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2018.01.11

自然界から「知」を呼び起こす。人間の未知領域を解放するアーティスト、ギル・デリンドロ。

TEXT BY SAKI HIBINO,PHOTO BY MIZUKI KIN

サハラ砂漠からアマゾンの熱帯雨林まで、世界中の自然地帯をフィールドリサーチし、自然との対峙の中から作品を生み出すアーティスト、ギル・デリンドロ。彼の作品は、存在そのものが持つ「音」が中心にある。AIをテーマとした2017年のアルスエレクトロニカでは流木や土をサウンド素材とした異色の2作品を発表し、来場者から高い評価を集めたギル。孤高の旅人でもある、新世代のサウンド&メディアアーティストが目指す世界とは何か? 彼がお気に入りだというベルリンのとある森で、インタビューを敢行した。

「インタビューのオファー、ありがとう。日本のメディアに紹介されるのは初めてだからとても嬉しいよ。ベルリンには素敵な森や湖がたくさんあるから、集合場所は森でもいいかな?」

とても彼らしい返事だった。

この取材日のすぐ後にもポルトガル、ジュネーブ、モスクワ、イスラエル、ブラジルを回る予定だというギルは、文字通り世界中の僻地を旅し、この自然界のあらゆるモノをモチーフに制作し、ここ数年で急速に注目を集める新進気鋭のアーティストだ。彼のシンプルなアプローチから広がるその世界は、自然が持つ儚さと強さ、そして常に予測不可能な不安定さに満ち溢れ、観る者を魅了する。

自然の中にこそ「知(Intelligence)」がある

2017年のアルスエレクトロニカでも注目を集めた作品のひとつ《Parmafrost》は、天井から吊られた永久凍土が溶解し、地上に落下する際の音をスピーカーが増幅させるインスタレーションだ。気温の変化とともに溶けていく永久凍土が、複数のスピーカーとマイクが突き出されたプラットフォームへ強い衝撃とともに落ちていく。

この衝撃音が、残響を生む広大な地下室で響きわたり、言葉を飲む圧倒的で神聖な空間を生み出していた。

《Parmafrost》2017
カナダのサウンドアーティストAdam Basantaとのコラボレーション作品

このプラットフォーム上には、落下する塊の衝撃、速度、質量、位置などのさまざまなデータによって形成される音波を生成するソフトウェアが組み込まれている。時間の経過と共に、落下した永久凍土の残骸は蓄積され、ランダムな彫刻の配置だけでなく、落下の衝撃によりスピーカーとの予期せぬ相互作用が生まれ、自然と動物的な音を生成していく。ここで私たちは“現代の自然 VS 不自然のサイクル”を観察することとなる。

「アルスのテーマが『Artificial Intelligence – The Other I』、つまりAIを主題としているだけあって、テクノロジー先行型だったり、新たなインダストリーと紐づいたりした作品が目立っていたように思う。それはある意味、AIの領域を狭めているような気もしたんだよね。そうした中で、自然物を使った対照的な僕の作品を見せられたのは良かったと思う。なぜなら、そこには自然環境が育んできた知(Intelligenceの根幹があるから。

自然の知というのは、本来人間がコントロールできないものであり、あくまでテクノロジーはツールに過ぎない。そうした自然のもつ複雑かつ予測不可能な摂理に対して、テクノロジーを掛け合わせた極めてシンプルなアプローチを心がけているんだ」

「この作品は、北半球の大半を覆う永久凍土のリサーチからインスピレーションを得ているんだ。永久凍土はいわば僕たちの住む地球とも捉えられる。この、永久凍土の中には何億年も前に生息していた有機物から、現代の汚染物まで全てが層となり眠っている。凍るという行為はつまり時間を包括してる。時間は、この作品のコアとも言える。 

僕は、地球温暖化反対といった政治的な活動には興味はないけど、自然そのものが持つ力の偉大さには常に興味を持っている。いま、永久凍土の多くはバクテリアの腐敗によってその形を保っているけど、急速に温暖化が進む北極では、いくつかの層が分解され、”生物学的フィードバック” を作り出している。

例えば、永久凍土層が溶け出し、地中の凍っていたメタンガスが溶けて気化することによって、温暖化がさらに加速していくといったようにね。その過程で、地面がその部分だけ凹み、まるでクレーターのよう穴をつくる現象が起こる。その景色をはじめて見たとき強い衝撃を覚えたんだ。そこでは美しい彫刻が自ら生まれてくるかのような現象がフィジカルに起こっていた。自然は計り知れないパワーを持っていて、そこで巻き起こる現象には抗えない何かが存在するんだ、とね」

秩序と混沌のポリリズム

同じく自然物を音のモチーフとしたインスタレーション《(UN)MEASUREMENT》は、回転を続ける巨大な大木の表面をニードルが削り出す、その有機的な時間の流れを音に変換している。

