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2018.03.30

バイオアートの父、ジョー・デイヴィスが語る、混沌の時代にアートが見せてくれる夢

TEXT BY NATSUKO NOMURA

1980年代から先駆的にアートサイエンスを手掛け、生物学、天文学、情報学などの領域を自由に行き来してきた奇才ジョー・デイヴィス。2018年2月に開催されたMeCAの同時開催としてRed Bull Studios Tokyoで行われた、バイオテクノロジーとアートをテーマとした8日間のキャンププログラム「BioCamp: Gardens as 'Biotechnik'」のゲストスピーカーとして来日した。

ジョー・デイヴィス
1980年代より分子生物学、生物情報学、宇宙芸術、彫刻などの領域で活動し、バイオテクノロジーを探求。1988年に遺伝子組み換えによる世界初の芸術作品《Microvenus》を制作。《Bacterial Radio Project》がアルスエレクトロニカ2012でゴールデン・ニカ賞受賞。マサチューセッツ工科大学(MIT)高等視覚研究所、同MIT生物学者アレクサンダー・リッチのラボを経て、現在はハーバード大学医学大学院ジョージ・チャーチのラボの特別職「アーティスト・サイエンティスト」に就く。

アーティストは「正しい夢」を見る存在

かつて、現在のイラン北西部に存在したメディア王国には素晴らしい文明がありました。中でも、王の種族のひとつ「マギ」は祭司の階級で、世代を超えて知識を伝達し、王に対し預言者、賢者、占い師、夢を解釈する役割を行なっていたと言われています。彼らは錬金術師でもあり、文明の変容に貢献しました。

こんな話を聞いたことはありませんか。私たちアート&サイエンスを実践する者は皆、
現代のマギのような存在なのです。つまりこの時代のマスターであって、マギのように人類に何かをもたらすことができるのではないでしょうか。

Photo by Ryohei Tomita

また、社会科学的にはピグマリオン効果というものもあります。自分が信じていることが他の人たちの行動に影響を与えて、さらには現実になっていく。これは自己実現的な予見として、社会学でも、心理学でも、そして哲学でも採用されている考え方です。13日の金曜日がバッド・デイだと思ってしまうと、本当にそうなってしまうんですよね。ここでの問題は、夢が現実に影響するのであれば、正しい夢を見るべきだということ。少なくとも我々アーティストは何らかの良い夢を見続けるべきだと思っています。過去何年にも渡って、私は全世界の人たちと夢を共有してきました。その例をいくつか紹介します。

科学的に「セレンディンピティ」を生み出すには?

ラリイ・ニーヴンが著した『リングワールド』というSF小説では、セレンディピティ(偶然の産物)が目に見える意識的な特質として扱われています。小説の中でエイリアンは6世代に渡って人類の遺伝子の実験をします。これは幸運やセレンディピティの傾向を増大するのが目的です。小説に登場するティーラ・ブラウンという人物は「幸運」の遺伝子をもつ対象として選ばれた人間です。人類の再生というのは幸運な人が再生能力を持ち、幸運の遺伝子を子供が受け継ぐ。自然の淘汰によってこの幸運の性質はさらに力を強め、世代を経る中で大きく広がっていくのです。

現実世界でもセレンディピティという現象はよくあることで、どんな人でも経験したことがあるでしょう。例えば、宝くじに勝つとか、飛行機事故から生還するとか、非常に離れた場所で友達と偶然出会うとか。あまり起こりえないような体験のことです。

『リングワールド』
著:ラリイ・ニーヴン
訳:小隅梁
(ハヤカワ文庫)
http://amzn.asia/fhXUSRt

セレンディピティに遺伝性はないと考えられています。しかしながら相関関係が全くないと定義づけることもできません。セレンディピティの研究は心理学、認知科学、情報科学などで行われてきましたが、生物学や遺伝学で真剣に研究されたことは今までありません。このように、人類の拡張された遺伝、例えばラリイ・ニーヴンの小説にあったように遺伝子の特性を拡張するには100年以上を有するでしょう。

しかし実験用のマウスは12週間もあれば1世代を生み出すことができます。そこで私はセレンディピティの遺伝的な特質の調査を「ラッキーマウスプロジェクト」と名付けて、ケンタッキー大学で共同研究を行うことにしました。

マウスにサイコロを振らせる実験装置

私たちは実験に伴い112ページに渡る動物のケアに関する主要なプロトコル(実験の手順)を提出しました。しかしケンタッキー大学の動物実験委員会から承認は得られませんでした。これは科学なのかどうか。科学的なアプローチを使う意味があるか。動物権利団体から抗議があるのではないかという懸念もありました。

例えば、私が勝手にストーリーを作ってラッキーマウスの話を適当にでっちあげれば信じる人も多いと思います。しかし正当な枠組みで科学的なプロトコルを持って追求しなければ、真面目にその成果を取り上げられることもないでしょう。

芸術的なモチベーションが科学的な調査を導き、その中で科学理論の応用を行うことによって初めて社会が理解を示してくれるのです。もちろん私はペットのねずみを使った実験もできましたが、科学の正式なプロセスを経ることが重要なのです。

科学的な探求というのは基本的な原則に基づかなければいけません。原則は疑問を投げかけることによって理解を深めます。そして異論を唱えられる仮説を述べる。明確に設定された実験を客観的に繰り返し、再現性を認めるのです。

