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2019.08.09

異種生殖に絶滅種の復権、ミラノ・トリエンナーレ2019「壊れた自然」に見る人間と自然の共生

TEXT BY AI HASEGAWA

いま、私たちの生きる「環境」はいかなる様相をしているのだろう。そこで私たちは、どう暮らしていくのだろうか? 2019年、3月1日から9月1日まで「第22回ミラノ・トリエンナーレ」が、イタリア・ミラノで開催されている。「Broken Nature: Design Takes on Human Survival(壊れた自然:人間の生き残りを担うデザイン)」を副題を掲げるこの展示に、アーティストとしても参加している長谷川愛がレビューをお届けする。

激変する自然環境をアートサイエンスから問う

「第22回ミラノ・トリエンナーレ」は、ニューヨークのMoMAの建築およびデザイン部門のシニアキュレーターを務めるPaola Antonelliを筆頭に、Ala Tannir、Laura Maeran、Erica Petrilloをキュレーターに迎えるほか、Laurie Mandinのサポートによって構成されている。

展示は、様々なアーティストの作品による5カテゴリー「A Changed Climate(気候変動)」「Complex Environments(複雑な環境)」「Mores of the Times(時代の慣習)」「Made and Unmade(つくられたものと破壊されるもの)」「Bridges(ブリッジ)」と、23カ国から参加する国際的なアーティストの展”International Participationsに大きく分かれている。日本から参加しているアーティストも多いが、すでに知られている作品群の紹介は今回は割愛して、主に海外のプロジェクトや作品紹介を主にしている。

また、トリエンナーレにおいてはカンファレンス、パネル、ワークショップ、上映、公演など、あらゆる年齢層の人々を対象とした野心的な公共のイベントプログラムも用意されている。全体としてはエコロジーなテーマであり、ともすれば説教くさくなりがちだが、多重的なアプローチや多様な作品によって興味深く、魅力的に構成されている。

A Changed Climate 展示会場
人新世ーー人間の残した痕跡が、地質レベルに影響を与える時代

この部門では自然環境変化に関する作品群がフィーチャーされている。
AKI INOMATAによる、3Dプリントしたアンモナイトの殻をタコに与えてみせ、逆に絶滅した生物に進化を促すことができるかを試す進化への考察 #1:菊石(アンモナイト)》やクリエイター集団「PARTY」と「Qosmo」らによる《ALMA MUSIC BOX: Melody of a Dying Star》等が展示されている。

《Plastiglomerate》(2013)
Kelly Jazvac wish Patricia Cororan / Charles Moore

続いて、《Plastiglomerate》とは作者の3人によって定義された造語であり、「人が撒き散らかしたゴミ、または石油製品などが海中等の様々な物質とともに熱せられるなどして石のような塊になった物質」を指している。石には圧力や熱によってその材料が変質したりして固まることで様々なバリエーションが生じる。そうした意味でこの作品は、新たな地質年代に突入しているとする学説「人新世(参照サイト)」の証拠を提示しているとも考えられる。

この上記の写真は黄色の石油由来のロープや様々なゴミが海底で石状になったもの。この展示ではこうしたものがいくつかケースのなかに陳列されている。

絶滅した「花の匂い」はよみがえるか? 
《Resurrecting The Sublime》 (2019) by Christina Agapakis, Alexandra Daisy Ginsberg, Sissel Tolaas with Support from IFF Inc. and Ginko Bioworks Inc. 

英国Royal College of Art(以下、RCA)の学科「Design Interactions(DI)」出身であり、私の先輩にあたるDaisy Ginsbergらによる、人間の植民地化によって絶滅・消滅した花の匂いを取り戻す作品Resurrecting The Sublime(崇高の復活)》。彼女は以前から実践的なラボと組んでスペキュラティブなプロジェクトをこなしてきた。

今回は彼女を中心に、匂いの研究者でアーティストのSissel Tolaas、そしてバイオテクノロジー企業Ginkgo Bioworks(バイオスタートアップ業界でも注目されているDNA合成出力を事業とする企業)の研究者やエンジニアによる共同研究チームの協力、さらには国際的な大手香料会社 IFF Inc.のサポートによって行われている。

