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2017.11.01

アルスエレクトロニカレポート(3) AIを通して人間の未来を問うヒューマンリサーチ

TEXT BY AKIHICO MORI,TEXT(FIS) BY ARINA TSUKADA

今年、AIをテーマに掲げたアルスエレクトロニカ・フェスティバルの「Artificial Intelligence - The Other I」は、10万人という過去最高の来場者を記録して閉幕した。レポート第3部ではアルスエレクトロニカ・ジャパンのディレクター小川秀明氏のインタビューを掲載する。小川氏の語る「未来をつくる対話の場」とは何か? アルスのメインコンテンツのひとつ、世界中からアーティストや研究者を集めるサミット「FIS(Future Innovators Summit)」のレポートと共にお届けする。

メインビジュアル:《Sumbiophilia》 Stefan Engelbrecht Nielsen, Alberte Husted Larsen, Karina Lindegaard Aae Jensen, Louise Ørsted, Maria Emilie Nielsen 
「合成生物学時代における、実験的開拓者連合」をテーマに掲げるプロジェクト。人間と自然とテクノロジーがいかに互いのモラルを維持しながら共存できるかを問い、自然と共生する人間の生き方をユーモラスに提案している。写真はフェスティバル中に行われたパフォーマンスの一部。Photo: Florian Voggeneder

AIを通したヒューマンリサーチ

今回のフェスティバルの出品作は、「The other AI」というテーマから触発されるものがありました。その一方で、「今回の目玉は何だったのか?」と聞かれれば、いまいち一言で返答できない、そんなつかみどころのなさもありました。

小川:それは嬉しい反応ですね。AIをテーマにしているとはいえ、今回のフェスティバルがAIの技術的な側面の追求にならないようかなり意識的しました。それはディープラーニングの技術などを用いた、いかにもAIらしい主張の作品はほとんど展示していないことからもわかると思います。

小川秀明

アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ所属。クリエイティブカタリスト、アーティスト、キュレーター、リサーチャー。博報堂とアルスエレクトロニカが共同開発した「フューチャー・カタリスト」に代表される、イノベーションの触媒となるアート・シンキングを提案するプロジェクトを多数行っている。

意図的だったんですね。AIをテーマとしたフェスティバルで、AIらしい作品を除外する。なぜそうした方法を取ったのでしょう?

小川:私たちの目指すものがヒューマンリサーチだからです。AIを最先端技術として捉えて、その社会的な役割や発展性を考察するのがテックカンファレンスであれば、私たちに求められているのは、AIを現代を象徴するメタファーとして捉え、社会へ提示すること。いまアーティストたちが知覚しているものを通して、AIと人間の境界線において、人間だけが必要とすることは何か、あるいは“マシン”だけが必要とすることは何なのかといった本質的な哲学的命題を浮き彫りにすることが、アルスの役割だと考えたのです。そこで、人間やロボットの本質に迫る探求を行う作品を選出していきました。

アルスエレクトロニカ・フェスティバルの主会場である「POSTCITY」(かつての郵便集荷場を改装した施設)は、会場全体がその名前の通り、都市のメタファーになっていますよね。今回の展示では、会場であるPOSTCITYはどのように機能したのでしょう?

小川:今回の会場は3フロアに分かれています。大きく分けると、地上1フロアは今の世界を、地下2フロアは“今”を支える世界のメタファーになっています。地上階は「STARTS-Prize」の受賞作品が象徴するように、まさに今起こっているアートイノベーションの世界を垣間見ることのできる場所です。「STARTS-Prize」とは、テクノロジーや産業、社会のイノベーションをアートの力で実現しようとする試みを評価するべく、欧州委員会(EU)の任命を受けて立ち上がった新たなアルスの賞で昨年からスタートしました。 参照:「アルスエレクトロニカ発、アートの力で産業・社会のイノベーションを触発する STARTS Prize|Bound Baw

《わたしは人類》やくしまるえつこ
photo: MIRAI seisaku
PRIXの受賞者を祝うGALAコンサートで、1曲のみのパフォーマンスを披露したやくしまるえつこ。
「START-Prize」今年のゴールデンニカ(グランプリ)に選ばれた、アーティスト・やくしまるえつこによるバイオプロジェクト《わたしは人類(I’m Humanity)》。やくしまるえつこはシアノバクテリアの一種、シネココッカスの塩基配列をもとに”人類滅亡後の音楽”を作曲。その楽曲情報をもとにDNAを人工合成し、シネココッカスの染色体に組み込んだ。自己増殖し、遠い未来へと受け継がれる「人類史上初めて、音源と遺伝子組換え微生物で発表された作品」とされている。photo: tom mesic

一方で地下会場では、そうした“今”がどんなものに支えられているのかを示す、哲学的な世界が広がっています。訪れた人なら分かりますが、環境的な要因もあって、地下へ潜るほどミステリアスでスピリチュアルな展示になっていくように設計しています。

