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2019.05.14

“いいね!”に侵食されるフェミニズム? 現代の寓話を描くレイチェル・マクリーンのポップな挑戦

INTERVIEW & TEXT BY ARINA TSUKADA,TRANSLATION & TEXT BY SAKI YAMADA

スコットランドで生まれ育ち映像アーティストとして活動するレイチェル・マクリーン。キッチュな衣装を身にまとい、全登場人物を一人で演じる彼女は、現代社会に潜む美へのバイアスや幸福モデルに洗脳された人々の実態をコミカルに描き出し、ビジュアル至上主義と化したSNS社会へポップな警告を発信する。

レイチェル・マクリーン
1987年、スコットランド・エジンバラ生まれ。ヴェネツィア・ビエンナーレスコットランド館代表にも選ばれた新進気鋭のアーティスト。主にSNSや現代メディアにはびこる社会問題やアイデンティティを題材とした映像作品を発表し、世界的な評価を得る。テート・ブリテンでの個展「WOT U :-) ABOUT?」(2016-17)のほか、多数の美術館で展覧会に参加。現在は、バーミンガム・ミュージアム&アート・ギャラリーのグループ展「Too Cute!:Sweet is about to get Sinister」(〜5月12日)に参加している。http://www.rachelmaclean.com/

おとぎ話を現代にアップデートする

アーティストとして活動を始めたきっかけは?

両親がスコットランドの高校で芸術の教師をしていたので、人生の大半をアートと一緒に過ごしていました。休日にビデオカメラを持って家族とよくでかけたのですが、気付けばフィルムの質感や風合いのトリコになっていて…、そう考えると最初にハマったアートはフィルムかもしれません。それから絵の勉強をしたくて芸術大学に進んだのですが、ある時から映像表現のほうが音楽や語り、対話と想像力を交えて世界に没入できる作品を作れるんじゃないかと閃いたんです。

あなたの作風に影響を与えたものを教えて下さい。

Youtubeやインターネットカルチャーのように現代的な要素もあれば、ミュージカルやミュージックビデオ、そして古い時代のもの…特におとぎ話的な要素も含まれています
それからメディア環境におけるフェミニズムやジェンダー、自分の生活環境とも直接関わっているスコットランドとイギリスの領土問題から見えてくる国民としてのアイデンティティについても考えたりします。

中毒性のあるポップなファンタジーワールドと、古井おとぎ話との関係は興味深いですね。

古いものと新しいものが合わさった時に生まれる雰囲気が面白くて。特におとぎ話は当時の教訓や文化ありきで成立する内容になっていたり、その土地や宗教といった様々なカルチャーが似たフォーマットの中で混じり合うスタイルが好きです。土台となっているカルチャーがあるので物語自体が古くても意味が通じる。そうしておとぎ話を新しく生まれ変わらせる瞬間はワクワクしますね。

一方でおとぎ話には、王子様に助けられるお姫様といった、昔のジェンダーバイアスが固定化されたままという要素もあります。そうしたフェミニズムの観点から、おとぎ話を再構築しているんです。

いいね!に蝕まれるフェミニズム

《It’s What’s Inside That Counts(大切なのは中身)》には、まるで「白雪姫」の魔女のごとく、鏡の代わりにSNSのコメント欄を見ては自分の美しさに一喜一憂する女性が主人公でした。

この作品では、見た目から得られる評価(=SNSコメント)を自身のエネルギー源とするような現代社会を風刺しています。そうした状況が当たり前になりすぎて、ヒロインやネズミのキャラクターたちが表層的な物事に没頭する姿を感じて欲しかったです。キレイな外見で判断されるだけでなく、新しいものへの執着も現代カルチャーの特徴だと思うんですよね。

《It’s What’s Inside That Counts(大切なのは中身)(2016)
Commissioned HOME, University of Salford Art Collection, Tate, Zabludowicz Collection, Frieze Film and Channel 4.  
SNSで人気を博すヒロインが登場するが、その内側は猜疑心と不安で蝕まれている。地下世界にはネットケーブルをかじるネズミ、恐怖に怯えるヒロインの心に「まずは深呼吸を」とささやく謎の宗教家、「We Want Date!(もっとデータを!)」と叫ぶ謎のゾンビたちなどが登場。すべての役をレイチェル自身が演じている。
http://www.rachelmaclean.com/whats-inside-counts/

《We Want Data(データをちょうだい)》というビジュアル作品も現代のソーシャル・ネットワークの状況を示していますね。多くの若者はいいね!の数に一喜一憂しています。

