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2017.12.01

詩とアルゴリズムで世界を描写する。アーティスト、メモ・アクテンが探求するAIと自然

TEXT BY AYUMI YAGI,EDIT BY ARINA TSUKADA

プログラミング表現のもつ可能性を追求し続け、世界中のアーティストを触発し続けるトルコ人アーティスト、Memo Akten(メモ・アクテン)。近年は積極的にディープラーニングの研究にも注力するメモが、今年10月ART & SCIENCE gallery lab AXIOMの招へいにより来日した。AIなどのテクノロジーが人間・文化・生態にもたらす影響を論じるトークイベント「文化的特異点(Cultural Singularity)への考察」が開催された。

Memo Akten

自然、科学、技術、倫理、儀式、伝統、宗教の衝突を探求する媒体としてコンピュータ/プログラミングを扱うアーティスト。批判的アプローチと概念的アプローチを形式、動き、音の研究に組み合わせることで、彼は自然と人為的プロセスのデータ劇を創造する。現在は、ゴールドスミスのロンドン大学で人工知能と表現力豊かなヒューマンマシンの相互作用の博士号を取得中。彼の作品は国際的に展示され演奏され、本や学術論文にも掲載されている。 2013年、Quayola、 'Forms'とのコラボレーションでPrix Ars Electronica Golden Nicaを受賞。

詩とアルゴリズムから見出す、データのドラマ性

Memo : 私の創作活動、その源泉は「自然」に深く根付いています。宇宙を統べる物理法則。生命の真理に迫る生物学、原子生物学、進化学。精神を科学する神経科学、心理学、哲学。われわれの生活・生き方を問う社会学、文化人類学、宗教。これらあらゆる尺度から捉え得る「自然」という存在を背景に、未だ明らかにされていないこの世界の形成過程や、世界を認識するための新しい尺度・概念の構築を日々探求しています。

そうした中で、表現を拡張し、豊穣なものにしていく自身の方法には3つのキーワードがあります。

 

1. Algorithmic Poetry

 

ひとつめは「Algorithmic Poetry」、詩的なアルゴリズムを作り出すこと。あるアルゴリズムのシステムと、そこから実際に生じるアウトプット、そしてそれを見る鑑賞者といった並行に見える関係性をつなぐことで、詩的な世界を抽出しています。

 

2. Behavioural Abstraction

 

ふたつめはBehavioural Abstraction、行動パターンやふるまいの抽出ですね。人間、動物、または自然界にある何らかのふるまいを観察し、それらの行動パターンを緻密に抽出していくことで、まだ見たこともないビジュアル表現を生み出すことができます。

《Forms》オリンピック種目をモチーフとした作品。人間のモーションのスタディを基軸に、アスリートが自身の限界を超えたパフォーマンスを発揮するときの瞬間をビジュアライズした。アルスエレクトロニカ2013にて金賞ゴールデンニカを受賞。

3. Data Dramatization

 

最後はData Dramatization、データをいかにドラマティックに演出するか。ここがおそらく作品に昇華させていくプロセスの中で最も重要なポイントです。単純にデータをビジュアライズするだけではなく、そこにドラマを生み出すことが重要なんです。

また、表現のリアルタイム性も大きなテーマです。そのため、リアルタイムで表現を拡張していけるデバイスを開発することに強い情熱を持っています。ユーザーが何かをした瞬間に、それがクリエイティブな形でアウトプットされるといった、ある意味で楽器に近い表現装置をつくりたいんです。

《Pattern Recognition》振付家Alexander Whiteleyとの共作。2名のダンサーと2つの照明を用いて、学習、記憶、再現と認識というテーマの探求を試みたパフォーマンス作品。光のパターンを学習していくAI搭載のマシンに応じて、ダンサーの振付も変化していく。

社会のパラドックスを可視化する

Memo:データビジュアライゼーションは、人間や生き物のモーションに限りません。例えば、2013年に視察で行ったマダガスカルで得た体験をベースとした作品《Equilibrium(均衡、バランスの意)》を紹介しましょう。

まずマダガスカルと聞くと、キュートで珍しい動物や熱帯雨林などの自然を思い浮かべるかもしれません。しかし、現地の人々はその貴重な生態系を持つ熱帯雨林を、地下資源の採掘のために焼き続けているんです。また、成長するのに500年以上かかる貴重なローズウッドの木を家具の素材にするため伐採し、販売していくことでローカルエコノミーが整備されています。