たとえば地下のテーマのひとつに人間の”複製”や“外部化”がある。ペトリ皿で培養された擬似的な“脳”と、人間のプレーヤーがインタラクションしながら音楽をつくりだす印象的な作品《cellF》が展示されていましたが、複製された人間の機能を体の外部につくり、客観視することで、人間とは何かを見る者に問う作品です。

《cellF》   Guy Ben-Ary, Nathan Thompson, Andrew Fitch, Darren Moore, Stuart Hodgetts, Mike Edel, Douglas Bakkum 
世界初の「ニューラル・シンセサイザー」。Ben-Aryは自らの腕から取り出した皮膚細胞を培養。iPS細胞技術を用いて皮膚細胞を幹細胞へと初期化、その後、神経回路網へと分化させ、Ben-Ary自身の“脳”を生み出した。 

さらに1階下がった「POINT ZERO - Human.0 Machine.0 Data.0」と呼ばれる展示では、もう一度人間、マシン、データとは何かを総合的に問う空間が広がり、地下のもっとも奥深くにある展示では、エネルギーや時間といった、人間社会を下支えしているファクターとは何かを考えさせられる作品を展示しています。 

Asemic Languages -形骸化する言語》  菅野創、やんツー
文字の、形とパターンだけを機械学習したAIが、新たな文字を自動生成してゆくインスタレーション。形としての特徴は持つが意味を持たない文字が、紙にペンによって自動的に書き出されていく。

小川:菅野創とやんツーの作品は非常にシンボリックだと思っています。ここに書かれている文字はこの世に存在しない文字だけれど、「アラビア語だよ」と言われれば、多くの人が信じこんでしまうでしょう。こうしたことは、非常に多くの情報をスクリーンで見ている私たちの周囲で絶えず起きている。情報の大河の中を、あの作品と同じように、誰かが勝手につくった情報がまことしやかに流れている。この作品は、そんな現代を体現しているように思いました。

アートを触媒に、未来を志向する対話を生み出す場づくり

POINT ZEROにあった《Ad lib.》という作品が象徴的でしたが、マシンと人間の知性の差異とは何かについて考える機会は今後もますます社会の中で増えていくと思います。そのとき、また新たな問いや言葉、概念が立ち現れていく。今回のフェスティバルはどんな場になったと考えていますか?

《Ad lib. 》 Michele Spanghero 
医療用の人工呼吸器が、ヨハネス・ブラームス作曲による「ドイツ・レクイエム」の断片を演奏する。生まれるサウンドはアーティストの意図か、それとも人工呼吸器の意図かといった、人間と機械の差異における倫理的な問いを突きつける作品。

小川:アートコミュニティに限らず、参加者すべてが共通言語を持って未来を考える対話の場を生み出せたのではないかと感じています。AIをテーマにした今回のフェスティバルでは、アーティストに限らず、政府や企業から一般市民までの多様な人々が集い、さまざまな場所でディスカッションが起こっていました。日本からもたくさんの企業の方が来られていましたが、分野を超えた対話が生まれていた風景は、これからの理想的な都市のあり方を象徴するようでした。

対話という点では、「FIS(Future Innovators Summit)」は印象的でした。世界中から集まったアーティスト、デザイナー、サイエンティスト、キュレーター、編集者などが4日間かけて濃いディスカッションを行っていましたね。

小川:FISは、アルスエレクトロニカ・フェスティバルに集結したナレッジが、参加者によって未来をつくる対話へと昇華していくプロセスを体感できる好例だったと思います。

POST CITY会場内で行われたFISのグループディスカッションの様子。
Photo: Martin Hieslmair

今回FISを見ながら、AIという、この現代テクノロジー社会を象徴する存在の今後のありかたが、政府や専門家たちだけの手によって決められるべきなのかをあらためて考えさせられましたね。人間が今後どうなっていくのかを、一人ひとりがボトムアップで考えられる対話の場というのが本当に必要になっている。アルスエレクトロニカという存在には、そうした場を設け、政府へ提言する、また、産業とコミュニケーショするといった、新しい触媒としての役割が求められていると感じています。

アートは止まっているものじゃない。美術館や教科書で習うのだけがアートじゃないんです。アートはどんどん変わっていく。21世紀、さらに先の未来を見据え、アートの意義と価値を確認できる場、そして行動に繋げていくことができる場というのが、これからのテクノロジー社会ではさらに求められていくと思います。

FISという思考実験場にあった、
リアルタイムのスペキュラティブデザイン

FISとは、アーティスト、デザイナー、サイエンティスト、キュレーターといったさまざまな経歴の人々が国籍・人種もバラバラに集まり数日間にわたって濃密なディスカッションを行うプログラムだ。今年のテーマは、AI時代における「Future Humanity」「Future Work」「Future Home」の4つ。Bound Baw編集長の塚田有那は「Future Home」というテーマのチームに参加した。