《We Want Data! (データをちょうだい)》(2016) 
Commissioned by Artpace, San Antonio and HOME, Manchester.
『It’s What’s Inside That Counts』にひもづいて制作されたビジュアル作品。セルフィーに没頭するヒロインの光と影を象徴的に表す作品。

そうですね。アイデンティティや自身の評価基準がいいね!数のように、カウント可能なものに集約されていることへの問題意識があります。最近の作品では食事に対してネガティヴな女性の姿を描いたのですが、それもSNSや広告からの影響によるプレッシャーが原因だと気付きました。フェミニズムを基点に、現代のビジュアルカルチャーがもたらす影響を一人の女性として向き合うことが重要だと思っています。

これらの作品のモデルは誰なのでしょう? 自身がSNS中毒になっていると思うことはありますか?

私自身はあまり使わないですね。自分のことをポストするのは苦手なんです。それに、SNSにハマり過ぎると現実の見え方が変わってしまうと危惧しているのかもしれない。だからこそ第三者としてこの世界を見ることが出来ていると思います。最近、SNS用の写真を撮るためだけにプライベートジェット機を借りる人がいるという話を聞きましたが、いま価値基準のほとんどをソーシャルに依存している人が本当に多いと思います。

ティーンエイジャーの心理状態を継続的に調べた研究では、SNS頻度の高い人ほど自己肯定感が低くなるという結果も出ているようです。

自信を失ってしまうのは様々なカルチャーに触れすぎてるせいだと思います。最近、仕事の関係で大勢のインターネットセレブを見てきましたが、その多くが女性でした。彼女たちはもともと美人だとか、メイク次第で美人になるメソッドを作り上げてきたからこそ、いまの人気を博しているんでしょうが、それってすごく悲しい状況ではないですか?

人生における成功の大きな理由が「容姿」だという文化が、ネットを通してより加熱している。すごく悲惨な状況だと思います。

最近は #metoo ムーブメント が世界的に広がりましたね。

#metoo運動はフェミニズムシーンにとって重要な瞬間でした。そのおかげで、私たちが思う以上に女性たちは近い距離にいると明らかになりました。もう少しうまいやり方があったのではとも思いますが、前進するには時間が必要だと多くの人が気付いたでしょう。女性が本来あるべき姿を目指したときに浮き彫りになる不当な扱いや不平等を正すための瞬間でもありました。

日本カルチャーの影響も潜むマッシュアップ性

《Feed Me(エサをちょうだい)》はどんな作品ですか?

これは『美女と野獣』や『カエルの王子様』といったおとぎ話のフォーマットを引用しつつ、女性の幼少期をテーマとしています。子供から大人に成長するときに生まれる感覚や女性という立場上感じる違和感を描きました。その不快感と同時に芽生えるフェティシズムの感覚にも興味があって。

《Feed Me(エサをちょうだい)(2015)
Commissioned by Film and Video Umbrella and British Art Show 8 with support from Creative Scotland.

作中にはミュージカルのような演出もあれば、MVのようなポップなシーンもあり、いずれも音楽センスが非常に高いと感じます。

音楽は大好きですね。作品の世界観を統一するため、音楽は電子音しか使っていないんです。私自身で作ることもありますしし、同郷の音楽プロデューサーや劇場音楽の作曲家とコラボもしています。最近のミュージカル劇場のトレンドも面白いですよ。

今年2月に来日していましたね。日本のカルチャーに影響を受けたものはありますか?

日本のビデオゲームが大好きでした。マリオやゼルダなどはサイケデリックでどれも素晴らしい世界観。小さい頃からゲームやMVを見て育ったので、ゆったりと流れるアートフィルムより、細かくカットされてマッシュアップされたスタイルが好きですね。

今回、初めて日本に来て印象的だったことは?

初めてゲームセンターに行ったんですが、かつて見たことのない光景でした。女の子が写真を撮る小さなブースに何人も集まっていて。

プリクラですね。20年前に登場してからいままでずっとブームは廃れず、いわゆる"盛れる"写真、撮影機能がどんどん進化しています。

本当にそう!一回撮ってみたんだけど、マネキンみたいに肌がなめらかで、リップやアイシャドウも機械が勝手に加工するなんて斬新、クレイジーだと思いました。それからハローキティワールドにも行きましたよ。”カワイイ”が私の作品の大きなテーマになっていることもあって、ハローキティはとても示唆的。アニメの主人公でもなくただのキャラクターなのに、あそこまで有名なブランドになるのは信じられないです。すごく不思議な現象だと思います。

アートは世界の“グレーゾーン”を示すもの

拠点であるスコットランドのアートシーンは現在どうなっていますか?