それに加えて、地下資源にサファイアのような貴重な資源が発掘されると、こぞって人が集まり、街ができ、そこにエコシステムができます。しかし、そうしたその場しのぎの生活システムは整備が行き届かず、犯罪や汚職がはびこった劣悪な環境も生み出します。

急激に増える人口に応じて人々の生活水準を満たしていくために、今多くのものが引き換えとなっているのです。

西洋諸国の人間は、マダガスカルなどに生物の多様性やエキゾチシズムを求めていく一方で、彼らの飽くなき欲求が唯一無二のエキゾチシズムを奪っていくというパラドックスがある。そうした人間の欲望とエコシステムの不均衡な関係をビジュアライズした作品です。

鑑賞者がスクリーンに触れると、画面上にあるいくつもの点のバランスが一気に崩れていくんです。その後、今度はまた時間をかけて新しいEquilibrium(均衡点)を自ら探しにいくというシステムまでを設計しています。しかし、当然また誰かがスクリーンを触る度に、また均衡が崩れてしまう。この永遠のパラドックスを表現した作品です。

もちろんこれはマダガスカルの状況に限らず、グローバルな環境問題や金融といった社会的状況にも当てはまるでしょう。

ミニマルな儀式的空間から世界を知る

Memo:続いて、シンプルな動きの中にある複雑性を抽出した作品《Simple Harmonic Motion》を紹介します。単純な左右と上下の運動を行う点が次第に集積していくと、あるパターン性をもった大きな全体を構成していくことがわかる作品シリーズです。

私の故郷であるトルコのイスタンブールは、様々な思想が行き交い、様々な行動パターンをもつ人々が共に生活している土地です。その発想から、複雑なシステムを構成しうる状態とは何かを考察していきました。

本作のリファレンスは、ミニマル作曲家のスティーブ・ライヒや、CG界の先駆者ジョン・ウィットニー、またセックス・ピストルズの仕掛人であるマルコム・マクラーレンの作品が並びます。

こちらは似た原理に基づき、80本のレーザービームを使った作品。80本もの光が天に向かって打ち出されていますが、動きはすべて非常にシンプルなものです。

イギリスの古城で開催された艾未未(アイ・ウェイウェイ)のエキシビションにおいて、コミッションアートとして制作された。

この真下から見た動きはまさに、私のテーマのひとつである、複雑性と単純性の関係から生じるカオスを見出したものです。そのインスピレーション源となったのが、ロン・フリックが1992年に制作した映画『BARAKA』です。

この映画では、禅僧が「経行」と呼ばれる修行を行っており、禅僧は非常にゆっくりと歩くことで、周囲の人とまったく異なるタイムスケールで日々を過ごしています。そこで禅僧は、一瞬一瞬を振り返りながら、自分の存在する地点を確認して生きているのです。

私はこうしたスピリチュアルな儀式に強い関心を持っています。非常に簡素にも見える儀式的な行為が、人間の精神に大きな影響を及ぼすことに興味があるのです。私の作品も、微細なプロセスを積み上げることで、人間や宇宙、生命の進化といった大きな世界にも思いを馳せられるように設計していきました。

AIの学習過程から「見る」とは何かを考える

Memo:現在、創作活動と並行して、ゴールドスミスの博士課程において、人工知能分野における研究に取り組んでいます。これはディープラーニングやHMI(ヒューマンマシンインタラクション)といったコンピュータサイエンスの研究、すなわち技術的なアプローチではありますが、私自身が抱いている興味の射程は、人文、社会、倫理、法、哲学、宗教などと密に関わる人工知能の未来の在り方に及びます。最後にこのアプローチについてご紹介しましょう。

これはGoogleが開発した AI搭載の画像処理エンジンDeep Dreamをベースとした作品です。Deep Dreamの原理は、人間がもつ視覚の神経細胞のシステムをアルゴリズムで精密に再構成するというもの。コンピュータに無数のイメージを記憶させ、それを何百回、何万回と続けていくことで、ようやく猫の画像であれば猫だと認識するようになります。

ここで私が興味を持ったのは、AIの学習過程において、ある画像を見せたときに、過去に学習したイメージの中で最も近いものを瞬時にリンクさせていくことです。例えば、「トカゲの皮膚」を学習したアルゴリズムは、私の顔の写真を見ても、どこかしらにトカゲの皮膚を見つけ出そうとするのです。そこでジェネレートされたグロテスクな画像群は2年前に世界中で話題になりました。

