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2017.10.10

アルスエレクトロニカレポート(2) カルチャーと信仰は、都市とテクノロジーの姿を変えうるか?

TEXT BY AKIHICO MORI

人口20万人の街の祭典に、10万人が訪れた

アルスエレクトロニカの拠点リンツは、人口約20万人が暮らし、ヨーロッパ中央部に位置し、ドイツ、イタリア、スイス、スロベニア、ハンガリー、スロバキア、チェコ、リヒテンシュタインの8カ国と国境を接するオーストリア第3の都市だ。

この小さな街で5日間に渡って開かれたアルスエレクトロニカ・フェスティバルに、今年は過去最多となる約10万人が訪れた。単純計算にすぎるかもしれないが、開催期は街の人口の3分の1がフェスティバル関係者という状態になるのだ。ちなみに、今年は日本人の来場者も過去多数だった。元々日本人アーティストや大学とつながりの強いアルスエレクトロニカだったが、ここ数年は「アート×インダストリー」をテーマに企業連携を数多く行い、様々な日本企業の人間がここリンツを訪れていた。

リンツ中央駅のすぐ近くに位置するメイン会場「POST CITY」

「このトラムの番号は何番かあなた知ってる?」
「ああ、2番だよ。アルスに行くの? このまま乗っていけばPOSTCITYまで行くよ」

この会話は、アルスエレクトロニカ・フェスティバルのメイン会場へ向かう途中、市街地を走るトラムの中で、僕の隣に座る女性との間で偶然に交わされたものだ。

「私はアーティストなの」
「僕は取材で来ているんだ。君は何のアーティスト?」

お互いにフェスティバルへの参加者だということが分かって、一緒に会場まで向かうことにした。何気ない会話をしていたこの5分後、

「私はエクソバイオロジー(宇宙生物学)のアプローチを、イラストレーションやパフォーミングアーツに展開しているの。たとえばあなたは火星に行きたい? 行ってみたいならあなたはもっと“小さく”ならないといけない。ほら、前を歩いているあの大きな白人男性を見て。彼は毎日肉を大量に食べるわよね。そんな人間は火星に行っても生きていけないの。私達が火星にいくためには、私たちは自身の体を変えなきゃいけない。私はそういった『小さくなる人類』を作品の題材にしているの」

こんな会話も、この時期だけはリンツ市の風景の一部となるのだ。

こうした風景を目の当たりにすると、いかにアルスエレクトロニカ・フェスティバルがリンツにとって社会的に重要なものなのかが肌で感じとれる。

リンツ市内でも利用者の多いトラム駅の地下道に設置されたアルスエレクトロニカ・フェスティバルの巨大パネル。街中のいたるところにこうしたパネルが設置されており、市民の生活の延長上にメディアアートが位置している印象的な風景。
リンツ市内の風景。小さく、美しい街並みの旧市街を抜けて、各会場を見て回れるのもアルスエレクトロニカ・フェスティバルの醍醐味だ。

いまではアート&テクノロジーの街として知られるリンツも、かつては労働者・技術者の多い重工業の都市だった。特に戦後から1970年代までの主な産業は鉄鋼で、工場からもくもくと煙の立ち上る「グレーの都市」だったのだ。

しかし第一次オイルショックなどを経験し、1970年半ば以降に重工業は衰退し、脱工業都市化を志向。次第に「文化都市」へと方向転換を行う。1979年に始まったアルスエレクトロニカは、そうした都市を背景に発展していったのだ。

「カルチャーは作り出すもの」とアルスエレクトロニカのメンバーはよく口にする。とりたててユニークな文化のなかったこの街に、先端テクノロジーとアートを持ち込んだのがアルスエレクトロニカなのである。

ドナウ川沿いに位置する、市民に開かれたアートセンターとラボを兼ね備えた文化発信拠点アルスエレクトロニカ・センター。アルスエレクトロニカとは、文化・研究・教育事業の総称である。毎年9月に開催されるアルスエレクトロニカ・フェスティバル、アート・テクノロジーにおける最先端を競う国際的コンペティション、PRIXアルスエレクトロニカ、メディアアート研究所としてのアルスエレクトロニカ FutureLabが含まれる。
アルスエレクトロニカ・センター内にある8Kの3Dシアター「Deep Space」 。今年1月に初披露された野村萬斎の《三番叟》(舞台演出:真鍋大度、音響演出:evala、照明:KINSEI、©NHK)の特別バージョンで公開された。
Photo by Florian Voggeneder
アルスエレクトロニカ・センターには常設のバイオラボやファブラボ、現代のテクノロジーを考察する数々のメディアアート作品が所蔵されている。最近では中世からVRの歴史をひも解くVRラボを設置。写真はフェスティバル期間中に特別体験が実施された、ブダペストのオープンイノベーションラボKitchen Budapest によるVR作品《Training 2038》 Photo by Florian Voggeneder
文化を超えて「異質な知性」を考える