ここ25年ほど、グラスゴーではアートが盛んで、公共団体の資金提供のもとで作品を制作スるアーティストが多いです。商業施設とは異なるので、市場を意識しすぎずに制作できるのはアーティストにとって素晴らしい環境ですね。例えばNYで活動していたらまずはコマーシャルギャラリーに作品を置いてもらう必要がありますが、それは自分の作品が日用品になることも同時に意味している。私自身、スコットランド政府の補助金や個人、または公共団体からの援助の機会を得て作品を作ってこれましたが、本当に運が良かったと思います。

スコットランドという国から影響を受けた作品はありますか?

ちょうどスコットランドがイギリスから独立するか否かの国民投票が行われる時期に《The Line In The Unicorn》を制作しました。結局独立はしなかったけれど、それ以後は国民としてのアイデンティティを考えるようになったり、海外に行った先でもその土地の文化や国民性を考慮しながらコミュニケーションするようになりました。

《The Line In The Unicorn》 (2012)

イギリスのBrexitについてはどう思いますか?

スコットランドはBrexitの投票に参加していないんです。圧倒的にEU離脱への反対意見が多かったはずなのに、スコットランド人は(イギリス国内の)Brexitに対して意見を言ってはいけないと洗脳されていた気がして気味が悪かった。これはイギリス人たちが自分のアイデンティティを守るイギリスのための判断であって、スコットランドにとっては最悪の状況。だから今こそ、スコットランドが国民投票で独立を勝ち取るチャンスにあるとも思います。

スコットランドの若い世代の反応はどうでしょう?

若者たちはスコットランド人とイギリス人は考え方が同じでないと気付いています。それに両国の間には政治的な違いもあると理解している。上の世代は多くの人が英国人気質ですが、それは戦後の名残や福祉手当が保証されているからでしょう。

そうした政治的状況をどうアート作品に反映するのでしょう。

《The Line In The Unicorn》の制作時は、自分がどちらの立場かを表明したり、作品がプロパガンダになったりすることを恐れていました。その結果、「これはスコットランド独立を支持した作品ね、素晴らしいわ」と言う人もいれば、「あなたは独立の必要はないと思っているのね」と言う人もいました。本当はその両方を読み取って議論できたはずなのに、最近はYES or NOの判断しかない。なぜなら投票という行動自体が二者択一しかないからです。

日本では、言論が二極化する以前に、政治的な議論をパブリックな場ですること自体を避ける傾向も強いです。

国民投票を行う前のスコットランドも同じような状況で、若者たちは政治的な話題に対してかなりネガティヴでした。けれど、投票をきっかけにみんな根本的な問題について考えるようになりました。それは、「どんな国に住みたいか?」というシンプルな問いが始まりだったりもします。

その結果、政治も二極化していく。政治だって人生だって2つの要素で区切られるほどシンプルではないのに。少なくともイギリスのテレビでは、二極化による対立構造を煽り続けているように見えます。私はその二者だけでは見つけ出すことのできない、間にある「グレーな部分」を示す力がアートにはあると思うんです

素晴らしいですね。最後に現在進行中のプロジェクトについて教えて下さい。

いまはVR作品が進行中なのと、劇場公開用の映画作品に向けて台本を書いています。アートの世界から映画の世界に入ると、まったく異なる客層の人達と出会えることになるので、時間は掛かりますが面白いと思います。

それは楽しみですね。今後の新作も期待しています!

 

CREDIT

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INTERVIEW & TEXT BY ARINA TSUKADA
「Bound Baw」編集長。編集者、キュレーター。「領域を横断する」をテーマに幅広く活動する。サウンドアーティストevalaのサウンドプロジェクト「See by your ears」マネージャー。2010年、サイエンスと異分野をつなぐ「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。12年より、東京エレクトロン「solaé art gallery project」のアートキュレーター。編著に『マリー・アントワネットの嘘』(講談社)『メディア芸術アーカイブス』『インタラクション・デザイン』(BNN新社)、ほか「WIRED」など執筆歴多数。 http://arinatsukada.tumblr.com/
Saskia
TRANSLATION & TEXT BY SAKI YAMADA
NYLON JAPANやi-D JAPAN等のカルチャーマガジンを中心にエディター・ライターとして活動。また”Saskiatokyo”名義にてダンスを軸としたエレクトロニックミュージックをプロデュースし、2017年に米レーベルDetroit Undergroundから1st EP『Fantasia』、2019年に日本のレーベル+MUSから2nd EP『Mag En Ta』と1st SINGLE「Ayeki」をリリース。Contact Tokyoを始めとする国内外のクラブでアバンギャルドなライブセットを披露する他、映像やインスタレーションの音楽制作も手掛けている。

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