それに対して、私の研究作品《Learning to see: Hello World!》を紹介しましょう。このプログラムでは、何百万枚もの画像からトレーニングされたDeep Dreamと違って、一切の学習データを与えていません。例えばこの映像(上記)を見てもらうと、左はWebカメラで撮った映像、右はAIがWebカメラのイメージを認識している最中の映像になっています。つまり右のAIは、世界を初めて見た赤ちゃんのような状態なのです。

ここでの問いは、「世界を見て、理解するとはどういう状態か」ということ。自分は普段から何を見ているのかを考えたかったのです。AIの学習過程と同様、人間が何かを見た時は、過去に記憶したイメージを参照しますし、膨大な情報量のイメージを見た時は、その中から何らかの規則性を見つけようとします。

 

その規則性も、今後は自分の過去の視線の記録をアーカイブし、過去のイメージにあてはまるようAIに学習させていくことで、次は事前に視線を予測することが可能になるかもしれない。自分が何を見ようとしているのか、ちょっと先の未来が予測できる。これは、新たなビジュアル表現を探求する上で非常に面白いテーマになると思っています。

 

こうした探求の中で、機械学習のアルゴリズムとは人間という存在そのものを映し出すひとつの手段であると考えるようになりました。われわれがこの世界をどのように知覚し、認識し、理解しているのか。どんな物事や人物に価値を見出すのか。なぜ人間は自己肯定的なものの見方・偏見に陥り、他者の視点や価値観を受け入れることができないのか。そのような人間の性(さが)が、格差社会を始めとする社会の「傷」を広めつつあることを考えずにはいられません。

世界を観測するアートとサイエンス
Art Science is a process to observe the real world.

Memo:最後に、サイエンスは新しいアートを見せてくれるツールのひとつである一方で、何が美しいのか、そこにどんな意味があるかを「目に見えるもの」として提示することがアートです。新たなサイエンスやテクノロジーが登場することで、今まで見えてなかったものが見えてくる。その表現の先に、新しいアートが生まれてくると思うんです。

また、友人のメディアアーティスト、ゴラン・レヴィン(Golan Levin)と共にトークショーに登壇していたとき、彼はピカソの言葉を引用して、「人間は生まれながらにしてアーティストだが、大人になるにつれて忘れていく」という話をしていました。

面白いことに、同時に私はSF作家のカール・セーガンの言葉「人間は生まれながらにして科学者だが、大人になるにつれて、自分の中の科学者を追い出してしまう」を引用したんです。つまり、私たちはまったく同じ内容をそれぞれ「アーティスト」と「科学者」という単語を使って話していたんです。

サイエンスは客観性をもった確固たる事実を探求し、アートは個々の主体のまなざしから真実を追求していく。私個人としては、ある自然現象や物理現象の中から出現するプロセスを観測することに大きな興味がある。そこにはアートとサイエンスに大きな違いはありません。

協力:ART & SCIENCE gallery lab AXIOM
日本で初めてのアート&サイエンス専門のギャラリー
http://as-axiom.com/

 

CREDIT

Aymyg 3
TEXT BY AYUMI YAGI
三重生まれ、東京在住。紙媒体の編集職として出版社で経験を積んだ後、Web制作会社へ転職。Web制作ディレクションだけではなく、写真撮影やWeb媒体編集の経験を積みフリーランスとして独立。現在は大手企業のブランドサイトやコーポレートサイトの制作ディレクターや、様々な媒体での執筆や編集、カメラマンなど職種を問わず活動中。車の運転、アウトドア、登山、旅行、お酒が好きで、すぐに遠くに行きたがる。
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EDIT BY ARINA TSUKADA
「Bound Baw」編集長。編集者、キュレーター。「領域を横断する」をテーマに幅広く活動する。サウンドアーティストevalaのサウンドプロジェクト「See by your ears」マネージャー。2010年、サイエンスと異分野をつなぐ「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。12年より、東京エレクトロン「solaé art gallery project」のアートキュレーター。編著に『マリー・アントワネットの嘘』(講談社)『メディア芸術アーカイブス』『インタラクション・デザイン』(BNN新社)、ほか「WIRED」など執筆歴多数。 http://arinatsukada.tumblr.com/

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