ここでは、まずハーバード大学のHerbariaに保管されている3つの花の標本から抽出された少量のDNAを使用し、Ginkgoチームは合成生物学の知見から香料生産酵素をコードするかもしれない遺伝子配列を予測して再合成、そしてSissel Tolaasは彼女の専門知識から、同一または比較の匂い分子を用いて、「花の匂い」の再現に試みた。

それぞれ別の場所で別の時期に絶滅した3つの花の再現された香りとともに、それぞれの場所の風景の再現CGも展示されている。今ここにある何気ない風景というものが、失ってから再現しようとするととてつもなく難しく労力のかかるものだと強く感じることができるプロジェクトだ。

《Ice Stupa : Artificial Glaciers of Ladakh》(2013-2014) by Sonan Wangchuk of students Educational and Cultual Movement of Ladakh with Sonan Dorje and Simant Verma of Ice Stupa Project

人工氷河による緑化プロジェクトIce Stupa》。水源からの高低差を利用して水を高く噴き上げ、その水を凍らせてできる氷を積み上げ、水が手に入らなくなる時期にその雪解け水を使って植物を育てるという研究だ。高さ30〜50mの円錐形の形の巨大な氷山の形が卒塔婆(ストゥーパ)に似ていたためこの名がついた。これらの氷山は、水が必要とされる村のすぐ隣に建てることができ、河川の高い地点から村の郊外まで地下パイプラインを1本敷設する以外はほとんど労力や投資を必要としないという。

《Designs for an Overpopulated Planet: Foragers》Dunne & Raby

先述したRCAのDIを率いた教授であり、著書『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。—未来を思索するためにデザインができること』(著:アンソニー・ダン、フィオーナ・レイビー/ビー・エヌ・エヌ新社)も日本で広く紹介され、私の恩師でもあるDunne & Rabyの作品。人口過多で食糧危機に陥った未来において、人間がいままで食べてこなかったモノを食物にする「外付け内臓」を提案している。膨大なリサーチがあったはずなのにそれをおくびにも出さない展示方法は潔い。

Mores of the Times:時代の慣習とは何か?

この部門の紹介文は、アメリカの思想家・建築家のバックミンスター・フラーが提唱した表現「あらゆる個人はトリブタブ(船や飛行機の梶をとる小さい羽)になりうる」という文章から始まる。「トリブタブ」はその後、社会全体に影響を及ぼす市民運動などを示すメタファーとしてよく使われたそうだ。

ここでは、そうした様々な社会と人々の関係性を見直すプロジェクトが展示されている。女性にまつわる問題もいくつか含まれており、例えばThinxによる新たな生理用下着の発案《Period-Proof Underwear》は画期的だ。これまで生理用下着といえば、パッドをつけやすい、血がついても目立ちにくい、洗いやすいといった機能がほとんどだったが、この生理用品は布の吸収力を上げたことにより、何もつけずそのまま着れば良いだけ。プロダクトによってはタンポン2〜4本分の経血を下着の布が吸い込むという。

《Women and Heart Disease: Physician Bias and AI》Karthik Dinakar,
Dr. Catherine Kreatsoulas
Analise Alexandra Emhoff
(illustrated by Irina Kruglova)

続いて、MITとハーバードの研究者による医療バイアスにまつわるプロジェクト《Women and Heart Disease: Physician Bias and AI》を紹介したい。ポップなイラストとは裏腹に、女性が心臓発作を起こした際、医師とのコミュニケーションにおいて男性よりも謙虚に表現することが多いため、実際の症状が見落とされ、結果として命を失う事例があることを啓蒙するポスターだ。例えば、男性は症状を「ゾウに胸を踏まれたみたいだ」と語るのに対し女性は、「なんだかよくわからないけれど、胸が痛くて押されてる感じ?絞られてる? 仕事はいっぱいあるけど、まあ出来る範囲よ。今まで問題なかったし、ただ娘が医者にいけっていうから…」という感じで深刻な状況を見落とされやすい。私も言いそうだ、気をつけようと思った。