フェスティバルの魅力は展示だけにとどまらない。数々のワークショップやカンファレンスでアーティストや研究者たちのナレッジが行き交うことで、新たな思考を「生み出す場」を創造すること。そこにアルスエレクトロニカの真価が隠されている。

たとえば僕たちは新しいテクノロジーが世に紹介されるたび、自分たちの社会や文化にどんな影響を与えるかを考えては議論し、時に批判する。

しかしテクノロジーというものは、既存の文化に新たに“付加”されるだけのものではない。テクノロジーそれ自体が新たな文化をつくり出すこともある。フェス初日のパネルディスカッション、「How Cultures Shape Technology」では、AIとの共存する時代において、地域や宗教にまつわる文化がどのようにテクノロジーをかたちづくっていくのかが議論された。

なんと、このカンファレンスには日本の僧侶が招かれていた。彼の名は飛鷹全法(ひだかぜんぼう)、高野山の高祖院住職である。彼は自身のプレゼンテーションで次の動画を見せ「私たちの仕事も奪われつつある」と発言し、会場を沸かせた。

ディスカッションが始まると、ひとつの問いが与えられた。「(シンギュラリティが予見される)21世紀において、宗教はどのような役割を果たし得るか?

飛鷹全法は以下のように回答した。
「シンギュラリティがもたらす超越的な存在と人間の関係性について考えるとき、それぞれの抱く宗教観によってイメージが全く異なることがわかります。たとえばキリスト教社会において、神(God)は唯一神であり、人智を超えた恐れるべき存在です。(その宗教観に立てば)いつか人間を超越するAIは、ターミネーターやHAL9000のようにコントロールできないものと解釈される。

教授・山中俊治、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ所属/モデレーターの小川秀明、哲学者・Mark Coeckelbergh、アーティスト・Maria Yablonina。

一方で、仏教も神道も日本の多神教観に基づく神(カミ)は「八百万の神々」。あらゆる自然物に神が宿ると考えられていることからも、神は超越的でありながら、人間に寄り添う存在として捉えられてきた。たとえばロボットひとつとっても、まさにアニメ『ドラえもん』のように、人間に親しく、寄り添うような存在として描かれてきたのです」

飛鷹全法の回答は、シンギュラリティによって超越的で、異質な知性が社会にもたらされた時の共存の方法に一石を投じるものがあった。そしてAIという存在が世界を席巻しようとしている今、東西の文化がともにその共存を考えていくことの意義を、オーディエンスの多くが受け止めていた。

こうしたカンファレンス内容からも、東洋的思想を議論に取り入れようとする意図が随所に感じられた今年のフェスティバル。アルスエレクトロニカの芸術監督ゲルフリート・ストッカーはこう語っている。

「日本などにあるアニミズム(自然界の諸事物に霊魂・精霊の存在を認める信仰)の思想は、文化遺産のひとつであり、これからのAIとIoT時代を考える上でとても重要な手がかりになるでしょう。

毎年リンツに大勢やってくる日本のメディアアーティストも、それらを有効に活用していくことが重要だと感じます。今、AIは急速に進歩し、人間から遠い存在になりつつあります。そのときこそ、世界では『テクノロジーで何が可能になるか』が考えられていますが、『我々が未来において何をしたいか』を考えることこそが、未来において根源的な問いであるはずです。私たちはたくさんのテクノロジーを開発してきましたが、今は自分たち人間の立ち位置を再定義しなければならない時です。私たちはAIも開発しなければならないでしょうが、人間の社会的知性(social intelligence)も、グローバルな視点で開発しなければならないでしょう」

 

ゲルフリート・ストッカー

グラーツ・テレコミュニケーション・エンジニアリング&エレクトロニクス研究所修了。1990年以降、アーティストとして活動し、1995年以降、アルスエレクトロニカ・フェスティバルにて、アーティスティック・ディレクターを務める。

メインビジュアル:ABYSMAL / VOID (TR)  Photo by Florian Voggeneder
参考書籍『アルスエレクトロニカの挑戦』(著:鷲尾和彦/学芸出版社)

 

CREDIT

Profile mori
TEXT BY AKIHICO MORI
京都生まれ。2009年よりフリーランスのライターとして活動。 主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、インタビュー、ライティングを通して書籍、Web等で創作に携わる。 幼い頃からサイエンスに親しみ、SFはもちろん、サイエンスノンフィクションの読み物に親しんできた。自らの文系のバックグラウンドを生かし、感性にうったえるサイエンスの表現を得意とする。 WIRED、ForbesJAPANなどで定期的に記事を執筆している。 
 http://www.morry.mobi

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