宇宙へメッセージを送る。人間を救うために。

「アレシボ・メッセージ」のことをご存知でしょうか。1974年にアレシボ電波望遠鏡の改装記念式典において、球状星団M13に向けて送信された電波によるメッセージのことです。それから35周年の年に、私はアレシボ天文台へ押しかけました。「私にも宇宙にメッセージを送らせてほしい」とお願いしたのです。そんなの無理だと職員の方には一蹴されました。ですから学術機関の方ですとか、業界の長のような方を巻き込み、総出でアレシボの所長にメールを送りました。

最終的に許可が下り、私たちは宇宙にメッセージを送るプロジェクトの作業中にある事件が起きました。天文台の職員が駆けてきて、「レーダーをモジュレーションする装置が壊れている」と言うのです。日程を延期するかと問われましたが、今日を逃せば二度とチャンスはないかもしれないと思い、夜通し別の方法を探りました。

すると驚くべきことに、私のiPhoneと、何日か前にゴミ箱から拾ってきたコネクタが使えることに気がついたのです。これはミラクルでした。iPhoneとゴミのコネクタで宇宙にあらゆるメッセージが送れるとわかったんですから。このニュースは国際的なメディアやNASAに大々的に取り上げられ、宇宙学の各界からメールが押し寄せました。

 「ジョー、きみしかこんなことできない」とね。

ある研究者からはブラックホールを通じてメッセージを送るべきだという面白い提案を受けました。ブラックホールは巨大です。急速にスピンさせながら光子を通せば、もちろん観察者の方角によって違いますけど、未来または過去が出現する。だから様々な因子や角度を最適化して宇宙に対してメッセージを送信したり受け取ったりするアイディアです。

どんなメッセージを送りたいかって? 宇宙へのメッセージは、大量虐殺であったり、疾病であったり、人間が予防できるはずなのにまだ解決されていないことを全てリスト化して送ろうと思っています。こういったメッセージを過去に送りたいのです。そこには、世界をより良い場所にしていきたい。人間の生命を救っていきたいという想いがあります。

私たちの7割はトマトと遺伝子が一緒。でも現在はトマトとコミュニケーションが取れないんです。宇宙へメッセージを送るプロジェクトは私たち自身とのコミュニケーションが目的なんですね。私たちはこういう存在である、私たちはこういう場所にいる。宇宙人がいるかいないかに関係なく、人間としてのコミュニケーションを測るために宇宙へのメッセージを送っています。

2011年に公開されたジョー・デイヴィスのドキュメンタリー映画『HEAVEN + EARTH + JOE DAVIS』。MeCA会期中に映画上映も行われた。

お金がなければ自ら作る。勇気を持って

活動資金はどこから得ているかですって?
皆さんもご存知でしょう、アート&サイエンスの分野にはなかなか助成金がおりません。しかしこの分野は、研究のために資金が必要とします。私も色々と金銭的な問題があり、自宅で作業をするときだって高価な素材を使うことも度々あります。

では、お金がないときアーティスト・サイエンティストはどうすればいいのでしょうか?

私の場合は、自発的にクリエーションを行ってパフォーマンスをする、もしくは、あるものなんでも使って即席のソリューションを生み出す。確立した手順書や前例やパラダイムを無視して、「自分自身で作り出す」ことを信条にしています

お金が入るのを首を長くして待っていてはダメなんです。
勇気を持ってください。勇気が必要です。

例えば私はゴミ箱から見つけたものから新たな機械を作ることもします。うまくいったときには、外の世界の人々はこのような実績を「単に運がよかっただけだ」としばしば評価します。ひょっとしたら本当に運がよかっただけなのかもしれませんけどね。

サイエンスとアートを切り離せない、それが完璧な状態

全てのものは全てと繋がっています。つまり私は知の統一を強く信じています。私の見解では、自然の中で、知というのは本質的に繋がっているわけですね。ある物事に対して興味深いなと感じた時、後ろに行ったり前に行ったり、要するにどこに行っても色んな情報が繋がって出てくるのです。それを探求する欲求には逆らえない。

Photo by Ryohei Tomita

私が常々考えているのは、サイエンスとアートが結合して、素晴らしいもの、本質的なものがでてくることが何よりも重要だということです。私が生み出したものは「サイエンス」なのか、「アート」なのか? そんな議論は他の誰かにやってもらえば良いのです。手を組んで離した時にサイエンスにもアートにも分けられないもの、それが完璧な状態だと思っています。

私は常に3つか4つのことが頭の中で同時進行しています。宇宙の神秘を理解するためのイノベーションの鍵は、多領域に意識を広げるだけではなく、マギのように、多岐にわたる様々な分野の造詣を深めることです。しっかりと学び続け多領域の知識を深める先に、世界の真理があると思っています。

BioCamp: Gardens as ‘Biotechnik’

主催:国際交流基金アジアセンター、一般社団法人TodaysArt JAPAN/AACTOKYO
会期:2018年2月10日(土)〜17日(土)
会場:Red Bull Studios Tokyo、BioLab Tokyo/FabCafe MTRL(渋谷)
https://meca.excite.co.jp/projects/camp/ 

MAIN VISUAL:Photo by Ryohei Tomita
Courtesy of the Japan Foundation Asia Center

 

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CREDIT

Nomura
TEXT BY NATSUKO NOMURA
大手カメラメーカーで事業計画を経験したのち、hpgrp GALLERY TOKYOへ転職。ギャラリー運営やアートイベントのディレクションを担当する。2014年からフリーランスになり、現在はアーティストマネジメントを行いながら、科学とアートをつなぐプロジェクトの運営、広報などを行っている。

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