《NukaBot》 (2018)  Dominique Chen, Hiraku Oqura , Young Ah Seong of Ferment Media Research (Japan, est. 2018)

こちらはBound Bawでもおなじみ情報学研究者のドミニク・チェン、発酵デザイナーの小倉ヒラクらが開発した“ぬか漬けロボット《NukaBot》。これは自動でぬか漬けがつくられるのではなく、発酵するぬか漬けの糠の様子を日々モニタリングし、その様子をロボットが伝えてくれるというもの。「ヌカボット」という妖怪を出現させる装置だと私は理解している。ご本人の解説記事がでているのでここでは詳細を省くが、昔「家庭内ロボット」を課題で考えた時に、ヒト型ロボットの内部に「欲望を感じる実際の生物」が存在すると仮定すると、ものすごく“魂感”が出るのではないか?と考えたことがある。この時は環境にセンシティブだと言われているランの花鉢を人型ロボットの中身に入れたことを思い出した。これからAIと人間が協働するという話の次は、生物を内蔵するAIとの協働なのかもしれない。

人間と動物の「あいだ」に浮上するもの
Bridges 部門展示会場

「Bridges」の部門ではその名の通り、何かと何かを橋渡しするような作品群が展示されている。幅広く刺激的なプロジェクトが多く、日本からは「もやしもん」の原画やアニメ、スプツニ子!による「生理マシーン」なども出品されている。

草の根から政治問題に切り込む、美大出身の民間団体

人権問題や武力問題にまつわる情報は、報道や調査によって数多く生み出されているが、特に現代では個人の携帯やカメラでとらえた情報が多い。ロンドンの名門美大ゴールドスミスを拠点とする国際的なリサーチエージェンシー「Frorensic Architecture(FA)」は、数多の個人の画像データをつなぎ合わせて証拠を集め、空間構成に長けた建築家らのスキルを活用して3Dで再構成する。さらにジャーナリストやエンジニア、フィルムメーカーなど様々な人と共に多面的に調査を重ね、展示を通して人々に新たな情報を提供していく団体であり、昨年のターナー賞にもノミネートされている。今回紹介されたプロジェクト《The Iuventa 18ド》は、ドイツのNGO「Jugend Rettet (「青年救助隊」を意味するドイツ語)」の保有する船「Iuventa艦」が難民救助活動中に違法移住支援と密輸業の共謀の疑いでイタリアの司法裁判所に船舶を押収された事件についても調査し、イタリア当局による見解や告発への反論を展示している。

現在、多くの国が右傾化していくこの世界で、もし、とある国家権力が暴力をふるい、あなたが被害者で、自国は国交の関係上助けてくれないような状況に陥ったとき、他に誰が助けてくれるおnだろうか。誰があなたの話を聞き、共に戦ってくれるだろうか? 彼らは単なる他国の一市民団体だが、ある意味あなたの政府より頼りになるのかもしれない。

「ヤギになる」ことから見える、脱人間中心の世界
《Goatman》(2016) Thomas Thwaites

Goatman》は、RCAのDIの卒業生Thomas Thwaitesの作品であり、彼は私の数年先輩にあたる。日本語で書籍化されているのでご存知の方もいるかもしれないが。
ゼロからトースターを作ってみた結果』新潮文庫)や『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の著者その人である。

ここでは「ヤギになってみた〜」シリーズから、ヤギのように4本足で長時間立つための補助具のプロトタイプが展示されている。実際にヤギになって生活することを目指すこの作品は、一見ばかばかしいように見えて、じわじわとその重要性に気ついてくる(ちなみにこのプロジェクトはイグノーベル賞を受賞。イグノーベル賞とは「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられるもの、正にその通り!)。

私たち人間の文化では、他の動物よりも人間こそが優れた動物だと考えがちだが、人間であることが幸せとは限らないかもしれない。さらに一見退化のように見える方向に技術を使う進化だってあり得る。技術の使い方には様々な方向性や価値観があり、私たちの技術の使い方や開発の方向性に気づきを与えてくれる素晴らしい作品だ。

