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2019.07.23

ペットを飼うロボットから生命化するホコリまで。ポーランドのメディアアート祭 WRO2019 レポート

TEXT BY HANNA SAITO

アート、メディア、コミュニケーションの交流を目的に、さまざまな展示や教育、リサーチを行う、ポーランド初にして最大の文化施設「WRO」。今年、創立30周年を迎えるフェスティバル「WRO 2019 ビエンナーレ」が開催中だ。「HUMAN ASPECT」と題されたこのビエンナーレでは、既存のテクノロジーの持つ概念から離れた未来(post-technological)における文化、コミュニケーション、そして社会における人間性の諸相を考察することをテーマとしている。同ビエンナーレにアーティストとして参加した齋藤帆奈による現地レポートをお届けする。

ロボットや人工生命から「人間」の視点を相対化する

今回、筆者(齋藤帆奈)はアートコレクティブ「ホコリ・コンピューティング」の一員として、ポーランドのメディア芸術祭WRO ( 2019年5月19日から12月29日まで) で展示する機会を得た。これは、2018年に国内で開催されたイベント「ART HACK DAY*」で制作した作品『たち仄こる』がWROの審査員の目に留まり、招聘されたことによって実現している。今回は参加アーティストの視点からWROのレポートをお届けする。設営やメンテナンスの合間を縫って鑑賞できた作品についての感想なので、情報に偏りがあることはお許しいただきたい。

*アーティストやエンジニアなど多様な人々が集結し、その場でチームを結成し、短期間で作品を制作していくアート特化ハッカソンイベント。http://www.arthackday.jp

《たち仄こる》ホコリコンピューティング
アーティスト、研究者、エンジニアなど多様なバックグラウンドを持つメンバーが選んだモチーフは「ホコリ」。《たち仄こる》では、透明なケースの中にホコリが生き生きと動き、その世界観の深淵がプロジェクションされる。

今回のWROは、日本とポーランドの国交100周年を記念して、国際交流基金(ジャパンファウンデーション)がスポンサーに加わっており、日本人アーティストを特に多く取り上げた回となっている。作品は旧市街であるヴロツワフに点在しているが、どの作品がどこに展示されているか表記した通常のマップに加えて、日本人アーティストの作品をフィーチャーしたジャパンマップが用意されていたほどだった。

私たちが展示を行ったフォーパビリオン内の美術館も、特に日本人アーティストが集中的に展示を行っていた。フェスティバル全体のテーマは「Human Aspect」――人間の視点、様相といった意味である。”Human” という言葉が入っているが、全体的な印象としては、ヒューマニズムを強調する方向性には見えず、逆にロボットを用いた作品や人工生命、または廃墟を思わせるようなインスタレーションなどが散見されたため、むしろ人間の視点を相対化するために「Human」という言葉が用いられているように思えた。

メディアと身体の関係をユーモラスにあぶり出す作品群

《ARCHAEBOT》ANNA DUMITRIU

それでは個々の作品のレポートを行おう。私たちの作品の隣で展示されており、共通点を感じて気になったのは《ARCHAEABOT》。複数の細い足のようなものが生えた灰色の塊が水槽の中でうごめいている。足が水槽の壁面にくっついており、本体が動くことによって水槽の壁面との間でねじれが生じ、複雑な動きを生み出していた。物性を利用して複雑な動きを生み出すのは、ロボティクスの先端領域であるソフトロボティクス研究と通ずるものを感じる。

《FRAMES》NICOLAS CLAUSS

 フランス人アーティスト、ニコラス・クラウスによる《FRAMES》は、その名の通りディスプレイが木枠にはめこまれた作品。ディスプレイには、木箱の内部が映し出され、外枠の箱と連続的に見える錯視のような表現になっている。また別のディスプレイには、老若男女が箱の中に押し込められ、壁を押しながら窮屈そうにしている様子がループ再生されている。その様子は一日中ディスプレイを眺めてい私たちの様子を、現実世界にいながらディスプレイに閉じ込められているようだ、と皮肉るようであった。

