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2017.10.19

世界は内と外が重なる多層レイヤーだ。ベルリン×東京のデジタルカルチャーフェス「INFRA」の向かう先とは?

TEXT BY MIREI TAKAHASHI

東京を拠点とするサウンドギャラリーEBM(T)とベルリンを拠点に活動を行う3hd Festivalが共同開催するデジタル時代のアートと音楽のフェスティバル「インフラ INFRA」が8月19日から8月26日に東京で開催された。

「Inside the Outside World —外の世界の内で—」を開催テーマにしたこのイベントは、アーティストと参加者がフラットに交わる新たな基盤となることを目指している。彼らは今の時代におけるアートとテクノロジーについて、どのような視点を持っているのだろうか。EBM(T)を主宰するナイル・ケティングに話を聞いた。

最初に、INFRAを東京でやろうと思ったきっかけについて教えてください。

ナイル・ケティング(以下ナイル):ダニエラ・ザイツがやっている3hd Festivalというイベントにアーティストとして呼ばれて、2015年と2016年に出たのが始まりでした。3hd Festival 2016ではベルリンにあるHAU劇場で「Nothing Left」というタイトルのセノグラフィーを公演しました。

これは、フェスティバルのテーマ「There is nothing left but the future?」と関連づけたものです。2日に渡る公演の内容は、舞台にいる瀕死の人たちを延命させることで舞台パフォーマンスを継続していくという設定なのですが、1日目がアポカリプス的な状況で応急処置を受けていて、2日目はリハビリテーションをしているという状態でした。

c: ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

ナイル・ケティング

INFRAキュレーター。日本生まれ、現在はベルリンを拠点に活動するアーティスト。 映像、パフォーマンス、音響、インスタレーション、執筆など幅広い分野を横断する作品を発表し続ける。自身が育った情報化社会に影響を受けた作品は「新しい身体論」と「感覚」をテーマとし、国内外にて高い評価を集める。 近年の主な展覧会に「第7回モスクワ国際現代美術ビエンナーレ」(国立トレチャコフ美術館、モスクワ、2017)、「Made in Germany Drei」(クンストファーライン、ハノーファー、2017年)「曖昧な関係」(メゾンエルメス、東京、2016年)、「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」(森美術館、東京、2016年)、「GLOBALE:New Sensorium」(ZKM、カールスルーエ、2016年)がある。

そんな縁で、私がやっているEBM(T)に興味を持ったダニエラたちと話をしているうちに「何か東京でやったら面白いかもね。じゃあ、やっちゃえ」みたいなノリで始めて、色んな助成金を申請する書類を書き始めました。最初私たちは、ドイツと日本のアーティストを交換するプログラムを作りたかったんです。でも、ベルリンでの助成金の申請がなかなか上手くいかないなか、アーツカウンシル東京が興味を持ってくれたので、とりあえず日本だけで開催したのが今回のINFRAです。また来年やるとしたら今度こそエクスチェンジプログラムをやりたいですね。教育的な価値も出して行けるようなフェスティバルにしていきたいですから。

アーティストはどのような選定基準で選ばれていますか?

ナイル:あまりロジックに基づいて選んでいるわけではなく、直感と…あとオンライン上で話をして、彼らがどれくらい柔軟性があるのか、どんなことをやりたいのか、将来的にどんなことをやっていきたいのかを見ていきます。そういう会話の中で感覚的に「あ、この人とは同じ言語でしゃべれるな」「同じプラットフォームにいるんじゃないかな」と思ったら、技術が追いついていなくても全然構いません。一定のレベルにパラメーターを定めるのではなく、色んなレベルや世代、性別の人たちがいた方がいい。全体を通してどれだけ多様性があるかを重視しています。

グループ展「外の世界の内で」インスタレーションビュー (Aurora Sander " I created a monster" (2017))@山本現代
グループ展「外の世界の内で」インスタレーションビュー@山本現代
過去の文脈を外し、新たな言語を再配置する

INFRAには他のアートフェスティバルにはない雰囲気があります。ロジカルなコンセプトとは違う、別の何かでつながる人たちが集っているような。

ナイル:新しい公共性のある場所を作る手段として考えているからだと思います。あるいは、若い人たちにとって今どういうものがホットで、どんなキーワードがあるのか、そういったことを測る手段として扱っているせいかもしれません。例えば日本では若い人がクラブに行かなくて、30代以上の人がクラブカルチャーを盛り上げようとがんばっている。それはそれでいいと思いますが、それとは異なった公共性を持つ場所にクラブがなってもいいと思うんです。

私たちは普段ほとんどクラブに行きませんが、昔の文脈を知らないからこそできるアプローチの仕方があると思います。クラブから過去の文脈をいったん外して、自分たちの知っている言語を再配置すると何か面白いことが起きるのかもしれない。真っ白なギャラリーでイベントをやるのと真っ暗なクラブという箱でやるのと、そこまで違いがないと思いますから。そこで、すごくクレイジーなパフォーマンスをする人が出てきてもいい。それが今のみんなの共通意識につながるものだったら、それこそが新しい形のクラブのあり方になるかもしれません。