サメとヒトの性愛から気付く、人間社会の諸問題
《Human×Shark》(2017)  by Ai Hasegawa

手前味噌で恐縮なのだが、今回展示された私のプロジェクト《Human×Shark》を紹介する。ここでは、人間の女性がサメのオスを性的に魅了するための香水を提案している。とサメとヒトの性愛という、一見寓話的なプロジェクトだが、太古の情報伝達方法である「香り」という化学物質でのやりとりを用いて、かけ離れた異種とコミュニケーション(情愛)をとり、さらにサステナブルな関係性の模索を表現する。そこからコミュニケーション、性差、言語など、現代社会に対する様々な問いかけを行ったつもりでいる。

たとえば人間同士は言語を介した情報コミュニケーションを行っているが、案外、意思の疎通が成り立っていないことが多いという皮肉も存在する。そもそも、真に意味のある情報のやりとりとは何なのだろうか? その意義とは? 私たちは何を求めて他者と交わるのだろうか? 数万年の進化の分岐を超えてなお、性的なホルモンという化学物質が似たような性や愛に関わり続けていることも興味深い。

現在ダイビングや登山等のレジャーでは野生の動植物には出来るだけ接触しないことが推奨されているが、種の個体数が十分な時、私たちはどこまでの自然への侵入と接触を許されるのだろうか?

そして私たちはどこまでを「自然」とみなしているのか? テクノロジーを持った私たち自身もいつかは自然になるのだろうか? 私たちが彼らサメと関わりたいと思うことは許されないのだろうか? これは真に幸せになる方向性なのか? 「科学というミーム」があるとしたとき、それは私の疑問とは関係なく、ただ自らを進化させたいだけなのか?

いくつかの神話においては異種婚姻(動物と人間との交わり)をほのめかす記述が散見される。それは、私たち人間の本質に迫る何かが潜んでいるのではないだろうか。

異形の生命たちの愛を見つめる

最後に、パトリシア・ピッチニーニによる《Sanctuary》(2018)を紹介したい。タイトル通り、サンクチュアリにいるかのごとく穏やかな表情を浮かべた2人(2匹でもある)の老男女が抱きしめ合っている、等身大のハイパーリアリスティックな立体作品だ。彼らはボノボと人間の中間のような姿をしているが、そこには親密さ、愛情、老い、性、共感、そうしたものを暖かく祝うかのような作品だ。

《Sanctuary》(2018) by Patricia Piccinini

サンクチュアリという生物保護区とも、聖域ともとらえられるタイトルと、ボノボの平和的な説明とともに、この愛と平和に溢れたハグを目にすると、今日の私たち人間の暴力性や孤独、大半の人が持つ、若さや美しさによってフィルタリングされた性愛習性が浮き彫りにされる。そしてそれらを人間が乗り越えるには、ボノボとハイブリッド化するしかないのかもしれない、とも考えさせられる。

個人的に大好きな、貴志祐介原作のアニメ『新世界より』もまた、そうした人間の暴力性をボノボから学び、意図的に無くしていった人類の未来を描くファンタジーSFだったが、同様のトピックを扱ってもパトリシア・ピッチニーニはこのように違った形態をとった作品をつくりあげてしまうのかと興味深い。第22回ミラノ・トリエンナーレは9月1日までの開催。この夏はミラノで過ごす休暇を考えてみてはいかがだろうか?

 

CREDIT

Content ai
TEXT BY AI HASEGAWA
アーティスト、デザイナー。バイオアートやスペキュラティブ・デザイン、デザイン・フィクション等の手法によって、テクノロジーと人がかかわる問題にコンセプトを置いた作品が多い。 IAMAS卒業後渡英。2012年英国Royal College of ArtにてMA修士取得。2014年から2016年秋までMIT Media Labにて研究員、MS修士取得。2017年4月から東京大学 特任研究員。「(不)可能な子供/(im)possible baby」が第19回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞。森美術館、アルスエレクトロニカ等、国内外で多数展示。 http://aihasegawa.info/

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