《ORACLE》ESMERALDA KOSMATOPOULOS

ノートをタップしている映像が絶え間なく流れ、隣に設置されたiPhoneではその動きに同期するような形で予測入力で文字がどんどん打ち込まれていく。スマホを見て育った乳児は、印刷された写真を指でピンチして写真が拡大されないことを不審がるというエピソードを聞いたことがあるが、こうしたメディアによって生まれる新たなジェスチャーに言及する表現だろうか。私にはスワイプする指先へのプリミティブなフェティシズムも感じられた。

《NINTENDOGS》FABIAN KÜHFUSS (DE)

《NINTENDOGS》は、「ロボットはバーチャルペットを夢を見るか?」と問いかけるユーモラスな作品。バーチャルペットのゲームをする実体のないロボットが、ひたすら画面内の犬をスワイプして撫で続ける。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』のオマージュとも言える作品だ。

《ANIMA》RISAKO KAWASHIMA, YASUAKI KAKEHI

《ANIMA》は、来場者がライト下部にシャボン玉をつけることで電極が通電し、シャボン玉が消えるまでの間だけライトが点くという作品。非常にシンプルながら、シャボン玉の物質性と、ライトというメタファーがマッチした魅力的な作品だった。

《UNEARTH / PALEO-PACIFIC》SHUN OWADA

石灰分を含んだ岩石の上からクエン酸溶液が垂らされ、黒光りする台の上に少しずつ岩石の成分が析出していく。中でも岩石が溶けるサウンドに着目し、かすかな音を拾い、それをマイクで増幅したサウンドアートとなっている。私たち人間とは全く時空間スケールの異なる岩石の世界、地球の深部へ想像力の翼を羽ばたかせてくれる作品だった。

《WYDARZENIA TOWARZYSZĄCE》WYSTAWIE w PAWILONIE CZTERECH KOPUŁ 

《WYDARZENIA TOWARZYSZĄCE》は美術館の入り口を出たところにある開放感のあるピロティーに展示されていた大型動物のような形状のロボット。音に反応しているのだろうか、こちらを向く様子がユーモラスだった、無骨な鋼材で複雑に組み上げられていて、廃材置き場から誕生した未知の生物さながらである。街の中心部に位置するWROアートセンター内でも展示が行われていた。

《FLUX》Pawel Janicki

《FLUX》は、なんと男女共用トイレ内に展示された作品である。本来鏡があるような位置にディスプレイとウェブカメラが設置され、自分の姿がリアルタイムで映って鏡としての役割を果たす。しかし、手を洗おうと蛇口をひねると、映像は縦方向に動くノイズによって一気に覆われる。その瞬間はホラーじみており、かなり驚いた。

作者によると、フルクサス によるハプニングの手法や、ダークエコロジーといった現代思想をふまえているという。ダークエコロジーは、いわゆるエコロジー思想が前提とするような、人間社会の対立項としての ”美しい自然” 概念を換骨奪胎し、汚いもの、ダークなものすべてひっくるめて自己をとりまく環境として考えようという新しいエコロジー思想である。日常動作を引き金として突然ノイズにまみれる自己像は、テクノロジーに支えられた人間社会の脆弱性のようなものを感じさせ、逆説的に現実に引き戻されるような感覚を覚えた。

デジタルの裏をつくライブパフォーマンス

設置型の作品だけでなく、オープニング期間の5月14〜19日は、毎日街のどこかでライブパフォーマンスが行われていた。

《LIGHTERATURE READING》LIGHTUNE.G /BOJAN GAGIĆ, MIODRAG GLADOVIĆ/ (HR)

その名の通り光を読むライブパフォーマンス《LIGHTERATURE READING》。ソーラーパネルが楽譜のように設置され、メンバー2名がソーラーパネルに対して様々な種類の光を当てると、光で発生した電気信号がそのまま音に変換される。屋内であるのにもかかわらず、最後にはパネル上で手持ち花火をするというパフォーマンスを行っていたのが印象的だった。情報を変換し、知覚できる形に落とし込むというメディアアートの古典的な手法を用いているが、変換の仕方が直接的である点がライブパフォーマンスらしい。ソーラーパネルを用いることで音と光の物質性のようなものが立ち現れており、それが表現の強さをもたらしていた。