Lyra によるパフォーマンス @WWWβ
クロージングパーティー「新世代クラブ」@WWWβ

INFRAを始めて分かったのは、今まではこういうイベントが必要と思いつつも、誰もやらなかったところにINFRAが出てきたということです。参加するオーディエンスは若い世代が多いのですが、彼らが皆言うのは「ありがとう」という感謝の言葉でした。「この音楽家が好きだから」という気軽な理由でギャラリーに来て、そこで他の色々な作品に触れて「あ、こういう形でもいいんだ」とか、「これは、こういう見方もできるんだな」と、ちょっとそれまでとは違う言語をノーマライズしたり、みんなが色んなことを考えたり、今まで来ないオーディエンスが来たりということを実感できる。そのような場を皆求めていたんです。

音楽に関して、歴史のある大規模なフェスでないところでやれることは何だろうと考えた時、小さなグループを作ってアーティストと参加者がまったく同レベルで話をしたり、知識や感性のエクスチェンジができたりする場を設けたいと思いました。昨日はラーズ・TCF・ホルトゥスとダンビ・キムが、お茶と音楽のワークショップをパークホテルの26階のサロンルームで開催していました。

内容は音楽を作ってみたい人を対象にしたワークショップでしたが、20人近い参加者の半分くらいは一回も音楽を制作したことがない、機材も分からないような人たち。そこは一人のアーティストが参加者皆に教えるワークショップではなく、参加者とアーティストが混じり合って「ここのボタンを押すとこうなるんだよ」という具合に教え合う場です。ひとつのコミュニティとしてエクスチェンジすることで、色んなエデュケーションが生まれるんです。

TCF x Dambi Kimによる「音楽とお茶のワークショップ」@パークホテル東京
TCF x Dambi Kimによる「音楽とお茶のワークショップ」@パークホテル東京

そのワークショップのユニークなところは、みんなが何かを作らないといけないということは全然ないということです。音楽を作っている横で、韓国から来たダンビ・キムというお茶を使ったワークショップをするアーティストが、茶道の作法でお茶をいれてくれるんです。疲れてきたり、よく分からなくなったりしたら、彼女とお話してみればいい。そうこうしているうちに出来上がった音を1人が合体させて、みんなで作った音をみんなで聴く。それでワークショップが終わります。

TCFがやっている電子音楽がコミュニケーションツールであるとすれば、お茶も人と人をつなぐコミュニケーションツールのひとつだと思うんです。それを自然な形で融合してあげると、そこだけでひとつの共通意識や貴重な体験が生まれる。それはINFRAという規模の小さいフェスティバルだからこそ作れる場なんだと思います。アーティストと参加者が垣根のないレベルで混ざり合っていくような。

自分もアートや表現が好きで、色々な展覧会やパーティーに行きますが、そこに来る面白い人たちとの出会いも作品を鑑賞する体験の一部にふくまれていると感じます。

例えば、カフェに行く理由は、そこで売られているコーヒーが美味しいからというよりは、そこに来る人たちが好きだから、あるいはインテリアが好きだからというのと同じです。だからそこに集う多様性をひとつのボックスに入れて全体系にする装置となるイベントがいいと思うんです。

赤というコンセプトを赤に対応したボックスに入れるのではなく、色んな色がそこにあって、混ざり合うことでまた新しい色が生まれるような場であってほしい。

インターネットは日常にある古典を浮き彫りにする

INFRAのコンセプトには、インターネットという情報空間もふくむ、生活を取り巻く要素としてのインフラという意味合いがあると思います。ナイルさんの考えるアートとインターネットの関係についてお聞かせください。

ナイル:例えば私たちがINFRAに参加している作家を知ったのは99%インターネット経由でした。その点で言えばインターネットはそれ自体について議論をする対象ではなく、ただ使うことが当たり前のツールです。

今ありがちなメディアアートやメディアに関する芸術祭だと、いまだにメディアや電子技術が、人間の能力を超えたもの、先端的で自分たちが持っていないものを可視化する手段と捉えられがちです。それはそれですごく大事なことで、より自分たちを取り巻く状況をアップデートしてくれるものだとは思いますが、いまや色んなアーティストがテクノロジーを使っているのを見ると、必ずしも使っている技術に対してすごみを感じているわけではないんです。

TCFコンサート@山本現代
Dambi Kim "Iced Lotus Garden"@原美術館

例えばAIを使ったTCFは別にAIに興味があるのではなく、そのAIが絵筆となってキャンバスに描いているような感覚で使っています。他のアーティストたちも何かしらインターネット的な言語を使ったり、そこからインスピレーションを得て作品を作ったりしていますが、別にそこをレプリゼンテーションしているのではなく、あくまでもそれをツールとして自分の表現に使っているだけです。だから今までアート表現の手段となっていた彫刻や絵筆が、インターネットやテクノロジーによって古典的なものとしての意味合いが強くなったと思います。