木の表面の5カ所に触れると音が出る特殊なマイクを置き、大木の回転に伴ってマイクの接面が針となり、木の凹凸に応じて音が響きわたる。回転周期は常に同じだが、回転する木の表面と接することにより、マイクの位置が毎回変わっていくため、二度と同じ音を奏でることはない。一定の時間における、秩序と混沌のポリリズムを体感できる作品だ。

「この作品で使用した木をある場所で引き上げた時、すでにこの木は瀕死の状態だった。雨に打たれ続けたせいで60%以上は腐食が進行していて、ウジムシやバクテリア・キノコなどの菌もたくさん生息していた。その後、腐食部分を削って木の骨格を浮かびあがらせる作業を行なった。

このサウンドは、2つの物理的なポイントがぶつかり、壊れるというある種の脆さを増幅させることで生まれている。それは、秩序と混沌の間に生まれる一種の刹那的な摂理を表現していて、面白いなと感じたよ。(UN)MEASUREMENTというタイトルも、木の音はマイクから計測できても、毎回軌道が変わることで、同じ音は拾えないという点から名付けられている。

木の中に生息しているバクテリアや虫が木を削り、腐食することで、木の形状も変わり、その影響もまた、奏でられるサウンドの変化に影響していく。よりフィジカルな彫刻として、音を理解したいという動機から生まれた作品なんだ」

自然の時間が、音楽を奏で始める

現在のようなスタイルになるまで、ギルは実験音楽とヴィジュアル、パフォーマンスを掛け合わせたスタイルを主流としていたという。

「僕の兄弟はミュージシャンで、父親は設計士だった。アート自体には関心はあったけど、いわゆるアート業界に対しては苦手意識が強くて、ポルトの美大では建築学科を選択した。そこでは1年目に総合的に芸術を学ばせる方針を取っていて、写真・映像・メディアアート・ドローイングなどあらゆるジャンルをかじったよ。特にドローイングの授業が好きで、日常の自分の周りを取り巻くありとあらゆる情景を描いてたね。

建築学科に入ったものの、大型建築の設計には興味が持てなくて、1年で彫刻学科に転部して、同時にJazzを学びに音楽学校にも通っていた。大学3年の頃、サウンド・スカルプチャーと出会い本格的に音の世界へ舵を切るようになった。巨大なスタジオがそこにはあって、物質の音を拡張・増幅させることに興奮を覚えてよく実験していたよ。卒業制作で、写真を用いたインスタレーションとパフォーマンスを行なったんだけど、そこで今度はパフォーマンスが持つ一過性の魅力を知って、それからサウンドやパフォーマンスを通して色々な学問領域をつなぐような創作を始めたんだ」

ギルの作品が自然の摂理を用いる現在の手法へと至った転機は、氷を使った2015年のインスタレーション作品《TAO》だった。

天井から吊るされた円形の氷。その下には高温に加熱された金属板が置かれ、室温によって溶けていく。氷の水滴が金属板に触れた瞬間に生まれる沸騰と蒸発の音が、特殊なマイクによって増幅され、サウンドが奏でられていく。氷のピースは、時間の経過と共に自然とかたちや密度を変え、それに伴ってサウンドも変化する。氷が落下し、水滴が全て蒸発しきった時、この作品は幕を閉じる。

彼は極寒のカナダまで旅をして、祖国ポルトガルでは決して創造することのできないサウンドインスタレーションを作り出した。

「TAOの制作は、友人がカナダのClusterというフェスティバルに応募したことがきっかけで実現した。アイデア自体は、ベルリンにいた時から描いていたよ。ベルリンの冬もカナダ同様、超厳しいからね(笑)。当時住んでいた家の近所の湖畔にマイクを3本セットし、気温が低下していく水中で、どのような音が聞こえ、変化していくのか実験したんだ。この時も、いつも僕が使っている触れない限り音を拾わない特殊なマイクで。時間の経過に伴って変化する音が非常に美しくて、魅了されたことを今でも鮮明に覚えている。この時に、シンプルな条件を与えることで、自然の時間が目に見えない音を自ら奏でてくれることを体験したんだ」

自然との対峙 は、己を知る手段

自然への入念なフィールドワークの中から作品の核を見出していくギル。2015年には、アフリカのサハラ砂漠の砂漠での現地調査「The Weight of Mountains 2015」に参加。2017年にも、ブラジルの熱帯雨林での調査“Resiliência2017”に参加し、滞在制作を行った。

The Weight of Mountainsは毎回ロケーションが変わるタイプのレジデンスで、その年はサハラ砂漠の開催に興味が湧いて応募した。砂漠のランドスケープに興味があったのと、そのレジデンスがアルジェリアとモロッコの国境付近にあり、政治的にも面白い場所だと思ったんだ。

