHICO MORI
京都生まれ。2009年よりフリーランスのライターとして活動。 主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、インタビュー、ライティングを通して書籍、Web等で創作に携わる。 幼い頃からサイエンスに親しみ、SFはもちろん、サイエンスノンフィクションの読み物に親しんできた。自らの文系のバックグラウンドを生かし、感性にうったえるサイエンスの表現を得意とする。 WIRED、ForbesJAPANなどで定期的に記事を執筆している。 
 http://www.morry.mobi

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