クラシック音楽と今呼ばれている音楽のジャンルにふくまれる曲も、かつてはアバンギャルドとされていたものがあります。じゃあ、それがどのタイミングでクラシックと呼ばれるようになったのか。今インターネットや最先端テクノロジーと言われているものが、クラシックなものと見なされる未来はあるでしょうし、現時点でも先端のテクノロジーから何の変哲もない日常にあるものとしての立ち位置に変わりつつあります。

その世代によるものやメディアでの取り上げられ方など、さまざまな要因があると思いますが、例えば80年代はニューメディアが世の中を変えると言われていましたし、90年代半ば以降はインターネットが普及して、その文脈に沿って未来というものが記述されてきました。でも、20年以上経っているのにまだその文脈から離れられていない気がします

ナイル:そう! もしかすると自分たちがその文脈の先端にいるのかもしれないし、まったく違うものを再生産しているのかもしれないんですよね。自分たちの知らない、今まで新しいと思い込んでいたものが実は古いものに置き換わっていて、それが新しいカルチャーや文脈をルネサンスのように作っているのかもしれない。

新しいことが、もっと違う意味で動きはじめているのかもしれないと思います。それを浮き彫りにするのが人々の表現です。自分が立っている地面を見ることで、空を感じることができるかもしれない。INFRAというのは、最先端でエクスペリメンタルなものではなく、基盤や基礎となる根底を見る場なのだと思います。

DJ Paypal と谷口真人によるトーク
世界の内側と外側を結ぶノードとしてのアイデンティティ

今年の開催テーマ「Inside the Outside World —外の世界の内で—」について教えてください。文字だけでは意味が取りにくく、どういうことなのだろう?と不思議に思っていました。

ナイル:メタファーとしてはやはりインターネットです。インターネットって外の世界なのか内側の世界なのかはっきりと分けられない。たとえば海外のページにアクセスすることは、外の世界を見ることでもあるし、自分の内面にある世界のさらに奥に入っていくことでもあります。だからインターネットがあることで、内側と外側の関係がすごく複雑なレイヤー構造になっていて、時にはそれらが反転してしまうこともある。それは社会状況や政治によって常に移り変わるものだと思います。

いま世界の随所で政治的に人々の意識が内向きになる事態が起きています。自分の属する国家や領土に対する自意識がすごく高まっていて、それが政治にも反映されています。だからこそ、内か外かという二元的な考え方ではなく、それらが多層レイヤーになっていることを示したい。何層ものレイヤーを同時に見ることが、それまで自分が気付かなかった多様性や未知なものを理解するチャンスにつながると思うんです。

ナショナリズムが世界的に加速するなか、例えば日本人で言えば、どこからどこまでが日本人なのだろう?というアイデンティティの問題に突き当たります。

ナイル:それは民族の問題に加えてインターネット上のアイデンティティの問題も加わると思います。例えば意図的に作った第二、第三の人格をインターネット上に作ることもしばしば起きていますよね。今の時代において、それくらいアイデンティティの問題は複雑です。

一概にこれが自分の国や自分のアイデンティティだと言えない状況がある。自分自身のアイデンティティに強く目が向くのは、その曖昧さから来る不安によるのかもしれません。立ち位置が分からないがゆえに、どこの誰を攻撃したらいいのか分からない。その白黒はっきりしない不安定さがなおさら攻撃性を呼ぶのかもしれません。

Green Music 「=AO」パフォーマンス

最後の質問になります。これはインタビューをする皆さんに伺っていることなのですが、ナイルさんから見てこれからのアートサイエンスはどのようなものになると思いますか?

ナイル:アーティストの中には、もちろんサイエンスを応用している人もいます。一方で、すごく工芸的な作品を作るアーティストがサイエンティフィックな方法論を構築すると、よりサイエンスが明快になっていくことで、神秘性や宗教性の根源的なアウトラインがどんどん浮き彫りになることがあります。

例えば量子論のように人間の言語を越えた領域の話を聞いていると、神話や詩を聴いているような気持ちになります。でもアートも、そうした言語を越えた力を持つ媒体だと思います。アーツ&サイエンスというひとつのポットには入れられないけれど、何か共通の意識で持っているアイデンティティみたいなものがある。

何かそこにひとつの答えや統一論的な原理が出てくるのではなく、さらに疑問が出てくることで、初めて人間の限界や人間の持つ難解さを知るきっかけになります。例えば人の作ったAIよりも知能が低い脳があったとして、それはもはや脳と呼べるのか? ただの肉なのか? それとも肉ではなくやはり脳なのか? という問いが発生します。

その問いによってどんどん次の新しい問いが生まれてくる。そういう意味で私はアートとサイエンスは新しい問いや違いを見つけて、今まで想像もしなかった多様性をそこに見いだす可能性があるものだと思っています。それを確認するだけでも、価値があると思います。

CREDIT

Mirei
TEXT BY MIREI TAKAHASHI
編集者。ギズモード・ジャパン編集部を経て、2016年10月からフリーランスに。デジタルカルチャーメディア『FUZE』創設メンバー。テクノロジー、サイエンス、ゲーム、現代アートなどの分野を横断的に取材・執筆する。関心領域は科学史、哲学、民俗学など。

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