サハラ砂漠では、砂嵐の音をフィールドレコーディングしたサウンドインスタレーションと、国境付近で生活するベルベル人のドキュメンタリー映像を制作した。サハラ砂漠で遊牧するベルベル人家族と1ヶ月一緒に暮らして、彼らが情報とは完全に隔離された、砂しかない壮絶な環境でどう生きているのかを観察したよ」

「ブラジルで参加した『Resiliência2017』では、Resilienceというレジデンス施設で滞在制作を行った。サハラ砂漠は、音がほとんどなくて、生物学的な多様性もない場所だったのに対し、熱帯雨林は動植物の音に満ちていて、多様性に溢れた地。

そのギャップを強烈に感じたのは、熱帯雨林の中で盲目状態になったとき。一人で森を散策していたんだけど、滝の横で鳥にメガネを取られて、ほとんど何も見えなくなっちゃって。レジデンスまで戻るには、蛇が出るような道を歩いて帰らなくてはいけない。その時初めて、自分の身体の限界を知った。何しろ、生まれつき目が悪くて、30分以上メガネを外して生活したことはなかったからね。思っていたより自分は弱いと認識した時、生まれて初めて恐怖心を感じた。生きるということ自体が、良くも悪くも運に左右され、チャンスに満ちているんだ

人間の思考、自然の思考

ギルの作品からはいくつものキーワードが浮かんでくる。時間、崩壊、偶然性、不安定、アニミズム、地質学、人間の経験、自然界。実際に、自然の中で受けた体験の他にも、物理学者のDavid Bohm, ポルトガルの作家Gonçalo M tavares、映画監督Andrei TarkovskyやAlexandro Jodorovski、アーティストのAndy GoldsworthyAna Mendieta、また老子道徳経やアニミズム、禅の思想から大きな影響を受けたと話す。彼にとっての「自然」とは何なのであろうか。

「その答えは、『Everything』かな。僕たちが住んでいるこの都市も自然の一部だからね。ただ、人工的なものと自然から生まれた有機的なものの思考の形は異なる。例えば都市と自然のランドスケープの間には構造的に、大きな違いがある。街には直線が溢れているけど、自然には多様な形がランダムに存在しているように、より複雑な構造をしている。僕はこの複雑な構造に魅了されているんだ」

「もう一つ例を挙げると、人間中心の価値基準というものへ疑問を感じている。この社会では、機能的、実用的、目的主義的なものが価値とされることが多々あるけど、その基準は人間が作ったものでしかない。自然は、もっと複雑で、常に予期できないことが起こる。

そのまなざしで芸術作品を捉えたとき、優れた作品はより複雑で、何が起こるか予測不可能なもの、つまり、自然の構造に近いものといえるだろう。僕にとって「予測不可能性(unpredictability)」は重要なキーワードで、目的主義的に作品を作ることをやめて、より抽象的でコントロールできないことを常に考えていきたい。それは、Jazzのインプロビゼーションと近いかもしれないね」

サイエンスが、未知の領域の大きさを映し出す

サイエンスについて知れば知るほど、未知の領域の大きさや自分が何者であるかということを考えずいられなくなる。自然は未知で溢れている。未知の領域を知ることは、人間の潜在意識へのアクセスを可能にする。都市で生活をしているとなかなか気づきにくいけれど、自然の中で起こる予測不可能な事象に対面した時に、その意識は解放されるんだ。

僕の作品は、目に見えないけれど、実はものすごく強いパワーを持っているものに音を通してアクセスるためのメタファーになっている。作品を通して、自然と僕たちが暮らすこの世界の対話の探求を試みているのかもしれないと思うよ」

現在、ギルの最新エキシビション「Biological Clocks of the Universe」が2月18日までオランダ・アイントホーヘンのMUで開催中だ。その後は、スイスのジュネーブにあるレジデンスEOFAに滞在し、また今年はドイツのベルリンで個展が決まっている。イスラエル、モスクワ、ブラジルでも個展を開催予定だという。ギルの飽くなき自然の探求から、私たちはまだ見たこともない、「新たな自然」を発見することだろう。

 

CREDIT

Saki.hibino
TEXT BY SAKI HIBINO
ベルリン在住のエクスペリエンスデザイナー、プロジェクトマネージャー、ライター。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、企画・ディレクション、プロジェクトマネージメント・執筆・コーディネーターなどとして、国境・領域を超え、様々なプロジェクトに携わる。愛する分野は、アート・音楽・身体表現などのカルチャー領域、デザイン、イノベーション領域。テクノロジーを掛け合わせた文化や都市形成に関心あり。プロの手相観としての顔も持つ。
Mizuki
PHOTO BY MIZUKI KIN
アーティスト、写真家。東京藝術大学大学院修士課程修了後、ベルリンを拠点に活動を開始。 第3回写真1_wallグランプリ、2015年度ポーラ美術振興財団派遣海外研修員。黒くて大きな犬を飼いたいです。 http://www.kin-xx.com/

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