都市計画のデザイナーから、情報科学研究者、おもちゃのデザイナー、アーティストからジャーナリストまでが集った「Future Home」のチームメンバー。

塚田:とにかく頭がフル回転させられる超刺激的な数日間でした(笑)。FISの第一ミッションは、私たちが未来の社会を想像していく上で、誰しもが触発されるような、刺激的で・挑発的な問い=クリエイティブ・クエスチョンをつくりだすことにあります。いわゆる文字通りの「未来の家」を想像すると、お手伝いロボットが家事を代行し、今日の天気から消費行動まで、様々な未来予測がAIから家電に送られてくるような情景が思い浮かぶかもしません。しかし、ここで考えうるべきは、その技術的な側面のさらに奥に、人間が本当に心地良さを感じるホームとは何かについてでした

すると興味深いことに、「人間の感情や無意識とテクノロジー(AI)はいかなる相互関係を結ぶのか」といった問いがチーム内で深く共有されるようになりました。

左上の図は、BodyとHomeの関係を問う議論から生まれた1枚(筆・塚田)

たとえば、きっかけは「House」と「Home」の違いから。「House」がいくばくか機械的、システム的なイメージのある単語なのに対して、「Home」は家族や安らぎ、所有感といったエモーショルな意味合いを多分に含みます。一方で、そして、どんな生物も、環境次第でいかようにも適応し、変化していきます。私たちは知らずうちに、家の中、家族、都市、社会、または言語によっても日々の思考や感情に深く影響を受けています。

荒川修作とマドリン・ギンズによる巨大パブリックアート養老天命反転地。岐阜県の山中に突如として奇妙な公園が出現する。

私はディスカッション中、荒川修作とマドリン・ギンズの生んだ、“世界一歩きにくい”公園、養老天命反転地を例に挙げました。世間からは賛否両論(というかほぼ否)の施設として有名ですが、まっすぐ歩ける道がどこにもない、重力に完全に反するという常にデンジャラスな空間に身を置いてこそ、人間本来の本能や感覚がよみがえると荒川さんは生前仰っていました。これをホームになぞらえて考えてみるとき、もちろん生活における安全保障は重要ですが、重力のような空間内の目に見えない部分にも、私たちのマインドと身体は影響され続けていることをあらためて意識してみても面白いかもしれません。それはまた、IoTの普及で様々なセンシング技術が家の中に搭載され、AIが周波数から細菌の量まであらゆるデータを読み取り、私たちに伝えてくれるような時代が到来するとき、知らずうちにAIは人間の身体や無意識にも深く関与してくるでしょう。

そうした議論の末、FISのファイナルプレゼンテーションで私たちのチームは、人工ボイスのみのAI「サマンサ」(スパイク・ジョーンズの映画『her』のあれ)が会場のオーディエンスに語りかけるという即興劇を披露しました。彼女はオーディエンスの疲れをいやすべく、すぐにリラックスできる呼吸法を教えてくれます。しかし、彼女の指示にそのまま従っていくと、次第に苦しくなって息もできなくなるというブラックユーモアを交えた一興でした。

「Future Home」のメンバー

かくもFISにおける醍醐味は、多様な人々と未来について語り合う、そのプロセスにあります。それもまた、アルスエレクトロニカという場に引き寄せられてきた人々だからこそ。今後は、このプラットホームで生まれた数々の知見が、実際に社会に提言されていく場をつくってみたいです。

 

CREDIT

Profile mori
TEXT BY AKIHICO MORI
京都生まれ。2009年よりフリーランスのライターとして活動。 主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、インタビュー、ライティングを通して書籍、Web等で創作に携わる。 幼い頃からサイエンスに親しみ、SFはもちろん、サイエンスノンフィクションの読み物に親しんできた。自らの文系のバックグラウンドを生かし、感性にうったえるサイエンスの表現を得意とする。 WIRED、ForbesJAPANなどで定期的に記事を執筆している。 
 http://www.morry.mobi
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TEXT(FIS) BY ARINA TSUKADA
「Bound Baw」編集長。編集者、キュレーター。「領域を横断する」をテーマに幅広く活動する。サウンドアーティストevalaのサウンドプロジェクト「See by your ears」マネージャー。2010年、サイエンスと異分野をつなぐ「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。12年より、東京エレクトロン「solaé art gallery project」のアートキュレーター。編著に『マリー・アントワネットの嘘』(講談社)『メディア芸術アーカイブス』『インタラクション・デザイン』(BNN新社)、ほか「WIRED」など執筆歴多数。 http://arinatsukada.tumblr.com/

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