《TEWASURA》SHOTA YAMAUCHI, SHUN OWADA 

日本の若手アーティスト山内祥太と大和田俊によるライブパフォーマンス《TEWASURA》。ひたすらプレイヤーの手を拡大して映し出すパフォーマンスが印象的だった。私は以前VR実験を手伝っていたことがあるが、ヘッドマウントディスプレイを装着して視界がふさがれた被験者がまず行うのが、自身の手を眺めることである。手は、自分の身体の中で唯一自在に目の前に持ってくることができるパーツである。自らの手は、視覚と身体のリアリティをつなぐ媒体かもしれない。そんなことを思い出したライブパフォーマンスだった。

《Machine Will Do X Human Will Do Why》ANTYE GREIE-RIPATTI aka AGF

《Machine Will Do X Human Will Do Why》は、フィンランド在住のドイツ人アーティストANTYE GREIE-RIPATTI aka AGFによる声、リアルタイムのフィールドレコーディング、電子音、文字や色のパターンを用いたVJを駆使したライブパフォーマンス。アーティストによる会場へのアジテーションがそのままシームレスに音楽に変化したり、観客に声を出させ、それをそのままレコーディングして音素材として用いるといった、言葉と音楽、声と文字、観客と演者という対立軸を融解させる点が印象的だった。私が見たライブパフォーマンスの中では唯一の単独の女性アーティストであり、「feminist」という言葉や、「I ’ m a new woman」というフレーズが曲中に挿入されていた。こうした言葉やフレーズは、同じ女性である私の心に力強く響いた。同時に、近年の日本のインターネット文化において「フェミニズム」や「フェミニスト」というワードがどのような文脈で語られやすいかを想起させられ、痛みも感じさせられた。

彼女とは、その夜にテーブルを共にする機会があり、東ドイツに生まれ、大学で哲学を学びつつ街でDJをやっていた背景などを聞くことができた。自分は “too wild ” だったから哲学は続けなかった、と笑う、とてもユーモアのある人柄だった。

《EMPATHY SWARM》
群れロボットを用いたパフォーマンス作品で、複数の見知らぬ来場者たちとともに暗闇の中でロボットたちとインタラクションする体験をした。群れロボットの技術自体は目新しいものではないが、体験としての完成度が高く、タイトルどおりの不思議なEmpathyを感じることができた。既存のメディアを用いていても、表現の仕方によって豊かな体験をもたらすことができるというメディアアートの可能性を再確認することができた。  

WROは規模こそ大きくはないが、コンセプトが際立った作品が多く、それが展示全体のテーマとマッチしており、しっかりとしたキュレーションが感じられる芸術祭だった。また、点在する作品群に加えて、ヴロツワフは東ヨーロッパらしい伝統的な建築様式が美しい旧市街も見応えがある。これらは第二次大戦時に相当な被害を受け、市民の手で資料をもとに復旧されたという。ホコリ・コンピューティングの展示は7月19日までとなるが、芸術祭そのものは今年12月まで開催されているので、ヨーロッパに旅行に行く予定のある方は、ぜひヴロツワフに立ち寄ってほしい。

トップ画像:《TEWASURA》SHOTA YAMAUCHI, SHUN OWADA

 

CREDIT

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TEXT BY HANNA SAITO
現代美術作家。1988年生。多摩美術大学工芸学科ガラスコースを卒業後、metaPhorest (biological/biomedia art platform)に参加。2019年より東京大学大学院学際情報学府修士課程に在籍(筧康明研究室)。理化学ガラスの制作技法によるガラス造形や、生物、有機物、画像解析等を用いて作品を制作しつつ、研究活動も行う。主なテーマは、自然/社会、人間/非人間の区分を再考すること、表現者と表現対象の不可分性。

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